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荒廃世界流浪編|エピソード玲 Vol.9 ~MUKURO~



玲が彷徨いつづけた自身の精神世界―
そして辿りついた先。
そこに居たのは、自身にそっくりな姿をした者だった。


その者が静かに口を開く。
「やっと会えたな、玲… 私は嬉しく思う」


玲は、自身の中に何者かが宿っていることを理解していた。
それは、もうかれこれ十年ほど経つだろうか―

しかし、その姿をこうして目の当たりにするのは初めてだった。

不思議と怖さはなかった。
妖しさと威圧感を纏っているはずなのに、どこか温かい空気すら感じた。


「…あなたは誰なの?」
驚きと戸惑いが入り混じる、玲がようやく絞り出せた言葉は、それだけだった。

「そうだな…こういう機会はないからな。 少し話をしようか」

その者の口調に乱暴さはない。
穏やかで淡々とした口調で語り始めた。




「私は、名をむくろという」

玲は小さく息を呑んだ。
むくろ
初めて耳にした名が、胸の奥へ静かに沈んでいく。

むくろは少し間を置いてから静かに続ける。

かつて私は、ある組織を率いていた…

玲は言葉を返せなかった。
ただ、目の前の存在を見つめることしかできない。


「玲、お前と出会ったのは十年前― そう、この場所。この教会…」

玲の表情がわずかに揺れる。
十年前。
その言葉だけで、胸の奥に沈んでいた違和感が鈍く疼いた。

白く冷たい空気、微かに灯る明かり。
そして自分の隣にいた、大好きな姉の姿―

あの時の記憶が玲の脳裏にぼんやりと浮かび上がる。



それは、十年前のクリスマスの日だった。

「あの日、私はお前に宿った」

玲の胸が微かにざわつく。


十年前、この教会でむくろの魂は玲の中へと流れ込んだ。
その瞬間、それまでむくろの器であった肉体は焼失し、その異変が教会を大火災へと変えた。

「私は長い間、器を探していた…」

むくろは四百年以上もの時を魂を繋ぎとめるため、様々な生物の身体へ移り、生きながらえてきた存在だった。

当時の身体もまた病に侵され、終わりが近づいていた。
だからこそ、むくろは新たな器を必要としていた。


「だが、あの時のお前はまだ幼かった」
むくろの視線が静かに玲へ向けられる。

「十歳の子供の身体と精神では、私の魂を完全には受け止めきれなかったようだ…」

玲は無意識に唇を噛む。

だからむくろは玲の中に在りながらも、彼女を完全に支配することはできなかった。
玲がまだ未成熟だったからだ。


ここまで玲は、玲のままで在り続けた。
だがその内側には、ずっとむくろが宿っていた。



均衡が崩れたのは、それから六年後—
玲が十六歳になった頃だった。

「…じゃあ、あの時も」
玲の口からこぼれたのは、確かめるようなその一言だけだった。

むくろは目を逸らさなかった。
ただ静かに玲を見つめ、その表情をわずかに曇らせる。

そのむくろの表情だけで十分伝わった。
玲の胸の奥が重く沈む。

あの時―
親友を傷つけたあの瞬間、むくろの人格の暴走によるものだった。


玲の表情がわずかに曇る。
あの日の記憶は今も消えてはいない。

目の前で傷ついた大切な親友。
自分の手で壊してしまったもの。

むくろの口調は穏やかなままだったが、その声は強く沈んでいた。
「お前の罪ではない」

玲は俯かない。
ただ、じっとむくろを見つめていた。




…あのことは、今も悔いている
むくろのその言葉に玲は何も返せなかった。


目の前にいるのは、自分の人生を狂わせた存在だ。
それなのに、その声はあまりにも静かで、あまりにも穏やかだった。


だからこそ、玲の胸の内は余計に揺れる。




むくろの言葉を聞きながら、玲の脳裏には親友の姿が浮かんでいた。

……なぎ

忘れたことのない、あの日の記憶とともに―





つづく—



~Fragment Log~


むくろ



躯は444年前から、自身の魂を様々な生物の肉体へ移し替えながら生きながらえてきた。
時には動物に、時には虫に宿っていたこともある。

器を変え続けた末に、現在は玲の肉体に宿っている。
玲に宿る以前の肉体は、とある組織を率いるボスだった。




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