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宣伝美術 Creator File|はぎわら水雨子(食む派)#ギャラリーおちらしさん

―― はぎわらさんが宣伝美術、そして舞台に関わるようになったきっかけを教えてください。

はぎわら 私は栃木出身で、グラフィックデザイナーになろうと思って武蔵野美術大学に進学したことが上京のきっかけでした。通っていた美術予備校では、毎年ハロウィンに映画の『ロッキー・ホラー・ショー』を観る催しがあり、それに「かっこいい」とすごく魅了されてしまって……。人前で歌を歌うことは昔からすごく好きだったので、舞台はやったこともないし興味もなかったのに、大学に入ったら人を集めてミュージカルをやってみたいと考えていました。いざ武蔵野美術大学に入学してみると、偶然、その年からオリジナルミュージカル団体が設立されることを知ったんです。しかも、参考作品に『ロッキー・ホラー・ショー』の名前があったので、「これはやるしかない!」と。それがすべての始まりでした。

――運命的な出会いですね! 役者や演出家としてのデビューのほうが、宣伝美術の制作よりも先になるのでしょうか?

はぎわら 俳優としてオリジナルミュージカルに出演したあと、旗揚げの次の年に、私が初めて脚本・演出を担当したんです。元々小説家にも漫画家にもなりたかったので、話を作ることが好きでしたし、俳優よりも自分に向いていると感じていました。ただ、元々持ってたグラフィックデザイナーの夢や、そのときに勉強していたデザインのことも、舞台の仕事に掛け合わせられないかと思ったんです。そのときに「チラシ」という形で活かせるんじゃないかと考えたのが、宣伝美術を始めるきっかけになりました。大学4年生のときの卒業制作公演『水槽の中の魚たち』が初めてつくったチラシです。

2016年度 武蔵野美術大学 卒業・修了制作展『水槽の中の魚たち』(2017年)

その後はしばらく制作や演出で、他の団体の公演に関わっていました。自分の個人サイトで宣伝美術の仕事を募った際に、初めてご依頼をいただいたのがしむじゃっくさんの2本立て企画「The Choice of しむじゃっく」です。これが外部で最初に手掛けた、宣伝美術の仕事だったと思います。

The Choice of しむじゃっく『妥協点P』『みんなのへや・改』(2019年)

――すごく意外な経緯でした。さらにその後、「食む派」を立ち上げられたんですね。

はぎわら それこそ初めて大学のサークルで俳優として立ったときから、「いつか自分の演劇団体を作りたいな」という気持ちはうっすらあったんです。それが実現したタイミングが2022年の佐藤佐吉演劇祭の『見本市』で、食む派の旗揚げのきっかけになりました。食む派の宣伝美術も、ノウハウがあるから自分で作ろうという自然な流れでしたね。

――大学で学ばれていた内容は、宣伝美術の制作にも直接関わってきましたか?

はぎわら 私の学んでいた武蔵野美術大学の基礎デザイン学科は、ドイツのバウハウスの理念を基にしたカリキュラムで、黄金比の話とか、曼荼羅の話とか、宇宙の話とかもやるんです。そういったデザインの言葉で説明できない美しさみたいなところを突き詰める学科でもありました。グラフィックデザインのことはもちろん、写真も撮るし、映像も撮るし、粘土で立体も作るし、椅子の模型も作るし、地域振興のバス停のデザインもする。何でもやる学科なんですよ。グラフィックデザインは分かりやすく言うと、チラシやポスター、パッケージデザインなど、ビジュアル的なものをデザインする領域なんです。以前から一枚絵での広告がすごく好きだったので、宣伝美術を始めたことに対してもギャップはあまりなかったです。



――宣伝美術を作られる際のプロセスについてお聞かせください。まず、食む派の場合だといかがですか?

