実は切ないリトルマーメイドの原作『人魚姫』あらすじ~アンデルセンらしい切ない恋物語
アンデルセン童話とリトルマーメイド
アンデルセンの『人魚姫』はディズニーの『リトルマーメイド』の原作になった作品です。

アンデルセン童話と言えば誰しもが子供の時に絵本やアニメなどでお世話になった経験があると思います。私もその一人です。メルヘンチックだけれどもどこか切なさを感じさせるストーリーは一度読んだら忘れられない印象を残しますよね。
ただ、私自身、アンデルセンはもっと昔の人だと思っていたのでまさか19世紀中頃という、割と最近の時代に活躍していたとは驚きでした。
この時代の同時代人といえばバルザックやユゴー、ディケンズ、ドストエフスキー、トルストイなど錚々たる文学者がそろっています。グリム童話のグリム兄弟もこの時期になります。こうした偉大な文学者たちが勢ぞろいしている時期にディズニーの原作たる作品が次から次へと生まれてきていたのですね。
アンデルセン『人魚姫』のあらすじ
さて、本題の『人魚姫』のあらすじですが、スタートからしばらくは割とディズニー映画とも近いと言えます。
海の底の王国の6番目の王女として生まれ、陸の世界や人間に憧れる人魚姫。そして嵐の日に一目惚れした王子様を救い、恋焦がれる日々・・・。
ディズニー映画ではお馴染みのセバスチャンやフランダーは原作には存在しませんが、陸に憧れる人魚姫というのは共通です。
ただ、ここから大きくそのストーリーは変わっていくことになります。
ディズニー映画では悪役アースラが策略を巡らし海の支配者となろうとしますが、原作では彼女にそのような野心も策略も全くありません。むしろ人魚姫の願いを叶えるための手助けをするという役どころになります。
人魚姫は恋する王子様と共に暮らし、人間になりたいと強く願いました。そのため海の魔女を訪ね、足を得る薬をもらいに行ったのです。
しかしそんな便利な薬もタダでもらえるはずもなく、その引き換えとして人魚姫の舌が交換条件として提示されたのでした。人魚姫の歌声はこの世界で最も美しく、この声さえあれば王子様も夢中になること間違いなしです。だからこそ彼女の美点たるその舌を魔女は要求したのです。
そしてさらにもし王子様に愛されなければ泡となって消えてしまうという危険な条件も付与されました。つまり、恋が成就しなければ死んでしまうのです。
こうした危険な取引ではありましたが、人魚姫の決意は揺らぎません。彼女は潔く舌を差し出し、魔女はその舌を切り取ったのでした。アンデルセンとはいえこの辺はさすがにバイオレンスさがあります。
こうして歌うどころか話すことさえできなくなった人魚姫ではありますが、念願の両足を手に入れることができました。
そして陸に上がり王子様の近くで生活し、仲を深めていくのでありますが案の定王子様はこの娘が嵐の日に命を救ってくれた人魚だとは気づいてくれません。
そんな王子様に「ああ、王子のそばにいたいばかりに、わたしが永遠に自分の声を捨ててしまったことを、わかってもらえたら!」と人魚姫は嘆くのでした。
しかもなんと残念なことに、王子様はある重大な勘違いをしていたのです。自分を救ってくれた女性が修道院の娘だと思い込んでいたのです。人魚姫はあの時王子様を救いはしたものの、意識を取り戻す前に砂浜に横たえさせただけでした。そして海から遠巻きにどうなるかを眺めていただけだったのです。
これでは王子様も気づけません。そしてちょうどやって来た修道院の娘が助けを呼んでくれたため、この娘が命の恩人だと勘違いしてしまったのです。
しかもこの娘がとても美しく、王子様もすっかり恋してしまい、彼女と結婚したいと思うようになります。ただ、残念なことに修道女ということで結婚は不可能。そんなわけで王子様もあきらめざるをえないのですが、その辛い恋心をあろうことか人魚姫に話してしまうのですからこれはもうやりきれません。
そしてついに運命の日がやってきます。海の魔女は人魚姫の変身期限についてこう警告していたのです。
「もし王子がほかの女と結婚したら、その翌朝には、おまえの心臓ははりさけ、おまえは水の上の泡になって消えるのだからね」
そうです。その運命の日がついにやって来てしまうのでした。
王子様はこの日、国王が持ってきた縁談の相手に会う手はずとなっていました。ですが王子様は「ぼくには好きな人がいるのだから、これから会う姫様と結婚なんてしないさ」と語り、結婚の意思などないことを宣言しました。これはあくまで父と母の顔を立てるためなのだと言うのです。
そしてさらに「ぼくがいつか花嫁を選ぶなら、誰より、君を選ぶよ」とまで言ってのけます。何たる死亡フラグ!まずいぞ人魚姫!
