ミヨ子さん語録 「香(か)がすっ」

 鹿児島の農村で昭和5(1930)年に生まれ、この(2025年)3月に没したミヨ子さん(母)の来し方を「文字を持たなかった昭和」として綴った。ほかに、ミヨ子さんの口癖や折に触れて思い出す印象的な口ぶり、表現を「ミヨ子さん語録」として思いつくままに書き残している(※)。

 昨年(2024)夏からのコメ不足、続く米価高騰と「令和の米騒動」と言われている状況は、本項掲載時点(2025年8月下旬)で大きな改善は見られない。新米も出回り始めたが高値で、手が届く層は多くなさそうだ。

 今年5月には江藤拓農林水産大臣が事実上更迭され、後任の小泉進次郎氏が「随意契約による政府備蓄米(以下、備蓄米)の放出」を打ち出した。これにより販売価格で2000円程度の古米、古古米が放出され始めた。もっとも精米や輸送といった問題により(たぶん精米過程の問題が大きい)、すぐ市場に行き渡るというわけにはいかなかった。

 わたしも備蓄米が話題になり始めたころに買ってみたかったが、5㎏袋をひとつ買ったばかりだったし、そもそも近くのスーパーでは全く売っていなかった。最初に買えたのは7月下旬。わりと最近ようやく2袋めを買ったばかりだ。

 ここにきて――8月中旬あたりからだろうか――、大中規模のスーパーの店頭に山積みされるようにはなっている。それも備蓄米の契約が当初は「8月末で売り切る」という内容だったため、販売側が売り急いでいるという事情があったはずだ(その後農水省は販売期限を延長した)。

 さてその備蓄米を、満を持して初めて炊いた日。

 開封した第一印象は「糠臭い」。やはり古いお米特有の匂いがする。いかに温度管理を徹底した倉庫で保管していても、それが2年、3年の長期間となると表面の糠の酸化は免れないということだろう。水分も抜けていそうだ。

 すでに情報番組などで「専門家」の皆さんが、備蓄米の特徴、炊くときの工夫などを述べているのは相当回見聞していた。それらを参考にして、ふだんより丁寧に研いで――もちろん糠成分が入った水を吸ってしまわないよう気をつけながら――、水がきれいになるまで換えた。

 ただし、ふだんのお米との差を確認したかったから、水加減を気持ち多めにした以外、何かを加えたりはしなかった。

 そして炊きあがり、炊飯器の蓋を開けたとき。古米特有の、不快というほどではないにせよ気になる匂いが漂った。やはり糠の匂いだろうか。その時わたしの頭の中にミヨ子さんの声が響いた。

「ないか、プンと香(か)がすっねぇ」
(なにか、プンと匂いがするね)

 食べ物を扱っていて変わった匂いがすると、ミヨ子さんはよくこの言い方をした。ミヨ子さんの生涯を綴った「文字を持たなかった昭和」の「六十四 丈夫というわけでは…」で述べたことがあるが、ミヨ子さんは大量の鼻血を出したことがあり、以来あまり鼻が利かなかった。それでも「香がすっ」のは、かなり変わった匂いのときだったのだろうと思う。

 炊きあがった備蓄米は多少「香がすっ」以外に、若干ぱさついてもいた。仏壇兼用の神棚にお供えするご飯をよそうときも、いつものご飯のような米粒どうしのまとまりにも若干欠け、小さな容器の縁のご飯粒が落ちたりもした。

 しかし、十分食べられる味だ。お供えしながらわたしは天上の両親に
「古古米でも十分おいしいよ。ありがたいね」
と語り掛けた。

(※)過去の語録には「芋でも何でも」、「ひえ」、「ちんた」、「銭じゃっど」、「空(から)飲み」、「汚れは噛み殺したりしない」、「ぎゅっ、ぎゅっ」、「上見て暮らすな、下見て暮らせ」、「換えぢょか」、「ひのこ」、「自由にし慣れているから」、「うはがまんめし、こなべんしゅい」、「白河夜船」、「ほめっ」、「きっそわろ」、「ノブちゃんはよかいやっどねぇ」、「カバ」、「にか」、「ショウガは寒がり」、「酔っぱらい」、「にゅっきにゅっき」、「二人しかいない兄妹だから」、「作り話じゃないの」、「ぞろびっ」、「ツルッ」、「たぐる」、「ふせ」、「ぬっさぃほっとすっ」がある。

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