見出し画像

ホルモンに振り回される毎日に。「肝と腎」から整える、甲状腺とPMSの漢方ケア

Substackに登録された方に「漢方基礎30問ドリル」プレゼント中
無料で登録して、朝の漢方1問を受け取る

皆さん、こんにちは。悠々漢方です。

「ゆらぐ心とからだの漢方ケア」、いよいよ最終日・5日目のテーマは「ホルモンのゆらぎと血の巡り」です。

月曜日の「不安」から始まり、火曜日の「不眠」水曜日の「夜間頻尿とこむら返り」木曜日の「めまいと頭痛」とお届けしてきた今週。シリーズを締めくくるに相応しい今日のテーマは、多くの女性が日常的に悩んでいる「PMS(月経前症候群)」と、近年の医学的知見がゆっくりと変わりつつある「甲状腺機能低下症」の話です。

医学誌JAMAに2026年4月6日に掲載された論文が、一つの希望あるデータを示しています。60歳以上の軽度甲状腺機能低下症でレボチロキシン(甲状腺ホルモン薬)を服用している患者370例を対象とした研究で、医師の指導のもとで薬を中止したところ、25.7%(約4人に1人)は1年後も適切な甲状腺機能を自力で維持できたのです。服用量が少なかった人(50マイクログラム以下)では63.6%が中止に成功しました。中止による重篤な有害事象や生活の質(QOL)の低下も見られませんでした。

「一生飲み続けなければならない」と思われがちな甲状腺薬が、一部の患者さんには必ずしもそうではない可能性を示す研究です。もちろん自己判断での中止は厳禁ですが、「体が自分でバランスを取り戻す力を持っている」という視点は、東洋医学が何千年も積み上げてきたテーマと深く重なります。

そして今日はもう一つ、女性の70〜80%が経験するとされるPMS──生理の3〜10日前に訪れるイライラ・気分の落ち込み・頭痛・むくみなどの波。今日はこの2つを「ホルモンと血の巡り」という東洋医学の視点でつなぎ、シリーズの締めくくりをお届けします。

🌸 美咲
「悠々さん、私、生理前の1週間ってすごくイライラするんです。理由もないのに家族に当たってしまって、後から自己嫌悪になる……。あとここ最近、体が重くてやたら寒くて。甲状腺が弱ってるのかなって、少し心配になってきました」

🍵 悠々
「生理前の感情の波、お辛いですよね。甲状腺への心配も、症状の重なりからすると自然な疑問です。実はこの2つ──PMSの感情の揺れと、甲状腺・ホルモン系のゆらぎ──東洋医学では同じ根っこ、「肝(かん)と腎(じん)」の問題として捉えることが多いんです」

🌸 美咲
「また「肝と腎」ですね! 今週、何度も出てきた気がする……(笑)」

🍵 悠々
「そうなんです。体がゆらぐとき、多くは肝と腎に戻ってくる。だから今週のシリーズも、この2つをキーワードに紡いできました。今日がその総まとめです」

甲状腺とPMS──「ホルモンのゆらぎ」を西洋医学で読む

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの産生が低下する疾患です。代表的な症状は、疲労感・寒がり・体重増加・むくみ・便秘・気分の落ち込み・記憶力の低下など。中年以降の女性に多く見られ、一般的にはレボチロキシン(日本ではチラーヂンS等)による補充療法が行われます。生涯継続服用が必要と説明されることが多い疾患ですが、冒頭にご紹介したJAMAの研究では、軽度の甲状腺機能低下症かつ服用量が少ない患者において、医師の指導のもとで慎重に薬を減薬・中止することで、体が自ら甲状腺機能を取り戻せる可能性があることが示されました。これは「薬を飲まないほうがいい」というメッセージではなく、「ホルモンバランスを体自身が調整する力を引き出す」という視点から、生活習慣の整え方を見直すきっかけとなる研究です。

一方、PMSは女性の70〜80%が何らかの症状を経験するとされ、月経の3〜10日前から出現し、月経開始とともに軽快するのが特徴です。精神症状(イライラ・気分の落ち込み・不安・集中力の低下)と身体症状(乳房の張り・頭痛・腹痛・むくみ)が複合的に現れます。原因は黄体ホルモン(プロゲステロン)の変動と、それに伴う神経伝達物質(セロトニン・GABA)の変化と考えられています。

