森喜朗元総理、西村元大臣ら安倍派幹部ら9名を検察審査会に申し立て 安倍派の裏金事件で
安倍派(清和政策研究会、清和会)が開催した政治資金パーティーのパーティー券販売収入の一部を裏金にし、そのほとんどを所属の政治家にキックバック(裏金を配布)していた事件、いわゆる安倍派の裏金事件で、安倍派の幹部だった松野博一元官房長官、西村康稔元経済産業大臣らと元会長の森喜朗元総理大臣、事務担当者ら9人が9月29日、東京検察審査会に申し立てをされた。今回の申し立ては、安倍派が裏金をつくったこと、所属の政治家にキックバックしたことが対象となっている。
●対象は幹部9名、故・安倍元総理や細田元議長は対象外に
今回、申し立ての対象となったのは、安倍派からキックバックを受けた政治家側ではなく、安倍派の幹部らを中心に9名。2020年から2022年までの裏金が審査対象。2018年、2019年についてはすでに公訴時効が成立しているため、この2年分についても申し立ては行われなかった。また、政治団体「清和政策研究会」の代表者兼会計責任者だった松本淳一郎氏についてはすでに起訴をされ有罪が確定しているため申し立てされなかった。2020年時の安倍派の会長だった細田博之元衆議院議長、2021年の会長だった安倍晋三元総理大臣については、すでに死亡しているため申し立てされなかった。
今回、申し立てをされたのは次の政治家ら
(カッコ内は申し立て対象となった年と安倍派でのその年の役職)
・下村博文元衆議院議員(2022年;会長代理)
・松野博一元官房長官(2020年、2022年:事務総長)
・西村康稔元経済産業大臣(2021年、2022年:事務総長)
・塩谷立元衆議院議員(2022年:会長代理)
・高木毅元自民党国会対策委員長(2022年:事務総長)
・世耕弘成元経済産業大臣(2022年:参議院安倍派会長)
・萩生田光一元経済産業大臣(2022年)
・森喜朗元総理大臣(2022年)
・事務担当者(2020年~2022年)
上脇教授のコメント1
「東京地検特捜部が捜査した結果、清和政策研究会が政治資金規正法に違反して巨額の裏金をつくっていたことが判明し、特捜部は代表者兼会計責任者だった松本淳一郎氏を2024年1月に起訴しました。清和政策研究会はこの起訴を受けて政治資金収支報告書を訂正し、規正法違反を自白しましたが、訂正がなされたのは2020年分~2022年分の収支報告書でした。その訂正によって3年分だけは各年の裏金づくりの詳細がやっと確認できるようになったのです」
●一時中断したキックバックの「復活」と集団指導体制
ちょうど一年前、東京地裁は2024年9月30日に、政治団体「清和政策研究会」の代表者兼会計責任者の松本淳一郎氏に禁固3年(執行猶予5年)の有罪判決を下した。この判決で次のようなことを認定している。
「収支報告書の虚偽記載の前提となるノルマ超過分の処理については清和研会長や幹部らの判断に従わざるを得ない立場にあり、被告人自身の権限には限界があった」
つまり、松本氏は安倍派の会長だけでなく会長以外の幹部の判断にも従わなければいけない立場にあったと裁判所が認定したのだ。審査申立書は、これを根拠に、安倍派の会長と幹部を松本氏の共犯者と見なすことができると言及している。