そしてついにその時がやってきます。これがもうあまりに衝撃的なので直接本文を引用することにしましょう。
さて、とうとう、その姫様を日にしたとき、これほど愛らしく輝いている人を見た」とがないと、そう思わずにはいられなかった。肌はきめが細かくてしっとりとして、長くて黒いまつ毛の奥に、まごころのこもった、深い青色の眼が徳をたたえて微笑んでいた。
「あなたでしたか!」と、王子はさけんだ。「ぼくが、死んだように海岸にうちあげられていたときに、助けてくださったのは、あなたでしたね!」
そして、ほおを赤らめている姫様を、ぐっと腕にだきしめた。
「なんて幸せなんだろう!」と、王子は、あとになって人魚姫にそういった。「夢にも願わなかったことがかなったんだ。君は、ぼくの幸福を喜んでくれるね。君はだれよりも、ぼくのことを好いてくれているのだから!」
人魚姫は王子の手にキスしてやったけれど、胸がつぶれそうだった。王子がほかの人と結婚してしまえば、その翌朝、自分は死んで、海の泡になってしまうのだ。
突っ込みどころ満載の超展開。
なんと、王子様は初対面のこの王女様こそ自分を助けてくれた女性だと叫びます。え!あの修道女はどこへ!?あんなにご執心だった修道女はどこに行ったのです!?
そして姫様も姫様です!「あなたでしたか!」に対して「違います!」ではないですか!?頬を赤らめている場合ですか!これから先ずっとあなたは身に覚えもないのに命の恩人扱いされるんですよ!
しかも「君は、ぼくの幸福を喜んでくれるね。君はだれよりも、ぼくのことを好いてくれているのだから!」は人魚姫に対して残酷すぎるでしょう・・・。いやあ、しかしこれこそアンデルセンです。
アンデルセン童話はこのように、恋する相手が急にどこぞの美男美女にあっさり奪われるというパターンが多いのです。本書『アンデルセン童話集』に収録されている『親指姫』のツバメ君も美しい親指姫に恋をし献身的にお世話するのですが、最後に親指姫は美しい王子様とあっという間に結婚してしまいます。このツバメ君もなんとも切ないんですよね・・・
ちなみにですが作者のアンデルセン自身もあまり男前といったわけではなく、無骨な大男といったルックスだったそうで、彼自身結局恋が実らず、こんなに真面目に熱烈に愛しているのに報われないという苦しみによく悶えていたそうです。そんな感情が彼の童話にも反映されているとも言われています。
このことについては中野京子著『芸術家たちの秘めた恋―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代』の中でも説かれているのでぜひこの本も読んでみてください。ものすごく面白いですよ。
さて、話は少し反れましたが人魚姫は大ピンチです。このままでは泡になって死んでしまいます。
ですがそんな時、妹を案じた姉たちが救いの手を差し伸べます。彼女たちは海の魔女から特殊なナイフをもらって来ていたのです。
なんとこのナイフで王子様の心臓を一突きすれば、人魚姫の命は助かり、元の人魚の体に戻ることができるとのこと!
さあ、もはや一刻の猶予もない!もう間もなく日が昇る!急げ人魚姫!
