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ミヨ子さん語録 「5、6(ごーろっ)着っちょっど」

 鹿児島の農村で昭和5(1930)年に生まれ、昨年(2025)3月に没したミヨ子さん(母)の来し方を「文字を持たなかった昭和」として綴った。ほかに、ミヨ子さんの口癖や折に触れて思い出す印象的な口ぶり、表現を「ミヨ子さん語録」として思いつくままに書き残している(※)。

 ひとつ前の語録で「ウチは寒いわよー」という冬場のミヨ子さんの口癖を取り上げたが、本項もまた冬の口癖のひとつと言っていいだろう。この「5、6(ごーろっ)着っちょっど」は「5枚、6枚と着てるわよ」とでも言えばいいだろうか。つまり何枚重ね着しているか、を言っているのだ。

 いまのような繊維自体が発熱する保温下着などなかった時代。防寒と言えば重ね着がいちばんの方法だった。農家として当然屋外での作業が基本だ。いちばん内側には汗を吸い、かつ洗濯に耐える綿の下着。その上に、徐々に普及していった軽くて保温性に優れる化繊の下着。さらにニットの薄いセーター、作業用のシャツやブラウス、足りなければニットのベスト――チョッキと呼んだが――、いちばん上に汚れ防止の割烹着風のエプロン。

 順番に数えてみると「……5、6」ということだ。

 冬場、農作業に行く、あるいは帰ってきたミヨ子さんに「寒いね」と声をかけると
「寒(さん)かでずんばい着っちょっ。〈枚数を確認し〉5、6(ごーろっ)着っちょっど」
(寒いからたくさん着てるわよ。5枚、6枚と着てる)
などと言うのだが、「5、6」を強調したリズムがおかしく、よく笑い合った。

 ちなみに、いまで言う「ボトム」も重ね着はしたが、パンツと定番のモンペの間に「でこんばっち」*と呼ぶインナーを穿くのが冬の定番だった。「ばっち」はズボンなど股の分かれたボトムを広く指す鹿児島弁だ。「でこんばっち」の「でこん」は「ダイコン」で、ダイコンのように白いことから、男女用の別なく、綿製のモモヒキを指した。

 鹿児島とは言え、冬場の屋外は寒い。風が強い日、時雨もようの日もある。そんな時でも、ミヨ子さんたちは大雨でもない限り、毎日のように畑に出ていたのだ(ちなみに水稲は秋で終わる)。防寒下着などなかった頃、寒さは体に大きく影響したはずだが、我慢強かったのか、昔の人は慣れていたのか。昭和初期以前なら衣類はもっと簡素だったはずだから「昔の人に比べたらまし」と思っていたのかもしれない。
 
*愛用の「鹿児島弁ネット辞典」によれば、「ばっち」はズボンや下穿きを指す韓国(朝鮮)語「パジ」の転訛らしい。鹿児島弁にはたまに朝鮮半島由来の言葉がある。
 
(※)過去の語録には「芋でも何でも」、「ひえ」、「ちんた」、「銭じゃっど」、「空(から)飲み」、「汚れは噛み殺したりしない」、「ぎゅっ、ぎゅっ」、「上見て暮らすな、下見て暮らせ」、「換えぢょか」、「ひのこ」、「自由にし慣れているから」、「うはがまんめし、こなべんしゅい」、「白河夜船」、「ほめっ」、「きっそわろ」、「ノブちゃんはよかいやっどねぇ」、「カバ」、「にか」、「ショウガは寒がり」、「酔っぱらい」、「にゅっきにゅっき」、「二人しかいない兄妹だから」、「作り話じゃないの」、「ぞろびっ」、「ツルッ」、「たぐる」、「ふせ」、「ぬっさぃほっとすっ」、「香(か)がすっ」、「くるじっ」、「ウチは寒いわよー」がある。がある。

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