では、その共犯者とは誰か?
審査申立書では「会長と事務総長が真っ先にあげられる」と指摘。
それぞれの年の会長と事務総長は次の通り。
2020年;会長・細田博之 事務総長・松野博一
2021年;会長・安倍晋三 事務総長・西村康稔
2022年;会長代行・塩谷立 事務総長・高木毅
安倍元総理が亡くなった2022年についてはそれ以前とは状況が異なるとしている。それは安倍元総理が2022年4月に政治資金パーティー収入の一部をキックバックするという裏金のスキームの中断を協議し指示したとされているからだ。その協議は、塩谷立会長代理、下村博文会長代理、世耕弘成参議院安倍派会長、西村康稔事務総長らが参加したと報道されている。この報道が事実ならば、少なくても松本氏だけでなく、安倍元総理をはじめとする幹部メンバー5人はキックバックを知っていたということになる。
さらに安倍元総理の死後、安倍派は松野博一元官房長官、萩生田光一元経済産業大臣、高木毅元国対委員長を加えた7人の集団指導体制となった。その中で、一度は中断を決めたキックバックを復活することを決めた。この裏金スキームの復活を決めた経緯については、安倍元総理が亡くなった直後の7月、「ある幹部」から松本氏にキックバックの再開の要望があったと衆議院予算委員会の参考人として出席した松本氏は証言している。
●キックバック再開提案者は誰か? 裁判証言で下村氏の関与が浮上
では、「ある幹部」は誰か。
先日、9月25日に東京地裁で開かれた大野泰正元参議院議員らの裁判で松本氏は被告の弁護士から質問され次のように答えている。
弁護士:「返金を再開することを安倍さんが了承していたと言い始めたのは下村さんですね」
松本氏:「そうですね」
弁護士:「2022年8月の幹部協議で下村博文元文部科学大臣が再開を提案したのか」
松本氏:「(裏金をもらっていた池田議員に)返してやってほしいと言われた。それを再開といえば再開だ」
審査申立書は、松本氏が虚偽の証言をする理由はないとし、松本氏の裁判での証言は重要だとしている。それだけでなく、この証言は下村元文部科学大臣がキックバックを知っていたという意味でも重要な証言だと指摘している。それにつけ加えて、キックバックの再開を決めた安倍派幹部もまた、キックバックを知っていたからこそ、キックバックを決めることができたと指摘している。
上脇教授のコメント2
「松本氏が安倍派の会長と幹部の判断にも従わなければいけない立場にあったと裁判所が認定したのは、特捜部の捜査結果に基づいていたでしょうから、会長と幹部の事務総長は松本事務局長の共犯者だったとみなせます。
2022年は4月の幹部会でキックバックを止めると決めたものの、8月の幹部会に下村元大臣がその再開を提案し、塩谷会長代理は再開やむなしと発言し、キックバックの再開を決定したと報道されました。当時の安倍派は集団指導体制を採用していたので、8月の幹部会出席幹部を含めそのメンバー7人が当時の幹部で共犯者だったとみなせます」
●新たな裏金の手口は世耕氏が提案か?
2022年の夏に安倍派は一度はやめたキックバックを再開することに決めたが、新たな手口も考案した。その手口は、還流分を議員個人のパーティー収入に上乗せし、政治資金収支報告書に記載するというものだ。
大野元参議院議員らの裁判では次のような大野元参議院議員の秘書の陳述が行われている。
「安倍派の松本淳一郎氏……から、1120万円の交付を受けるとともに、大野氏が開催している勉強会の収入として処理してほしいこと及びこれについては大野氏にも説明済みであることを告げられました」
安倍派の政治資金パーティー収入一部である1120万円をキックバックしてもらうけれど、それはキックバックとして大野元参議院議員の政治団体の政治資金収支報告書に記載するのではなく、その政治団体の勉強会の収入として政治資金収支報告書に記載するというスキームだ。
これは当然、有罪となった松本氏が提案したものではなく、2022年夏にキックバックの扱いを協議した時に出席者の一人から提案があったとされていた。
では、出席者の一人とは誰か。
2024年3月に開かれた参議院政治倫理審査会で参議院安倍派会長だった世耕弘成参議院議員は次のように弁明している。

「安倍氏の方針は堅持しよう、その代わり何かの資金の手当てをする方法があるだろうかという議論になり、例えば清和会のパーティー券を買ってくれた企業・団体にお願いして返金し、各議員のパーティーに振り替えてもらう形で、収支報告にも出る形で返そうではないかというアイデアが出た。私は『それだったら反対しない』という意見を述べた」
これもまた大野元参議院議員らの裁判で明らかになった。世耕参議院議員からのショートメールで「議員側のセミナーやパーティーの収入に上乗せして計上する」と提案を受け、それに沿って政治資金収支報告書に記載方法を説明したと松本氏が裁判で証言をしたのだ。
つまり、世耕参議院議員自身が提案したのだった。
上脇教授は9月に入り、茂木派(平成研究会)、岸田派(宏池政策研究会)、二階派(志師会)を検察審査会に審査申立てを行い、安倍派で4件目となる。その中でも、安倍派については幹部らがどのように裏金作りに関わったのか詳細に説明をしているため、他の審査申立書よりも分厚くなっている。

上脇教授のコメント3
「松本事務局長の有罪判決を下した東京地裁の判決と大野元議員らの裁判で、特捜部の捜査の結果の一部が明らかになりましたので、それらを証拠に安倍派の裏金事件について東京検察審査会に審査申立てを行ないました。その結果、審査申立書の分量が多くなってしまいまましたが、新証拠が入手できたので審査申立てを先延ばししていた甲斐がありました」

