【小説】ア・リトル・ビット・クレイジー・デイズ #00│プロローグ
A LITTLE BIT CRAZY DAYS

私には、忘れられない友人がいる。
もうずっと会っていないけれど。
どこかで元気でいてくれたら、
うれしい。
*
夏の日の夜、『THE CROWN』の前のベンチで、私とレオンはテーブルに背中を預けて座っていた。
踊り疲れた体に、外の夜気が心地いい。
「ふー。楽しいねえ、レオン」
「ああ」
レオンは相変わらず低いテンションだ。
無言でミネラルウォーターのボトルを差し出し、飲め、と顎でしゃくる。
私は素直に受け取ってひとくち飲んだ。
「売れてる?」
「まあまあ」
上の空で答えながらレオンはリズラを取り出し、ジョイントを巻きはじめた。
街灯が、その横顔をオレンジ色に縁取る。
通りすぎる車のヘッドライトが、眩しそうに顔をしかめるレオンを照らし出し、また闇の中へと消えていった。
七月だというのに肌寒く、私は二の腕をさすった。
ボッという音と共に炎が小さく揺れ、レオンの口元で煙が踊る。ひとくち吸うと、それを私へと差し出した。
受け取って、深く吸い込み、肺にためる。
指先から立ち上がる紫煙を、私はぼんやりと目で追った。ゆらゆらとくゆる煙は、湿った夜の空気に溶けていく。吐き出すと同時に、ふわんとした心地よさが身体中を駆け巡った。
とろんとして隣を見ると、レオンは遥かな星をみつめていた。
そっとしておこうと、足をブラブラさせる遊びに熱中していたら、レオンの足にあたってしまい、軽く睨まれた。
ロンドンの街灯は、橙色であたたかい。
やさしく私たちをつつみ込んでくれる。
「おまえ、夢はなんだ?」
「夢?なんだろ。ロンドンに、できるだけ長くいたい、かな。レオンは?」
レオンはにっと笑った。
「俺は、世界中に家が欲しい。イタリア、スペイン、もちろんイビサにも! それに、自分のクラブを作りたい。好きな音楽をかけて、エンジョイしたい!」
レオンは瞳を夜空の星のようにきらきらと輝かせながら、語った。
その様子は、まるで子供だった。
レオンは、なんて純粋なんだろう。
なんて、綺麗なんだろう。
世界はレオンのものなんだ。
けれど、そんなレオンを見ていると、なぜかときどきひどくせつなくなる。
「じゃあ、そのときはゲストリストにのせてね」
「もちろん!」
屈託なく笑った直後、レオンは急に不機嫌な顔に戻った。
「仕事の時間だ。なかに入ろう」
レオンが立ち上がる。
私たちは、クラウンの扉をくぐった。
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※この物語はフィクションであり、登場する人物および作中の出来事はすべて架空であり、実在の人物・出来事とは一切関係ありません。
【MAGAZIE】
【もくじ】
#00│プロローグ
#01|ジャパンセンター
#02│フラットシェア
#03|リージェンツ・パーク
#04│カイ
#05│語学学校
#06│ミキヤ
#07│レオン
#08│ザ・クラウン
#09│ピル
#10│猫
#11│キッチン
#12│隣人
#13│サイケデリック
#14│Daddy, I love you
#15│オシルコ
#16│チャイナタウン
#17│カールスバーグ
#18│ミルク
#19│雷鳴
#20│エッグ&トマト
#21│I am enough.
#22│セブンスター
#23│ジャクソン
#24│ワンケイ
#25│最終話│黒猫
