【利益相反管理実務(34)】研究者が「審査する側」に回るとき―査読・研究費審査・公的委員会
ある研究者が、自分と近い研究テーマの研究費申請について、審査を依頼されました。
申請者とは、数年前まで共同研究をしていました。
現在、直接の共同研究関係はありませんが、同じ領域で研究を続け、研究費をめぐる競争相手でもあります。
この審査を引き受けてよいのでしょうか。
過去の共同研究について申告すれば参加できるのでしょうか。
それとも、審査を辞退すべきでしょうか。
研究者は、研究を実施し、研究費を申請するだけではありません。
他者の論文や研究費申請を評価し、行政や学会の委員として方針や推奨を検討するなど、「審査する側」にも回ります。
ここでいう利益相反は、実際に不公正な判断をしたという意味ではありません。
その人が持つ関係性によって判断が影響を受けたり、第三者から公正さを疑われたりする可能性がある状態を指します。
今回は、論文査読、研究費審査、公的委員会における利益相反管理を取り上げます。
中心となる問いは、次の二つです。
・その関係は申告対象か
・申告後も、審査や議決に参加できるか
この二つを分けなければ、利益相反管理は「申告書を提出して終わり」になってしまいます。
・第34回:査読・研究費審査・公的委員会という「審査する側」の利益相反(本稿)
・第35回:医薬品・医療機器の院内採用という「選定する側」の利益相反
1.専門家として適任であることと、判断に参加できることは同じではない
専門領域が狭いほど、候補となる審査者は限定されます。
そのため、審査する人と審査される人が、過去の共同研究者、師弟、同じ研究室の出身者、競争相手、同じ学会の役員などの関係になりやすくなります。
医療分野では、対象製品の治験や臨床研究に関与した人が、その製品を最もよく知っていることもあります。
このとき、「詳しいから参加してもらう」と「関係があるからすべて外す」の二者択一で考えると、制度は行き詰まります。
必要なのは、専門知識を提供する役割と、最終判断を行う役割を分けることです。
説明や質問には回答するが、委員同士の審議や採決には加わらない、当該案件の評価は別の審査者に委ねる、などのように、説明、審議、採決のどこまで関与できるかを区別して考えます。
利益相反の申告は、どこまで関与できるかを判断するための情報を把握することです。
申告すれば、すべての場面への参加を認められるものではありません。
逆に、申告事項があることだけで、申告者の誠実性を否定するものでもありません。
2.査読、研究費の審査、公的委員会で問題となる関係
(1)論文の査読
論文の査読では、金銭的関係だけが問題になるわけではありません。
出版倫理委員会(Committee on Publication Ethics:COPE)の査読者向け倫理指針は、申告対象として、個人的、金銭的、知的、職業上、政治的、宗教的な利害を挙げています。
また、査読を辞退すべき場合として、著者と現在同じ機関に所属している場合、最近の師弟関係(メンター、メンティー)、緊密な共同研究者、共同研究費の受領者である場合(joint grant holders)が示されています。
「最近」の範囲として、過去3年以内という目安も示されています。
(資料1)
査読では、未公表のアイデアやデータを先に知る立場にあることにも注意が必要です。
COPEは、査読で得た情報を自分や他者の利益のために使わない、また、他者に不利益を与えたり、名誉を毀損したりするために利用しないよう求めています。
査読に第三者を関与させる場合にも制限があります。
指導している学生や若手研究者に査読を手伝わせる場合を含め、事前に雑誌の許可を得なければなりません。
協力者の氏名は、雑誌の記録に含める必要があります。
また、依頼された査読だからといって、未公表原稿を研究室内で自由に共有できるわけではありません。
(資料1)
(2)研究費の審査
科研費の現行規程は、審査委員自身が研究代表者または研究分担者である課題の評価に加わらないことを定めています。
さらに、応募者との間に、親族関係またはそれと同等の親密な個人的関係、緊密な共同研究関係、同一研究単位での所属、密接な師弟関係または直接的な雇用関係がある場合も、評価に加わらないこととしています。
課題の採否や評価が審査者の直接的な利益につながるとみられるおそれのある、対立・競争関係も対象です。
(資料2)
ここで重要なのは、単に同じ分野・学会・組織という大きな括りだけで判断する訳ではない点です。
現行の規程では、共同研究の緊密さ、研究単位、師弟・雇用関係、採否と直接的利益の近さを見ています。
一方、審査の過程で知ったアイデアや未発表の成果を自らの利益のために利用することは、別途、禁止されています。
守秘義務と利益相反は、重なる部分はありますが、別々に管理する必要があります。
(資料2)
米国NIHは、すべての事情を知る合理的な人(reasonable person)が審査者の公平性を疑う状況、または審査者自身が客観性に疑問を持つ状況を「外観上の利益相反(appearance of a COI)」として扱い、その申請の評価に参加してはならないと明記しています。
具体例として、申請機関に雇用されている審査者は、その申請についての議論と評価が行われている間、退室しなければならないとされています。
また、すべてのNIH査読者は、「偽証罪の罰則の下で(under penalty of perjury)」、把握しているすべての利益相反を開示したことと、査読過程の機密を保持することを証明するよう求められます。
(資料3)
(3)公的な委員会・ガイドラインの作成
公的な委員会では、企業からの講演料、コンサルタント料、研究費、寄附金、株式などに加え、対象製品の申請資料や研究開発への関与が問題になります。
また、診療ガイドラインでは、特定の検査法や治療法について繰り返し強い立場を表明してきたことや、評価対象となる研究の実施・公表に関わったことなど、非金銭的な利益も検討対象になり得ます。
WHOの結核ガイドラインにおける利益相反評価では、候補者の申告書と経歴書に加えて、公開情報も確認しています。
5,000米ドルを超える金銭的利益だけでなく、知的な立場や関連研究・出版物への関与も含まれます。
(資料4)
知的な関与や関連研究への関与があると判断された特定の専門家は、技術情報の提供や技術的な質問に答える限定的な役割で、「技術的リソースパーソン(technical resource persons)」として招聘されることがあります。