はぎわら 今までの食む派の作品は、脚本が出来上がるよりもはるか先にビジュアルが完成しています。大筋のストーリーがまず先にあるんですが、その時点で「ビジュアルは絶対にこれだよな」とイメージが浮かんでいることが多いです。例えば『冷やし中華いななき』のようにタイトルから作品のモチーフが提示されているので、メインに使うモチーフも一発で決まっています。そこから「今回の話にこのモチーフを入れ込むとしたらどうしていくか」というところで、具体的なデザインもつめていくような流れです。

食む派『冷やし中華いななき』チラシ表(2023年)
食む派『冷やし中華いななき』チラシ裏(2023年)

旗揚げ公演の『パへ』でも、「こういう絵が欲しい」というイメージが先にありました。最初はイラストレーターさんに頼もうかと思っていたのですが、予算も時間もなく、美大の受験生時代に使っていた色鉛筆で描いてみることにしたら、意外にも良い絵が描けました。

食む派 短編公演『パへ』チラシ表(2022年)
食む派 短編公演『パへ』チラシ裏(2022年)

次の公演『ウインナ売り』のときは同じく色鉛筆で試したら、なかなか上手くウインナーが描けなくて。以前に100円ショップで買っていた水彩のパレットを使ったところ、ツルっとしたウインナーの質感がうまく出て。そこから水彩と色鉛筆の面白さに気づいて、主な画材がその2つになりました。その絵をスキャンしてパソコンで取り込んで、デジタルでちょっと手を加えてみたり、文字を入れたりと作業しています。

食む派『ウインナ売り』チラシ表(2022年)
食む派『ウインナ売り』チラシ裏(2022年)

「こういう絵が欲しい」というゴール自体は決まっているので、「こんな絵は絶対描けないよ」と思いながらも、毎回自分で描けているのかもしれないですね。食べ物の絵を描くのは昔から好きで、小学生のころは食べ物の雑貨ブランドを作りたいと思っていました。それもあって楽しく描けているんだと思います。

――他団体の宣伝美術を担当される場合には、どのようなやりとりをされていますか?

はぎわら まずは画像やチラシ、写真、映像など、参考になるものがあれば教えてもらい、そのあとの打ち合わせではどういう雰囲気をイメージしているのか、言葉でも聞いています。その時点で公演の脚本や企画書などもあれば、必ずすべて読みます。もちろん脚本ができあがっていないタイミングであることのほうが多いのですが、自分が劇団の主宰や脚本をやっていることもあって、その方々が作りたい作品の雰囲気を汲み取ることは得意ですね。

――多くのポジションで演劇に関わる、はぎわらさんだからこその安心感ですね。

はぎわら 方向性として、例えば俳優さんの顔が出て、その写真をメインとして作るような写実的な表現をしたいのか、もしくはイラスト、コラージュといったグラフィック的な表現をしたいのか、このどちらになるかはかなり雰囲気が変わるので意見を聞くようにしています。その上でメインビジュアルになる表面のラフから共有していき、続いて表面をベースにした裏面を作る流れです。今まで担当した宣伝美術でイラストを描いている場合、これは私が描いた方が良さそう、描ける範囲のものだなと思って、自分の判断で描いたものがほとんどですね。

――食む派のチラシは手描きっぽい質感、他団体の場合はグラフィックっぽい質感という印象を抱いているのですが、そのあたりは意識されていますか?

はぎわら 最初の頃は意識していませんでした。今は食む派のイラストの方向性がブランディング的に揃ってきているので、その使い分けにも気をつけています。他団体のチラシで絵を描くときには、その団体のやりたい方向性に合わせたイラストのタッチにするという感覚です。

ノラ『来来来来来』(2024年)

ノラ『来来来来来』の鳥のイラストは、「地獄絵図」のイメージが元になっています。「地獄絵図っぽいタッチって何だろう?」と思っていろいろ研究しているときに、発見したのが筆ペンです。主線を筆ペンとサインペンで描き、色鉛筆で着彩したイラストをスキャンしたあと、黒い線の一部はデジタル上で色を変えて、一部はポイントとして黒のまま残して……と加工しました。アナログとデジタル、どちらも使って絵を描くことが多いですね。

――まぼろしのくに『アリス供養』のイラストも、そのような合わせ技なのでしょうか?

