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宣伝美術 Creator File|小林未和(ターリーズ) #ギャラリーおちらしさん

――小林さんが宣伝美術を始めたきっかけを教えてください。

小林 フライヤーを作り始めたのは2021年の秋です。大学に進んだら演劇サークルに入ろうと考えていて、それで色々調べている中で出てきたフライヤーの数々を見て、「私のほうが上手く作れるんじゃないか」って思っていたんです。早稲田大学演劇研究会(以下、早大劇研)に入って、『蛮勇』という公演を自分の主宰で行うことになった際、宣伝美術・ビジュアル面も「自分でやろう」と決めたのが最初のフライヤーづくりでした。

――『蛮勇』のフライヤーはいかがでしたか?

小林 スタイリングとか、ディレクションもうまくできたろうなと思う部分があるので今見ると恥ずかしいですが、こんな出来上がりになりました。

早大劇研企画公演『蛮勇』チラシ表(2021年11~12月 ※配信)
早大劇研企画公演『蛮勇』チラシ裏(2021年11~12月 ※配信)

――昔からデザインなどがお好きだったのでしょうか?

小林 絵を描くのが大好きで、ものすごく細かい絵を描いていました。細かい絵というのは、例えばこの4つの絵なんですけど……。

小林さんが学生時代に描いたイラスト

小林 小学生の時(右下)、中学生の時(左下・右上)、それから高校に入ってから描いたもの(左上)です。すごく書き込みたくて、隅々まで描くのが楽しくて。

――その書き込みたい気持ちというのは、何か影響を受けたものがあったのですか?

小林 『かいけつゾロリ』という児童書が好きで。『ゾロリ』って、時々発明品が見開きでバーンと紹介されるんですけど、ものすごく書き込みが細かいんです。設定の説明もめちゃくちゃ書いてあって、情報量の多さが当時のお気に入りでした。それを真似して細かい絵を描いていました。



――早大劇研の宣伝美術はどのくらい担当されていたのですか?

小林 私が劇研に在籍していた2021年から2024年くらいまで、ほとんどの公演で宣伝美術を担当させていただきました。

――その頃に制作したフライヤーで特に印象に残っている作品はありますか?

小林 ひとつは2022年5月に作った『センデンカイギ』というフライヤーです。初めて「この宣伝美術いいね」とたくさんの方に言ってもらえたフライヤーなんじゃないかなと思っています。カメラマンの方に無理を言って真俯瞰撮影(モデルを真上から撮影する方法)で頼んだんですけど、面白い写真の撮り方ができて、とても気に入っています。

早大劇研’22新歓公演『センデンカイギ』(2022年5月)

小林 もうひとつは、『Scrap ’n’ Build』という公演のフライヤーです。劇研が一時期活動停止していた時期があり、これは活動停止明けの公演でした。
「今までの劇研をスクラップして新しい劇研をビルドする」という意味合いを込めて、半分はぐちゃっとした古いものが映った写真、もう半分を何もない状態にしようと決めていました。表面にタイトルが載っていないのですが、それくらい思い切った構図を取ったフライヤーでとても印象に残っています。

早大劇研’23新歓公演『Scrap ’n’ Build』チラシ表(2023年5月)
早大劇研’23新歓公演『Scrap ’n’ Build』チラシ裏(2023年5月)



――小林さんのよく使うモチーフや色づかいなど、こだわりがあれば教えてください。

小林 「赤」ですね。赤を本当によく使うんです。

――赤をよく使われるのは、何か理由があるのでしょうか?

