【第2部】なぜ共感が生まれないのか、扁桃体と恐怖反応から見るサイコパシー研究
みなさんこんにちは!
行動心理士の僕です。
前回は
サイコパシーとは何か
僕たちは本当にサイコパスを理解しているのか
というテーマについて考えてきました。
多くの人は、サイコパスと聞くと
冷酷な人
感情のない人
を想像します。
しかし研究者たちが本当に注目しているのは、
なぜ共感が生まれにくいのか
なぜ恐怖を感じにくいのか
という点でした。
そして近年の研究では、その背景に脳の働きが関係している可能性が指摘されています。
もちろん、脳科学だけで全てが説明できるわけではありません。
しかし、人間の感情や行動を理解するうえで、非常に重要なヒントを与えてくれます。
今回は、脳科学と行動心理学の視点から、サイコパシー研究で何が分かってきたのかを整理してみたいと思います。
⚠️注意⚠️
ここで紹介する分析は人格診断ではありません。
単一の表情や仕草だけで判断することはできません。
重要なのは、
流れ
文脈
変化
感情の向き先
現実とのズレ
です。
目的は疑うことではなく理解することです。
真心が大事であることを忘れないでください。
1. 共感はどこから生まれるのか
僕たちは普段、他人の感情をある程度理解しながら生活しています。
友人が悲しそうなら心配する
恋人が喜べば嬉しくなる
家族が苦しんでいれば助けたいと思う
もちろん、全て同じように感じるわけではありません。
しかし、他人の感情を認識し、それに反応する能力は、人間関係を支える重要な土台になっています。
では、その能力はどこから生まれるのでしょうか。
長い間、心理学者たちはこの疑問を研究してきました。
そして近年、脳科学の発展によって、感情や共感に関わる脳領域が少しずつ明らかになってきています。
2. 扁桃体が担う役割
その中でも特に重要だと考えられているのが、扁桃体(amygdala)です。
扁桃体は、
恐怖
危険察知
感情学習
などに深く関わる脳領域として知られています。
例えば、熱いものに触れて火傷をした経験があると、私たちは次から注意するようになります。
あるいは、危険な状況に遭遇すると、その経験を記憶し、再び同じ状況を避けようとします。
こうした学習には、感情が大きく関わっています。
つまり、
嫌だった
怖かった
という感情そのものが、行動を変えるための重要な情報になっているのです。
サイコパシー研究では、この感情学習の過程に違いがある可能性が指摘されています。
3. なぜ恐怖を学習しにくいのか
心理学者 James Blair は、サイコパシー傾向を持つ子どもや成人について研究を行ってきました。
その中で注目されたのが、恐怖反応の弱さです。
例えば、普通の人は、誰かが恐怖を感じている表情を見ると、危険のサインとして認識しやすくなります。
しかし、サイコパシー傾向を持つ人の一部では、その反応が弱い可能性が示唆されています。
これは非常に重要な意味を持ちます。
なぜなら、相手の苦痛を読み取る力が弱ければ、その苦痛を避けるような行動学習も起こりにくくなるからです。
もちろん、これは
だから犯罪をする
という話ではありません。
しかし、なぜ一部の人が罪悪感や共感を持ちにくいのかを考える上で、重要な手がかりになるのです。
4. 行動心理学から見たサイコパシー
ここで行動心理学の視点も見てみましょう。
僕たちは、良い結果が出る行動を繰り返し、悪い結果が出る行動を避ける傾向があります。
これを学習と呼びます。
例えば、
例①
人を傷つけた。
⇨だから、相手が悲しんだ。
⇨それによって、自分も嫌な気持ちになる。
⇨よって、次から避ける行動をとる。
これは非常に単純化した説明ですが、多くの社会的行動はこの積み重ねで形成されています。
ところが、もし感情反応そのものが弱かったらどうなるでしょうか。
例②
相手が悲しんでいる。
⇨しかし、それを見ても強い反応が起こらない。
⇨だから、学習が起こりにくい。
この可能性が、サイコパシー研究で議論されています。
つまり、行動の問題というより、行動を学習する土台に違いがあるのかもしれないのです。
5. 脳だけでは説明できない
ここまで読むと、「脳が違うなら全て決まっているのではないか」と思う方もいるかもしれません。
しかし研究者たちは、そう単純には考えていません。
なぜなら、同じような特徴を持ちながら、犯罪をしない人もいるからです。
同じような脳の傾向があっても、人生は大きく異なります。
ここに、
環境
教育
家庭
人間関係
といった要素が関わってきます。
つまり、脳だけでは説明できないのです。
そして実は、近年の研究者たちが最も注目しているのはここです。
なぜ同じような特性を持っていても、犯罪に向かう人と向かわない人がいるのでしょうか。
なぜ共感の形成に差が生まれるのでしょうか。
そして、もし早い段階で気づくことができたら、未来は変わるのでしょうか。
次回は、
遺伝
発達心理学
CU Traits(Callous-Unemotional Traits)
そして早期介入研究をもとに、サイコパシーは生まれつきなのか、それとも発達するのか、その問いについて考えていきたいと思います。
出典
Blair, R. J. R. (2005)『Responding to the Emotions of Others』
Blair, R. J. R. (2007)『The Amygdala and Ventromedial Prefrontal Cortex in Morality and Psychopathy』
Kiehl, K. A. (2014)『The Psychopath Whisperer』
Raine, A. (2013)『The Anatomy of Violence』
LeDoux, J. (1996)『The Emotional Brain』
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