レポート:『両利きのプロジェクトマネジメント』を読み解き、深めよう【本を通じて次世代組織を探求するブッククラブ】
今回の記事は『ティール組織ラボ』が主催した、『両利きのプロジェクトマネジメント 結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術』(翔泳社)を扱ったオンライン読書会のレポートしたものです。

今回の企画は、株式会社コパイロツトに所属するABD認定ファシリテーターであり、本書の執筆伴走を務められた長谷部可奈さんをファシリテーターとしてお招きし、『ティール組織ラボ』編集長・嘉村賢州さん、木戸伸幸さんが本書の叡智と次世代組織の探求がどのように結びつきうるかを紹介され、参加者の皆さんの学びをサポートされる形で進められました。
本記事では当日の内容に加え、主催者であるティール組織ラボや今回のブッククラブで活用された読書会手法アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)についてもまとめていければと思います。
本企画に関する前提共有
ティール組織(Reinventing Organizations)
『ティール組織』は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。
書籍内においては、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスを紹介されています。
フレデリック・ラルー氏は世界中のユニークな企業の取り組みに関する調査を行うことよって、それらの組織に共通する先進的な企業のあり方・特徴を発見しました。それが、以下の3つです。
全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management)
存在目的(Evolutionary Purpose)
この3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介しました。
出版後、10万部を超えるベストセラーとなった『ティール組織』(英治出版)は日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞し、2019年には著者来日イベントも開催されるなど、国内のビジネス界でムーブメントを巻き起こしました。
そして、昨年2024年には原著出版10周年を迎えました。
ティール組織ラボとは?
2023年12月、『ティール組織ラボ』というティール組織(Reinventng Organizations)をはじめとする進化型組織の情報ポータルサイトが公開されました。
2018年1月のフレデリック・ラルー著『ティール組織』出版以降、国内では新しい働き方・組織運営のあり方に関するムーブメントが巻き起こり、『ティール組織』をはじめとする様々な情報が積極的に発信されるようになると同時に、実際に書籍などの情報もとに実践する企業・団体が多く現れました。
そして、2024年現在。国内における『ティール組織』の概念の急速な広がりや実践の増加によって生じたさまざまな状況について、落ち着いて振り返る時期が訪れつつあります。
さまざまな状況の例としては、以下のようなものが挙げられます。
世に発信される多くの情報には『ティール組織』の中で取り上げられた3つのブレイクスルーや組織形態の発展の5段階などの概念的な部分だけを扱ったものが多く、具体的な実践例が乏しい。
フレデリック・ラルー氏に直接当たらず、書籍のみを断片的に、かつ独自解釈して実践した結果、組織内で大きな混乱が生じたといったケースが散見されるようになった。
一方で、海外に目を向けてみると、まだまだ日本では一般的になっていない『ティール組織』に関するウェブサイトや、企業における豊富な実践事例が多数存在しています。
このような背景のもと、国内の状況にもどかしさを感じていた嘉村賢州さんはフレデリック・ラルー氏に『ティール組織』に関する情報を統合して閲覧できるメディアづくりについて提案し、ラルー氏もこの提案に賛同されたことから、ポータルサイトづくりが始まったとのことです。
なお、『ティール組織ラボ』とは、情報ポータルサイトの名称でもあると同時に、ティール組織やソース原理(Source Principle)などの新しいパラダイムに基づいて運営される組織・コミュニティのあり方を研究する有志の研究団体の名称でもあります。
有志の研究団体としての『ティール組織ラボ』は、2020年頃からティール組織に関する講座作り・実施や、国内外の情報を集めるポータルサイトのオープン・情報発信を行ってきました。
今年3月からは『次世代組織マガジン』という動画シリーズも新しくスタートしています。
今回、実施されたアクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)形式での読書会も、このような取り組みの1つです。
従来の延長線上にはない新たな組織運営のパラダイムの視座が得られ、解像度が高まるような本を選んでABDを行うことで、共通言語を作り、皆で学んでいこうという思いのもと、これまでのブッククラブも企画されてきています。
『両利きのプロジェクトマネジメント』選書背景
今回、ブッククラブで取り上げることとなった書籍は米山知宏さん(株式会社コパイロツト)が執筆された『両利きのプロジェクトマネジメント』。
今回のブッククラブのファシリテーターを務めてくださる長谷部可奈さんが約2年にわたり、本書の著者・米山さんとの1on1の時間を取りながら執筆伴走を進めてこられた一冊です。