甲状腺機能低下症もPMSも、背景には「ホルモンの微妙なバランスが崩れること」があります。そして東洋医学は、「体が自分でバランスを取り戻す力」を支えることが根本的なケアにつながると考えます。

🌸 美咲
「甲状腺もPMSも、ホルモンのバランスが関係しているんですね。東洋医学では、ホルモンはどう捉えるんですか?」

🍵 悠々
「東洋医学に「ホルモン」という言葉はありませんが、同じ役割を担う概念があります。それが「腎(じん)」です。腎は今週何度も出てきましたが、生命エネルギーの根本であり、成長・発育・生殖・老化のプロセスをすべて支えています。西洋医学でいう甲状腺・卵巣・副腎などの内分泌系の働きは、東洋医学では腎精(じんせい)という概念と深く対応しています。

そしてもう一つの鍵が「肝(かん)」です。肝は「感情の平衡を保つ」「血を貯蔵する」「気を全身に巡らせる」という3つの働きを持っています。日々のストレスや感情の揺れで肝が乱れると、気の流れが詰まる──これを「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と言います。気が詰まると次に血の流れも滞り、「瘀血(おけつ)」や「血虚(血の不足)」を招く。これがPMSのイライラ・落ち込み・体の重さの、東洋医学的な根本原因です」

🌸 美咲
「肝気鬱結……なんとなく、自分のことみたいです。ストレスが多い時期って、生理前の症状もひどくなる気がしてたんですよね」

🍵 悠々
「それはまさに、肝気鬱結のサインですよ。ストレスと血の巡りが連動している──これを知っていると、PMSを「気合いで乗り越えるもの」ではなく、「体のバランスを整えることで和らげられるもの」として捉え直せますよ」

加味逍遙散──「婦人科三大漢方」の一角が持つ、科学的な裏づけ

婦人科系の悩みに使われる漢方として、「婦人科三大処方」と呼ばれる3つがあります。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・加味逍遙散(かみしょうようさん)・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)。その中で、PMSのイライラや精神的な不安定さが前景に立つ場合に最初に選ばれやすいのが、加味逍遙散です。

この処方が適している方のプロフィールは以下の通りです。

・体力が中等度以下で、疲れやすい
・のぼせ感や肩こりがある
・精神的に不安定になりやすい(イライラ・情緒不安定・不眠)
・生理不順や生理前の諸症状がある

構成生薬は、4つの役割チームに分けられます。

「血を補い巡らせるチーム」──当帰(とうき)と芍薬(しゃくやく)が血虚と瘀血に同時にアプローチします。当帰は「血の川に水流を加える」、芍薬は「川をゆっくり広げて流れをスムーズにする」イメージです。

「気の滞りを解くチーム」──柴胡(さいこ)が肝気鬱結を解き放ち、薄荷(はっか)が清涼感で熱を散らします。詰まった感情を、そっと吹き抜ける風のような働きです。

「胃腸を整え余分な水を出すチーム」──白朮(びゃくじゅつ)・茯苓(ぶくりょう)・生姜(しょうきょう)・甘草(かんぞう)が脾胃のバランスを整え、むくみを和らげます。

「熱を冷ますチーム」──牡丹皮(ぼたんぴ)と山梔子(さんしし)が、気滞から生まれたのぼせ感やほてり感を静めます。

科学的なエビデンスも蓄積されています。加味逍遙散はGABA受容体を介した抗不安作用と、5-HT1A受容体を介した抗うつ効果が研究で報告されています。「感情の揺れを落ち着かせる神経伝達物質への働きかけ」という西洋薬理学的な裏づけが、東洋医学の「肝気鬱結を解く」という概念と重なります。

🌸 美咲
加味逍遙散……のぼせと肩こりと疲れやすさと精神の揺れが揃ってる私にぴったりかも。婦人科三大漢方の他の2つはどう違うんですか?」

🍵 悠々
「簡単に言うと──

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、貧血気味・むくみ・冷えが目立つ方向きです。「色が白くて細くて冷え性」というイメージで、血虚と水滞が中心の処方です。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、のぼせが強く足が冷えて頭が熱くなる「逆流型」の瘀血に使います。比較的体力があり、皮膚に赤みや黒ずみがある方向きです。

