【小説】ザ・サン・インザレイン #12|カムデン・マーケット
カイの幼馴染でもあるガールフレンドのユリちゃんは、美人で気だてもよかった。
けれど、ただカイに引っ張られるだけの女の子ではなく、自分の意見ははっきり言うし、簡単には譲らない強さも持っていた。
カイが「ここに行こう」と提案しても、自分はこっちがいい、と言い返す。そんなことから、ふたりはよく些細なことで言い合いになっていた。
それでも、すぐにふたりはまた仲直りして、手をつなぎお互いを愛しそうに見つめ合っていた。
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◀︎ 𝙉𝙤𝙬 𝙋𝙡𝙖𝙮𝙞𝙣𝙜
Fatboy Slim - Praise You
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ユリちゃんが来て三日目の日曜日、三人でカムデンマーケットにやってきた。
カムデンには、パンクからロックにサイバー系、ロンドン中のいろんなファッションの人々が集まってくる。
土日は閉まっている店が多いロンドンでは、「週末はマーケット」ということになる。
つまり、ものすごい人だということ。
「わあ! 見て! あの人。あれどうなってるんだろ」
あちこちからチューブを光らせている男を見て、ユリちゃんが驚きの声を上げる。
「ユリ、おいで。はぐれる」
カイがユリちゃんの手を取る。
ユリちゃんといるときのカイは、別人みたいに男らしい。
前からは、ゴリゴリの革ジャンを着た、トゲトゲしているパンクスのお兄さんたちが、とがったブーツの音を立てながら歩いてくる。
そのあとにすれちがったのは、「日清焼そば」と日本語で書かれた青いTシャツの男で、通りすぎてから三人で大笑いした。
カムデンには、いくつものマーケットが集まっている。
ステーブル・マーケットのレンガ造りのアーチをくぐると、迷路みたいに店が続く。
爆音のテクノが聞こえてきて、「Cyberdog」があらわれた。
さっきユリちゃんが驚いていたのが、これ。
無機質な薄暗い店内は、色とりどりの蛍光灯やチューブが設置され、そこであちこちチューブをつけた蛍光色の服を着た店員が、服をたたんでいる。ここだけ近未来みたいだった。
ユリちゃんは大はしゃぎで、カイに止められつつも、Tシャツを購入した。
そのあとも、信じられないくらい安い古着屋とか、アダルトグッズの店とか、いろんな店をのぞいた。
見ているだけでも楽しいマーケットなので、ユリちゃんは喜んでいた。
「買ってくるから、ミキヤは休んでて」
カイがそう言って、ユリちゃんを連れてフードエリアに向かった。
タイ料理にチャイニーズにインド料理、いろんなものが売られているけれど、正直カムデンにはうまいものがない。
そこだけ残念なマーケットだった。
椅子に腰掛け、ひとりになると、どっと疲れが押し寄せてきた。
俺は、うまくやれてるよな?
自問自答していると、ユリちゃんがビールを抱えて戻ってきた。
「カイはまだ並んでるから、ビールだけ買ってきた!」
ユリちゃんはかなりの酒のみだ。
「ありがとう。お、ヒューガルデンじゃん」
「嫌いだった?」
「反対。大好き」
コリアンダーとオレンジピールの香りが、白いビールから立ち上がる。
ふたりで先に乾杯することにした。
「あーうまっ」
ユリちゃんはおっさんみたいな声を出した。
「カイ、ミキヤくんにわがままばっかり言ってない?」
「まあ、言ってるかな」
ふたりで顔を見合わせて笑う。
「お兄ちゃんができたみたいで、うれしいんだと思う」
「ん。まあ、光栄です」
「カイってさ」
ユリちゃんが少し困ったように笑った。
「危なっかしいでしょ」
思わず顔を上げた。
「小さい時も、変質者に連れ去られそうになったりして」
「マジで?」
あいつ、昔からかよ。
「うん。人を疑わないっていうか」
ああ、そうか。
この子が俺に会いたがっていたのは、そういうことか。
「ミキヤくんに会って安心した」
自分自身、カイにとって安全な人間なのかもわからない俺は、ユリちゃんの目を見ることができなかった。
「めっちゃ並んでたわー」
戻ってきたカイは、アルミの容器に入った焼きそばやカレーをテーブルに並べた。
どれも油でギトギトで、見てるだけで胸焼けがする。
「ユリはグリーンカレーだよね。ミキヤどっちがいい?」
残りは焼きそばとチキンカレーだったので、焼きそばに手を伸ばした。
カイはカレーがいいはず。
「やった。カレー食べたかったんだよね」
ほらね。
「ミキヤくんて、カイのことよくわかるんだね」
「たまたまでしょ」
笑ってごまかしたけれど、これ以上いるとボロが出そうだった。
ここが終わったら、うまいこと言って抜けよう。
𝙉𝙚𝙭𝙩 →
【CHAPTERS】
#00│プロローグ
#01|カルボナーラ
#02|キャッツ
#03|チャイナタウン
#04|ノッティング・ヒル
#05|ポートベロー・マーケット
#06|Fox in Fog
#07|Angel
#08|38番
#09|エリック
#10|香水
#11|クリスプ
#12|カムデン・マーケット
#13|Purple Turtle
#14|月
#15|最終話|邂逅
【MAGAZIE】
|ザ・サン・インザレイン(スピンオフ)
|ア・リトル・ビット・クレイジー・デイズ(本編)
