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電話料金はポスト・モダンだった(3千文字)

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電話料金はポスト・モダンだった

v3.12

【注釈】本稿は、筆者個人による調査・読解・考察をもとに構成されたものであり、筆者は本稿で扱う分野における専門家ではありません。内容の作成にあっては、公開されている資料の参照や、近年一般化しているAIを用いた情報収集・整理・ファクトチェックを活用していますが、それらはあくまで理解を助ける補助的な手段であり、記載内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。本稿には、事実として確認可能な情報の紹介に加え、比喩的表現、仮説的な推論、個人的な解釈や読み替えが含まれています。これらは特定の立場や結論を断定する意図によるものではなく、読者に思考の材料を提供することを目的としています。最終的な判断や解釈については、必ず一次資料や他の視点も参照したうえで、読者自身で行ってください。

1. SMSの魚

NTT docomoからSMSが来た。

このメールはNTTドコモから無料で配信しています。

日ごろ、NTTドコモをご利用いただきまして誠にありがとうございます。
さて、お客様がご利用中の電話番号につきまして、ご利用金額※が大変高額となっております。
※d払いの携帯料金合算払いご利用金額を含みます。

つきましては、下記URLよりご利用金額のご確認をおすすめいたします。
http://smt.docomo.ne.jp/portal/support/src/support_index.html

また、ご不明点がございましたら、下記お問い合わせ先までご連絡いただきますようお願いいたします。

また、料金明細サービスは下記「ドコモオンライン手続き」よりお申込みいただけます。
https://www.nttdocomo.co.jp/mydocomo/apply/index.html
※ネットワーク暗証番号もしくはdアカウントが必要となります。

<受託会社/お問い合わせ先>
NTTファイナンス株式会社
電話0120-246-360
営業時間9~17時※土日祝日・年末年始を除く

電話料金、あるいは電話料金と一緒に請求される何かが高くなっている、という内容だった。この時点では、このSMSが本物かどうかもまだ分からなかった。小さな画面の中で、文字はとても事務的に並んでいた。事務的な文字ほど、こちらの心臓に手を伸ばしてくることがある。

文面には、利用中の電話番号について利用金額が大変高額になっていると書かれていた。d払いの携帯料金合算払い利用金額を含む、とも書かれていた。確認用のURLと問い合わせ先もあった。

携帯電話会社から来る高額という言葉は、川に投げ込まれた釣り針みたいだ。こちらは魚ではないつもりでいるのに、少しだけ口の端に引っかかる。

最初に考えたのは、スパムだった。携帯料金、未納、利用停止、高額請求。そういう言葉は、詐欺の池でよく泳いでいる。うっかりリンクを踏むと、IDやパスワードや暗証番号を食べられてしまう。だから、まず疑った。

ただ、文面はそれほど乱暴ではなかった。すぐ払えとも、今日中に認証しろとも、あなたの電話は終わりですとも言っていなかった。焦らせ方が少し弱かった。詐欺師にしては、妙に礼儀正しかった。

それで、今度は別のことを考えた。これが本物なら、何に反応したのだろう。

2. 変わらない明細

電話料金の明細を見た。

そこには、こちらが期待していた怪物はいなかった。金額は、いつもの範囲に見えた。少なくとも、ぱっと見て分かるような爆発はなかった。

SMSは高額だと言っている。明細は、そうでもない顔をしている。二つの画面が別々のことを言っていた。どちらかが嘘をついているはずだったが、私には判断できなかった。

SMSが偽物なら、明細に変化がないのは当然だった。けれど、SMSが本物なら、見えていない場所で何かが起きていることになる。確定前の金額なのか。別の決済なのか。電話そのものがどこかに連れて行かれたのか。

電話の不正利用も少し考えた。国際電話をかけられているのか。知らないサービスに登録されているのか。何かの引き落としが電話料金のふりをして紛れ込んでいるのか。

電話料金という言葉は、こちらの想像を電話へ向かわせる。通話、通信、番号、誰かの声、知らない国。

3. 五万円台のd払い

その後、確定した請求を見た。

そこにd払い五万円台という数字があった。電話料金そのものが跳ね上がったのではなかった。d払いの中に、前日に買った本が入っていた。

六万円ほどの本だった。大半は、トマス・ピンチョンの著作だった。

本は、電話料金のふりをしていた。しかもその中心には、巨大なシステム、見えない接続、遅れて届く意味、記号の迷路を書いてきた作家が座っていた。電話料金がポスト・モダンだったというより、ピンチョンを買いすぎた結果、請求の世界がピンチョン化していた。

正確には、Amazonの書籍購入がd払いに入り、携帯料金に合算され、その請求額にdocomoの高額利用アラートが反応した。けれど、体感としては、昨日買ったピンチョンが、今日になって電話料金の顔でこちらを見ていた。

最初に見た明細に著変がなかったのは、まだ確定前だったからだ。確定後の請求にd払いが現れ、そこからAmazonにつながった。時間差があった。時間差は、請求の世界ではよくあるのだろうが、人間の不安にはあまり親切ではない。

あとで確定請求を見た。五万円台のd払いは、ほとんどピンチョンだった。

この順番で、怪物はだんだん本棚に戻っていった。

4. 表示の階段

d払いの明細は、電話料金の明細とは別の場所にあった。

電話料金の通知を受け取ったので、電話料金の画面を見に行った。原因は別のアプリにいた。

さらに、Amazonの支払いは期待した姿では出てこなかった。d払いとして立っていると思っていたら、画面上ではカード扱いのように見えた。

人間は、自分が知っている名前で物事を探す。ところが、今回の本代は名前を変えながら移動していた。まるで小さな変装旅行だった。

事業者側から見れば、これは自然なことだろう。請求の仕組みとしては筋が通っている。

しかし、利用者の生活では、電話料金とAmazonの本代は別々の引き出しに入っている。

この階段は、あとから見ればまっすぐだ。登っている最中は、途中で何度も踊り場を見失う。

5. 不安の地図

今回の不安は、金額よりも、経路の見えなさから来ていた。

本を買っただけの出来事が、不正利用のような顔をしていた。

警戒すべきなのは電話代の幽霊ではなかった。

その奥に、ピンチョンが座っていた。

もちろん、身に覚えのないd払いが混ざっていれば話は変わる。確認はSMSのリンクではなく、公式アプリや公式サイトからした方がいい。

6. 本代の帰宅

結局、電話料金が爆発したわけではなかった。本が遠回りしていただけだった。

本代は、ずいぶん遠回りをして帰ってきた。届いたのは同じ本代なのに、玄関が違うだけで、まるで別のものに見えた。

本は一冊ずつなら静かだ。まとめて買うと、知識になる前に数字になる。

怖い通知の正体が、自分の本だった。少し安心して、少し反省して、少し笑った。そして、たぶん本は読む。

ピンチョンの本を買ったら、請求までピンチョンみたいになった。Amazonとd払いと電話料金と高額通知。全部おなじ本代だった。ピンチョンの。

電話料金はポスト・モダンだった。

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