加味逍遙散はその中間的な位置づけで、体力中等度・精神的な揺れ(イライラ・落ち込み)が中心の場合に選ばれやすいです。自分の体質と症状の組み合わせで、専門家に相談しながら選んでもらえると一番安心です」

🌸 美咲
「副作用はありますか?」

🍵 悠々
「一般的なものとして偽アルドステロン症(むくみ・血圧上昇)、ミオパチー(筋力低下)、肝機能障害があります。これらは他の多くの漢方薬にも共通します。

加味逍遙散で特に注意していただきたいのが、長期服用時の「腸管膜静脈硬化症(ちょうかんまくじょうみゃくこうかしょう)」です。山梔子(さんしし)を含む漢方薬を数年にわたって服用した場合に、まれに起こる腸の血管の硬化で、下腹部痛や下痢・便秘が続く場合は服用を中止して医師に相談してください。長期服用する場合は、定期的な経過観察が大切です」

乱れた気と血を整える、「巡りの養生3箇条」

加味逍遙散の土台を支えるように、毎日の生活から血と気の巡りを整える養生があります。

① 「血を補う」食材を毎日1品加える

血虚が背景にある方は、日々の食事で血を補うことが根本ケアです。

  • レバー・ほうれん草・ひじき・黒豆・なつめ──鉄分やミネラルが豊富で、血を補う代表食材です

  • ビーツ・黒ごま・ブルーベリー──赤や黒の食材は血を養う力を持つとされています

  • 白砂糖・冷たい飲食物は血を汚すとされるため、控えめに

毎食に血を補う食材を1品加える──その小さな積み重ねが、数ヶ月後の体質の変化につながります。

② 「肝」を喜ばせる、1日15分の解放時間

肝は「押し付けられること」が最も苦手です。「しなければならない」「我慢しなければ」──こうした抑圧が肝気鬱結を作ります。1日15分だけ「自分のためだけの時間」を作ること。散歩・音楽・入浴・好きな本──何でも構いません。笑う、体を動かす、深呼吸する──肝気はこうした小さな解放の積み重ねで、少しずつ通りやすくなります。

③ 「肝の刻」に眠る──0時前の就寝を目標に

中医学の時間医学では、23時〜1時の時間帯が肝と胆が最も活発に「血を浄化・補充する」時間帯とされています。この時間帯に眠れているかどうかが、翌日の感情の安定に直結すると言われています。完璧に22時に眠れなくても、せめて0時前の就寝を目標に。就寝前1時間はスマートフォンの画面を控えると、肝の「陰(いん)」を消耗せずに済み、より深い回復につながります。

🌸 美咲
「血を補う食事・肝を解放する時間・肝の刻の睡眠……今週一週間で、自分の体のことがずいぶん分かった気がします。「不安」「不眠」「頻尿」「めまい」「PMS」──全部バラバラだと思っていたのに、気・血・水・肝・腎というキーワードでつながってるんですね」

🍵 悠々
「そう感じてもらえたなら、今週お届けした甲斐がありました。東洋医学の面白いところは、症状を一個一個バラして治すのではなく、体全体のバランスという「地図」で捉えること。「ゆらぐ心とからだ」は、ばらばらに起きているのではなく、同じ一枚の地図の上に描かれている──そんな視点が、セルフケアの出発点になります。

さて、今週のシリーズはここで締めくくりですが、明日の土曜日はこの5日間の内容を振り返る「復習5問ドリル」を、日曜日は実力を試す「漢方模擬試験」をお届けします。今週の学びを記憶に定着させる絶好のチャンスです。ぜひ挑戦してみてくださいね」

🌸 美咲
「復習ドリルと模擬試験! 今週5日間全部読んできたから、ちゃんと解けるかやってみます。悠々さん、今週もありがとうございました」

🍵 悠々
「こちらこそ、最後までありがとうございました。体は日々変わり続けます。週に一度立ち止まって、自分の体と対話する時間をどうか大切に」

Substackに登録された方に「漢方基礎30問ドリル」プレゼント中
無料で登録して、朝の漢方1問を受け取る



いいなと思ったら応援しよう!

悠々漢方 記事が参考になりましたら、チップで応援いただけると励みになります。活動を応援してくださる方、チップでのサポートをお願いします。ご支援いただけると幸いです🌿