小林 毎回、いくつか色の組み合わせを試して作るんですけど、結局赤をどこかに入れた配色に落ち着いちゃうんです。これはもう好きだからだと思います。
それから、赤って目立つんです。危険色で、人間の世界では注意を引く色ですよね。宣伝美術の仕事が増えていった時、赤をメインカラーにしているデザイナーさんがあまりいなかったので、「赤を使えば目立つ」と思って戦略的に赤を入れていたこともありました。ずるいですね。

――一言で「赤」といっても、フライヤーごとに赤のバリエーションがさまざまですね。

小林 色を決定する大きな要素に「彩度」と「明るさ」があるのですが、その二軸の上で変化するニュアンスによって、赤を使い分けています。明るくて鮮やかな赤はフレッシュな印象を与えたい団体に。過剰に鮮やかな赤は不気味な印象を持たせたい時や、不安を抱かせたい時、単に目立たせたいなという時にも使います。暗くて鮮やかな赤は、官能的、シック、大人っぽい印象や、または高級感を出したい時に。彩度の低い赤はあまり使わないのですが、レトロな雰囲気や色褪せた印象を出すために使うこともあります。

ワヲン「3つのワヲン」(2023年7月~2024年6月)
早大劇研企画公演『シン・ワ』(2024年2~3月)
南京豆NAMENAME 第10回公演 『僕は肉が食べたくて裸(ラ)』(2025年5月~6月)
演劇企画団体「狂人」第二回公演『狂愛』(2022年9月)
早大劇研企画公演『盤獻錯節プロローグ』(2024年11月)
鶴の一声×晩春企画『酩酊、あるいは』(2025年5月)

――赤色以外で、小林さんらしいこだわりはありますか?

小林 文字を潰したり、狭めたりすることは多いです。一般的なフォントが持つ余白を埋めて、画面上の疎密や緩急が生まれるようにしています。また、タイトルをめちゃくちゃでかく配置することも多いです。大きい文字は自然と人の目を引きますからね。

――宣伝美術において、大事にしている価値観を教えてください。

小林 宣伝美術を見て、絶望してほしくないです。劇場でフライヤーを手に取った時に、それが洗練されていないと悲しくなるんです。フライヤーなんてどうでもいいと思っている人が、なるべく地球上からいなくなってほしいなとも思っていて。そのためにも「フライヤーって良いものなんだよ」ということが伝わるようにと思って作っています。

――演劇の作品づくりと、フライヤーとの関係性はどのように考えてらっしゃいますか?

小林 フライヤーは作品の一部で、作品のカラーを決める大切な顔だと思います。座組への帰属意識はありますが、フライヤーに対してのオーソリティは宣伝美術家だと考えていて、「フライヤーに対して一番こだわりを持つ人」というのが一番近いかもしれません。そういうニュアンスでの宣伝美術家の責任というか、フライヤーに対しての責任は演劇作品自体の主宰ではなく、宣伝美術を作る人間にあると思っています。

――小林さんが宣伝美術家として一番こだわっていることを言葉にするとしたら、なんでしょうか?

小林 私がこだわっているのは、「新しい部分を残す」ということなのかなと思います。「これは今までに見たことがある」というようなフライヤーにならないように意識しています。
フライヤーって世の中にごまんとあって、宣伝美術を生業にしていない人でもそれなりの数を目にしていると思うんです。よく使用されるパターンやモチーフ、構図、フォントだけでフライヤーを作ってしまうと面白みがないだろうし、自分がやっている意味もないなと思うので、なるべく誰も見たことないものにしたいと思っています。

――舞台芸術における「良いデザイン」「良いチラシ」とは何だと思いますか?

小林 「今までに見たことがない」ということが、ズバリ答えなのかなと思います。人間が持つ根本的な欲求は好奇心だと思うので、見た時に「面白い!」と感じられるような新しいデザインが良いですね。



――小林さんが所属されている、ターリーズでのフライヤーづくりについて教えてください。

小林 ターリーズは公演によって脚本を書いている人が違うので、それによってフライヤーの作り方も変わってきます。大きく分けると作り方は2種類に分かれていて、私がコンセプトの段階から考えて作るものと、脚本・演出が明確なイメージを持っている時のものがあると思っています。

『ファはファンシーのファ』は可愛いものが取り締まられる世界のSFコメディで、内容が本当に馬鹿馬鹿しいんです。その馬鹿馬鹿しさを感じさせないかっこいいフライヤーを作ったら、めちゃくちゃ面白いんじゃないかというアイデアが主宰陣にあったので、なるべくシックなフォントを選んだりしています。

東京学生演劇祭2022参加作品 ターリーズ『ファはファンシーのファ』(2022年9月)
第8回全国学生演劇祭参加作品 ターリーズ 『ファはファンシーのファ』(2023年3月)