まぼろしのくに 第13回本公演『アリス供養』(2023年)

はぎわら これはルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』が主になっている作品だったので、原作の挿絵に寄せたタッチでアリスの絵をまず描いています。文字がこぼれてる部分はデジタルでの加工です。最初に、三島由紀夫の辞世の言葉、シェイクスピアの言葉とを掛け合わせて作品を作るアイデアをお聞きしていたので、“言葉で身体ができているアリス”といったイメージが自分の中にありました。事前にいただいていた「あの日へ、落ちていく。」というコピーをもとに、アリスが落ちていく中でその言葉がボロボロとこぼれていくようなデザインにしています。縦書きになっているのが三島由紀夫の言葉で、横書きになっているのがシェイクスピアの言葉です。読める読めないのギリギリのラインは、フィードバックもいただいてやりとりしました。

――一方でコメディアスのチラシは、写真がメインのデザインですよね。インパクトの強いタイトルが、さらにビジュアルとして見える面白さを感じています!

はぎわら コメディアスさんは物語というより「物理現象」を取り上げることが多いので、その現象をどうチラシに残すかが本当に難しいんです。特に『キャッチミー開封ユーキャン』は、とても悩んだ記憶があります。最初はチラシ表面の騙し絵のような感じを、なんとかすべて実写でやろうとしたんです。でも実際に撮影してみたらまったく実現できなくて、現場でパニックになりました(笑)。

コメディアス第5回本公演『キャッチミー開封ユーキャン』チラシ表(2022年)
コメディアス第5回本公演『キャッチミー開封ユーキャン』チラシ裏(2022年)

この公演のストーリーが、箱に閉じ込められた人が中からなんとか外のギミックをいじって脱出するというものだったので、結果的には身体のパーツやいろいろなポーズの写真と平面的なグラフィックとを合わせて、騙し絵のようなパッケージの中に人が閉じ込められているデザインになりました。主宰の鈴木あいれさんからもアイデアをもらい助けてもらったのですが、これは本当に悩みましたね。すごく思い出深いです。



――さまざまな手法やアイデアを駆使して、幅広い宣伝美術を作られるはぎわらさんですが、特に得意なスタイルはありますか?

はぎわら 「○○ぽい」や「こういうのあるよね」というような、パロディがすごく得意です。自分自身が物真似とか声真似が得意なんですけどそこも繋がっていて、小さい頃から今まであらゆる漫画、アニメ、小説、映画、インターネットのような、いろいろなカルチャーにとにかく関わってきた影響が大きいんだろうなと思います。元ネタとかパロディって知らない誰かと世界を共有できるような感じがして、自分が受け取り手として気づけたときにもすごく嬉しくなるんです。だから細かいところのさりげないパロディにも、こだわることが多いですね。コメディアスさんの『段差インザダーク』は、段ボールに貼ってあるシールなどのディティールまでリアルに感じてもらえるように作りました。

コメディアス第4回本公演『段差インザダーク』(2021年)

――パロディや何かに見立てたようなデザインが素敵な印象はとてもあります。ほかにもこだわりのパロディチラシはありますか?

はぎわら キリグスさんの『意気揚々々』チラシの裏面です。これは「昔のインターネットの墓場みたいな感じで」と依頼をいただきました。私もインターネット黎明期にものすごくネットに触れていたのでそういった仕事をもらえることがすごく嬉しくて、私の好きなものを全力でやらせてもらいました。例えば、右下に「リンク切れの画像」を入れたり、個人サイトのバナーっぽくキリグスさんのロゴを入れたり。すでにアクセスしたことのあるリンクは紫色にして、日時・日時のところはホームページの「来場者カウンター」をイメージしています。そういった細かいところのディテールを追うのがすごく好きですね。

