闇 560(宮古島最終日編)
闇 560(宮古島最終日編)

2026/05/13 wed
※これは自分がなぜこんな人生になったのか、当時を吐き出している小説です。
前回の章

二千二十二年六月九日、木曜日先負。
宮古島旅行最終日。
爽快な目覚め。
この快適さは、柔軟なマットレスのお陰だろう。
俺もアスクルームもベッドなどでなく新宿へ戻ったら、本当に早いところ部屋を探さないと。
帰ったらまたシャワーのみでゆっくり湯船にも浸かれない。
俺はバスタブへお湯を張り、寛ぎながら風呂へ入る。
和室へ戻ると、神田からメッセージが届いていた。
『楽しそうだね。今から両親に会いに行く気分じゃない。今晩は憂さ晴らしでで飲んじゃうな。 神田浩典』

同情する余地も何も無い自業自得なメッセージの内容。
そういえば俺と会った頃、離婚をしたという神田。
今一緒に住んでいる舞台女優の美恵が籍を入れろとうんざりしていると、酔うといつも愚痴をこぼしていたっけ。
三十代前半の彼女が、何故そうまでして神田と結婚をしたがるのか?
嫌な言い方をすれば、五十歳の神田と籍を入れるメリットは、財産目当てとしか考えられない。
まあ一晩で何十万円もの金を飲み代で使えるぐらいは儲けているのだ。
神田からすれば、できれば遊びでいたいものを同棲、結婚と手順を踏む美恵。
将棋でいう王手を掛けられた感じなのだろう。
ぶっちゃけ神田が誰と再婚しようが、俺の生活には何の変わりはない。
長年手を出して時間を共有してきたのだから、そろそろ落ち着けと思う。
他人の金銭の絡んだ愚痴などどうでもよかった。
かえって美恵に手綱を持たせ、あの馬鹿げた散財する神田を管理できるなら、むしろ彼女のほうを応援したいぐらいだ。
「ではそろそろお土産屋へ行きますよー」
達彦と斉木が部屋へ迎えに来て、全員で外へ出る。
ベランダからいつも見えていたこの通りが、宮古島のお土産とか売っているメインストリートらしい。

左脚の鈍痛も、二回の休憩で来れたのは助かる。

「ちょっと来るの早かったかな? 一回出直しましょうか」
腹が減っていたので、俺は買い物へ行っていいか聞いてみる。
了承をもらい、コンビニエンスストアを探す。
こっちのコンビニはファミリーマートしかないが、すぐ近くで見つかった。
スパムなどは食べなくなかったので、食パンとチーズ、トマト、玉ねぎ、ピザソースを買い、マンションへ戻るとピザトーストを作ろうと思う。
オーブンまで備え付けであるのは本当に有難い事だ。
残ってあったクリームチーズも使い、簡易的なピザトーストを作り始める。

匂いに釣られて片屋敷が欲しがったので、一枚あげる。

「どうですか?」
「ん-、普通ですね」
俺はケツに軽く蹴りをした。
こんなあり合わせの材料でまともな料理ができる訳ないだろう。
早くちゃんとしたキッチンと調味料を揃え、また料理がしたかった。
時間になり再び琉球民芸『みやこ屋』へ向かう。
達彦が全員に五千円札を手渡し、「少ないけどこれでお土産を買う足しにして下さい」とほほ笑む。
大場系列はこんな事まで経費でしているか、もしくは純粋な達彦からの気持ちなのか?
どちらにせよ凄い気配りの行き届いた組織な事は間違いない。

「俺は涼子へ五百円ぐらいの土産を買って、あとはポケットへ入れますよ、へへ」
小狡い片屋敷は不敵に笑うが、この男はどこかモラルの線が壊れている。
こういう金はキチンと使い切るのが最低限の礼節だが、それを説明したところで理解などしないだろう。
さて、新宿へ帰ったところで、一体誰にお土産を俺は渡すのだ?

無数にある種類の中から、五千円も使えばそこそこの量にはなる。

沖縄の酒泡盛。
岡部さん飲むかな?
店の人に尋ねてみる。
「すみません、泡盛って沖縄のお酒でいいんですよね?」
「ええ、詳しく言うと、沖縄県内で作られた泡盛だけが『琉球泡盛』という名称を使う事ができるんですよ。これはウイスキーの『スコッチ』やブランデーの『コニャック』と同じように、法律で守られた国際的なブランドの地理的表示なんです」