『大きながく』は早稲田大学の所沢キャンパスの建物を皆で押して、早稲田キャンパスに近づけるというストーリーの作品です。絵本「おおきなかぶ」(福音館書店)のオマージュとして、フライヤー表面のフォントや文字の位置が同作品の表紙に似るように意識しています。

ターリーズ『大きながく』(2023年8月)

ターリーズの魅力は「お茶目さ」だと思っているので、自分のアイデアでフライヤーを作る時には、必ずどこかにチャーミングな要素が入るようにしています。『タはターリーズのタ』『Under the North Stream』では、イラストやカラフルな色使いがポイントです。

演劇倶楽部☆ターリーズ ターリーズフェスティバルvol.1『タはターリーズのタ』(2024年3月)
ターリーズ『Under the North Stream』(2025年1月)

――作品の内容以上に、劇団そのものの魅力が出るように意識して作っているんですね。

小林 ターリーズのフライヤーでは、とにかく見やすく、あまりおしゃれになりすぎないように気を付けています。おしゃれになりすぎるとターリーズじゃないと思うので(笑)。
ターリーズをご覧になっている方々が求めているのは、楽しさや笑えることだと感じているので、フライヤーでもワクワク感や賑やかさが出るようにとイメージしています。



――他団体でのフライヤーづくりについてもお聞かせください。不条理コントユニットMELTの『スネーク・オイル』はいかがでしたか?

小林 『スネーク・オイル』のフライヤーは、私にとって仕事というより勉強の時間でした。まず喫茶店で打ち合わせをしたのですが、その打ち合わせが本当に長くて、その場でものすごい量の参考写真を出してくださったんです。しかも「こういう点はAの写真よりBのイメージほうが近くて、より○○なことが表現できるよね」というように、取捨選択の仕方もすごくて。自分の中にある表現したいもののイメージがしっかりと固まっていて、それが目の前に提示されている材料とどれくらい合致しているのか、その材料によって何ができるのかということを、具体的に頭の中で整理されているのが印象的でした。
そのあと実際にフライヤーを作り始めた際にも、「もっとこうした方がいいんじゃないか」とか「この配置の方がいいんじゃないか」といったアドバイスを色々くださって感動しました。最初から最後まで手厚く、MELTさんからのディレクションとサポートがありましたね。

――その中で、小林さんらしさはどう入れられたのでしょうか?

小林 でっかいタイトルです! これがもう、本当にでっかいタイトルで(笑)。私が途中で出した案に対して、MELTさんの感触があまりよくなさそうで「どうしたらいいんだろう」と思っていた時に、「もっとタイトルを大きくしていいんですよ」……というか、「大きくしなくていいんですか?」と聞かれたんですよね。それで「あ、私らしさってそこなんだ」と気づきました。私のカラーとMELTさんのカラーをどういう風に画面に両立させていけばいいのか、アイデアを示していただいたと思っています。

不条理コントユニットMELT #3『スネーク・オイル』(2024年3月)



――早大劇研企画公演『獄・カーニバル』はいかがでしたか? こちらはSNSでの反響も大きかったですよね。

小林 主宰の時吉海希くんと仲が良かったので、彼が私の好みを把握してくれていて、どういう風にしたいか、どういうものを作りたいかということまでほとんど任せてくれました。ありがたいことですね。この公演ですごく意識していたのが、「最大火力を出そう」ということだったんです。普段の宣伝美術は伝えたいことや、劇団のカラー、見やすさといった諸条件を考慮しながらデザインするのですが、『獄・カーニバル』は自分が見たいものをとにかく作る。メイクや衣装も役者さんそれぞれに似合うものをつけてもらって、それに相応しいカメラマンさんを用意して、今できる一番良いビジュアルにしたいと制作しました。

早大劇研企画公演『獄・カーニバル』(2024年10月)



――劇団さいおうば『はにわのにわはわにのにわ』のフライヤーは、はにわがとても愛らしいです!

