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【利益相反管理実務(2)】利益相反は“行為”ではなく“状態”である

本シリーズ(第2回〜第5回)では、利益相反管理の「基礎概念とフレームワーク」をテーマに、
 ・定義:「不正」ではなく「状態」と捉える(第2回
 ・対象:管理すべき「人」と「利益」の射程(第3回
 ・把握:リスクを可視化する5つの手順(第4回
 ・対策:信頼を守る「開示・分離・監督」の設計(第5回
という四段階で、産学連携実務の土台となる思考プロセスについて整理します。

利益相反という言葉には、どこか「不正」や「違反行為」の響きがあり、利益相反があることは悪いことだから、利益相反は避けなければならない、となってしまいがちです。

しかし、実務で扱っている利益相反の多くは、違反行為そのものではありません。

大学の研究者が産業界との接点を持てば、通常は利益相反「状態」になります。
それ自体は、アカデミアの活動において珍しいことではありません。

では、利益相反の何が問題なのでしょうか?

ここが曖昧なままでは、どのような方針でどのような対応をすればよいかも曖昧になります。

利益相反という言葉は頻繁に使われますが、実務では「何を管理しているのか」、迷子になりがちです。

そのため、まずは、構造的に整理しておく必要があります。
実務上、少なくとも次の4つを区別して考えることが重要です。


1.利益相反(3種類)と責務相反

(1)個人の利益相反(Individual Conflict of Interest)

大学の規程でよく見かける定義として、「教職員としての責任と個人的利益が衝突する状態」という表現があります。
しかし、この定義では実務で何が問題なのかが見えにくいのが実情です。
個人の利益相反は、
 ①研究の計画・実施・報告といった研究者の専門家としての意思決定が
 ②特定の企業から得られる謝礼や株式などの経済的利益の影響で生じた
 ③バイアスの影響を受ける、または、受けるように見える状態
です。
ここで重要なのは、「私は正しく判断している」とか「誠実であることを心がけている」いう主観ではありません。

客観的に、また社会から見て、利益の影響で、中立・公平であるべき専門家としての意思決定にバイアスが生じる、または、バイアスが生じるように“見える”ことが問題です。
実務では、どのレベルの経済的利益を、どの意思決定から切り離す必要があるのか、切り離すにはどのような対応をすればよいか、がポイントです。

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第10回で、意思決定バイアスの背景を掘り下げます。

(2)組織の利益相反(Institutional Conflict of Interest)

規程上は「組織の責任と組織の利益の衝突」と表現されることもありますが、焦点は組織としての意思決定にあります。
例えば、大学が特定の企業から多額の特許ライセンス料収入を得たり、多額の共同研究費を受け入れている場合、その研究の倫理審査や安全性評価が当該企業と十分に独立して行われているかが問題になります。
組織の利益相反は、
 ①組織の意思決定権者の意思決定が
 ②特定の企業から得られる研究費・特許ライセンス料・寄附金などの経済的利益の影響で生じた
 ③バイアスの影響を受ける、または、受けるように見える状態
です。
個人の倫理観の問題ではなく、組織全体のガバナンスの問題です。
実務では、組織の経営や組織全体の運営に関わる判断が経済的利益の影響を受けない構造をどのように構築するか、がポイントです。

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【第7回】企業連携(組織としての意思決定, 大学発ベンチャー)

(3)組織間の利益相反(Organizational Conflict of Interest / OCI)

主に、教職員が省庁等の委員に就任し、公的な立場で契約の審査・認可・規制の策定等に関与する場合に生じます。
例えば、特定の企業と密接な利害関係を持つ研究者が、その企業の競合他社を規制するルールの審査に加わる場合などが該当します。
大学の枠を超え、社会的な意思決定の公平性や公共性が問われる高度な論点です。

(4)責務相反(Conflict of Commitment)

金銭的利害よりも、エフォート(時間・労力)の配分に注目した概念です。
組織が許可した範囲を超えて兼業に時間や労力を割き、本来の教育・研究・運営上の責務が十分に果たされなくなる状況を指します。

また、日本のアカデミアの現場でも問題意識はあるものの、規程に盛り込めているとは限らないのが、大学の施設・設備・人員の流用についてです。日本の大学の規程ではあまり見かけませんが、米国ハーバード大学、スタンフォード大学、ミシガン大学等の責務相反ポリシーでは、大学の施設やスタッフを無断で外部活動に流用することは、責務相反の一態様とされています。
大学の施設・設備・人員は、本来「教育・研究・運営」という組織的な目的で提供されています。
それを学外の営利活動等に無断で用いることは、
・時間を奪う(commitment)
・公的資源の目的外利用
・公的研究費で実施する研究との混同
・補助金で定められた規則違反となるリスク
を生じさせるものと、理解されています。
そのため、大学の資源を無断利用することは、時間配分と同根の「責務逸脱」問題として整理されています。

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具体的にどのような形で表面化するかについては、第9回「兼業・外部活動と責務相反」で、事例を通じて検討します。

2.会社法上の「利益相反行為」との違い

なお、会社法の知見がある方は、「利益相反」という用語から、会社法上の利益相反行為(会社法356条等)を想起されるかもしれません。
しかし、ここで扱っている「利益相反」は、会社法上の利益相反取引のような特定の法律上の禁止や承認の対象となる“行為”とは趣が異なります。
会社法上の利益相反行為は、取締役が会社との間で自己取引や第三者との利益相反取引を行う場合の法的統制の枠組みです。
これに対し、大学における利益相反管理が対象としているのは、多くの場合、違法でも不当でもない日常的な活動の中で生じる利益相反“状態”です。
どちらも、「判断する立場にある人が、別の立場の利害を持っている」という点では共通していますが、
 ・会社法=特定の行為に対する法的規律
 ・大学における利益相反管理=意思決定の構造に潜むリスクに対する予防的マネジメント
と整理すると、理解しやすいです。

3.まとめ


本稿では、利益相反を「違反行為」ではなく、「状態」として捉える視点を確認しました。
利益相反の問題は、誰かが不正をしているかどうかの問題ではありません。誰のどの意思決定が、どのような経済的利益の影響を受け得る構造にあるのか。
影響を受け得るのは、個人の研究上の判断なのか、組織の経営判断なのか、公的立場での意思決定なのか、あるいは時間配分の問題なのか、を淡々と整理することが大切です。
この構造を切り分けて整理することが、利益相反マネジメントの出発点です。
会社法上の利益相反行為との比較でお示ししたとおり、大学における利益相反管理は、特定の違法行為を摘発する制度ではなく、意思決定に潜むリスクをあらかじめ可視化し、適切に管理するための制度です。

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この「状態」をどのように可視化し、具体的に管理していくかについては、第4回および第5回をご覧ください。
また、利益相反「状態」を適切に管理せず放置することが、いかに組織の不作為を招くのか。放置されたリスクがガバナンス不全へと至る構造については、第17回で詳しく分析しています。
第20回では、この「状態」の可視化を「透明性へのコミットメント」と位置づける、医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)の指針を紹介しています。

次回は、「管理対象となる人」と「管理対象となる経済的利益の範囲」について整理していきます。

2026年2月25日投稿

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