地理的表記……。
間違ってはいないが、その言い方だと雑過ぎる。
スコッチウイスキーのスコッチは、スコットランドで作られたものだから。
ブランデーのコニャックは、コニャック地方やアルマニャック地方というさらに細部までの名を冠したものだからだ。
つなりこの店主も必死に丸暗記したのだろうが、コニャックのブランデーと大儀で出すなら、例えばスコッチのスペイサイド地方やハイランド地方のウイスキーと言わなければおかしい。
よくバーボンとスコッチと呼ばれるが、正式な対比ではアメリカンウイスキーとスコッチウイスキーなのだ。
しかしこんなところで基本的な知識をひけらかしたところで、土産屋と摩擦しか生まない。
皮肉なホテル時代の経験。
そんなどうでもいい事よりも、岡部さんは泡盛を欲しがるかどうかだ。
俺は岡部さんへ電話を掛けてみた。
「おう、智一郎、どうしたの?」
「今、仕事のメンバーで宮古島来ているんですが」
「はあ? 宮古島? 何で?」
そりゃいきなり旅行など絶対にしない俺が、突然電話を掛けてきて今宮古島じゃ、岡部さんも混乱するよな。
簡単に社員旅行だと説明する。
そこでお土産の話へ話題を移した。
「うーん…、まあ智一郎が持ってきてくれれば飲むけどさ。そんな気を使わないでいいからな」
「そうはいきませんよ。俺は二俣川の時、岡部さんに命を救われました。だからせめてものお返しじゃないですけど、こういうのって自分の中で大事なんですよ」
「まったくおまえは変に義理堅い奴だな…。別に何もしていないだろ」
謙遜する岡部さん。
何もしていない?
どの口がそれを言う?
立て続けに襲った二度目の横浜時代。
俺は二俣川の旭総建工業の戸田のせいで、保土ヶ谷バイパス陸橋から飛び降りる寸前までいったのだ。
それを救ってくれたのは、岡部さんからのたまたまのタイミングだった電話。
あの当時を思い出すと身震いする絶望と、一筋の光は未だハッキリ感謝を覚えていた。
荒治療として店を辞めた俺。
すぐ戻って来てくれと、そう連絡があるものだとずっと勘違いしていた。
無職で何もしない日々を過ごし、酒に酔って財布を落とし、戸田の旭総建工業へ。
そこで待っていたのは坂本の裏切り。
貸した金を五ヶ月間毎月マンション代を払うという約束を反故にされ、坂本は消えた。
待っていたのはレオパレスからの強制退去。
そして二十五万九千円の退去精算料を請求される。
辞めて一度地元へ帰って仕切り直す。
そう言った俺に対し、戸田は辞めさせてくれなかった。
二俣川のアパートを用意し、在籍一ヶ月半いた期間でもらえた金額は一万五千円だけ。
しかも日当一万と言われた仕事さえ、月で十回程度。
日に日に俺は衰弱し、気力を奪われていった。
「……」
おじいちゃんが亡くなってから二年間で、これだけの事が続いたのである。
これ以上頑張って生きた先に何がある?
まだ何かが理不尽に襲い掛かるだけだろうが……。
陸橋の下を眺めた。
二俣川の保土ヶ谷バイパス。
相変わらず車が勢いよく飛ばしているのが目に入る。
さすがにもう生きていく気力が湧かない。
あの薄暗く寒い部屋の中にはいたくなかった。
だからフラフラとこの場所へ来たのだ。
潔く飛び込もう。
それで終わり。
もうそれでいいじゃないか……。
手すりへ手を掛けて立ち上がる。
その時携帯電話が鳴った。
戸田のクソ野郎か?
あのタイミングで尻尾を丸めて地元へ帰ろうとした俺を強引に引き留めておいて、この停滞楽はなんなんだ?
待てよ…、今ここから飛び降りたところで、あいつは責任など感じるのか?
俺はあんな奴へ屈しる為に命を落とすのか?
遺書を書いておくべきではないのか?
恨みつらみの呪詛が詰まった遺書を……。
電話が鳴りやむ。
自棄になって落ちて死ぬのはいい。
でもどうせなら意味のある死に方をしたい。
一度帰って遺書を作成するか。
少し女々しくないか?
再び鳴り出す携帯電話。
しつこい奴だな、戸田の奴。
画面を見た。
地元の先輩岡部さんからだった。
こんなタイミングで何故?
また横浜へ仕事に来ているから一緒に飲むかとの誘いか?
「……」
俺が最も信頼をしている二人の人間。
それは坊主さんであり、岡部さんだった。
最後に話す人間が岡部さんなら、俺の人生の最後にふさわしい。
「もしもし……」
「おう、智一郎。おまえ、元気でやってんのかよ」
元気そうな岡部さんの声。
「い…、いや……」
「おまえ、今日日曜だから休みだろ? 池袋まで出て来れるか?」
「え……」
「川越までじゃ大変だろ? 俺も川越から横浜まではプライベートだと遠いんだよ。だから池袋」
「……」
「もうちょっとしたら俺も出るから、おまえも池袋へ来いよ、な?」
「は、はあ……」
「じゃあ、あとでな」
切れる電話。
完全に飛び降りるタイミングを意気阻喪してしまう。
いや、最後の晩餐としての相手が岡部さん……。
そう捉えればいい。
ただ、全財産千三百九十円しかないのだ。
池袋までは行って帰ってこれる。
しかし…、いや、会って事情を伝え、そのまま帰ればいい。
もう一度保土ヶ谷バイパスを見る。
また、ここへ戻って来るよ、もうちょっとしたら……。
二俣川駅まで歩き、相鉄線で横浜駅へ向かう。
あとは湘南新宿ラインで池袋駅まで一本。
岡部さんのほうが距離的に先へ着いているだろう。
池袋へ到着すると、電話で確認する前から西口へ出た。
いるとすれば東口でなく西口の歓楽街だと思う。
交番を過ぎた辺りで電話を掛ける。
思った通り岡部さんはすぐ近くの焼肉屋にいた。
「すみません、遅くなってしまって」
「おう、急に呼び出してすまなかったな。俺は先にやってるぞ。何飲むんだ? ウイスキーか?」
陽気な岡部さんの前に、金が無い事を先に言わなきゃ駄目だ。
「いえ…、それがですね、岡部さん……」
「何だよ? 先に注文しちゃえって」
「いや…、あのですね……。俺、もう手持ちが千円無いんですよ…。なので、今日は顔だけ見せに……」
「おまえ、馬鹿野郎! こっちはおまえより五つ先輩なの。俺がおまえを横浜から呼び出しておいてよ、それを割り勘? そんな恥ずかしい真似できる訳ねえだろう。早く頼め。その前に座れ」
「はい……」
泣きそうになるのをグッと堪える。
店員が来ても、メニューを指さしながら注文するだけで、声に出せなかった。
「肉はカルビにロースにタン、あとおまえの大好きなホルモンも頼んである。ライスはまだだな」
「ちょ…、ちょっとトイレ行ってきます」
俺は早歩きでトイレへ駆け込み、鍵を閉めると便器に座って号泣した。
どれだけ弱っていたのだろう。
こんなに泣き虫だったのかよ。
恥ずかしい部分見せるなよ。
トイレットペーパーをたくさん巻き付け鼻をかむ。
そしてまた巻き付けて目の周りをよく拭いた。
洗面所で鏡を見る。
まだ目の周りが赤い。
水で顔を洗う。
一度ゆっくり深呼吸してからトイレを出た。
席へ戻ると「おまえ、乾杯ぐらいしてから便所行けよ」と文句を言われる。
「すみません…。横浜からずっと我慢してたもんで……」
「ほら、酒を持て。乾杯!」
国産の安いウイスキーのロックが喉へ染み込む。
あれ、グレンリベットに負けないぐらい美味いな……。
「ご飯の大盛りで良かったんだろ?」
「はい!」
「気にしないで好きなもん食って、腹一杯食え」
「はい!」
二俣川の暗いアパートへ行ってからずっと仕事中はコンビニ弁当、そして部屋では西友の二百八十円の弁当だけだった。
久しぶりに旨い肉へ齧り付く。
全身の細胞が驚嘆の叫び声をあげる。
隅々までエネルギーが行き渡るのを感じた。
「それとよ、智一郎……」
「はい、何でしょう?」
懐へ手を入れてゴソゴソしている岡部さん。
封筒を取り出し、俺に手渡してくる。
「え、何ですか、これ?」
「これは返さなくていいからな」
「え?」
「本当ならよ…、俺ももうちょっと金持ってたらもっとアレなんだけどよ…。とりあえず二十入っている。詰まってんだろ? 取っとけ」
俺はその場で崩れ落ちるようにして大泣きした。
今でもあの時の恩義は消えないし、おそらく俺は生涯感謝し続けるだろう。
「岡部さんのお袋さんの分も、何か買っていきますよ」
「そんな気を使わなくていいって。うちのお袋、歯が悪いし、今施設で介護しながらだから、流動食しか食べられないんだよ。気持ちだけでいいから」
「まあ適当に買っていきます。川越帰ったらお土産渡しますから」
電話を切ると、俺は色々なものを見て回る。