可奈さんには以前から、ティール組織ラボ主催のブッククラブのファシリテーターとして参画いただき、これまでに『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』『いのちの声に聴く』『BIG MAGIC』の3冊を連続して扱った『パーパス探求を紐解く』読書会シリーズや、未邦訳書籍『A Hidden Wholeness』を翻訳しながら読み進める探求読書会など、本を通じてさまざまな角度から働き方・生き方についての探求をご一緒してきました。
ティール組織ラボ・嘉村賢州さんは、本書の探求について2つの惹かれる要素があると仰っていました。
1つ目は、組織論の専門家として次世代組織への変容の仕方、運営の仕方などについてお話をされることも多い一方、組織と一括りに言っても要素が多いため、人によって「捉えどころがない」「理解しづらい」と感じられることも多かった、という点です。
2025年に入り、『すべては1人から始まる』著者のトム・ニクソン氏は、人(Human)−イニシアチブ(Initiative)−公式の組織図及び組織化段階(Organizarion/Organizing)の3層で人や集団の活動を捉えるモデルを提案されており、人と組織の間にある領域も含めて理解する重要性が紹介されてきました。
こうした流れもある中、賢州さんは「プロジェクト」における統率型、参画型、自己組織化型などの再分類や「プロジェクト」単位の次世代型組織の実践といった領域へ再び関心を寄せられていたとのことです。
その一端は以下のnoteにおける「musubiサイクル」の紹介でも触れられています。
2つ目は、近年ビジネスの世界で注目を集めつつある、二項対立ではなく、二項の両立的な考え方の一端が『両利きのプロジェクトマネジメント』で紹介されている点です。
『両利きの経営』(東洋経済)に始まり、昨年『知識創造企業』著者の野中郁次郎が『二項動態経営』(日経BP)を著した他、『両立思考』(JMAM)や『パラドックス思考』(ダイヤモンド社)、『すべては1人から始まる』(英治出版)内で紹介された『対極思考』など、こうした考え方の探求が一大トレンドとなりつつある中、賢州さんはこうしたテーマの探求熱も高まっていた、とのことでした。
こうした背景から今回のテーマ書籍である『両利きのプロジェクトマネジメント』が選書されたとのことでした。
アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)とは?
アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎の概要
現在、Active Book Dialogueの頭文字を取ってABDの愛称で親しまれているアクティブ・ブック・ダイアローグ®︎は、ファシリテーションの技法・哲学を読書会に活かす形で生まれた新しい読書手法です。

一冊の本を複数人の参加者同士で分担して読み、要約し、プレゼン発表を行なった後、パワフルな問いをもとに対話を進めるという、参加型ワークショップ的な進め方が特徴です。
現在のABDの原型は2013年、現・一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会代表の竹ノ内壮太郎さんがエドワード・デシ『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』の読書会を継続的に実施している際に、参加者の間でより生成的な学びを生み出していくためにさまざまな試行錯誤を続ける中で生まれたと言います。
一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会は、このABDという読書法を通じて『草の根の集合的な学びの広がり』と『書籍の叡智を誰もが分かち合い、対話し、繋がりあえる未来』を実現していくために設立されました。
現在は、今回実施する認定講座の実施の他、出版社や大学など様々なセクターとの協働、ABDに関する情報提供、書籍への寄稿などを行っています。
どのような場面で活用されているか?
2017年、アクティブ・ブック・ダイアローグ協会はABDの実施方法についてのマニュアルの無料公開を開始しました。以降、現在に至るまでさまざまな場所で実施事例が報告・紹介されています。
大学のゼミ活動・研修会、中学・高校の国語や総合学習の授業、まちづくり現場での勉強会、有志の読書会など、全国各地で新しい学びや読書の体験として受け入れられられている他、最近では企業内での研修・勉強会やグループ企業の経営会議の場に応用し、共通体験を通したチームビルディングや共通言語作りといった目的でも実施されています。
さらに、近年のコロナ禍においてオンラインでのコミュニケーションおよび学びの場づくり、ワークショップ実施の需要が高まったことから、対面だけではなく、オンライン上でABDを実施する事例も増えてきました。
ABDに関する詳細・お問合せ等は、こちらや以下の記事もご覧ください。
今回のABDのプログラム構成
ABDはその目的、選書、参加者の集まり方、活用できる時間などにより、さまざまなバリエーションの実施方法が存在しますが、今回は少人数でじっくり探求を進めるための、以下のような構成によって進行されました。
チェックイン(全員で一言ずつ自己紹介も兼ねて話す)
ABDについての紹介
リレープレゼン
ギャラリーウォーク
ダイアログ(全員で関心のあるテーマに沿って行う)
チェックアウト(全員で一言ずつの感想共有)
今回の読書会で扱った範囲は、「はじめに」や「おわりに」などを除いた本編である第1章から第10章まで。参加者が事前にサマリー作成を終えた段階でスタートしました。
以下、今回の読書会に参加しての印象的な気づき、学びについて抜粋して紹介できればと思います。
