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社会復帰未満Ⅳーフリーランスの罠ー就労移行支援の現場から(読みやすい短編)

第1楽章
「見学者対応」


(Moderato inquieto)
IT特化型就労移行支援事業所。
春。
私は、新しく入った見学者たちに施設説明をしている。
見学者たちは口を揃える。

  • 「人間関係が苦手で……」

  • 「在宅希望です」

  • 「将来的にはフリーランスを」

  • 「AIもあるので、一人で働けるかなって」

施設長は笑顔で頷く。
だが私だけは違和感を覚える。

“独立事業主ほど、人に頭を下げる仕事はない”


説明会後、若い男性利用者・神谷が話しかけてくる。
「会社勤め、向いてないんです」
「空気読むの疲れて」

だが彼のSNSには、
「案件募集中」
「クリエイター仲間募集」

という投稿が並んでいる。
私は内心で思う。

“それは『対人』ではなく、

『対等な対人』を避けたいだけじゃないのか”



第2楽章
「案件待ち」


(Andante sospeso)
利用者たちは「学習」を続ける。

  • HTML

  • CSS

  • Canva

  • 動画編集

  • ChatGPT

  • ポートフォリオ

だが実案件は来ない。
Discordでは、
「単価崩壊」
「実績ありません」
「修正地獄」
「飛ばれました」

という言葉が流れる。
神谷は言う。

「でも会社より自由ですよね」


私は答えない。
その夜、自宅でクラシックを流しながら、過去を思い出す。
音楽大学時代。
コンクール。
才能。
脱落。

“好き”だけで残れた人間を、ほとんど見たことがなかった。



第3楽章
「既読」


(Scherzo meccanico)
神谷がクラウドソーシングで初案件を取る。
バナー制作。
報酬3000円。
だがクライアントから修正依頼が来る。

  • 「もう少し明るく」

  • 「やっぱり最初の案で」

  • 「今日中に」

  • 「返信ください」

神谷は徐々に疲弊する。
「会社と変わらないじゃないですか……」
私は静かに言う。
「会社は、まだ誰かが責任を分けてくれる」
神谷は反発する。
「でも自由です!」
その直後、
クライアントからの通知。

「返信がないため、別の方へ依頼します」


既読。
それだけが画面に残る。


第4楽章
「生き残る」


(Molto agitato)
施設でグループワーク。
テーマは

「理想の働き方」


利用者たちは語る。

  • 好きなことで生きたい

  • ストレスなく働きたい

  • 一人で完結したい

私はホワイトボードに書く。
生きる
生き残る
空気が止まる。
相沢は淡々と続ける。

  • 「フリーランスは営業です」

  • 「返信速度も能力です」

  • 「信用は納期で決まる」

  • 「好きは入口でしかない」

  • 「市場は優しくない」

利用者の一人が泣き出す。
「じゃあ夢見るなってことですか!」
私は少し沈黙し、答える。
「違う」

「夢を職業にするなら、“職業”を見ろって話だ」



第5楽章
「未満」


(Adagio luminoso)
6月末。
神谷は退所を申し出る。
理由は、

「音楽活動を優先したい」。


音楽仲間に誘われたらしい。
施設長は困惑する。
職員たちは疲弊する。
延長申請。
ケース会議。
支援計画。
面談。
積み上げたものが崩れていく。
だが私は、不思議と怒れない。

夜。
帰宅後。
PCモニターには未返信メール。
AIチャット。
未完成の資料。
窓の外では、遠くの電車の音。
私は思う。
誰も自立なんかしていない。
フリーランスも。
会社員も。
支援員も。
皆、
どこかに依存しながら、
沈まないように必死に浮かんでいる。
タイトル表示。

『社会復帰未満Ⅱ』
―― フリーランスの罠 ――


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