小春ちゃんは、本を薦めるのが少し苦手 #0
小さな書店併設カフェ「かーでぃ書店」には、今日も何かを探す人がやってきます。本を通して、誰かの気持ちが少しだけ動く。これは、そんなやさしい小さな物語です。
登場人物
小春:高校生アルバイト。やさしくて少し天然。
木村誠:店長。寡黙で誠実。本とコーヒーが好き。
小春ちゃんは、本を薦めるのが少し苦手
プロローグ
雨の日の本屋は、少しだけ、世界から切り離されている気がする。
駅前大通りを走る路面電車の音も、濡れた道路をゆっくり通る車の音も、ガラス越しにやわらかくなる。
通りに面したカフェを併設した書店は、そんな雨音を遠くに聞きながら、今日も静かに灯りをつけていた。

木の棚が並ぶ店内には、新刊の匂いと、少し古い紙の匂いが混じっている。
その奥、カウンターの向こうで、店長の木村は挽きたての豆に湯を落としていた。
細い湯の筋が、ゆっくりとコーヒーの粉を膨らませる。
黙って見ていると、なんだかこちらまで息をひそめてしまうような、そんな丁寧な手つきだった。
「……店長って、毎回ちゃんと同じように淹れますよね」
棚の前で本の背表紙を指先でなぞっていた小春が、ぽつりと言った。
「毎回ちがうと、落ち着かないから」
店長はそれだけ言って、また静かに湯を注ぐ。

小春は少しだけ笑った。休日だけここで働くようになって、まだそんなに長くはない。けれど、店長が多くを語らない人だということは、昔からよく知っていた。
無口だけど、冷たいわけではない。むしろその逆で、誰かが言葉に詰まったときほど、急かさず待ってくれる人だ。
「でも、それってすごいです。わたし、同じようにやろうと思っても、たぶん毎回風味が変わっちゃうと思うんです。」
「それも、いいんじゃないかな」
「そういうものですか?」
「本をすすめるのも、たぶん同じだろ」
不意にそう言われて、小春は指を止めた。
図星だった。
この店には、ときどき“本を買いに来る”というより、“何かを探しに来る”人がいる。うまく言葉にできない悩みだったり、少し先へ進むためのきっかけだったり。そういうものを探して、ふらりと入ってくる人たちだ。
けれど小春は、まだ誰かに本をすすめるのが少しこわい。
本当にその人に合っているのか。
見当違いだったらどうしよう。
もっと別の、ぴったりの一冊があるのではないか。
考え始めると、いつも迷ってしまう。
「店長は、迷ったりしないんですか」
「するよ」
意外なほどすぐに返ってきて、小春は顔を上げた。
「え、そうなんですか」
「するよ。でも、当てようとはしてない」
コーヒーが落ちきるのを待ちながら、店長は続ける。
「答えを渡すわけじゃないかね。考えるきっかけになる本を渡せたら、それで十分なことも多いよ」
「きっかけ……」
「本って、そういうのが得意だから」
小春は、なんとなく胸の中でその言葉を繰り返した。
答えじゃなくて、きっかけ(そか…)
それなら、少しだけ、できる気がした。
店長はカップをひとつ差し出した。
湯気の向こうに、やわらかい苦みの香りが立つ。
「飲む?」
「え、いいんですか」
「感想は聞くよ?」
「それ、ちょっと緊張します……」
そう言いながら受け取ると、カップの熱が手に心地よかった。
小春はそっと口をつける。
「……おいしいです」
「雑な感想だな」
「ほんとです」
「顔でわかる」
それだけ言って、店長は少しだけ笑った。
ほんのわずかだったけれど、小春にはちゃんとわかった。
こういう時間が、この店にはある。
静かで、少しだけあたたかい時間。大きな出来事なんて起きなくても、誰かの気持ちがほんの少し動く。かーでぃ書店は、そういう場所だった。
窓の外では、雨がまだ降っている。路面電車が、しゃあ、と濡れた音を残して通り過ぎていく。
「……店長」
「ん?」
「この店って、ふしぎです」
「そう?」
「はい。なんだか、悩んでる人が入ってきそうな感じがします」
「実際、そういう人が多いな」
「やっぱり」
「本屋だからか、コーヒーがあるからかは知らないけど」
「両方、だと思います」
小春がそう言ったときだった。からん、と入口のベルが鳴る。
二人そろって、そちらを見る。

雨の気配をまとったまま、一人の客が店に入ってきた。
年齢は二十代後半くらいだろうか。スーツ姿ではないけれど、仕事帰りのような、少しだけ疲れた空気をまとっている。
その人は店内を見回してから、ほんの少し迷うように足を止めた。
何かを探している人の顔だ、と小春は思った。
答えそのものではなく。でも、ここに来れば何かあるかもしれないと、そう思ってしまった人の顔。小春は思わず、本の背表紙に触れかけた指を止める。

店長はいつもの落ち着いた声で言った。
「いらっしゃいませ」
雨の日の書店に、またひとつ、物語が入ってくる。
ショートストーリー
第1話 DX推進に悩める方へ
第2話 ゼロトラベースのネットワークへの意向を検討されてる方へ
第3話 ランサム対策でバックアップを検討されてる方へ
第4話 ちゃんと休めてない、少し疲れ気味の方へ
第5話 IoT機器活用で、少しだけ楽をしたい方へ
第6話 人前で話すことが苦手な方へ
第7話 会社のセキュリティチェックで困ってる方へ
ショートムービー
ショートムービーです。小春ちゃんが動きます❣
かーでぃ書店
小春ちゃんが働くかーでぃ書店はこちら
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