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宣伝美術 Creator File|渋木耀太(劇団ヅッカ・不条理コントユニットMELT) #ギャラリーおちらしさん

――渋木さんが宣伝美術を手掛けるようになったきっかけを教えてください。

渋木 始めたきっかけは高校の演劇部です。入部したときに3年生の先輩が4人、2年生が0人、新入生は僕1人だけだったので、3年生の引退後は半年ほど1人で部活動をしていました。友人に照明や音響を操作してもらいながら、一人芝居を上演しました。オールラウンドに何でもやらなければいけない中で、特に楽しいと感じたのがチラシ作りでした。スマホとWordとを組み合わせて、自分で作っていましたね。

本格的にPCで作ったのは大学3年生の時で、サークルの公演と新歓の宣伝を兼ねている内容でした。多くの演劇サークルが新歓公演を行うなか、いかに他の団体との違いを見せるかを重視したんです。チラシのほかにも説明資料や大きな看板など、様々なビジュアルを通して自分たちの色を出すことを意識していました。

――他の演劇サークルとの違いを出すために、どんなことを工夫をされたのでしょうか?

渋木 目指したのは「演劇っぽくないチラシ」です。大学演劇のチラシによく見られるイラストや文字が多く使われた独特な枠組みが、僕にはあまりかっこいいものだと思えなかったんです。演劇を見ない人にも興味を持ってもらいたいという思いがあったので、ファッションや音楽、美術展のチラシなど、おしゃれで綺麗で見やすいデザインを参考に、演劇特有のダサさを極力排除したデザインを心がけました。その甲斐もあって「ビジュアルがかっこいいから来てみた」という新入生も多く、歴代最高の動員数を記録しました。

劇団木霊 2019年新歓メインビジュアル(2019)
劇団木霊2019年本公演 『グレート・ギャツビー』(2019)

――素晴らしいブランディングでの成功体験ですね! 現在ではグラフィックデザイナーとして活躍している渋木さんですが、デザインについてはどのように学ばれましたか?

渋木 いわゆる勉強はしていませんが、高校生の頃から「いいチラシ」を集めてきました。視線の誘導やリズム、レイアウトの比率など、「どうすれば見やすいか」ということを自分なりに考えています。これまで集めてきたチラシは、情報量がすごい中でインパクトと整理の両立している点が共通していて、自分にとっての「いいデザイン」はこの部分にあるのだと思います。
僕はマイブームがある方で、時期によっても好きなデザインの変遷があります。例えば、バウハウスを意識したクラシックな印象を目指したり、文字を潰している時期もありました。デザインのごく一部分の要素として、バレない程度にマイブームを取り入れています。



――宣伝美術を作る際に、デザインの手掛かりにするものはありますか?

渋木 まずは作品のイメージについて、概念的なところから話し合いを始めます。この時点では台本もできていないことが多いので、作品のイメージや企画意図を伺います。これをグラフィックに落とし込む段階で、Pinterestから参考にしたい画像をやり取りするほか、作品からイメージする音楽についても何曲か提示してもらいます。

――音楽とは意外です! どんなヒントが得られるのでしょうか!?

渋木 その曲の勢いや、熱のようなものですね。そこから文字を大きくするのか、色を前面に出すのか、動きがあるように見せるのか、といったようにインパクトの出し方を定めていきます。音楽から動画的なインスピレーションを受けて、それをグラフィックに落とし込むような感覚です。音楽だとお互いにイメージを共有しやすいんですよね!

僕は絵やスケッチを描くことができないので、ひたすらそういったリファレンスを集めた上で、言葉でも補足して伝えるようにしています。自分の所属している劇団ヅッカ不条理コントユニットMELTでは比較的自由に制作していますが、共通言語が築けていない初めましての方に対しては、硬めの企画書で提案することも多いです。クライアントがそこから気に入った要素を選べるようにしています。

コンプソンズ大宮企画#3『猿のハイライト』チラシ表面(2025年9月上演予定)

――コンプソンズ大宮企画#3 『猿のハイライト』チラシでは、脚本・演出の大宮二郎さんとどのようなやりとりをされましたか?

渋木 大宮さんから「コラージュがいい」とご依頼をいただいて、コラージュアートを制作しました。そこからどのようなコラージュにするのかを詰めていく過程で、まさに大宮さんから教えてもらったある曲が大きなヒントになりました。打ち合わせの場でその曲を聞かせていただいて、イントロのファンファーレを聞いた時に「まさにこれだ!」となりました。笑 一つの被写体がバーンと前に出てくるような大きなインパクトを感じて、全面に猿を見せるデザインにしています。コンセプトを煮詰める際には、タイトルの「猿」を「類人猿」や「人間」に、「ハイライト」は「世界のカオスな相貌」へと解釈を拡げていきました。今までにもコラージュの作品を作ったことはありましたが、様々な要素を詰め込んで猿の形にまとめていくという過程は頭の使い方がまったく異なりましたね。