沖縄のシーサーの置物なんて買って帰っても、有難迷惑だよな……。

それにしても本当にシーサー系土産が多い。

店の中の半分は、こればかりなんじゃないか?

サンダルなんて買っていっても意味無いしなあ。

俺はとりあえず泡盛だけ買って、次の店へ行く事にした。
すぐ近くのトミハマサンゴという土産屋では、斉木が店主と入口で話している。
ちょうどこれから店を開けるところのようだ。

それにしてもトミハマサンゴなんて変な名前だが、この店主の苗字は『富浜』さんなのだろうか?
俺は入口中央に置かれた沖縄女性と山羊の等身大パネルをとりあえず写真に収めた。

店内へ入り、すぐ目のつくものがあった。
昨日のキャバ嬢が言っていた土産の一つ。
紅芋タルト!

ジーマーミ豆腐もあった。

あ、バナナケーキだ。
モンテカルロだったっけ?
昨日の神田へメモ代わりに送ったメッセージを見直す。
モンテローザのバナナケーキだった。

よし、これらを適当に買って…、誰に渡すんだよ?
神田に岡部さん、坊主さんたちは千葉だから難しいよな、会いに行くのも。
あとはアスクルームの近くでよく行く店にもお土産を持っていこうかな。
シュベールと大明飯店ぐらいしかないけど。

天使の囀り声を持つ琴美には、この宮古島まもる君の人形でも持っていこうかな。
いやいや、一見の客がいきなり「宮古島行ってきたので、宮古島まもる君のお土産買ってきました」なんて渡したら、琴美に気味悪がれるだけだ。

無難にお菓子や、宮古島名産品と分かるようなものを店長へ渡し、シュベールのスタッフたち全員へ行き渡るようにすればいいのだ。

おじいちゃんおばあちゃんの大明飯店には、ジーマーミ豆腐がいいだろう。
じーまーみ?
平仮名が正しいのか?
カタカタのもあるし、どっちが正しいかハッキリしろよ。

この島限定のポン酢とかも置いてある。
岡部さんのお袋さん用に……。
いや、流動食しか無理だと言っているのに、調味料買ってどうすんだよ。

うわ、ここもシーサー土産いっぱいあるな。
こういうのじゃなくてさ。
もっとないの?

マンゴージュースがあった。
これなら岡部さんのお袋さんも問題ないだろう。

よし、二万円分ほど買ってしまったが、四等分して神田や岡部さんたちへ土産を渡せば捌ける。

「じゃあ次は食事へ行きますよ」
達彦の声で一旦マンションへ戻り、最後の荷物をまとめる。
駐車場に行き、車で『くになか食堂』へ向かう。
また沖縄料理かとがっかりしたが、昨日食えなかったカレーライスを頼めばいいか。

メニューを眺めると、例のゴーヤチャンプルーや、野菜炒めにしても俺から見れば怪しい野菜をつかったものなので嫌だ。

宮古そばに、天ぷら百円?
魚と野菜の天ぷら三つもあって、たった百円なの?
何かおかしくないか、この店。
ソースではないが、焼きそばに焼きめしもある。

カレーライスは無いようだ。
俺は焼きそばを頼み、みんなメニューが被らなかったので、一品ずつ写真を撮らせてもらう。
まずは斉木の宮古そば。
昨日の大和食堂と違うのは、ソーキ肉二つと、厚揚げのようなものも二つ乗っているところ。

俺の焼きそばが来た。
不味くはないが、やはり焼きそばはソースだろ。
川越へ行った時、まことやの太麺焼きそばを食べたい。

片屋敷は焼きめし。

倉敷は野菜炒め定食。
キャベツ以外あまり好きな具材じゃないので、頼まずに正解だったようだ。

達彦はまだ昨日の酒が残っていて食欲が無いようで、百円の天ぷらをつまんでいる。
衣の大きな雑な天ぷらであるが、この三つで百円なんて元が取れるのだろうか?

店内は喫煙なので俺は焼きそばを食べ終わると、外へタバコを吸いに出る。
するとすぐ近くに賽銭箱の設置されたお墓のようなものが見えた。
何だ、ありゃ?
近付いてみると、『外間御嶽』と書いてあり、読み方はまだ沖縄独特の『プカマザーウタキ』らしい。

