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忘れられなかった夜

──理由を考えなくてよかった私


— episode by Run —

「こんなエッチなやつ、初めて見たんだけど」

割れた部分に沈んだ紐を引く指先。
悪戯に向けられた目線に、
鼓動が高鳴るのがわかる。

いつだって宝探しをするかのように、
彼は私の恥ずかしい部分を見つけ出す。

小柄な身体。
キツネみたいな瞳。
触れ方だけが、やけに丁寧で。

──なのに。

彼は突然、まったく別の顔になる。

「……んっ」

彼の柔らかな前髪が私のまつ毛を揺らす。

声になる前に唇を塞がれ、
離れる瞬間、ふっと忍ばせた黒い笑み。

──あ、スイッチ入った。

ふと、思い出す。
出会いは、バンドマンが集まる飲み会だった。

ギターを弾く彼を見てみたくて、
その直後に足を運んだライブハウス。

スポットライトを浴びて、
ギターを弾く彼と、
ステージ上から向けられた視線。

誰のものでもない彼が、
この瞬間だけは私のものだという背徳感。

私たちは、
こうして何度、夜を重ねただろう。

細い指先が、服の内側をなぞり
ゆっくりと料理されていく。

「ほんと、えっろいね」

彼が喋るたび、
小さく、カチ、と音が鳴る。

下唇と舌のピアスが触れ合う、金属音。
その音が、舌の動きに合わせて響くのが、
たまらなく好きだった。

どうして私は、
この音にこんなにも期待してしまうのだろう。

「なんで、こんな濡らしてんの?」

指先に絡みついた蜜を、
ゆっくりと広げて、見せつけるみたいに。

「……や」

恥ずかしいのは、
心の奥まで見透かされている気がするから。

彼は、
私がどう料理されたいかを知っている。

ギターを弾くように、
繊細で、軽やかに、私の中を掻き立てる。

内側の音と、唇の金属音。
重なり合う不協和音が、
私の意識をさらに溶かしていく。

全部欲しくて、
もう、我慢できなくて。

タトゥーが入った左腕に、
思わず爪を立てた。

「……はやく、ほしい」

小柄な身体には似合わない存在が、
ゆっくりと、私の中へ沈んでいく。

この瞬間、
私たちは、快楽を貪る獣になる。

二匹分の、
咀嚼音だけが、静かな部屋に響き渡る。

好きとか、嫌いとか。
そんな感情なんていらないから。

ただ、腹を満たしたいだけ。

彼が私を食べるのか、
私が彼を食べるのか。

骨なんて残さないで。
全部、あなたのものにして。

ねぇ──
このまま一緒に、
息絶えて。




それでも私は、
あの夜の続きを、
何度もなぞってしまう。

──「過去をなぞった夜」へ




忘れられないまま、
心の境界線だけが、
静かに溶けていった夜がある。

──「境界線のない夜」へ




🕐この夜を感情の起点に、時系列で辿りたい方へ🕐

💍 はじまりの夜
──すべてが壊れる前に
甘く壊れた夜

🕯️ この夜をなぞった日
──記憶は、いつも嘘をつく
過去をなぞった夜

🌙 この夜のその後の現実
──現実は、優しく壊れる
上書きされる夜
埋められた空白の夜
名前のない夜
もう会えない、と言った夜

🌑 この夜のあとに残った虚しさ
──虚しさは、静かに残る
無機質な夜
冷えたままの夜

💗 この夜のあとの恋
──恋は、逃げ場所になる
境界線のない夜
常識の消えた夜
蜃気楼の夜


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眠らぬ女 この夜に、心が少し揺れたなら。 その揺れを、ここに置いていってください。