小林 初めて手掛ける団体さんだったのでフライヤーの材料にできることないかなと思って、主宰の寺腰玄さんからはいろいろなお話を伺いました。その中で面白かったのが、古語として使われていた「ワニ」は私たちがイメージするアリゲーターやクロコダイルではなく、今の「サメ」だったという話です。私はそこに面白さとミステリーを感じて、「ワニ」をモチーフにしようと決めました。あと、歯って可愛いので、歯も作ろうと思いました(笑)。3cmくらいのはにわを作って、撮影まで自宅でしています。

劇団さいおうば『はにわのにわはわにのにわ』チラシ表(2025年9月上演予定)
劇団さいおうば『はにわのにわはわにのにわ』チラシ裏(2025年9月上演予定)

劇団さいおうば第十回公演『はにわのにわはわにのにわ』

日程:2025年9月19日(金)~21日(日)
会場:インディペンデントシアターOji

古墳、飛鳥、平安、鎌倉、戦国、江戸、明治、昭和、平成、令和。
はてしない過去と未来を描く、劇団さいおうば最大規模の時代劇。

作・演出:寺腰玄(劇団さいおうば)

出演:
加藤碧
菅野茜
艦尾恵二(息切れカメレオン)
千田結莉奈
野村眞之介(萬狂言)
三浦那由多(劇団さいおうば)
宮野雄太

公演の詳細・チケットはこちら



――小林さんの好きな宣伝美術家や、これまでに見たフライヤーで特に印象に残っているものを教えてください。

小林 宣伝美術を始めようと思った時に、最初に参考にしたのは藤尾勘太郎さんで、それ以来大ファンです。コードデザインスタジオの鶴貝好弘さん、デザイン太陽と雲の立花和政さんも尊敬しています。新しい、見たことないフライヤーだと思った時に、その方々が名を連ねていることが多いんです。

印象に残っているフライヤーだと、あんよはじょうず。さんの『地獄変をみせてやる。 -人生失笑(疾走)篇-』がすごく好きです。あんよはじょうず。さんは、「こういうフライヤーを作りたい」というものすごくはっきりしたイメージがあると思っています。初めて同作品のフライヤーを拝見した際に、自分のやりたいことを自信を持って真摯にやることの貴さを感じたのを覚えています。

あんよはじょうず。#3『地獄変をみせてやる。 -人生失笑(疾走)篇-』
(2021年12月~2022年1月)
「地獄変」の文字部分は金のインクが使用されている

先ほど「宣伝美術に一番こだわりがあるのは宣伝美術家だ」というような話をしましたが、過去に携わった中でも、あんよはじょうず。さんと不条理コントユニットMELTさんは、「ここには自分よりフライヤーが好きな人がいる」と感じました。本当にすばらしいフライヤーを作られる団体さんです。ずっと追いかけたい方々ですね。

▽小林さんが手掛けられた、あんよはじょうず。のフライヤー▽

あんよはじょうず。#4「(めくるめく恋の)白痴はよいこ」 【再演】(2022年9月)
あんよはじょうず。番外公演『蟲』(2023年3月)
あんよはじょうず。 #5『なるべく強く踏みつけて、』(2023年12月)



「ギャラリーおちらしさん」Monthly Special
9月の特集デザイナー:小林未和さん(ターリーズ)

同時開催:
酒井まりあさん(タイダン)
はぎわら水雨子さん(食む派)

日時:ギャラリーおちらしさんの開館日に順じて約1か月間
・9月6日(土)13:00~17:00
・9月13日(土)13:00~17:00
・9月20日(土)13:00~17:00
・9月27日(土)13:00~17:00

会場:株式会社ネビュラエンタープライズ
〒136-0071 東京都江東区亀戸7-43-5 小林ビル

東京都江東区の「ギャラリーおちらしさん」では、約1か月間、小林未和さんが手掛けられた宣伝美術の特別展を開催!

劇団さいおうば『はにわのにわはわにのにわ』公演チラシなど、インタビューでご紹介した宣伝美術もご覧いただけます。

ご予約不要・入場無料ですので、どうぞお気軽にお越しください!


▽これまでのMonthly Special 関連インタビューはこちら!▽


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