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【小説】ア・リトル・ビット・クレイジー・デイズ #23│ジャクソン

 ——レオンがいなくなった。

 ロンドンに戻ると、ミキヤは私にそう言った。
 言われたことの意味がわからず、
「え、どこ行ったん?」
 軽い調子で聞き返した私を、ミキヤは固い表情でみつめている。  
 ミキヤは、眉をギュッと寄せて、見ている私が心配になるくらいつらそうな顔をした。
「……そうじゃないんだ、マリちゃん。いなくなってしまったんだよ」
 私は石みたいに動けなくなった。
 「ちょっと、座って話そうか。お茶を淹れるよ」

 ミキヤは丁寧に紅茶を淹れて、たっぷりのミルクも入れてくれた。渡されたカップはあたたかく、そのぬくもりは、私に少し冷静さを取り戻させた。

         *

 ミキヤはゆっくりと、話し始めた。
 ある日、レオンが帰ってこなかったこと。
 最初はただの外泊だと思っていたが、「Vinyl」も欠勤していることが判明したこと。
 不法滞在なので警察に届け出ることもできないまま、ソフィアとふたりであらゆる場所を探し回ったこと。
 レオンが姿を消してから、もうひと月近くが経つという。
 ソフィアは泣いて大変だったらしい。

 リビングは重苦しく沈み、時計の音だけが響いていた。
 湯気を立てるカップは、レオンのお気に入りのスヌーピーのものだった。
 大事なものは、すべて私の手からすり落ちていってしまう。

「となりは? となりの人たちには聞いた?」
 自分の思いつきに顔をあげ、すがるようにミキヤを見た。
「聞いたよ、誰も知らないって。彼らも探してくれている」
 ミキヤは、残酷な判決を言い渡すかのように首を振った。
 チャイナタウンも、くまなく探したという。

 何か、他に何か——
 私はレオンに関する記憶を手繰り寄せ、必死に頭を回転させた。
「ジャクソンは!?」
 ジャクソンに会ったとき、ミキヤはいなかったのではないだろうか?
 ミキヤは怪訝そうな顔でこちらを見た。
 「ジャクソン? 誰だそれ」
 私は気がはやった。
 「前に、チャイナタウンで! 〈みさと〉の帰りに!」
 私はミキヤに説明した。
 レオンの友達である中国人、ジャクソンに会ったこと。
 かなり親しい様子だったこと。
 ミキヤの顔色に、ほんのりと希望の光が戻った。
「よし、チャイナタウンでジャクソンを探そう!」



Music
Orbital - Halcyon


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※この物語はフィクションであり、登場する人物および作中の出来事はすべて架空であり、実在の人物・出来事とは一切関係ありません。



【MAGAZINE】

【もくじ】

#00│プロローグ
#01|ジャパンセンター
#02│フラットシェア
#03|リージェンツ・パーク
#04│カイ
#05│語学学校
#06│ミキヤ
#07│レオン
#08│ザ・クラウン
#09│ピル
#10│猫
#11│キッチン
#12│隣人
#13│サイケデリック
#14│Daddy, I love you
#15│オシルコ
#16│チャイナタウン
#17│カールスバーグ
#18│ミルク
#19│雷鳴
#20│エッグ&トマト
#21│I am enough.
#22│セブンスター
#23│ジャクソン
#24│ワンケイ
#25│最終話│黒猫


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