キリグス♯2『意気揚々々』チラシ裏(2023年)

――「背景まで個人サイトの壁紙みたいだ!」と思っていました(笑)。

はぎわら これも作りながら思いついて、自分でもテンションが上がりました! ほかには、パキッとしたビビッドな色使いも得意だと思います。私自身の好みとしても、バチッと一発で伝わってきたり、ビビッときたりするものが好きで、その中に繊細さを込めたいなと思っています。



――舞台芸術の宣伝美術をデザインする際に、大切にしている価値観を教えてください。

はぎわら 一つは、作品の「カタルシス」をビジュアル化することです。表面においてはタイトルの分かりやすさなど気をつける部分はありつつ、ビジュアル先行で「見てもらう」ことをメインに作っています。舞台を観終わった後にお客さんが改めてチラシを見て「これって作中のあれかな?」と考えるだとか、二度楽しめるものにできたらいいなということはいつも思っていますね。

もう一つは、必要な情報が絶対に伝わるようにすることです。通っていた美術予備校の恩師が「食べ物のパッケージデザインのなかでも、デザイナーの腕が一番出るのは食品表示だ」というようなことを言っていて、舞台のチラシにおいての食品表示である「裏面」のデザインにはすごく気をつけるようにしています。先ほどのキリグス『意気揚々々』チラシのように、ある程度はアイデア先行で攻めたりもするのですが、必要な情報を読むことを負担にさせない、裏面を「読ませる」ことができているかは気をつけています。

――はぎわらさんの作られたチラシは、文字組みからどこかクラシックな品の良さも感じています。「情報を読ませる書き方」についてどんなポリシーを持っていますか?

はぎわら 文字組みは分かりづらくしないこと、アイデア先行にしすぎないことをすごく気をつけています。例えば、情報の項目名を「Ticket」「Cast」「Access」のように英語で書くのだとしたら、読みやすいようにある程度大きな文字にしています。チケットについての情報が欲しいと思ったときに、すぐに分かるようにするためです。そういった項目名まではぎりぎりフォントでも遊ぶのですが、絶対に知らせなければいけない開演時刻などは読めない文字を使わない。その使い分けにはすごく気をつけています。

食む派『ファミリーレストランの肖像』(2024年・公演延期)

他団体のチラシを製作する際にも、クレジットの書き方に関して気づきがあれば、文言ごとアイデアを出すこともあります。何かセオリーがあるというよりは、いろいろな団体のチラシや広報物を見たときに感じた、「これちょっと伝わりづらいな」とか、「もっとこうした方が良さそうだな」という違和感や引っ掛かりの経験から、伝わりやすい情報の書き方の蓄積があるように感じています。

――伝わりやすさに基づいた提案してもらえることは、公演団体の方々にとっても心強いですよね。紙媒体ではなくWEBでビジュアルを展開する際に、気をつけていることはありますか?

はぎわら WEB用のビジュアルについてはまだあまり考えられていなくて、食む派では次回公演からそういったことにも取り組んでみようと思っています。今までのものだと、延期してしまった『ファミリーレストランの肖像』公演用に作ったアフタートークの宣伝画像は、結構シンプルですね。ゲストの方の名前やプロフィールを分かりやすく伝えることを最優先にしようと思ったときに、あまり装飾をつけないデザインになりました。WEB上ではむしろ、メインビジュアルから情報量を減らすように気をつけているところがあるかもしれません。まず文字がきちんと読めるか、情報がちゃんと伝わるかということをメインに考えて作っていると思います。

――『冷やし中華いななき』公演での配信のお知らせは、メインビジュアルのイラストと文字だけでシンプルなのに完成されていますよね。

はぎわら メインのイラストがあると、こういう時にすごく便利だなと自分でも思います!

食む派『冷やし中華いななき』映像公開期間延長のお知らせ(2024年)



――10月に上演される食む派の次回公演『暮らしとペニス/音楽とヴァギナ』の宣伝美術について、お聞かせください。どんなところからこのデザインが生まれましたか?

