連載『それゆけ!重さん10』~交通事故
交通事故
1990年代半ば、
重さんと知り合ってから、
私が海外旅行に行くことがあった。
その旅行が東南アジアへの
いわゆるバックパッカーの旅行だったため、
周りの人たちはとても心配した。
今と違い、携帯電話もなければ、
メールすらない時代に、
タイで友達と待ち合わせがあるとはいえ、
宿もとらずに行くのだから、心配するのもわからなくもない。
思い出しても、どうやって
連絡を取り合っていたのか思い出せない。
約束の変更などは、
おそらく、家に国際電話をしたのだったと思う。
中でも重さんは、とてもとても私を心配してくれた。
特に言われたのが、
「交通事故だけは気を付けるんだよ」という言葉。
他にもいろんな言葉があったかもしれないが、
事故のことは本当に心配していて、
何度も何度も念を押して注意された。
思えば、外を歩く時にすら、
子供にヘルメットをかぶらせる重さんだ。
事故に関してもだけど、
重さんにとって、交通事故は特別だったのだろうか。
「ありがたいなあ」とその優しさを受け止めていた。
ーーーーー
一か月半経って、私は無事に帰国した。
友達がお腹を壊して入院したり、
私もお腹を壊したり、(東南アジアの水は怖い)
他にも危ない瞬間がなかったわけではないけど、
事故に遭うことはなかった。
ところが、帰ってきて、私は驚くことになる。
なぜなら、重さんが自転車で
交通事故に遭って入院していたのだ!
え?
あんなに「気を付けろ」と言っていたのに?
重さんが……かいっ!
(大きな怪我じゃなかったからだけど)
不謹慎だけど、ちょっと笑ってしまった。
重さんは、
「こちらは青信号だったから相手が悪かった」と盛んに主張する。
詳しく聞いてみると、
左右に路地がたくさんあるような道を直進している時、
自分の側が青信号だと、
左右を確認することなく突っ走るらしい。
こ、こわ……。
「普通は、たとえ青信号でも脇道があれば、
飛び出してこないか気を付けて進むものだよ」
私がそう言っても、
「いや、こっちは青だった」と一歩も譲らない。
あまりにも頑固だ。
「気持ちはわかるけど、痛い思いをするのは嫌じゃん。
だから、気を付けないと」
と、20代の小娘に諭される重さんなのだった。
何度、交通事故に遭ったのか
家族はもう覚えてないほど。
ああ、そうか。
重さんは自分が気を付けずに飛び出すから、
あんなに事故に気を付けろと言ったのかもな。
それにしたって、
病気だけでも大変なのに、全く重さんったら。
私は病気をすると生き方が変わったり、
家族に感謝するようになるものだと思っていたけれど、
人によりなんだなと重さんを見て、学んだ。
本当に重さんは、
ずんぐりむっくりで
前のめりに生きる人だった。
11に続く
・第一話 出逢い
・第二話 生まれ
・第三話 自由
・第四話 野球
・第五話 病気
・第六話 犬
・第七話 動物と重さん
・第八話 容姿
・第九話 仕事
