【小説】ザ・サン・インザレイン #06|Fox in Fog
夜中に、悲鳴みたいな声で目を覚ました。
外から聞こえてくる。
まだ暗く、街灯の灯りが室内をほんのりと照らしている。
斜めにしか開かない窓を開け、外の様子をうかがう。
さっきまで雨が降っていたらしく、道路は濡れていた。
霧が濃く、辺りは白く霞んでいる。
通りの先にある公園の手前に、霧の中、小さな影が見える。
どうやら、あれが悲鳴の正体らしい。目を凝らして見ると、犬のような生き物がいる。
その生き物は、人間の悲鳴みたいな不思議な声を発し、しばらく鳴いたあと、弧を描くようにジャンプして消えていった。
あとには、街灯に照らされた、雨に濡れたアスファルトと、そこに渦巻く霧だけが残された。
「キツネ? うそだろ」
「いやほんとだって」
カリカリに焼いた薄い食パンに、バターを塗りながら、昨夜の話をカイにしていた。
夜中に起こされたせいか、いつにも増して目覚めが悪い。アールグレイの香りが、ぼうっとする頭に少しだけ清涼感をもたらしてくれる。
カイはイングリッシュ・ブレックファストにミルクをたっぷり入れて、砂糖もドバドバ入れている。
イギリスの紅茶は、うまい。
そんなのは有名な話だが、こっちに来て驚いたことのひとつに挙げられるくらいだ。
スーパーで買った安くて大量に入ったティーバッグに、ケトルで沸かした水道水。カップに直接ぶち込むだけなのに、とろりと濃くて、奥深い味になる。
同じティーバッグでも日本ではこうはならないので、ケトルの底にジャリジャリとたまる石灰を見て、水の違いなんだろうと思っている。
その代わり、イギリスではコーヒーや緑茶を淹れると、途端にまずくなる。
ちなみに、日本の紅茶好きの人には悪いけど、こっちでティーバッグ以外で淹れている紅茶を、俺は見たことがない。
「こんな街中にキツネなんかいる?」
「あれが犬だったら余計怖いわ」
「俺も見てみたい。今度来たら起こしてよ。あ、ところでさ。そろそろ人探さない?」
なんの、と聞くまでもなく、空き部屋の話だとわかった。
テーブルに落ちたパンくずを、手で一箇所に集める。
「あー、そうだな」
「俺も一年しかいないしさ。ジャパセンに広告出してくるね」
なんとなく、今の生活に慣れてきたところに、新しい人間が加わることに若干の抵抗感があった。
家賃のことを考えると、そんなことも言ってられないんだけれど。
「うん、頼むわ」
キッチンの窓からは、今朝も憂鬱そうな灰色の空が見えた。
週末の予定を聞こうと、カイの部屋のドアをノックしようとしたら、中から話し声が聞こえてきた。
いつもの甘ったれたカイとは違う、話しぶり。
そっとドアから離れて、部屋に戻った。
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◀︎ 𝙉𝙤𝙬 𝙋𝙡𝙖𝙮𝙞𝙣𝙜
Jevetta Steele — "Calling You “
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マルボロの箱から一本抜き取り、火をつけようとして、やめた。
机の引き出しを開け、リズラと小さな透明のパケットに入ったウィード(マリファナ)を取り出す。煙草をバラしてウィードを混ぜ、リズラで巻いた。
火をつけ、思い切り吸い込んで肺にためる。
カイが嫌がるので、クサを吸うのは久しぶりだった。
窓の外はますます黒い雲が立ち込め、今にも雨が降りそうだった。
窓に映し出された雨雲に、マリファナの煙が絡みつくように燻る。
やがてガラスに水の粒が、はじけるようにぶつかりはじめた。
𝙉𝙚𝙭𝙩 →
【CHAPTERS】
#00│プロローグ
#01|カルボナーラ
#02|キャッツ
#03|チャイナタウン
#04|ノッティング・ヒル
#05|ポートベロー・マーケット
#06|Fox in Fog
#07|Angel
#08|38番
#09|エリック
#10|香水
#11|クリスプ
#12|カムデン・マーケット
#13|Purple Turtle
#14|月
#15|最終話|邂逅
