【展覧会レポ】谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館「谷口吉生の建築ー静けさと豊かさの創造ー」「常設展」
【#289、約4,300文字、写真約25枚】
谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館(以下、金沢建築館)に初めて行き「谷口吉生の建築ー静けさと豊かさの創造ー」「常設展」を鑑賞しました。その感想・レビューを書きます。
▶︎ 結論
少し地味な美術館ですが、鈴木大拙館とセットで訪れるべきスポットでした。それは主に、1)有名な建築家の谷口吉郎・吉生の代表的な建築に詳しくなれる、2)彼らの建築には金沢や日本の精神がベースになっていると気づけたことによります。谷口吉郎・吉生の建築を知ることで、今後も旅先の選択肢も増えました!
おすすめ度:★★★☆☆
会話できる度:★★☆☆☆
混み具合:★★☆☆☆
展覧会名:「谷口吉生の建築ー静けさと豊かさの創造ー」「常設展」
場所:谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館
会期:2025年7月6日(日)~2026年1月18日(日)
休館日:月曜日
開館時間:9:30 – 17:00
住所:石川県金沢市寺町5丁目1−18
アクセス:金沢駅からバスで約20分
入場料(一般):800円
事前予約:不要
所要時間:約1時間半
撮影:企画展は模型以外撮影不可
巡回:ー
URL:こちら
▶︎ 訪問のきっかけ

金沢は美術館の宝庫!金沢の一人旅では、朝から、金沢21世紀美術館→鈴木大拙館→金沢建築館→KAMU kanazawaの順で周りました。
鈴木大拙館が近くにあることに加え、私は以下の美術館などに行ったことがあったため、金沢建築館に興味をもちました。
▼ 谷口吉郎(父)による設計:出光美術館、東京国立近代美術館
▼ 谷口吉生(長男)による設計:東京都葛西臨海水族園、長野県信濃美術館 東山魁夷館、GINZA SIX、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
そのほか、谷口吉生の設計であるニューヨーク近代美術館(MoMA)も行ったことがあります。

▶︎ アクセス

金沢建築館へは、金沢駅からバスで約20分。最も近いバス停は「広小路」だそうです。私は、金沢21世紀美術館から、約20分歩いて向かいました。
▶︎ 谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館とは?

建築家・谷口吉郎が住んでいた跡地に、その長男である谷口吉生が設計した美術館です。

金沢建築館は、金沢市が建設主である公立の美術館です。開業は2019年と、比較的新しいです。

金沢建築館を最初に見た時「もっさりした公民館見たいな建物やなぁ、ほんまに有名な建築家が建てたんかいな」と思いました。普通過ぎるというか、あまりセンスを感じないデザインでした。しかし、常設展、企画展を見た後は「ちょっとMoMAっぽさがあるかも」と思いました。

金沢建築館の目玉の1つは、迎賓館赤坂離宮和風別館 游心亭の広間と茶室を実物大で再現した展示です。企画展示室では年2回、建築や都市に関わるテーマの企画展を開催しているそうです。
なお、金沢建築館のすぐ近くには、谷口吉生による設計の「鈴木大拙館」があります。是非、この2館は続けて訪問することをオススメします。
▶︎ 谷口吉郎、谷口吉生って誰?

✔️ 金沢大好き、谷口吉郎
谷口吉郎は1904年生まれ。33歳の時(1937年)、長男である谷口吉生が誕生しました。ちなみに、谷口吉郎の父は「吉次郎」。次男は「吉二」です。みんな名前が似過ぎ😅
谷口吉郎は金沢市名誉市民の第1号。谷口吉生も、2022年に金沢市名誉市民が贈られています。

谷口吉郎は、東京帝国大学工学部建築学科を卒業。都内の足洗に自邸を築きます。代表的な建築は、迎賓館赤坂離宮和風別館 游心亭、石川県立美術館 旧本館、東京国立近代美術館 工芸館、高輪プリンスホテル旧館、日本万国博覧会「現代の茶室」などです。
▼ 迎賓館赤坂離宮の感想
吉郎が63歳の頃(1967年)、自身が中心となり「金沢の固有の伝統美を後世に残すことの重要性」を市に提言した「金沢診断」が行われました。それがもとになり、1989年、日本で最初の景観条例が金沢市で制定されます。
景観条例は、京都の例などが有名です。2003年時点で、450の市町村において景観条例が制定されているそうです(参照)。
金沢に生まれ、東京に出てくるも、歳を重ねると、歴史を感じる地元の美しさに心が惹かれる。背景を知ると、吉郎の代表作にも、そのような感情が表現されていると感じました。
✔️ エリート建築家、谷口吉生
谷口吉生は、慶應義塾大学工学部機械工学科を卒業。ハーバード大学デザイン大学院建築学専攻に進学、ボストンの建築設計事務所で勤務。その後、丹下健三研究室に所属するなど、エリート建築家のようです。
谷口吉生の代表作は、ニューヨーク近代美術館 新館、葛西臨海水族園、豊田市美術館、資生堂アートハウス(2026年6月閉館予定)、鈴木大拙館など。
吉郎は、日本の伝統を重視したのに対し、吉生は「ミニマルで透明感ある現代建築」を示し、時代を象徴する建築家と言われました。2024年12月16日、87歳で生涯を閉じました。
▶︎ 常設展 感想

