宣伝美術 Creator File|たかはしともや #ギャラリーおちらしさん

――たかはしさんが、宣伝美術に関わるようになったきっかけを教えてください。
たかはし 小さい頃から絵を描くことが好きで、展覧会で賞をもらったり、人よりちょっと絵を描くことが得意かも!という気持ちで育ってきたことが根っこのところにあります。本格的にデザインを始めたのは大学に入ってからです。演劇サークルに所属した際に、フライヤー(チラシ)を作れる人はいないかという話になり、僕は多少絵を描くことが好きだったし得意だったので、手を挙げたというのが始まりです。大学の授業で基本的なツールの使い方を学びましたが、ほとんど独学で勉強しました。
――独学というと、例えばどのようなことをしていたのでしょうか?
たかはし 世の中のたくさんのデザインを見ることから始めました。映画のフライヤーなどを見て研究し、観客に見に来てもらうために何が必要か、どうすれば興味を持ってもらえるかを考えました。演劇サークルのフライヤーは学内や街中のお店などに掲載されるため、目に入った時に興味を引くフックになることを意識してつくっていました。
――打ち合わせの段階で大事にしていることはなんでしょうか?
たかはし 最初に丁寧にヒアリングを行い、相手の考えを深く掘り下げることです。打ち合わせの時点で明確なビジョンを持っている方もいれば、何を伝えたいのか言語化が間に合っていない場合もあるため、その場合は「この作品を作る目的は何か」「そもそもフライヤーでなければならないのか」といった根本的な問いから話し始めることもあります。
その時点で、例えばフライヤーよりも映像の方が目的に適していると判断すれば、その選択肢を提案することもあります。これは、自分がデザイン以外の手段も多く持っているからこそできることだと思うのですが、アウトプットをデザインすることだけに限定せず、目的に最も適した形を追求することを重視しています。
――「デザイン以外の手段」とは、具体的にはどのようなことでしょうか?
たかはし ベースはものづくりで、映像やグラフィック、web制作などのデザイン関連の仕事が多いですが、企画プロデュース、ディレクションなど上流から関わらせていただいたり、時には役者として出演することもあります。
映像ディレクション
LIQUOR GAMERS CLUB supported by SUNTORY 公式PV
出演
キュウソネコカミ - 「わかってんだよ」MUSIC VIDEO
――本当に幅広いですね。
たかはし 自分に相談してもらえることがうれしいですし、最初は仕事を選んでいる余裕もなかったため、まずは「やります」と先に言って、そこから勉強して、できるようになるというスタンスで活動してきました。そうして、少しずつスキルの幅が広がり、肩書きが増えていきました。以前は、何者でもない自分がコンプレックスで肩書きが欲しかったのですが、肩書きなんてものはどうでも良いと今では思っています。
――たかはしさんは、どのように人と出会い、仕事の依頼を受けているのでしょう?
たかはし 普段からのつながりの中でお仕事をいただくことがほとんどです。よく遊ぶ友達や、イベントでお会いした方、近所のコーヒー屋さん、たまたま行った喫茶店などで出会って、お話をするうちに、お仕事の相談をいただくことがあります。自分が普段どんなことをしているかなどお話しした時に、ちょうどデザインや映像制作ができる人を探していた、という話の流れになり、そこからお手伝いする、という具合ですね。
自分の働き方にもつながる部分かもしれないのですが、「この人は友達、この人は仕事の人」ということではなく、「友達」という大きな集合体の中に「趣味が合う人」や「仕事を一緒にする人」もいる。そんなイメージです。
――お話をしていると、たかはしさんが、人と関わるのが好きなのが伝わってきます。
たかはし 人を見ることや人を知ることは結構好きですね。というのも、「自分の人生1回分だと足りない」という感覚があるんです。テレビゲームっていくつかセーブデータを持てたりするじゃないですか。自分一人のメモリだけでは足りないので、他の人の人生を覗き見たりシェアしてもらったりすることで、データを複数持って、自分一人では味わえない人生を追体験したいという気持ちで人と接しています。
――デザインをする上で大事にしている価値観を教えてください。
たかはし 一言で言うと「一目惚れをデザインする」ことです。街の中のデザインに無意識に目を惹かれて、数分間その場に立ち止まって見てしまうことがあるんですが、そういう、人を立ち止まらせるデザインってすごく力強いですし、それだけで意味や価値があるものだなと思ってるんです。僕は、そういうデザインに出会った時に、一目惚れに近い感覚になるというか、「あ、すごく素敵だな」と引きつけられるので、自分も、街中でふと見かけた時に立ち止まってしまう、そんなデザインを作りたいと思っています。



