新連載『それゆけ!重さん3』~自由
自由
結婚をしたことで、重さんは生まれて初めて自由を手に入れた。
北関東から東京に出てきて、
見合い結婚の奥さんと二人で蕎麦屋をやり始めた。
麺はすべて自家製。
蕎麦だけでなく、中華麺も自家製。
餃子も自家製。
製麺の機械を購入して、できるものはなんでも作った。
やり始めると、とことんやるのが重さん流だ。
お昼にお店を開け、
午後に3時間くらい休んで、 夕方から翌朝6時までぶっ通しの営業。
長時間労働なんて当たり前の時代。
お酒を飲んだ人が、最後に辿り着くようなお店だった。
酔いつぶれたお客さんがお店で寝てしまうこともしばしば。
追い出したりしない。そのまま寝かせておく。
元彼は、鍋など家族で囲んだことがなかったらしい。
朝も寝ている両親を起こさずに、静かに学校に向かう。
お店の名前は「キャッチャー軒」。
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そう、重さんは、無類の野球好きだった。
息子が小さいうちは、
近所の子どもたちを集めて少年野球チームも作った。
もちろん我が子のことも溺愛した。
大切にしすぎて、外を歩く時にはヘルメットをかぶらせる。
自転車じゃなくて、歩く時だから驚きだ。
学校に行く時も……だから、本当に嫌だったらしい。
いつも想像の斜め上をいく重さん。
麺を打って、昼から翌朝までお店を開けて、
時間が空けば野球をして、我が子をかわいがる。
その頃の重さんを私は知らないけれど、
きっと、嬉しくて楽しくて寝ている時間も
もったいなかったのだろう。
それまでの人生を取り戻すかのように、
手に入れた自由を満喫して、飛び回る姿が目に浮かぶ。
けれど――黄金の10年を駆け抜けたある日、
重さんは突然、倒れたのだった。
本当は病気の予兆があったはずなのだ。
でも、予兆を打ち消すほど、重さんはその時を生きていた。
4に続く
「それゆけ!重さん1~出逢い」 を朗読しました!
説明欄から音声でもお楽しみください。
https://youtu.be/8AF0Vzqg91U
--- 過去の記事はこちらからご覧いただけます。
・第一話:出逢い
・第二話:生まれ