はぎわら 次回公演はタイトルの通り性的な内容を扱うこともあり、何を意識して、どういったビジュアルにするかというイメージがかなり先にできていました。

最初はチラシを刷らずに、WEB用のビジュアルだけで展開する予定だったんです。というのもチラシでの宣伝を展開すると、お客さんがチラシ束を通して自分でリーチしようと思っていた公演以外にも出会ってしまうので、このタイトルがバーンと目に入ったときにびっくりさせてしまう。それは良くないと思って、WEB上だけにする予定でした。ただしWEB上でセンシティブ設定をつけたとしても、いきなり出会ってしまう可能性もありますよね。だから、まず公演タイトルはすぐには読めないように英語でデザインすることにしました。よくよく文字を読むと、俳優の名前やあらすじなどの公演情報も書いてあるのですが、いきなりびっくりさせないこと、眺めていてもあまり人の目が気にならないことを第一に、今回はむしろ「読ませない」デザインにしています。

食む派『暮らしとペニス/音楽とヴァギナ』チラシ表(2025年10月上演予定)

同時に、15歳未満の方の入場をご遠慮いただいたり、刺激の強い表現を含みますといった補足をしたりはしているんですが、決して何か怖がらせたり、ひどいことを展開させようとしていたりするわけじゃないのだと伝えたくて……。今までの食む派と、作品のタッチ自体は何も変わっていないんです。ユニークさや冗談めかしたもの、根本的にパロディというかギャグみたいなところがあるから、それを伝えられるようにタイトルの響きから連想した雑誌の表紙っぽいデザインに、男性器と女性器のメタファーを入れました。

『暮らしとペニス』のほうは、女性向けのファッション誌をイメージして、ドレスの絵かと思ったら引きで見ると「ペニス」に見える。『音楽とヴァギナ』のほうは、男性向けの音楽雑誌をイメージして、一瞬パッと見たらギターだなと思うんだけれど、よく見たらメタファーとしての「ヴァギナ」が含まれている。そういった洒落を含んだ、見方によって変わるビジュアルにしています。

私は性差をフラットにするという意識でも、劇作をすることがあるんです。今回も『暮らしとペニス』は女性が演じる一人芝居、『音楽とヴァギナ』が男性の演じる一人芝居です。女性向けのビジュアルに見えて男性器、男性向けのビジュアルに見えてメタファーの女性器が含まれているように、それぞれ入れ違いのイコールとして扱っていることも伝わると良いなと思っています。

――裏面も「Q&A」形式とは、なかなか見ない珍しいデザインですよね。

食む派『暮らしとペニス/音楽とヴァギナ』チラシ裏(2025年10月上演予定)

はぎわら 裏面はとにかく今までで一番シンプルにしています。このQ&A形式にしたのも、「皆さんのことを怖がらせるための公演じゃないんだよ」ということを伝えたかったからです。お客さんが公演の情報を最初にキャッチしたときに気になるであろうことを、Q&A形式で対話するように読んでもらえたらいいなと思っています。

公演情報を発表したときから、別でトリガーアラートも公開しているんですが、やっぱりこの劇を観るか検討するすべてのお客さんに、すべての情報がもれなく伝わることが第一優先だと考えていました。チラシの裏面を最初から最後まで読んでいけば、絶対に誰にでも公演に必要な情報が必ず伝わる、ということを目的にこのようなデザインになっています。

2つ折りのデザインにしたのも、表面のビジュアルが気になってしまう場合に、折り返して見えなくできるようにするためです。裏面では『暮らしとペニス/音楽とヴァギナ』というタイトルを、ちょうど折りの部分に入れています。

――センシティブな部分があるからこそ、表面ではわざとフィルターを一枚かける、裏面では情報や疑問に対する分かりやすさを前面に押し出す。巧みなチラシ作りだなと思います。