由緒ある拝所のようで近くに説明書きの看板がある。

俺はフェイスブックへ、この外間御嶽を調べながらそのまま書いてある内容を投稿してみた。
14世紀から15世紀にかけての一系の人物、根間大按司、その子祢間津のかわら、その子目黒盛、その子真角与那盤、その子普佐盛の合わせて五人の墓所だった所で、普佐盛の弟、伊かりによって御嶽に仕立てられたものと伝わる(薙正旧記)。
此の御嶽には皷祢里(こねり)祭が行なわれていた。その由来は祢間伊かり(根間伊嘉利)が竜宮から伝授されたというもので、一七二七年の『薙正旧記』に記事がある。「中古迄は行なわれた」とあるが、これは王府への気兼ねからの表現で、近世までも行なわれたという見方もある。
伊かりは父の死後、その墓所で庵(いおり)を作り泣き暮らしていたが、その孝心が天に通じたのか、漲水の天川崎という所に父が蘇生したという夢を見てその地に行ったところ水際に髪毛之筋長さ七、八尺のものがあり、余りに長いので不思議に思っていたら何処からともなく美女が一人あらわれ、夜部(ゆうべ)此所でかもじ(添え髪)を落としたがもしや拾われたのなら返してくれと言うので渡してやると美人は海に飛びこみ姿を消す、伊かりは余りに不審に思えたので翌朝もその天川崎へ行く、美人はまたも姿をあらわし、弁明して言うことには、そなたの孝心の心があついのは竜宮界でもよくわかっているので、竜宮界では孝行の祭りを授けようということになり、竜宮の使いでわたしがやってきたとのこと、それはありがたいというので一緒に海中に沈んだが、気がついてみると金銀をちりばめた宮殿に着いていて、様々なもてなしをうけ、そこで漲祢いりの祭を授かり、″此の祭を十三年廻りに一度九月のうちに先祖所で祭ったならば、天地之願御加護、先祖の霊神は上天し、島は豊かになり、子孫は繁盛するから、怠ることがないようにせよ”との教えがあった、礼拝をしていとまごいをしたところ、すぐに先の女の導きがあり、夢のような気分のうちに天川崎に戻っていた。
竜宮界では三日(三月)と思ったが此の世では三年がたっていた。生き返った気持で帰宅し、一門そろつて歓び″伝え受けた通り、根所において神人数は二十五人、そのうち伊かりは真中の台の上で西方に向い、白ばしの烏(ワシ)の尾羽一尺以上のものを貫き列ねたのを冠にし、白衣を着け、名蔵双紙を唱えたら、二十四人の者共は庭鳥の尾羽を貫きつられたものを冠にし、紺朝を着けて伊かりを立囲み、伊かりの詞を受けて節毎に拍子を揃えて皷(つづみ)を打つ十三日祭を始めた。それをついで、中古までは祭が行なわれていた。なお白ばしの烏の尾羽は、祭の年期になると必ず当島の北方にある白川浜に寄せてきたという言い伝えであるという。
一七四八年の旧記の『宮古島記事仕次』、『根馬氏家譜正統』にもある話である。竜宮から先祖祭の方式皷祢り(こねり)祭を授ってきた伊かりは墓所を因って草木を植え御嶽を立て、その前での皷祢りをはじめ、それが、その後うけつがれたということだが、実際いつまで行なわれたかは、明らかではない。今は行われてはいない。
この祭りは沖縄本島から伝来したもの、また久高島のナヅキという男性中心の神事に似ているということなどがいわれる筈だが、さらには此の起源を遠く琉球以外に求めるのもでてこよう。竜宮伝説の根源の解明にもつながるものである。
自分で文章をそのまま打ちながら、何のこっちゃと思ったが、まあこの投稿を見る人用の為だ。
もうこれで宮古島から帰るからなあ。
俺は賽銭箱へ百円玉を放り込み、両手を合わせて祈った。

えーと、神様が本当にいるなら、俺は五十歳でコロナワクチンを打った翌日いきなり心筋梗塞になり、気付かないまま一週間後に二度目の心筋梗塞で本当に死に掛けました。
カテーテルで何とか生き延びましたが、退院してからかつての部下である山下哲也に快気祝いと称してタカられ関係を切りました。
それでも中学時代の同級生である二十九年ぶりに再会した神田の散財癖により、何度注意しても治りません。
彼とはできればいい関係で過ごしたいので、あの馬鹿の病気を治してやって下さい。
あと、それとですね。
俺が命を救われた恩人の岡部さんのお袋さんが今、施設に入り流動食した駄目らしいんですよ。
だからせめて普通にご飯を食べれて、また息子の元へ帰れるぐらいの健康さを与えて下さいね。
もう百円追加で賽銭箱に入れますから。
「岩上さーん、そろそろ空港向かいますよー」
「あ、達彦さん、すぐ行きます」
宮古空港近くのパーキングエリアに停め、この車は次のインカジ『レディ』旅行第二班がそのまま使うようだ。
案内役も兼ねた番頭の達彦はこのまままだ宮古島へ残り、次の四日間も同じ行動をするようなので中々大変な立場である。
まだ大場系列では他の店のスケジュールも残っており、次は交替で井川と奥村が来てバトンタッチ。
新宿では達彦と遠藤が二人で番頭業務をこなすらしい。
そこまで面倒な真似をしてまで、こんな大掛かりな旅行へ全スタッフ行かせるなんて計画を立てるオーナーの大場は、相当変わっている。
空港の入口には二頭のリアルな白い獅子のオブジェがあった。

『あたらかシーサー』という名前のようだ。
あたらかとは、宮古島の方言で『大切な』『もったいない』という意味を持つらしい。

遠くから見ると凛々しい普通の巨大シーサーだが、近づいてよく見ると、体の表面がたくさんの貝殻で埋め尽くされている。
造形美術家の牛山リコという人が、二年四ヶ月もの歳月を掛け、ほぼ一人で無償で制作し、二千十二年に宮古島市へ寄贈?
世の中には変わった人もいるものだ。
でも自分の作品がこんな風に空港の入口に飾ってあったら、それはそれで気持ちいいだろうな。
まるで我が子を自慢するかのように。
俺も川越の駅を出たところに自身の著書『新宿クレッシェンド』がケースに入れられた状態で『これは川越の作家が文学賞を取った本です』なんて、但し書きがついた状態で展示してあったら、想像しただけで飛び跳ねるほど嬉しいもんな。
考えてみたら、川越って蔵の街だの小江戸だと観光客へ必死にアピールするくせに、何で二千八年の時何一つ動かなかったんだ?
地域活性化なら、余所者が川越の名を借りて流行らせるよりも、まずそこの出身者の活躍などを讃えるべきではないのか?
川越図書館にも新宿クレッシェンドは置いてないし、ああいうところが地元をいまいち好きになれないんだよな。
エセ地域活性化に過ぎないから。
「岩上さん、そんなシーサー気に入ったんですか?」
斉木の声で我に返る。
地元への恨みつらみを思い返していたなんて言えないので、二階に土産屋があると言って誤魔化し、共に向かう。