その場合でも、推奨事項を決定する際の重要なプロセスであるGRADE評価や推奨事項(Recommendations)を作成するための議論からは除外されます。
(資料4)
これは、専門家を一律に排除するのではなく、専門知識を提供する役割と判断を分けた例として、大学や研究機関にも参考になります。
3.申告だけでは管理が終わらない―厚生労働省の運用事例
関係を申告しても、その後の参加方法を決め、会議で実行しなければ、利益相反を管理したことにはなりません。
国内では、そのことを示す具体的な事例が公表されています。
2025年1月16日に開催された厚生労働省の薬事分科会審議参加規程評価委員会では、2023年中の審議について、次の三つの手続上の問題が報告されました。
・退室対象の委員に退室を促さないまま審議を進めた
・必要な利益相反申告を受けないまま議決した
・議決不参加の対象となる委員を明示しないまま議決した
いずれも、定足数や議題の性質などから、審議結果への影響はなかったと整理されています。
一方、退室または議決不参加を促せなかった二つの事例では、委員と企業からの申告自体は正しく行われていました。
問題は、事務局が申告内容を、実際の退室や議決への不参加に結び付けられなかったことにありました。
(資料5)
厚生労働省は、関係委員への報告と謝罪、議事録への追記、担当部署への規程と議事進行の再周知を行いました。
同じ議事録には、委員から申告された寄附金・契約金等について、申請企業と競合企業にも確認を依頼する運用が記載されています。
(資料5)
現在の薬事審議会審議参加規程は、個別の医薬品等の審議について、委員本人または一定範囲の家族が製造販売業者または競合企業から受け取った寄附金・契約金等の額に応じ、参加方法を次のように分けています。(資料6)
・過去3年度のいずれかで、個別企業からの受取額が年度当たり500万円を超える場合は、審議と議決の間、退室する
・各年度の受取額が500万円以下で、直近の過去3年度分のいずれかの年度に50万円を超える受領がある場合は、出席して意見を述べられるが、議決には加わらない
・各年度の受取額が50万円以下の場合は、議決にも加わることができる
また、申請資料の作成に密接に関与した委員や、申請者・競合企業との特別な利害関係によって審議の公平さに疑念が生じる委員は、原則として審議と議決の間、退室します。
ただし、その委員の発言が特に必要だと審議会が認めた場合に、意見を述べることなどを認める規定もあります。該当する関係や参加の取扱いは、議事録に記録されます。(資料6)
ここで挙げた50万円、500万円という区分は、薬事審議会の規程に定められた基準です。
大学や病院がそのまま採用すべき普遍的な基準ではありません。
また、金額だけで、共同研究や対象製品の開発への関与を十分に評価できるわけでもありません。
この事例から分かるのは、利益相反管理には、少なくとも次の段階が必要だということです。
・関係を申告する
・申告内容を確認し、評価する
・説明、審議、採決のどこまで参加できるかを決める
・退室や議決不参加を会議の場で実行する
・実際の対応を議事録等に記録する
4.まとめ
冒頭の研究者については、過去の共同研究と現在の競争関係が、審査を辞退すべき関係に当たるかを規程に照らして確認する必要があります。
利益相反があることは、専門性や誠実性を否定するわけではありませんが、関係を申告しただけで審査への参加が認められるわけでもありません。
申告後は、審査・審議・議決のどこまで参加できるかを判断し、辞退、退室、議決不参加などの対応を実行して記録します。
申告は、利益相反管理の入口です。
次回は、薬剤、医療機器、医療材料の院内採用に焦点を絞り、申告対象、定期申告と案件別確認、参加方法、議事録への記載について、国内外の大学・医療機関の公開方針を基に検討します。
関連する連載回
・知的な⽴場や名声、少額の利益が「評価・審査」に与える影響(第11回・第10回へ)
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参考資料(本文中の資料番号に対応)
COPE Council. COPE Ethical Guidelines for Peer Reviewers. Version 2, September 2017. https://members.publicationethics.org/sites/default/files/ethical-guidelines-peer-reviewers-cope.pdf
日本学術振興会「科学研究費助成事業における審査及び評価に関する規程」(2025年6月13日改正)https://www.jsps.go.jp/file/storage/kaken_0103_shinsakitei_g_3645/hyoukakitei250613.pdf
National Institutes of Health, “Managing Conflict of Interest in NIH Peer Review of Grants and Contracts” https://grants.nih.gov/policy-and-compliance/policy-topics/peer-review/coi
World Health Organization, “Annex 2. Conflict of interest assessment for Guideline Development Group and External Review Group members” https://tbksp.who.int/en/node/3085
厚生労働省「2025年1月16日 薬事分科会審議参加規程評価委員会 議事録」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_64200.html
厚生労働省「薬事審議会審議参加規程」(2024年4月1日)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001608643.pdf
2026年7月20日投稿
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