「これは異常」安倍派裏金事件、検察審査会に怒りの申し立て:上脇教授が方針転換した理由
安倍派(清和政策研究会)の幹部ら9人が、いわゆる安倍派裏金事件で9月29日、検察審査会に申し立てをされた。申し立てを行った神戸学院大学の上脇博之教授は、茂木派(平成研究会)、岸田派(宏池政策研究会)、二階派(志師会)、に続き安倍派の申し立てをしたのだが、検察審査会に申し立てをするまでには紆余曲折があった。
●東京地検特捜部が告発状を受理せず
上脇教授は、2024年1月9日に安倍派が政治団体「池田黎明会」にキックバックを政治資金収支報告書の収入明細に記載していなかったことについて、政治資金規正法違反で東京地検特捜部に安倍派の幹部らを刑事告発した。東京地検特捜部は1月19日安倍派の代表者兼会計責任者だった松本淳一郎氏を裏金事件で起訴した後、1月26日、「池田黎明会」の池田佳隆議員らに対してキックバックを収支報告書に記載せず虚偽記入したとして起訴したが、安倍派幹部らは全員不起訴にした。

その後、上脇教授は、すぐにこの不起訴を検審に審査申立てしなかった。安倍派からキックバックを受け取っていた政治家側を一件ずつ(一政治団体ずつ)、丁寧に刑事告発、さらには不起訴になった場合には検審に審査申し立てを行ってきた。
しかし、今回はキックバックをしていた安倍派(政治団体「清和政策研究会」)幹部らを対象とした審査申し立てを行った。
なぜ、これまでの方針を変えたのか?
実は、上脇教授は2025年7月1日付で、安倍派が「池田黎明会」以外の政治団体にキックバックをしていた件や安倍派が裏金をつくっていた件について刑事告発するために東京地検に告発状を送付したのだ。しかし、東京地検特捜部は、「池田黎明会の事件と一罪の関係にある事実を告発事実とするもの」という理由で受理せず、告発状を差し戻してきた。上脇教授はその後、反論を書いて二度告発状を送付したが、特捜部は同じ理由で受理しなかった。

「池田黎明会の事件と一罪の関係にある事実を告発事実とするもの」というのは、安倍派が政党支部・政治団体へキックバックをしたというのは池田黎明会へのキックバックと同じ性質の事件ということを東京地検特捜部が主張しているということだろう。だから、安倍派が池田黎明会以外へのキックバックをしたことも、起訴に相当するのは、すでに起訴した会計責任者だった松本淳一郎氏だけで、松野元官房長官ら安倍派幹部らは事実上不起訴という判断を東京地検特捜部がしたに等しい。このことから、上脇教授は、すでに不起訴とされた「池田黎明会」への寄附供与分の不記載だけではなく、それ以外の政治団体への寄附供与分や裏金づくりの分についても安倍派幹部らを東京検察審査会へ審査申し立てしたのである。
上脇教授のコメント~「告発不受理は権利の侵害」
「検察審査会に審査申立てできるのは、刑事告発して不起訴になった場合です。ですから、そもそも刑事告発していないのに、検察審査会に審査申立てすることはできません。私は、これまで「池田黎明会」以外の政治団体へのキックバックによる寄附の不記載も安倍派の裏金づくりの虚偽記入も刑事告発していませんでしたので7月に告発状を書いて送付したのですが、特捜部が私の告発を受理しないのは、私の刑事告発権、さらには告発を前提にした検察審査会への審査申立権を不当に侵害していると思われます。
もっとも、特捜部は『池田黎明会の事件と一罪の関係にある事実を告発事実とするもの』と文書で言い張り続けましたから、『だったら、私が刑事告発していない安倍派の裏金づくりそのもの等も特捜部は不起訴にしたに等しいことになるので、私は安倍派の裏金づくりそのものも含めて審査申立てできることになるはずだ』と判断しました。
そこで、不起訴になった安倍派幹部の池田黎明会へのキックバックを審査申立てすると同時に、合わせて池田黎明会以外の諸政治団体へのキックバックと安倍派の裏金づくりも審査申立てしたのです」

●嫌疑なしは「異常」:不起訴と地裁判決の矛盾
安倍派の裏金、各政党支部、政治団体への寄付数と総額(池田黎明会への分を含む)
2020年、1億6121万円、81団体、1億5871万円
2021年、1億7185万円、66団体、1億6985万円
2022年、1億282万円、53団体、9117万円
今回、安倍派幹部ら9人が東京検察審査会に申し立てされたが、「池田黎明会」へのキックバックの寄付の不記載を不起訴にしたときの9人の不起訴理由は次の通り。
嫌疑なし:下村博文、松野博一、西村康稔、塩谷立、高木毅、世耕弘成、萩生田光一、森喜朗
起訴猶予:事務担当者
(敬称略)
●安倍派会計責任者の有罪判決と幹部の「嫌疑なし」
驚くことに政治家、元政治家については全員嫌疑なしだったのだ。このことについて審査申立書では「これは異常です」と言い切っている。
なぜならば、東京地裁が安倍派の会計責任者に有罪判決を下した際、判決文は次のように事実認定していたからです。
「収支報告書の虚偽記載の前提となるノルマ超過分の処理については清和研会長や幹部らの判断に従わざるを得ない立場にあり、被告人(会計責任者)自身の権限には限界があった」
特捜部が安倍派幹部らを嫌疑なしとしたことはこの判決文と明らかに矛盾している。会計責任者が安倍派幹部に従わざるを得ない立場であったのならば、安倍派幹部は会計責任者の共犯者になるはずだ。この安倍派幹部というのは、2020年~2022年においては安倍派の会長と事務総長、そのうち安倍晋三元総理が亡くなった2022年は集団指導体制に移行しているのでそのメンバーということになる。今回、2020年の会長だった細田博之元衆議院議長、2021年の会長だった安倍元総理は故人のため申し立てをされていないが、細田元議長と安倍元総理、そして今回申し立てをされた森元総理を入れた8人の幹部は、2022年4月のキックバック中止後に、8月にキックバック再開を決定したと審査申立書は指摘している。
●自民党の調査は2017年以前をなぜしないのか?
自民党が作成した「聴き取り調査に関する報告書」には「遅くとも10数年前から行われていた可能性が高い(場合によっては20年以上前から行われていたことも窺われる)」と記載されていた。しかし、裏金事件の捜査を受けて自民党は、党内で調査を行ったがそれは2018年から2022年までの5年間だけだった。これについて、2017年以前は調査がされていないので裏金づくりの全容解明はされておらず、主権者に対して説明責任を果たす責務を果たしておらずあまりにも無責任と審査申立書は指摘している。
上脇教授のコメント
「自民党は解党的出直しをすると言いながら、2017年以前に行なわれた各派閥の裏金づくりの調査をしていません。東京地裁は有罪とした安倍派の会計責任者が会長や幹部らの判断に従わざるを得ない立場にあったと認定しましたが、安倍派の幹部はこの認定と矛盾する弁明をしており、虚偽の説明をしているとしか思えません。これでは、解党的出直しができるはずがありません」