はぎわら 今回影響を受けたのは、こだまさんの小説『夫のちんぽが入らない』のブックデザインでした。タイトルが変わったところで改行されていて、読めないようにできているんです。普通はデザインって見てもらう数秒が勝負だとよく言われると思うのですが、逆にわかりやすく読ませないことで、必要な情報をキャッチできる人には届くし、キャッチしたくないしない人には届かないという在り方は、すごくいいアイデアだなと思いました。そういった考え方を取り入れて、今回の公演の宣伝美術ができあがっています。

食む派の宣伝美術は完全に自分のアイデアでの創作なので、いつもは座組の方々にもほぼ完成したデザインを見せて、意見があればいただくというようなスタイルでいました。今回は扱うテーマがセンシティブなため、英語バージョンを選んだ理由やデザインの意図なども、今お話ししたように座組の皆さんへ説明しています。

――はぎわらさんの作品作りに対する姿勢が、チラシデザインの工夫ひとつひとつにも見事に表現されているのだと実感しました。

食む派 新作公演『暮らしとペニス/音楽とヴァギナ』

日程:2025年10月23日(木)~26日(日)
会場:池袋・スタジオ空洞

アンチ・ロマンチックを掲げつつ、どこかロマンチックに、性にまつわる悪意やひとの暴力性を、ユーモラスに淡々と、まっすぐ切実に悲哀をもって描く。
2名の俳優それぞれの一人芝居を軸に三部構成で紡ぐ「わたしたちにとっての性器について」の物語。

脚本・演出:はぎわら水雨子(食む派)

出演:
夏アンナ
藤家矢麻刀

本公演は 刺激の強い表現を含みます。
15歳未満(14歳以下)の方の観劇はご遠慮ください。
公演の詳細・チケットはこちら



――はぎわらさんが影響を受けた宣伝美術や、宣伝美術家を教えてください!

はぎわら  チラシがおしゃれだと嬉しいんだと知ったのは、大学時代に関わった「チーム夜営」の大竹龍平さんがデザインした『YとXの事情』公演のチラシです。大学構内にこのチラシが貼ってあったときに、「うわ、いい!」と思ったのが出会いでした。そのあとに演劇の宣伝なんだと気づいてびっくりして、公演を観に行ったらすごく面白かったんです。次回公演の制作のお手伝いを募集していると偶然にも知ったのをきっかけに、制作や演出でも関わらせてもらうようになりました。

チーム夜営『YとXの事情』チラシ表(2014年9月)
チーム夜営『YとXの事情』チラシ裏(2014年9月)

大竹さんはグラフィックデザイナーなので、やはり演劇に対してもビジュアルへのこだわりが徹底しているんです。その姿勢に「こんなにこだわらなきゃいけないんだな」「ここまでこだわる必要があるんだな」という厳しさを知って、チーム夜営から受けた影響はすごく大きいと思います。今でこそ舞台芸術における宣伝美術という仕事に注目が集まっていると思うのですが、私の中ではこの方向性のカッコよさ、オシャレさを演劇に取り入れた最初の入り口ではないかと感じています。



「ギャラリーおちらしさん」Monthly Special
9月の特集デザイナー:はぎわら水雨子さん(食む派)

同時開催:
酒井まりあさん(タイダン)
小林未和さん(ターリーズ)

日時:ギャラリーおちらしさんの開館日に順じて約1か月間
・9月6日(土)13:00~17:00
・9月13日(土)13:00~17:00
・9月20日(土)13:00~17:00
・9月27日(土)13:00~17:00

会場:株式会社ネビュラエンタープライズ
〒136-0071 東京都江東区亀戸7-43-5 小林ビル

東京都江東区の「ギャラリーおちらしさん」では、約1か月間、はぎわら水雨子さんが手掛けられた宣伝美術の特別展を開催!

食む派『暮らしとペニス/音楽とヴァギナ』公演チラシなど、インタビューでご紹介した宣伝美術もご覧いただけます。

ご予約不要・入場無料ですので、どうぞお気軽にお越しください!


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