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【小説】ア・リトル・ビット・クレイジー・デイズ #24│ワンケイ

 それからは学校が終わると、毎日チャイナタウンへ向かった。
 広くはないチャイナタウンを、路地裏まで歩き回った。
 ジャクソンに、会えることを願って。
 いろんな店でも聞いてみたが、忙しそうな店員たちは、手を払って追い返した。
 ミキヤも私とは違う時間を狙って、必死に探していた。

 最初の頃は頻繁に来ていたソフィアからの連絡も、だんだん減っていき、そのうち来なくなってしまった。
 誰かの中からレオンが消えるごとに、レオンの存在までもが消えていくようで、私はとても怖かった。


         *


 気づけば、ふた月が過ぎていた。
 チャイナタウンへ向かう足も遠のいていき、今ではたまにミキヤの仕事終わりに合流して、一緒にチャイナタウンをうろつくくらいになっていた。
 ベンチに腰掛け、道行く人を眺める。
 「最悪、生きてさえいてくれればいいよ」
 ミキヤはだらりと深く座り込み、背もたれに頭を預けて脱力した。
「何かあった場合って、ニュースになったりするのかな……」
 ふたりで沈黙になる。
「やめよやめよ。それより、腹減らない?」
 ミキヤが、「たまにはカイのことでも思い出してやろうぜ」と言って、ワンケイに行くことにした。

「ハウメニ!?」
 店に入るやいなや、そう聞かれる。
 ワンケイはいつも通りの活気に包まれていた。
 指を二本立てると、即座に席へ案内される。
 荒々しくステンレスのポットが置かれ、注文を聞かれる。
 「えっと、バーベキューポーク&ローステッドダック・オン・ザ・ライス」
「私は、スイート&サワーポーク・オン・ザ・ライス」
 店員はメモを取ってうなずいて颯爽と駆けて行く。
 ポットの中にはジャスミンティーが入っている。空になると、蓋を開けておけばまた淹れてくれるのだ。
 カップに注いで、ミキヤに渡す。
 円卓の向かいに座る欧米人が、チャーハンを箸で食べようとして苦戦している。
 店内は広くて人でいっぱいで、声がガヤガヤと反響している。今の私たちには、これくらいの雑音がちょうどいい。
 「みんな、いなくなるよな」
 ミキヤがこぼした。
「こんな消え方した人、いてないやん」
 そうだよなあ……と、ミキヤが背伸びした。
 あっという間に料理が届き、荒々しくテーブルに置かれた。
 ミキヤの方はたくさんのこんがり焼けた肉が、私の方はオレンジ色のソースの中に、ゴロゴロと肉や野菜が入っている。甘酸っぱいその香りに、猛烈に食欲が湧いてきた。
「いただきます」
 夢中で食べていると、突然、後ろから声をかけられた。
「ジャクソンを探してるって?」
 そこには見覚えのない男が立っていた。

 前にワンケイでも、ジャクソンについて尋ねていた。
 店員は知らないと、そっけなく答えたが、どうやら覚えていてくれたらしい。
 「日本人が香港人のジャクソンを探している」
 噂が巡り巡って、ジャクソンの知り合いだという彼に辿り着いたそうだ。
 私は立ち上がって、彼に詰め寄った。
 「お願い! ジャクソンに会わせて!」


         *

 ソーホーのカフェに、大きな体にレザージャケットのジャクソンがあらわれた。
 ライダースブーツが歩くたびにゴツゴツと音を立てている。
 ジャクソンは私を見つけると、イカつい顔をふっと緩めた。
「やあ」
 私はジャクソンにミキヤを紹介した。
「ありがとう、来てくれて。それで、レオンなんだけど……」
 ジャクソンは私の言葉を手で制した。
「言っておくけど、俺も噂しか知らないんだ」

 ジャクソンが仲間から聞いた話によると、レオンはファーストフード店で店員にキレて暴れたそうだ。
 警察が来て、連行されるところをジャクソンの仲間が見ていた。
 レオンは、捕まってもなお暴れ続け、大人数の警察官に取り押さえられたという。
 私はそこまで聞いて、誰か別の人の話なのではと耳を疑った。
「憶測だけど、LSDか何かでバッドに入ってたのかもしれない」
 ジャクソンが、私の気持ちを察したようにそう言った。
「暴行で捕まって、ドラッグが検出され、不法滞在発覚、か……」
 ミキヤが降参だというように、上を見てうめいた。
「その場合って、どうなるの……?」
「まあ、良くて強制送還だろうな」
 ジャクソンたちも、レオンを探したけれどその後がわからず、連絡も取れない、と言った。

 「ありがとう、あなたに会えてよかった」
 帰りにジャクソンにそう伝えると、
「こちらこそ。レオンを大事にしてくれて、ありがとう」
 バイクに乗って消えていく後ろ姿を、ずっと見ていた。



Music
Oasis - Wonderwall


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※この物語はフィクションであり、登場する人物および作中の出来事はすべて架空であり、実在の人物・出来事とは一切関係ありません。



【MAGAZINE】

【もくじ】

#00│プロローグ
#01|ジャパンセンター
#02│フラットシェア
#03|リージェンツ・パーク
#04│カイ
#05│語学学校
#06│ミキヤ
#07│レオン
#08│ザ・クラウン
#09│ピル
#10│猫
#11│キッチン
#12│隣人
#13│サイケデリック
#14│Daddy, I love you
#15│オシルコ
#16│チャイナタウン
#17│カールスバーグ
#18│ミルク
#19│雷鳴
#20│エッグ&トマト
#21│I am enough.
#22│セブンスター
#23│ジャクソン
#24│ワンケイ
#25│最終話│黒猫




 


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