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【小説】ザ・サン・インザレイン #07|Angel

 ジャパセンに広告を出して二日目に、カイの携帯に電話がかかってきた。
 部屋を見にきたのは、ヴァージン・レコードで働くエリックというイギリス人の男だった。

 気さくな人で、日本が好きらしい。日本語の勉強も兼ねて、日本人とシェアしたいと言う。

「それになんといっても、靴を脱いで生活してみたかったんだよね」

 イギリス人らしい皮肉の利いたユーモアと、フレンドリーな性格の彼を、カイはすっかり気に入り、「もうこの人でいいんじゃない?」と耳打ちしてきた。
「英語の上達にもなるしさ」
 確かに、カイのためにはいいかもしれない。

 仕事もちゃんとしてそうだったので、断る理由もなさそうだった。
 こうして、我が家に三人目のフラットメイトがやってきた。

 エリックは仕事も不規則で、外出していることが多く、思っていたほど自分の生活に変化はなかった。
 ときどき家で顔を合わせると、三人で酒を飲んだりもする。
 カイとは英語を教えたり、日本語を教わったりランゲージ・エクスチェンジもしていた。

 ドラッグやマリファナについても、カイが嫌がるとわかると、すぐに配慮するようになった。  

 つまり、エリックはかなりいいやつだった。
 カイもすっかり懐いている。


「せっかくの週末に三人顔を合わせたわけだし、ランチでも行かないか?」

 ある日曜日の朝、リビングでカイと桃鉄をしていると、エリックがそう提案してきた。

「エンジェルにオシャレなパブがあるんだけど、どうかな?」
「あのオーガニックで有名なところ?」
「ミキヤ知ってるの?」
 最近エンジェルで、料理が凝っているオーガニック・パブが人気だと、客が話していた。
「そうそう! そこだよ。さすがミキヤ!」
 何がさすがなのかはわからないけれど、当たっていたようだ。

「エンジェルは街もオシャレだし、行って損はないよ」

 日曜日に、男三人でエンジェルのオシャレなパブというのもどうなんだろうとは思ったが、カイはもちろん行きたがったし、俺は特に予定もなかったので、行くことに決まった。
 
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◀︎ 𝙉𝙤𝙬 𝙋𝙡𝙖𝙮𝙞𝙣𝙜
The Velvet Underground — "Sunday Morning"
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 エンジェルに着くと、確かに小綺麗でオシャレな街だった。

 南国みたいな雰囲気の俺たちの街とは大違いで、なんというか、高そうなエリア。

 ロンドンのこういうところがほんとうにおもしろくて、ロンドンの中にいくつもの違う国が入っているみたいだった。

 地下鉄の駅から少し歩いたところに、そのパブはあった。
 コーナーに位置した、青みがかったグリーンの壁が印象的な、確かにカフェっぽいオシャレなパブだった。
 テラス席は全部埋まっている。

「ここはビールもオーガニックなんだ」
 ドアを開けながらエリックが説明してくれた。
 イギリス人て、ほんとオーガニックが好きだよな。

 まだ11時だったけれど、すでに店内はほぼ満席だった。
 テーブルに案内され、本日のおすすめはバーカウンターの黒板に書いてあると説明される。
 オーガニックのビールをパイントで三つ注文し、黒板のメニューを見に行くことにした。

「rib eye? アイって目玉ってこと?」
 怪訝そうな顔でカイが訊ねる。
 やたらと長い料理名のメニューは、どれもさっぱり意味がわからなかった。エリックですらわからず、店員を捕まえて質問する。

 なんとか料理を注文し、席についた。
 ちなみに、「rib eye」はステーキだったので、俺もカイもそれにした。
 エリックは、よくわからないものを頼んでいた。

 店内を見渡すと、隣の席には肩を出したピンクのトップスにデニムのロングタイトを合わせた女性と、上下黒で揃えた細身の男性。
 身なりのいい、おしゃれな若者が多かった。
 まあ、値段が一般的なパブとは違うんだから当然か。

「味、薄くない?」
 カイが訝しげにつぶやいた。
 パブの料理は全体的に野菜が多く、ヘルシーだった。
 味も比較的薄味で、素材の味を楽しむような店。
 女の子を連れて来ると喜ばれるだろう。
「ロンドンでは、今みんな健康志向だからね。素材が重要なのさ」
「みんなドラッグばっかやってるのに?」
 エリックがカイの肩を拳でこづいて、「天才だね」と大笑いした。

 𝙉𝙚𝙭𝙩 →

【CHAPTERS】

#00│プロローグ
#01|カルボナーラ
#02|キャッツ
#03|チャイナタウン
#04|ノッティング・ヒル
#05|ポートベロー・マーケット
#06|Fox in Fog
#07|Angel
#08|38番
#09|エリック
#10|香水
#11|クリスプ
#12|カムデン・マーケット
#13|Purple Turtle
#14|月
#15|最終話|邂逅

【MAGAZIE】

|ザ・サン・インザレイン(スピンオフ)

|ア・リトル・ビット・クレイジー・デイズ(本編)


 

 




 






 



 


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