――よく使うモチーフや色使いはありますか?
たかはし 作品のテーマや目的によって異なるため、必ずしもこの色やモチーフをよく使うという発想はありません。ですが、傾向としてはイラストを使ったデザインが多いです。写真よりも、抽象的な図形や名前のないシェイプ、そして明確に「何色」と定義できないようなニュアンスカラー(例えば緑と青の中間のような色合い)が好きで、なんか分からないけど優しそうな色合いだなとか、淡くて儚い色合いだなとか、パッと言語化できないような色とか形をデザインに組み込むことが多いです。
――舞台芸術における「良いデザイン」や「良いフライヤー」をどのように考えますか?
たかはし 例えば、1万人を一目惚れさせたいという目的でデザインを作り、実際に1万人の心が動いたら良いデザインですし、特定の一人のために作ったものが、その一人を喜ばせたら、それも良いデザインになります。目的をどれだけ達成できたかということが、「良いデザイン」に近づくことだと考えています。それが何のために作られたのか、その目的に対してどれだけデザインがリーチできているかが重要なのではないでしょうか。

――たかはしさんは旗揚げ当初から、いいへんじの宣伝美術やロゴデザインを担当されています。『われわれなりのロマンティック』公演は、これまでのいいへんじのイメージと雰囲気が異なりますよね。
たかはし これまでのいいへんじのフライヤーは、抽象的な表現や、見る人の解釈を大切にするという意図があったため、イラストがメインで、明確な「正解」を示すデザインは避けてきました。「これは演劇のフライヤーです」と最初から見せるのではなく、「なんだこれ? 綺麗だぞ」と興味を持ってもらい、その後に「あ、演劇のフライヤーなんだ!」と気づいてもらう流れを常に意識していました。



今回は、おぺちゃん(いいへんじ主宰・中島梓織さん)から「写真を使いたい」というオーダーがありました。フォトグラファーの宮本七生さん、スタイリストのカワグチコウさんがビジュアルに参加されるということで、いいへんじにとっても転換期となるようなビジュアルにしたいと考えました。「いいへんじらしいけれど、いいへんじっぽくない」「新しい挑戦をしている」と感じていただけるよう、まるで長年伸ばした髪をばっさり切るようなイメージチェンジを目指しました。
――どのような創作の過程となったのでしょうか?
たかはし これまでは自分の頭の中のイメージやおぺちゃんとお話したことを、自分の中で完結できる形で表現してきましたが、今回は写真やスタイリングの力も借りられる。せっかく一緒にやるならそれぞれの個性も出したいと考え、ガチガチに正解を規定しないという選択肢を取りました。
お二人は写真や衣装といった明確な武器を持つプロフェッショナルなので、それぞれの解釈をフライヤーに反映させたいと思い、最初の顔合わせの段階で、「僕がディレクションするというよりは、自分たちなりの解釈を一緒にビジュアルに反映させましょう」と伝えました。「広めの公園を作って、その中で遊んでもらう」イメージです。全体的な方向性は共有した上で、それぞれの解釈を考えてもらい、それに対して一緒にすり合わせを行うという形でした。まさにチーム戦で作り上げたものになったかなと思います。