2階の常設展では、迎賓館赤坂離宮和風別館 游心亭の広間と、茶室を原寸大で再現しています。

「游心亭」は、47畳の一の間(接待用の18人掛けの食卓など)、12畳の二の間(歌舞音曲など余興のための舞台など)で構成されています。
限られた空間の茶室には、コスモ的な世界観があることはわかります。一方で、和室のデザインは、あまり意識したことがなかったです。和室には一定のフォーマットがあり、そこを埋めるだけと思っていました。
▼ 茶室「如庵」の展示があった展覧会@サントリー美術館

パッと見、普通な感じもします。しかし、こういう違和感を感じさせない空間こそ、繊細で緻密なセンスが必要なのかな、と思い直しました。


游心亭の反対側に水庭が設置されています。浅い水がゆらゆらしている光景は、とても心が落ち着きます。金沢建築館の外観はとても普通だったので、2階の水庭には意外性がありました。
金沢建築館を設計した谷口吉生は、東京国立博物館 法隆寺宝物館、豊田市美術館、鈴木大拙館にしても、水庭が多用しています。

谷口吉郎が「金沢診断」で指摘したように、金沢市には、用水が55本、約150kmにわたって敷設されています。このような水の多い環境で育ったからこそ、水庭を重視したのかな、と思いました。

茶室は、中央にある小間4畳半の畳席と、その2辺にある椅子席で構成。能舞台のように設えられた小間での点前を、椅子席から鑑賞しながら、お茶を楽しめる仕様です。
原寸大で体感できるのはありがたいです。しかし、迎賓館赤坂離宮和風別館の全体を体感しないと、本来の良さは感じづらいと思いました。
▶︎ 「第11回企画展 谷口吉生の建築ー静けさと豊かさの創造ー」感想
父吉郎氏の志を継ぎ、金沢の地に思索をめぐらせてきた吉生氏の存在はこの町がもつ深い精神性をきわだたせる上で大きな意味がありました。このたび、吉生氏の建築作品を振り返り、金沢との繋がりの上に氏が実現しようとした新たな空間を追体験することを目的に(略)企画しました。

この企画展では、谷口吉生が手がけた建築が3つ(金沢市立図書館、金沢建築館、鈴木大拙館)が、模型とともにその背景が説明されていました。



模型の他に展示されているものは、当時の設計図などでした。どれも「それ以上でも以下でもない」ものが多く、あまり示唆は得られなかったため、全体的に少し退屈に感じました。
その中でも、私が金沢建築館の直前に訪れた、鈴木大拙館についての説明が印象に残りました。鈴木大拙館内では、建築についての説明などが一切省かれていたため、ココでの説明は助かりました。

鈴木大拙館のテーマは「<無>を形にする」「来場者自ら思索することが目的の建物」です。谷口吉生曰く「最大の課題は日本文化の根源を説く哲学者にふさわしい空間構成を模索することであり、私はその典型を日本の<床>の空間に求め」、今までで最も難しい設計だったそうです。
谷口吉生の見た目や話し方、言葉の選び方からして、かなり意識高い系な印象をもちました。あっけらかんとした安藤忠雄などとは対極的な人物だと感じました(私はそんな安藤さんが好きなんですが)。
今、我々の事務所に30人くらいおるんですが、朝来たら、座ったら夜帰るまでパタパタコチョコチョ、コンピュータと話しとるような人間がいっぱいできとるわけですよ。「生きる」いうことは真剣に考えたら前行くぞ、と。若い人に言うんですよ、言うけど聞いてない。ほわーと忘れおる。あれは全部集めて、瀬戸内海に放り込んだ方がいいんじゃないかと。

模型や展示物を見て、改めて思ったことは、谷口吉生の建築は「真四角な外観・内観」「スパーンとしたアルミルーバー」「水庭」でした。
「真四角な外観・内観」は、日本の建築を尊重した谷口吉郎とは対極に感じます。アメリカで身につけた現代の感覚が、さらに研ぎ澄まされたのでしょう。MoMAはその最たる例だと思いました。

「スパーンとしたアルミルーバー」は、金沢のひがし茶屋街に代表されるような古い街並みにある「ひさし」を現代の雰囲気にアップデートしたものに感じました。これは「水庭」も同様です。
谷口吉生の建築が愛される理由は、モダンな中に、どことなく日本的なDNAを感じさせる雰囲気にあることかな、と思いました。

アート=その人の思想・感情をデザインに落とし込んだものだと、私は思います。そして、建物の目的は、人が長い時間を過ごしたり、安らぎや安心を得ることです。そう考えると、建物は究極的なアートであり、そこに人々が建築に惹かれる理由があります。谷口吉生も、安藤忠雄も、藤本壮介もみんな違って、みんな面白いです。
なお、金沢建築館の企画展で使えるネタは、谷口吉郎・吉生の実績しかないため、アイデアが尽きやすいと思いました。公立の美術館として、継続的に目新しさを出し、客数を稼ぐのは難しそうです。そのため、この企画展の開催期間も、約半年と長めに設定しているのかな、と邪推しました。


▶︎ まとめ

いかがだったでしょうか?谷口吉郎・吉生による建築の背景が、少し理解できました。彼らの建築には、金沢で育った環境が反映されているように感じました。敷衍して、建築すべてには、設計者の思想・感情が反映されており、それが建築の面白いところだな、と気づくことができました。
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