コンプソンズ大宮企画#3『猿のハイライト』チラシ裏面(2025年9月上演予定)

表面のクラシックな質感とは対照的に、裏面はデジタルなデザインに全振りしています。表面にメインカラーがなかった分、SNSで目立つRGBカラーの青を選びました。レイアウトではグリッドを引いて情報を機械的に並べつつ、デジタル的な遊びを入れて動きも出すことで、自然なリズムが生まれるように作っています。

――ふつうは表面の流れを汲んだデザインが多い一方、渋木さんのチラシは裏面単体でも一つの作品のように感じます。

渋木 裏面には特にこだわりがあるので嬉しいです。表と裏のイメージをあえて乖離させることで、裏面のデザインだけでも成立する面白さがあるように心がけています。表面はインパクトのある写真や文字を大きく配置すればある程度形になりますが、裏面で情報を正確にわかりやすく伝えることが宣伝美術の仕事の核だと思うんです。

僕がデザインする際に最も大切にしているのは、情報の見やすさや分かりやすさです。どう文字を配置・整理して、なおかつビジュアルとして成立させるか。フォントの大きさ、券種のまとめ方、注意書きの位置などすべてに理由がありますし、見た人が理解する順番を作ることを意識しています。

――ほかにもデザインする上で、大切にしている考え方はありますか?

渋木 最初にお話しした大学での新歓チラシと同じく、「ダサくないこと」も重視していますね。これは「開かれていること」に集約されると考えています。自己満足や作品に閉じこもっているデザインは“ダサい”と感じます。受け取り手のことをどれだけ想像できているか、客観視できているか、そしてそれがちゃんと伝わるかが重要だと思っています。

もう一つは、作品の世界観を細部にまで浸透させること、空気感を作ることです。作品の上演時間が90分だとしても、その前に広報する期間が数か月ありますよね。この手前の時間が長いからこそ、広報が作品の印象を作っていると思うんです。上演までにどのようなイメージが形成されたかによって上演の受け入れられ方も変わると思いますし、上演後も作品の顔としてアーカイブが残ります。劇場にいる時間だけでなく、作品のビジュアルに触れた時にも「あの公演だ」と想起させるような設計を心がけています。

――広報やブランディングへそのような心構えがあるからこそ、デザインもこだわり抜かれているんですね。チラシだけでなく、HPやSNSで宣伝美術に触れる方も多いかと思いますが、紙媒体とWEB媒体での違いはどのように意識されていますか?

渋木 紙媒体とWEB媒体では異なるアプローチを取っています。紙には紙の良さがあり、印刷する意味が必要だと思いますし、それと同じものを画像として横流しで展開するのは、せっかく作品に触れてもらう接点が複数あるのにもったいないと思ってしまうんです。

具体的にはまず色味の違いがあります。WEBやSNS用のデザインでは、画面で目立つようRGBなど彩度の高い色を使うことが多いです。そういった色を紙に印刷すると特色になってしまい予算が厳しいため、チラシ用とWEB用のデータは異なる色で構成することもあります。

他に、デザイン自体を変えることもあります。先ほどのコンプソンズ大宮企画#3 『猿のハイライト』公演の印刷用デザインでは、WEB用のデザインよりも余白を多めに取っていました。これはチラシを手に取った時に、指がビジュアルにかかって窮屈に感じてしまわないようにするためです。裏面もWEB版では8ビット画像のようなラスタライズ処理をしていますが、印刷版では加えてノイズのようなものも入れ、A4大の紙面になったときに間延びして感じないよう、密度の調整を調整しています。

コンプソンズ大宮企画#3『猿のハイライト』(2025年9月上演予定)
左:印刷用デザイン 右:WEB用デザイン
コンプソンズ大宮企画#3『猿のハイライト』(2025年9月上演予定)
左:印刷用デザイン 右:WEB用デザイン

WEBやSNSでは、宣伝美術を何パターン出しても費用がかからないんですよね(笑)。出演者紹介や残席情報を知らせるための画像も、メインビジュアルの延長でデザインすることが多いです。作品全体のビジュアルに統一感を持たせるようにしています。

コンプソンズ大宮企画#3『猿のハイライト』

日程:2025年9月4日(木)~7日(日)
会場:ステージカフェ下北沢亭

脚本・演出:大宮二郎(コンプソンズ)

出演:
大宮二郎(コンプソンズ)
宝保里実(コンプソンズ)
榊原美凰
佐藤有里子
佐野剛
東野良平(劇団「地蔵中毒」)
吉田ヤギ



――過去の作品で、特に思い出に残っているチラシについてもお聞かせください!

