常識の消えた夜
── 満たされた理由を、知らない私
— episode by Yuichi —
「見られながらするのが好き」
そう言って、
彼はグラスの酒を飲み干した。
目を細めて笑う横顔に、視線を奪われる。
彼の纏う空気に、酔いがまわっていく。
──彼を包むのは、青い光。
きっと、ここは宇宙。
何が普通で、何が普通じゃないのか。
その境界線は、もう曖昧で。
抱かれてもいいし、
抱かれなくてもいい。
人に見られても、別にいい。
「じゃ、今ここでしよ」
半分本気で、半分冗談。
彼はまた、目を細めて笑った。
「ねぇ、私のものって、印つけたい」
私の唇が、彼の耳たぶを甘く噛む。
そのまま首筋へ向けた瞬間、
両手の自由が、ふっと奪われた。
「……んっ」
まるで、吸血行為。
彼は私の首筋に歯を立てる。
私の血は彼へ流れていくのに、
代わりに、彼の光が
静かに、私の中へ流れ込んでくる。
痛いのに、気持ちよくて。
意識が、ゆっくり溶けていく。
力強い腕に押さえつけられたまま、
心も、身体も、
魂さえも、
逃げ道を忘れていく。
これは、
快楽なのか、満足なのか。
──もう、どうでもいい。
「むり、すき……」
肉体なんて脱ぎ捨てて、
ただ、ひとつの色に混じりたい。
彼の柔らかな唇に反した、
逃げ場のない噛みしめ。
「あっ……」
きっと、これは夢。
けれど、
首筋には、くっきりと残る噛み跡。
好きとか、嫌いとか、愛だとか、欲だとか。
そんな次元の感情は、もういらない。
ただ、私と彼が
今、ここにいる。
この宇宙で、息をするのなら。
──もう、彼じゃなきゃ
だめかもしれない。
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この夜に、心が少し揺れたなら。
その揺れを、ここに置いていってください。