エスカレーターで上がったすぐ左手にある『マイパマ』。
この店も結構な数の土産物が売っている。

入口の横には千円ガチャがあり、外れなし豪華賞品が入っていると謳ってあった。
俺が財布から千円札を取り出すと、斉木が声を掛けてくる。
「岩上さん、やめたほうがいいですって。こういうのはいらないものしか入ってないんですから」
「任天堂スイッチあるじゃないですか」
「岩上さん持ってるじゃないですか」
「俺のはスイッチライトですよ。もっと大きな画面でゲームしたいんですよ」

千円を入れ、黒いカプセルが出てくる。

開けると赤い縁の白いフェイスタオル。
「うわー、また騙された!」
「だから言ったじゃないですか」
「これ、どう見ても女物じゃないですか。斉木さんの小学生の娘さんにあげますよ」
「え、いりませんよ」
「じゃあこんなの捨ててここへ置いていきます」
「うーん、それなら持っていきますよ」
宮古空港の土産屋マイパマの千円ガチャで、最後の最後に騙された。

「飛行機へ搭乗するまで、あそこのレストランで待ちましょう」
斉木の案内で、同じ二階にある空港レストラン『ぱいぱいのむら』へ行く。
ショーウインドーに中には様々なメニューが飾られている。

憎き沖縄料理系が多いものの、カレーライスもあった。

「岩上さん、達彦たち待っているから早く入りましょうよ」

ショーウインドーマニアの俺は、写真を撮りまくってから斉木の後へ続く。

コロナ渦のせいなのか、元々この時期の宮古島旅行の人気が無いだけかは分からないが、広い店内にはほとんど客の姿は見えない。

奥まった席に達彦ら一行が見えた。
「岩上さん、お好きなもの頼んで下さい」

チキンカツカレー、カツカレー…、だが普通のカレーライスが食べたかった。

宮古牛ハンバーグ定食も捨てがたかったが、新宿へ戻ってから食べればいいかと変に悟る。

「え、カツカレーじゃなくていいんですか?」

「ええ、普通のカレーが無性に食べたくて。多分昨日の食堂で黄色いカレーライスを頼まなかったのが、尾を引いています」
「ドリンクはどうするんですか?」
メニューを見ると、真っ先にソーダ水が目に留まる。
メロンソーダでなくソーダ水。
やっぱこうでないと。

「ソーダ水で」
「え、お酒じゃなくていいんですか?」
「ええ、ソーダ水がいいのです」

俺たちは搭乗時間まで、ぱいぱいのむらで潰す。

四日間の旅行も、これでおしまいか。
明日からまた新宿での慌ただしい生活が始まる。
「岩上さん、外へ一服しに行きます?」
斉木に誘われ、倉敷と三人で喫煙所へ向かう。
さすがに飛行機じゃ吸えないからな。
トイレに行きたくなったので、先に離れそのままぱいぱいのむらへ戻る。
すると片屋敷が、達彦に執拗に何か話している姿が見える。
「達彦さーん、お願いしますよー。自分あれで金、全部使っちゃって可哀想だと思いませんか?」
「まったくおまえはしょうがないなあ」
そう言うと達彦は財布から五万円を数え、片屋敷へ渡す。
嬉しそうに金を懐へしまい、俺の存在へ気付く片屋敷。
「岩上さん! 今の、絶対に我妻さんに言っちゃ駄目ですよ?」
「はあ?」
必死に弁解するかと思えば、何故我妻の名前が出てくるんだ?
「自分が達彦さんに補填してもらった事ですよ!」
「えーと……」
「絶対に我妻さんに言わないで下さいよ!」
「いちいち言わないし、第一我妻さん、ここにいないじゃないですか」
「だから店に戻ってからの話ですよ」
「言うなって何を?」
「自分が宮古で夜酔って散財したじゃないですか。それを達彦さんに補填してもらったって事ですよ!」
「そんなの言わないですよ、いちいち」
「絶対ですよ? 我妻さんは狡い人なんで、自分が達彦さんにしてもらったのを知ると、あの人も同じ真似絶対にしますから!」
「……」
「絶対言っちゃ駄目ですよ? 岩上さん!」
「言わないし、席へ座るからどいて」
自分の意見がいかに滑稽で矛盾だらけなのを自覚していないのか、コイツは……。
勝手に倉敷を巻き込んで飲みに行き、酔って金を使ったのは片屋敷である。
それを旅行の最後で達彦と二人きりになると、その金を補填してくれと懇願。
この男はプライドも何も無いのか?
しかもこの場にいない我妻の名前を引き合いにだし、あの人は狡いから言うなと必死だが、狡いのはおまえだろうと言いたい。
まあ面倒なので見なかった事にするからと伝え、椅子へ腰掛ける。
「絶対に我妻に言っちゃ駄目ですからね?」
「だから言わないって。ちょっとしつこい」
搭乗時間が来て、俺たちは飛行機へ向かう。
ゲートで達彦と別れ、世話になったお礼を伝える。

飛行機へ乗り窓から空を眺めると、曇り。
最初から最後まで宮古島の天気は、俺たちを歓迎してくれないようだ。
座席から見える中央のモニターには、現在どの辺を飛んでいるかの地図が映し出されている。
那覇を通過中。
ミサキの住んでいる沖縄か。
結局連絡一つできなかった。

今回のこの旅は、自分にとって一体何だったのだろうか?
楽しいか楽しくないかでいえば、のんびりできたのが良かった。
池間島の猫のロンや、マムヤの墓の存在を知れたのが印象深い。
海は綺麗だったが、晴れていた訳じゃないのでそこまでの感動はなかったよな。
横浜や熱海の海であそこまで嬉しかったのに、目が肥えて贅沢になってしまったのか。
もう四日延長できるかという選択があったとしたら、俺は仕事を選ぶだろう。
もう充分堪能できたのだ。
金を働いて稼いでいた方が、俺には性に合っている。
モニターは羽田空港を指す。

