社会復帰未満Ⅱーハドルひとつ繋がらない朝ー就労移行支援の現場から(短編小説)
Ⅰ 六月の予定表
六月は、フル通所になる予定だった。
九月に就職活動。
十二月に就職。
支援計画には、綺麗な線が引かれていた。
だが現実は、予定表の外側から崩れていく。
母親の介護。
透析。
通院。
突然の入院。
金銭不安。
真面目に通っていた利用者ほど、
「努力が足りない」
とは言えなかった。
働く力はある。
だが、
生活が就労を許さない。
私は、その現実を何度も見てきた。
福祉の数字には現れない、
生活の重さだった。
Ⅱ 接続不能
朝のハドルが始まる。
在宅利用者のSが、入ってこない。
数分後、チャットが荒れた。
「繋がらないんですけど」
「何なんですか」
「もう無理です」
管理者が対応に入る。
Sは統合失調症だった。
技能の問題ではない。
接続が切れただけで、
感情が崩壊する。
だが私は、
それを単純な“問題行動”とは思えなかった。
怒りの奥にあるものを、
現場は知っている。
不安。
孤立。
置いていかれる恐怖。
「失敗した」
その瞬間に、
“終わった”と感じてしまう人がいる。
在宅支援は自由に見える。
しかし実際は、
自己管理。
切り替え。
孤独。
通信トラブル対応。
社会の縮図みたいなものだ。
そして社会は、
接続不良で止まってはくれない。
Ⅲ 男性職員
男性職員は、私しかいなかった。
だから私は、
Sと腹を割って話そうと思った。
怒鳴るつもりはない。
人格を否定する気もない。
ただ、
“就職する”ということを、
もっと現実として話したかった。
「Sさんを責めたいわけじゃないんです」
私は静かに言った。
「でも、仕事って、
接続できない日もあります。
理不尽なこともあります。
そのたびに強く怒ってしまうと、
周囲は“助けたい”より、
“関わるのが怖い”になってしまう」
Sは黙っていた。
私は続けた。
「僕は、Sさんに働く力がないとは思ってません。
でも、困った時にどう立て直すか。
それを今ここで練習しないと、就職した後、
一番苦しくなるのはSさん自身なんです」
支援とは、
慰めだけでは成立しない。
だが、
現実だけでも人は壊れる。
私はその境界線の上で、
言葉を探していた。
Ⅳ 社会復帰未満
社会復帰。
その言葉を聞くたびに、
私は少しだけ違和感を覚える。
社会とは、
どこから始まるのだろう。
朝、起きることか。
時間通りに接続することか。
怒りを飲み込むことか。
それとも、
助けを求めることか。
支援者は、
時々その順番を間違える。
優しさだけでは、
人は働けない。
だが、
現実だけでも、
人は生きていけない。
だから今日も私は、
“社会復帰未満”の場所で、
誰かと向き合っている。
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