読書会の中で扱われたテーマや視点
ポラリティマネジメント(Polarity Management)
読書会の終盤、全員でのダイアログの中でまず初めに扱われたのは、ポラリティマネジメント(Polarity Management)という、ここ最近の嘉村賢州さんの関心領域についてでした。
「ティール組織(Reinventing Organizations)」などでは、あるアイデアや方針、方向性などに対して「A and B」という姿勢で考えるあり方を紹介していますが、現代の主流となっているのは「A or B」という、二者択一や選択と集中というあり方です。
この二者択一や選択と集中の考え方・方法では、選ばれなかった側は敗北者として切り捨てられます。
一方、選ばれる側についても説明責任を果たすことが求められ、事前に得られる成果やリスクなどを説明できるものしかアイデアを出せなくなり、その結果、新規性が高く、未来が不確実なアイデアから導かれるイノベーションなども生まれなくなってしまいます。A or Bによって選ばれたAであっても、イノベーションは生まれないというジレンマに陥ってしまうのです。
上記のAとBのような一見、対立したり矛盾するようなアイデアや方法などを「呼吸」のように捉え、大きく吸い込み・吐き出す、または、浅い呼吸にし、小さく薄く吸い込み・吐き出すのように両極の行き来をすることで、互いを否定し合うのではなく補い合うことをめざす。
このようなマネジメントスタイルを、ポラリティマネジメント(Polarity Management)と呼ぶとのことです。
ダイアログの中ではちょっとした話題提供として短くお伝えいただきましたが、まだまだ奥が深そうなアイデアに感じられました。
『Polarity Management』というまさにそのタイトルの洋書も発見しましたが、機会を見つけて読み進めていきたいですね。
対話〜チェックアウト時の多様な声
今回、印象的だった点としては、参加された一人ひとりから実にさまざまな意見やアイデア、感想が出てきたことでした。
プロジェクトチームのリーダー、学校の先生、エンジニア、米農家など多様な人々が集ったことで、より今回の読書会体験も多様な捉え方が生まれたように思います。
以下、抜粋しつつ、どのような声が場に共有されたのかをまとめていきたいと思います。
「対話のための環境をうちのチームにも入れていきたい。プロジェクト終了時の振り返りもこれまで、十分にやってこれていなかったように思うので、心がけていきたい」
「本書の内容をどう取り入れるかで、雑談&相談の『ザッソウ』が思い出された」
「ABDを体験することが初めてだったが、楽しかった。関心のある本で読書会に参加できる機会を探していたが、よかった」
「本書を読み、皆さんと対話しながら、つい先日終えてきたばかりの稲刈りや、事業承継した米作りのプロセス全体を振り返ることができた」
「日々のプロジェクトを振り返りつつ、本書の内容の中で特に、役割分担やアサインの部分を改めて意識することの大切さを感じられた」
「本書はプロジェクトマネジメントの理論と実践、現代の実際についてバランスよく書かれており、自分がやれている部分、そうでない部分を問い直すことができた」
「今日のダイアログを振り返りながら、本書のABDの際にある1つのプロジェクトの事例を持ってきて、本の内容に照らしながら『それは本書のどの部分に当たるのか』などを見ていってもおもしろそうに感じた」
終わりに
以上、『両利きのプロジェクトマネジメント』を扱ったブッククラブについてまとめてきました。
私自身、これまで主催団体であるティール組織ラボ(場とつながりラボhome's vi)とプロジェクトを共にしてきたり、読書も好きということで、長谷部可奈さんから本書の献本をいただき、紹介記事をまとめるなどしていました。
当日は意図せず、私の実家の家業の稲刈りの件や、事業承継前後で変革してきたプロジェクト運営についてなどをお話しすることもでき、直近の振り返りや来年に向けてナレッジ(知恵)を遺す良い機会となりました。
また、本書の内容が多岐にわたることや、ダイアログの中で出てきたポラリティマネジメント(Polarity Management)も興味深く、引き続き『両利きのプロジェクトマネジメント』とは付き合っていければと感じます。
今回は長谷部可奈さんの持ち込み書籍をブッククラブで扱った点や、『ティール組織ラボ』木戸伸幸さんの招待と柔軟な対応で場をご一緒することができたという点でありがたく、丁寧に関係を紡ごうとしてきた中での安心感も場の中で感じられました。
当日の場をご一緒したみなさんに感謝申し上げます。ありがとうございます!

最後になりましたが、ここまでご覧いただきありがとうございます!
もし、今回の記事をご覧いただいた中で疑問や質問、感じたことがありましたら、ぜひこちらに記載している連絡先などからお気軽にメッセージいただけると幸いです。
以下、今回の会の関連情報や参考リンクもあわせてまとめておりますので、よろしければそちらもご覧ください。
今後の関連イベント情報
9/16 (火)ソース原理実践ワークショップ「Source Work」事前説明会
10/7 (火) ティール組織・次世代組織概論編講座
11/27(木)ソース原理概論編講座
さらなる探求のための参考リンク
人と組織の未来を探求するhome's viチャンネル
プロジェクトを両利きでマネジメントしていくための1冊|コパイロツト
どうやったら、チームの一人ひとりが主人公になりながら、プロジェクトを進めていけるのだろう?〜自己組織化型プロジェクトの進め方”むすびサイクル”振り返り〜|手放す経営ラボラトリー
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