羽田空港へ到着し、荷物が流れてくるのを待つ間、斉木からタバコへ誘われた。
喫煙室でセブンスターに火をつける。
「どうでした、宮古島は? まあ天気はあまりよくありませんでしたが」
「うーん、何だか思い返すと楽しかったんでしょうね。普段旅行もしないし、あんなにのんびり過ごしたのは初めてなんじゃないですかね。もっと自由時間は欲しかったですけどね」
「まあこれが大場さんの旅行なんですよ」
「俺たちが泊まったあのマンションって、いくらぐらいするんですか、宿泊費」
「一泊二万はしますよ」
「え? じゃあ俺たちだけで四日だから八万計算ですか? あと二回レディは四日ずつ行くじゃないですか。全部で経費いくらぐらい掛かっているんですか?」
「ザッとですけど、二百万は掛かってますよ」
「え、そんなに?」
「うちだけでそうですけど、ダウンロードやクイック、あと西川口と池袋の裏スロセブンとか入れたら、一千万以上使ったんじゃないですかね」
「……」
「そろそろ荷物届いたかな? 一回見に行きましょうか」
「ええ」
各自荷物を受け取ると、好きな方法で帰る為解散した。
たまたま同じ方向の斉木と歩きながら、リムジンバスで帰るのが楽だと教えてもらう。
新宿か池袋行を選べるらしい。
どのみち、神田へお土産渡すから新宿よりも池袋のほうがいいか。
斉木と二人で羽田空港リムジンバスへ乗る。
料金は千二百五十円。
池袋駅へ到着して斉木と別れた。
神田へこっちに着いたと連絡するも、一向に応答無し。
着いたら電話すると言ったのになあ。
西口だしキッチンチェックでも寄って、ハンバーグを食べてから帰ろう。
食事を終え、もう一度神田へ電話を掛けるも、相変わらず出ない。
寝てしまったのかな?
電話ぐらい出ろよ……。
まあ近いし、今度渡せばいいか。
こんな事ならリムジンバスの行き先を新宿にしとけばよかった。
俺はキャリーバックを転がしながら、二つの紙袋に入ったお土産を持ちながら山手線へ乗る。
こうして俺の宮古島旅行は終わった。
二千二十二年六月十日、金曜日仏滅。
目を覚ますと朝の八時。
見慣れない風景だが、冷静に考えるといつものアスクルームか。
宮古島の快適でふかふかなマットレスを懐かしく感じた。
今日から勤務が夜十一時から、朝七時まで。
昨日は疲れて早く寝てしまったが、昼間にもう一度寝て時間調整しないとな。
いや、そうじゃない。
レディの旅行が終わらない限り、面倒臭いシフトだった。
今日が夜十一時からというだけ。
携帯電話をチェックすると、神田からメッセージが届いていた。
『岩ヤンごめん。早い時間から飲んじゃって酔い潰れて寝てた。今起きたよ。 神田浩典』
神田へ電話を掛けて、いつお土産を渡すか聞いてみる。
「岩ヤン、いつ休みなのよ?」
「ちょっと話中だからシフトが見れない。あとで見て日にち言うよ。ちょっとさ、しばらく本当に不定期なシフトなんだよ。全員の旅行が終わるまで」
「そうか、大変だな。あ、あのさ、レンジ欲しくない?」
「レンジって電子レンジ?」
「そうそう。俺さ、美恵とまだ目白の一軒家は住み始めたばかりじゃん。一人暮らしで使っていたレンジが余ってしまうんだよ。岩ヤンならいるかなと思って」
「そう、神田がいらないならレンジもらうよ。これからシュベってくるからさ。あとでいつが休みかメッセージで送るよ。遅番の時間帯だから、いつからいつまで時間が自由になるのかも、見て詳しく置くよ」
「分かった。じゃああとでね」
電話を切ると、シュベールへ渡すお土産を物色する。
三つぐらい持っていってやるか。
琴美が好きそうなものって、何だろう?
バナナケーキに、紅芋タルト辺りか?
まあいいや、両方あげよう。
ジーマーミ豆腐は…、大明飯店の老人用だよな……。
あとはクッキー系の無難なお菓子にしておこう。
新宿の朝は、琴美の天使の囀り声を聴いてから。
何かいい響きだね。
一旦アスクルームを出てから、もう一度戻る。
四つくらいシュベールへ渡せば、琴美から直積お礼を言いに来るんじゃないかという下心から。
大久保へ帰ってきて、早速早朝からシュべリングに行くぜ!
階段を上り、琴美がいるのをチェックする。
店内へ入ると、店長が笑顔で「いらっしゃいませ」と近付いてきた。
おいおい、今日ばかりはちょっと野暮だぜ、店長さんよ……。
しかたなく店長にお土産を渡す。
「え? これは?」
「宮古島の土産です」
俺はそう言いながら店長の腕にどんどん土産の箱を積んでいく。
「でも…、こんなにお土産なんてもらってしまって……」
「いいんですよ。自分は本来地元が川越なんです。でも、今日から仕事なんで、いちいち持って帰るの面倒じゃないですか。シュベールなら、従業員もそこそこいるし、みんなで分ければこのぐらいあっても問題ないですよね」
行きつけの喫茶店へ旅行へ行ったからと、四つも土産を渡す客など、日本で俺ぐらいなんじゃないか。
席に座り、ミートドリアを注文する。
モーニング系も頼みたかったが、琴美が近くに来たら注文しよう。
携帯電話を弄っていると、近くで綺麗な美声が聴こえてくる。
振り向くと琴美が立っていた。
この子…、こんなに綺麗な声をしているのに、何故顔はいまいちなんだ……。
「あのー…、お土産を頂きありがとうございました」
「いえいえ、あとモーニングのBLTサンドももらえますか?」
俺は視線をメニューへ向け、彼女の声だけに集中する。
「畏まりました。ドリンクのほうはどうなさいますか?」
「アイスコーヒーで」
「畏まりました。ありがとうございます」
本当にあの女を一度でいいから抱いて、耳元で喘ぎ声を聴いてみたい。
でも土産四つじゃ、抱かせてくれないよな……。
茄子のミートドリアが置かれ、今度は別の女性店員からお礼を言われる。
琴美以外興味の無い俺は、視線も合わせず適当に返事をした。

BLTサンドを持ってきたのは店長。
おいおい、そこは琴美に持って来させないと駄目じゃないか。

アイスコーヒーを飲み終わり、タバコを吸って席へ戻る。
するとマスターが「良かったらお飲み下さい。あんなにお土産を本当にありがとうございました」とホットコーヒーをサービスしてもらう。