渋木 劇団ヅッカ『陽光』のチラシは、特にこだわりのある作品です。通常版の紙と半透明のトレーシングペーパー、2つのバージョンを作成しています。

劇団ヅッカ #2『陽光』上質紙版チラシ(2024)
劇団ヅッカ #2『陽光』トレーシングペーパー版チラシ(2024)

トレーシングペーパーの方は、チラシ束として手に取られる際に、他の団体さんのチラシの上に重ねられて透けて見えることを狙ったデザインです。ヤドカリのようなイメージで、透け感の相乗効果が生まれることを意図していました。元々、少部数で特別版のチラシを作成する案があったのですが、それがトレーシングペーパーになったことで、「通常版のチラシを重ねても面白い」というお声もいただきました。この遊びは自分でも想定していなかったですね。

チラシの中央に写っているのは、豚の目の網膜です。理科の実験用のものを通販で購入して、自宅のキッチンで水晶体を切断したあと、自分でライティングして撮っています。

この作品のテーマは「”熱”の解放」です。ビジュアルではその「爆発の前の静けさのようなもの」を表現したいという話がありました。どうやってそれを表そうかと、脚本・演出のマツモトタクロウと相談しているなかで、強い光が出る直前のキュッと一点に収束するような瞬間を表すために、白い背景に黒い丸を置くアイデアが出たんです。この「黒い丸」を何で表現するか悩んだのですが、光を集める器官でしかも真っ黒な網膜のことを思い出し、採用になりました。かなり時間もかかった難題でしたが、とても良いものができたと感じています。反響も大きかったので、思い出深い作品です。

――おちらしさんのコラムで『陽光』チラシを特集させていただいた際にも、驚きの声が非常に大きかったことを覚えています。最後に今後の公演についてもご紹介をお願いします!

渋木 劇団ヅッカの次回公演は、来年3月の『 ROMEO : JULIET : 』です。現在SNSで出しているビジュアルは仮のものなので、『ロミオとジュリエット』という作品が持つイメージの強さをなるべく削ぎ落とすようなデザインにしています。今後、チラシやWEB用のビジュアルがどのように展開していくかにも、ぜひ注目していただきたいです!

劇団ヅッカ『 ROMEO : JULIET : 』(2026年3月上演予定)

劇団ヅッカ#3『 ROMEO : JULIET : 』

日程:2026年3月20日(金)~22日(日)
会場:浅草九劇

脚本・演出:マツモトタクロウ(劇団ヅッカ)

出演:
内田倭史(劇団スポーツ)
園凜
あいま采乃
徐永行(ザジ・ズー)
うりのつる
西村智翔
端栞里(南極)



――影響を受けたデザイナーや、ブランディングの参考にしている団体を教えてください。

渋木 沢山あるのですが、中でも藤尾勘太郎さんや榎本太郎さん。東京芸術祭やフェスティバル / トーキョー(F/T)のメインビジュアルも手掛けていたemuniさんや、LABORATORIESの加藤賢策さんのデザインもよく参考にしています。観客として公演ビジュアルを見て「いいな」と感じたり、デザイナーを調べている時に「このビジュアルはこの人だったんだ」と気づいたりしたことがきっかけです。

また、高校生の頃に観たマームとジプシーさんの作品は、宣伝美術や細部のクリエイティブの作り込み方に圧倒されました。当日パンフレットにまで良い紙を使っていたり、不思議な印刷をしていたりする点にも感銘を受けています。おしゃれでミニマムなデザインが印象的ですが、僕の原点です。

マームとジプシー『ロミオとジュリエット』(2016年)
左から、仮チラシ(クラフト紙)、本チラシ(カラー)・当日パンフレット(折り変形紙)
東京演劇道場第二回公演『わが町』 当日パンフレット(2023年)

宣伝美術から上演への橋渡しの役割を担うのが、会場の座席に置いてある当日パンフレット。上演までの時系列における一連のイメージ付けを担い、上演の観劇体験を最大限に引き出すのが宣伝美術の仕事だと考えています。



「ギャラリーおちらしさん」Monthly Special
8月の特集デザイナー:渋木耀太さん(劇団ヅッカ・不条理コントユニットMELT)

同時開催:
たかはしともやさん
古田絵夢さん(南極)
ウンゲツィーファのチラシ展(8/9~)

日時:ギャラリーおちらしさんの開館日に順じて約1か月間
・8月2日(土)13:00~17:00

・8月9日(土)13:00~18:30
★開館時間を延長いたします。19:00~20:00には、演劇ユニット「ウンゲツィーファ」による、特別イベント『お悩み相談会~演劇に興味のない人にも届くチラシを考えよう~』を開催!

・8月16日(土)13:00~17:00
・8月23日(土)13:00~17:00
・8月30日(土)13:00~17:00

会場:株式会社ネビュラエンタープライズ
〒136-0071 東京都江東区亀戸7-43-5 小林ビル

東京都江東区の「ギャラリーおちらしさん」では、約1か月間、渋木耀太さんが手掛けられた宣伝美術の特別展を開催!

コンプソンズ大宮企画#3『猿のハイライト』公演チラシなど、インタビューでご紹介した宣伝美術もご覧いただけます。

ご予約不要・入場無料ですので、どうぞお気軽にお越しください!

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