いいへんじ『われわれなりのロマンティック』
日程:2025年8月29日(金)~9月7日(日)
会場:三鷹市芸術文化センター 星のホール
同じソファに座っていても、あくまで君は大切な他人
これを恋とは呼ばせない、愛ではないとも言わせない
名無しの気持ちを高く掲げて、われわれなりのちいさな抵抗
作・演出:中島梓織(いいへんじ)
出演:
小澤南穂子(いいへんじ)
小見朋生(譜面絵画)
川村瑞樹(果てとチーク)
藤家矢麻刀
百瀬葉
冨岡英香(もちもち/マチルダアパルトマン)
谷川清夏
奥山樹生
飯尾朋花(いいへんじ)
――たかはしさんは、体験型エンタメ(例:マーダーミステリー、謎解き、ARG)の宣伝美術やデザインにも関わられています。演劇との親和性も非常に高い比較的近しいジャンルと考えているのですが、何かデザインする際の違いなどはあるのでしょうか?
たかはし 2025年時点では、体験型エンタメは、演劇以上に「得体の知れないもの」と認識されていると感じています。何が起こるか分からない未知の体験に高額を払うことへの怖さがあると思いますが、今後は、体験型エンタメを「当たり前のもの」にしていくことが求められている。その障壁やハードルを減らすために、デザインや言葉があると考えています。
特にマーダーミステリーはネタバレ厳禁のコンテンツなので、「面白かった、キャラクターが好きだった」といった当たり障りのないコメントしかできず、業界外の人にはなかなか届きません。そこで、デザインを通じてジャンル自体への興味を持ってもらう入り口を作りたいと考えています。レコードショップでの「ジャケ買い」のような感覚で、SNSなどでビジュアルを見た人が「なんだこれ」と興味を持ち、それがマーダーミステリーや体験型エンタメへの興味につながるようにしたいです。
極端に言ってしまえば、既にそのジャンルが好きな人には、良いデザインがなくても作品の面白さや口コミで届きます。しかし、まだそのジャンルに触れたことがないけれど、ハマる可能性のある人たちに出会ってもらうためにデザインするという意識が強いです。彼らに「こんなに面白いものがあるよ」「君の好きそうなものがあるよ」とデザインを通して伝えていきたいです。



――たかはしさんが好きな宣伝美術・デザイナーの方はいらっしゃいますか?
たかはし 僕が所属する演劇プロデュースユニットMoratorium Pants(モラパン)に出会うきっかけともなった、馬場としのりさんです。渋谷の洋服屋兼ギャラリー「ARTON」の元店長で、Tシャツのデザインなどもされていました。モラパンの主宰である橋本昭博さんが馬場さんのデザインを気に入り、それが劇団のキャラクターにも引き継がれたという経緯があります。僕はその馬場さんが作っていたフライヤーを見て興味を持ち、モラパンに出会い、役者として出演することになったので、きっかけをくれた方でもあります。

演劇 × モラパン × 洋服 = 着れる演劇 『君が決めてよ明日のことは』(2017年)
宣伝美術:馬場としのり

新宿シアターミラクル提携ロングラン公演 音楽劇 「おばけリンゴ」(2015年)
宣伝美術:馬場としのり
▽再々演では、たかはしさんのデザインに…▽

演劇×谷川俊太郎×モラパン 音楽劇 「おばけリンゴ」(2020年・公演中止)
宣伝美術:たかはしともや
それから、最近特に注目しているグラフィックデザイナーは、大島依提亜さんです。映画スタジオ「A24」の日本版フライヤーなどを手掛けている方で、お笑い芸人のフライヤーなども制作されています。大島さんのデザインは、「毒々しいパンチ」がありながらも深い物語性を感じるところに惹かれます。シンプルで分かりやすいのに、深い物語性と毒がある。その感じがとても素敵です。

「ギャラリーおちらしさん」Monthly Special
8月の特集デザイナー:たかはしともやさん
同時開催:
・渋木耀太さん(劇団ヅッカ・不条理コントユニットMELT)
・古田絵夢さん(南極)
・ウンゲツィーファのチラシ展(8/9~)
日時:ギャラリーおちらしさんの開館日に順じて約1か月間
・8月2日(土)13:00~17:00
・8月9日(土)13:00~18:30
★開館時間を延長いたします。19:00~20:00には、演劇ユニット「ウンゲツィーファ」による、特別イベント『お悩み相談会~演劇に興味のない人にも届くチラシを考えよう~』を開催!
・8月16日(土)13:00~17:00
・8月23日(土)13:00~17:00
・8月30日(土)13:00~17:00
会場:株式会社ネビュラエンタープライズ
〒136-0071 東京都江東区亀戸7-43-5 小林ビル
東京都江東区の「ギャラリーおちらしさん」では、約1か月間、たかはしともやさんが手掛けられた宣伝美術の特別展を開催!

いいへんじ『われわれなりのロマンティック』公演フライヤーなど、インタビューでご紹介した宣伝美術もご覧いただけます。
ご予約不要・入場無料ですので、どうぞお気軽にお越しください!
▽舞台公演・美術展チラシと出会うなら「ギャラリーおちらしさん」!▽
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