そんなサービスより、琴美をつけろと言いたかったが、ここはキャバクラではなく普通の喫茶店。
満面の笑みを浮かべながら店長へ深々と頭を下げた。
フェイスブックで、七年前の今日の出来事が出てくる。
あのクソ忌々しい出来事から、もうそんなに時間が経ったのかよ。
歌舞伎町さくら通りのガールズバーへフラッと入った俺。
〇〇会のゲーム屋の時だから、二千十五年。
まあまあ可愛かった女に横浜のインターコンチの話をしていると、一緒に行きたいから今すぐ予約を取ってくれとせがまれる。
この女をそのあと抱けるならいいかと、ホテルの支配人森田へ連絡をした俺。
「……」
そのあとを思い出すと、今でも腸が煮えくり返る。
蓮からのメールでも見るか。
携帯電話を手に取り、メールを開く。
『横浜調べたら、思ってたより遠いです! あまり長居出来ないですし、行ってすぐ帰宅しなくては行けないので、次の日出勤遅らせるか確認したのですが、日曜日は忙しくて無理みたいです…。せっかく予約して頂いたのに、大変申し訳ありません。今回は遠慮します。 蓮』
「はあ? 何じゃ、そりゃ?」
思わず大声が出る。
『え…、予約終わってから、それって酷くない? 岩上智一郎』
とりあえずメールを返す。
一時間経っても蓮からの返信はなかった。
あのクソ女、逃げやがったな。
何をしているんだよ、俺は……。
「おまえが行きたい行きたいって目の前で支配人に電話しろって言ったんだろうが! ふざけやがって!」
誰もいない空間で大声を張り上げた。
ガールズバーの馬鹿な女のあり得ない愚行。
いつか絶対この事は小説のネタにしてやる……。
スクリーンショットの画像を撮る。

この女、本当に馬鹿じゃないのか?
あー、イライラする……。
こういうのあるから飲み屋の女って嫌いなんだよな。
神田とのキャバクラの豪遊で、さらにこの手の女をまるでよく思わなくなった。
いい加減で図太くて、嘘つきで金しか考えられない人種が多過ぎる。
あ、そういえば休みっていつだったっけ?
今日明日と出れば、ちょうど一日空くのか。
細かく伝えるの面倒だけど、あいつが勘違いすると面倒だからな。
十日が夜十一時から七時。
十一日が変則で昼の三時から夜十一時。
十二日も、同じ中番。
十三日はまた遅番シフトで、夜十一時から。
俺はカレンダーで予定を見ながら神田へメッセージを送った。
『十二日の夜十一時から十三日の夜十一時の、二十四時間空くよ。 岩上智一郎』
『十三日九時から癌検診なんだ。 レンジ取りに来ながら昼頃に目白邸に遊びに来る? 神田浩典』
俺は了承すると、一旦夜の仕事へ備えて眠る事にした。
二千二十二年六月十一日、土曜日大安、入梅。
日にちが変わり、夜中になるとインカジ『レディ』の客も少しずつ帰っていく。
暇な時間は携帯電話を見ながら時間潰し。
星野がトイレに行き、キャッシャー室が俺と片屋敷だけになると、声を掛けてきた。
「岩上さん、我妻さんに言ってないですよね?」
「言うつもりもないし、第一彼は今宮古島へ入り替えで行ってるでしょ」
「まあそうですけど、電話とかして我妻さんに言ったりしないで下さいよ」
「だから誰がそんな事をわざわざするんだって」
「我妻さんって、本当にあの人性格が捻じ曲がっていますんで…、あ……」
ドアが開き、星野が帰ってくると黙る片屋敷。
本当にどうしょうもない男だ。
たまたまインターネットで昔の一般台や大昔のアレンジボールなど、懐かしいパチンコ台が色々揃った店があるのを見つける。
「何を見てんすか?」
星野が俺の携帯を覗き込んできた。
「ねえ、ホッシー。この福生にある店って知ってる?」
「あー、この店ってパチンコ屋っていうか、換金とかはできないからゲームセンター扱いなんですよね。行った事はないですけど、知ってますよ」
福生といえば、ピザの二コラ。
いつだったっけ?
確かまだ俺が二十代前半…、少なくとも歌舞伎町へ行く前十六号の道を真っ直ぐ走り、二度行ったきり。
一度目は同級生同士でゴーカートをしに行った。
あれ、何でそれがあるって知っていたんだっけ?
二ノ宮裕二の情報だ。
つまり二ノ宮がまだ川越にいてつるんでいた時代だから、CPLの時……。
まだ俺が大沢史博の酒乱によって、全日本プロレスを潰されるより前だったか。
『ゴリッチョに彼女を作る会』などまるで彼女ができないゴリをサポートすべく当時俺が立ち上げた馬鹿げた会。
俺が平子の『3Sカンパニー』で働いていた頃だから、まだ十九歳の頃。
コンパニオンと称し女子大生の登録人数だけ多かったあのクソ会社で、彼女らのデータ管理もさせられていた俺。
若かったというのもあるが、よく飲み会を開くよう女の子たちから言われた。
そこで俺はその状況を利用としてゴリへ彼女をとなったのだ。
ただせっかくやる女子大生たちとの飲み会が『ゴリッチョに彼女を作る会』ではしまらない。
そこでよく一緒につるんでいた小中時代からの同級生である大沢史博と二ノ宮裕二、林昌彦、そこへゴリも加え、チーム名を考えた。
結局は俺が会社のコンパニオンと仲良くなっての飲み会なので、どうしても主軸は自分になる。
「なあ『クリエイト・パーフェクト・レジェンド』って名前はどうだ?」
「完璧な伝説を作る? 何か格好いいんじゃない」
大沢がまず賛同した。
「ちょっと長くない?」
そう二ノ宮が言うので確かに長過ぎるなと感じる。
頭文字三文字を取って『CPL』ならと口を開く。
「いいねえ! 何かクリエイティブでお洒落」
林が手を叩いて喜ぶ。
そんな経緯から『クリエイト・パーフェクト・レジェンド』改め『CPL』とチーム名を名乗るようになった。
ただの女子大生との飲み会をするだけの行為を暇人で何の目的も無かった俺たちは熱く語る。
回数を重ねる『CPL』。
常に俺が女子を集めてでないと会は開けない現状。
「大沢も林も大学生なんだから、おまえらも少しは努力して飲み会見つけてこいよ。二ノ宮も彼女の友達とか聞いてみてよ」
ゴリには酷な話なのであえて言わず、彼に求めるのは飲み会への参加だけ。
『CPL』の中で俺だけが真剣にゴリの彼女を見つけてやろうと努力していた。
「……」
忌々し過ぎる若かりし頃の苦い記憶。
あのCPLのメンバーで現在誰が残っている?
林正彦は自然消滅。
二ノ宮裕二は現在沖縄へ住んでいるらしい。
大沢史博は縁を切った。
岩崎努ことゴリは、おじいちゃんが亡くなっても未だ線香一本あげに来ないから、縁を切ったままだ。
福生でぼんやり覚えているのは、たまたま入ったピザ屋のニコルが美味しかった事と、ゴーカートが面白かったぐらい。
「何がCPLだよ……」
思わず出る呪詛。
星野が不思議そうな顔で「え、何ですか?」と俺に聞いてくる。
「いや、次の休みは福生にあるこの『タンポポ』へ行こうと思うんで、星野さんも一緒に福生行きましょう」

