見出し画像

【小説】ザ・サン・インザレイン #13|Purple Turtle

 タイミング良く、カレンから電話がかかってきた。
 俺にとっては救いの神だった。

「Purple Turtleに来てるの。あなたも来ない?」

 カムデンからも遠くない、日曜日にも営業しているバーだった。
 カイとユリちゃんが聞いていたので、迷っているふりをして、しぶしぶOKする演出も忘れなかった。


 ふたりと別れて、俺は紫色に塗られたバーにいた。
 バーと言っても、日曜日はDJが入って踊れる日だった。
 端っこで突っ立ってるのなんか、俺くらいだろう。

 ビールに飽きたので、コウモリのロゴが入ったバカルディのパイナップル味を飲んでいた。栓にもコウモリが描かれていてカッコよくて、実はいくつか集めている。

「それ好きよね」
 踊っていたカレンがやってきて、俺のボトルを奪った。
「何か飲む?」
「これでいいわ」
「俺のがないじゃん」
 最後まで言う前に、カレンが唇で俺の唇をこじ開け、舌をねじ込み、甘いパイナップル味の液体を注ぎ込んできた。

「こうすればいいでしょ」
 悪くはなかった。


 カレンの家の冷凍庫に入っていた小さな紙片を、ふたりで口にした。

 しばらくすると、五感が過敏になり、肌と肌が触れるだけで快感が駆け抜けた。
 カレンの汗ばんだ小麦色の肌に舌を這わせると、汗の塩味が脳天に突き抜け、這わせる舌にすら快感が走る。

 そのうち、いくつもの曼荼羅が、目の前にあらわれては消えていく。自分の輪郭がなくなり、神の存在をひどく近くに感じる。この世の摂理を理解してしまった怖さが襲ってきそうになるのを、必死に追い払い、カレンの中に入って震えるほどの快感で紛らわす。

 何度果てても、疲れることを知らず、何時間も行為を繰り返し続けた。
 曼荼羅も神も消えるどころか、快感で繋ぎ止めていた自分が、もうほとんど消えてなくなりそうだった。

 ヤバい

 そう思ったときには手遅れだった。
 

─────────────────
◀︎ 𝙉𝙤𝙬 𝙋𝙡𝙖𝙮𝙞𝙣𝙜
björk — "Hunter"
─────────────────
 



「ミキヤ!」
 気づいたらカレンに頬を叩かれていた。
「大丈夫? わかる?」
「……怖い、神様が見てる」
 心臓が早鐘のように打ち、体中が震え、汗が噴き出す。
「落ち着いて、ただの幻覚よ。ゆっくり息を吐いて」
 カレンに言われたとおり、息を吐き出す。
「ゆっくり吸って。大丈夫よ、私がそばにいるから」

 不安が塊になって襲ってくる。
 永遠に終わらない気がして、恐怖でパニックに陥る。
 宇宙に放り出されたような頼りなさが身体中を巡る。
 
 そこから何時間も、カレンに抱かれて深呼吸だけを繰り返した。 


 𝙉𝙚𝙭𝙩 →


【CHAPTERS】

#00│プロローグ
#01|カルボナーラ
#02|キャッツ
#03|チャイナタウン
#04|ノッティング・ヒル
#05|ポートベロー・マーケット
#06|Fox in Fog
#07|Angel
#08|38番
#09|エリック
#10|香水
#11|クリスプ
#12|カムデン・マーケット
#13|Purple Turtle
#14|月
#15|最終話|邂逅

【MAGAZIE】

|ザ・サン・インザレイン(スピンオフ)

|ア・リトル・ビット・クレイジー・デイズ(本編)




 

 

いいなと思ったら応援しよう!