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🍜『3分間の幻』



その日、俺の腹の虫は限界を告げていた。


残高120円、時刻は深夜2時。


手元にあるのは、安売りで買った「特製・濃厚背脂とんこつ大盛り」のみ。



俺は慣れた手つきでお湯を注いだ。
蓋の上に割り箸を置き、スマホのタイマーをセットする。



「3分。この待ち時間こそが、現代人に与えられた最大の苦行だ……」

独り言をこぼした、その時だった。



カップ麺から立ち昇る湯気が、

突如として不自然な渦を巻いた。


「熱っ、何だこれ!?」


目をこすると、そこには湯気に包まれた超絶世の美女が立っていた。



うるうるとした瞳に、柔らかな微笑み。

どこかで見覚えのある、圧倒的な「癒やし」のオーラを放っている。



「……お待たせいたしました、勇者様」

俺は思わず叫んだ。


「えっ、ちょっと待て!
    美女は、吉岡里帆じゃないのか!きつね耳は? 尻尾はどうした!?」



美女は一瞬、困ったように眉を下げ、慈愛に満ちた声で答えた。



「申し訳ありません、佐藤様。あちらは『お揚げ』の担当でございます。

私は本日、こちらのとんこつスープより召喚されました、

麺の精霊ヌ・ドルと申します」


俺は手元のカップを見つめ、愕然とした。



「そう言えば、今日は、どん兵衛じゃない。
           安売りのとんこつだった……!」



3分間のパロディ



どん兵衛ではないという残酷な現実に打ちひしがれる俺を、

ヌ・ドルは優しく膝枕で迎えてくれた。



「どん兵衛でなくても、私のとんこつ愛は本物ですよ?」



彼女が指を鳴らすと、

空中に光の粒でできたチェスボードが現れた。



「さあ、対局しましょう。
勝ったら、スープの脂を少し増量して差し上げますわ」


「……どんな景品だよ!」




ツッコミを入れつつも、彼女の碧眼に見つめられると、

俺の心はとろとろに溶けていく。



「あなたの未来は、
このスープのように温かく、コシのあるものになるでしょう」


耳元で囁かれる謎の深い格言。


吉岡里帆ではないが、これはこれで「あり」すぎる。



🥢【無情なカウントダウン】🥢




しかし、幸せな時間は残酷に過ぎ去る。


ヌ・ドルの体が、徐々に薄くなっていった。



「ああ、もうお別れの時間ですね……」


「待ってくれ! 行かないでくれヌ・ドル!
           明日はちゃんときつねうどんを買ってくるから!」


「いいえ……私はお湯を注がれてから3分間しか存在できない運命(さだめ)なのです。……佐藤様、最後に一つだけ、大切なことをお伝えします」


彼女は消え入るような声で、俺の胸に指を添えた。




「……麺が、伸びますわ」



ピピピピ、ピピピピ。




無機質なタイマーの音が、狭い部屋に鳴り響いた。


ハッと我に返ると、そこにはいつもの安アパートの風景があった。


目の前には、少し蓋が浮き上がった「濃厚背脂とんこつ」。


「夢……だったのか?」


俺は震える手で蓋を剥がした。


そこには、完璧なコンディションの麺が鎮座している。


一口啜ると、なぜかほんのりと、

彼女のドレスと同じ華やかな香りがした——。


「……いや、やっぱりただの強烈なニンニク臭だな」


俺は涙を拭い、伸びる前に麺を啜り上げた。


3分間の恋は、お湯を捨てると同時に入れ替わる、刹那の幻影。


翌日、俺はスーパーの棚の前で立ち止まった。



「次は……。次は絶対に、どん兵衛を買うぞ」




そう決意しながらも、俺の手は無意識に、

5分待ちの「最強どん兵衛」へと伸びていた。





2分間、長く彼女と一緒にいるために。。。。。🍥






💖柊紅葉💖






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