「え、福生? 何でです?」
たまたま誤魔化すように適当な返事をしたが、ここはそのまま押し通そう。
「ビックシューターとかもあるようなので、ここで昔のパチンコを一日打ちまくるんですよ」
「岩上さん、一人で行って下さい。そんな金にも何もならないあんな遠い場所なんて嫌ですよ」

「横田米軍基地の傍にあるピザのニコラにも行くのだ。ピザ旨いすよ」
「だから行きませんって!」
まあ何でもいいか。
とりあえず今日仕事終えたら、八時間のアイドル時間を経てまた出勤。
終わったらとっとと寝なきゃ。
朝五時ぐらいになり、ノーゲストになったので片屋敷と星野が気を利かせて、俺を二時間早く上げてくれた。
すぐに寝て、昼の三時からまた出勤か。
俺はアスクルームへ戻ると、シャワーも浴びずに眠った。
二千二十二年六月十二日、日曜日赤口。
起きて目を覚ますとまだ朝の九時。
仕事まで結構時間があるな。
日曜なので競馬の出走表を見ながら、一つの方式に気付く。
東京競馬場で騎乗するルメールとレーン両騎手が出るレース。
俺と相性がいいから、この外国人騎手を二人揃ったレースだけ厳選し、ワイド馬券一点買い勝負すれば、かなりの高確率で当たるのではないだろうか?
資金を増やそうとして競馬をしたら、今のところ全部外れる。
出勤前なのに、早くも二万円も損してしまった。

昼の三時に出勤して結果を見ると、やっぱり競馬はGIだけにして軽く遊ぶだけがいいと自覚する。
仕事を終えると串カツが無性に食べたくなり、『てんやわんや』へ帰り道寄った。

たまに食べたくなるんだよね。

えーと、ここから明日は夜の十一時出勤だから、約二十四時間空くんだよね?
神田が昼ぐらいから空くと言っていたから、ゆっくり酒を飲もう。
二千二十二年六月十三日、月曜日先勝。
アスクルームへ戻ると、三沢光晴さんの命日の十三日になっていた。

ジャンボ鶴田師匠の命日からちょうど一ヶ月経った日でもある。
三沢さんが亡くなった二千九年の、時四十六歳だった。
つまりもう俺の方が、四つも年上になってしまったのだ。
何かね、十三年経っても未だ信じらんないすよ、三沢さん。
何の結果も出せず、無駄にダラダラ生きてしまって本当にすみません。
酷く自虐的な気分になり、ベッドへ横になっている内に睡魔へ引きずり込まれた。
目を覚ますと昼の十一時半。
神田と会う前に食事をしておこう。
大明飯店へお土産を渡すついでだ。
ジーマーミ豆腐と紅芋タルトをおばあさんへあげた。
「お兄さん、どこ行ってきたんだい?」
「社員旅行で宮古島行ってきたんですよ。良かったらどうぞ、口に合うか分かりませんが」
「ふーん、何だか悪いねえ。前もお菓子貰ったもんね、ありがとね」
二度もお土産をあげているのだ。
ひょっとしたら餃子ぐらいサービスでくれるかなと思い、定食だけにしておく。
豚しゃぶ定食が運ばれて来るも、いつもと変わりないものだった。
餃子どころか小鉢一つのサービスもない。

少し淋しい気持ちになった。
料金をまけろとかそういったものでなく、ちょっとした「これサービスだから食べて」くらいのオマケというか気持ちが欲しかったのだ。
気を使ってわざわざお土産なんてあげなきゃ良かったと後悔してしまうような、狭い心を持つ自分が嫌だった。
これから神田に会うし、ちょっとぐらい愚痴ろうかな……。
食事中神田からメッセージが届く。
『本日、延期させて。 体調戻りないのに胃がん検査でバリュウム飲んだよ。 次はいつが空いてるの? 神田浩典』
体調戻りない?
体調戻らないの打ち間違えか。
何だよ、じゃあこれから会うのはキャンセル?
こんな事なら一人で福生行ってくればよかった。
スケジュールを見ながら、次の休みがいつか調べる。
『次十六日かな。 岩上智一郎』
暗い気分のままアスクルームへ戻る。
大明飯店も、思ったよりケチだよなあ……。
今日の夜からまた仕事だから、馬場ラッチする気も起きない。
横になっている内に、いつの間にか寝てしまう。
目を覚ますと夕方。
飯でも行くか。
もう大明飯店はやめて、別の店を探そうかな。
いやいや、俺があの店に勝手にあげたくて渡しただけ。
その見返りを自然と求めていた俺が悪いのだ。
嫌なら行かなければいいだけ。
そんなもの抜きにしても、俺は近いし行きたいから行ってきたんだろ?
次からこのような心遣いをしなければいいだけの話。
お土産の一つや二つで、こんな風に考えるなよ。
これ以上行動範囲を狭めるな。
グダグダ考えてもしょうがない。
本日二度目の大明飯店へ向かう。
今日は三沢さんの命日。
二人分食べるんだろ?
カレーライスを注文。

麻婆豆腐定食も頼む。

「相変わらずお兄さん食べるねえー」
はやり餃子などのサビ―スは何も無かったが、もう気にするな。
これからもこの店にはお世話になるんだし。
土産を善意で挙げなきゃいいだけの話。
あー、食い過ぎでお腹苦しいっすよ、三沢さん。
そういえば神田の奴、返事あれからないな。
まあ何でもいいや。
俺は時間までアスクルームで休み、新宿歌舞伎町へ向かった。

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