ナイフを受け取った人魚姫が向かうは王子様の寝床。
彼女はそっと2人の眠る天幕へと入っていきます。
王子様とお姫様・・・2人は幸せそうに眠っていました。愛する王子様を見つめ、その額に彼女は口づけします。もう夜が明けます。一刻の猶予もありません。ナイフを握る手が震えます。しかし・・・
人魚姫は、するどくとがったナイフをみつめ、ふたたび王子に眼をやった。王子は、夢の中で花嫁の名を呼んでいた。王子は花嫁のことしか思っていなかった。
アンデルセンよ!あなたはなんと残酷なことか!たったこれだけの言葉で全てを悟らせるのです!
さあ、人魚姫よ、時間がない。やるのか、やらぬのか。どちらなのか!
答えはもうわかりますよね。
彼女は愛する王子様の幸せのために、ナイフを投げ捨てたのです。
そうです。人魚姫は自ら泡となり死んでいくことを受け入れたのです。
あぁ・・・アンデルセン・・・。あなたはいつもこうです。あなたの童話はいつも自己犠牲に溢れています。成就しない恋をこうした自己犠牲に昇華させるその奇跡に私達は心惹かれてしまうのでしょう。
そして人魚姫はそのまま海に身を投げ、泡となって消失していきます。
しかしそこには救済もありました。泡となって人魚の体は失われてしまいましたが空気の精として生き続けることになったのです。
人魚姫は、すきとおった両腕を神なる太陽のほうにあげた。すると、生まれてはじめて涙がわいてくるのがわかった。ー
船の上は、またさわがしくなった。王子が美しい花嫁といっしょに自分のことをさがしているようすが、人魚姫には見えた。ふたりはただよっている泡を悲しげに見つめていた。人魚姫が波の中に身をなげたのを知ってでもいるかのようだった。人魚姫は、花嫁のひたいにそっとキスをしてやり、王子に微笑みかけると、空気の娘たちとともに、空を流れていくバラ色の雲をめざしてのぼっていった。
そして重要なのはこの最後の最後で人魚姫は「初めて涙を流した」のです。人魚として海の中にいる時は涙を流すことはできなかったのです。それが愛する人の幸せのために身を引いたこのタイミングで訪れるのですからこれはもうアンデルセンさまさまです。こういうところがさすがですアンデルセン大先生!
さて、こうして人魚姫の物語は終わりを迎えます。
ディズニーの『リトルマーメイド』と比べると悲しいエンディングではありますが、バッドエンドというわけではないでしょう。アンデルセンらしい恋の描き方だと言えます。
アンデルセンと言えばこうした切ない恋模様です。私の個人的な思いですが、アンデルセンの真骨頂は「愛する人の幸せを見送る哀愁」にこそあるように感じています。この何とも言えない寂しさ。報われない愛。これぞアンデルセンだと私は思います。
こうした何とも言えない切なさを描くのにこのアンデルセンほど巧みな作家はいないのではないでしょうか。これを子供の時に読むことの意味は計り知れないものがあることでしょう。大人になってアンデルセン童話を読み返して気付いたのですが、本当に繊細な感受性が溢れている作品ばかりです。ぜひ子供たちに聞かせてあげたいなと心から思います。
そして同時にそれを読み聞かせる大人の側にも素晴らしい経験になるということも強調したいです。
アンデルセン童話は想像していたよりもはるかに奥深い作品でした。これは大人だからこそ味わえる絶品でもあります。一つ一つの物語もコンパクトで、語りも易しく読みやすい。ちょっとした移動時間でも気楽に読むことができます。
これはぜひぜひおすすめしたいです!私が読んだのは新潮社の文庫『アンデルセン傑作集』でしたがこれはとてもいい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。きっと驚くような体験になると思います。この切なさ、繊細な感受性をぜひ味わってみて下さい。
以上、「リトルマーメイドの原作『人魚姫』のあらすじ~泡となって消える人魚姫?アンデルセンらしい切ない恋物語」でした。
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