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きみは、有名になる準備ができているか

スマートリングの睡眠スコアを見て、ゾッとした。

普段の私はロングスリーパー。最低でも8時間は眠りたいし、できれば9時間くらいはベッドにいたい。睡眠が足りないとあらゆる機能がびっくりするくらい停止するタイプだ。

なのに、ある朝ふと睡眠スコアを見たら睡眠時間が6時間を切っていた。
何か特別な予定があったわけでもない。仕事に追われていたわけでもない。夜中まで誰かと話していたわけでもない。

理由は、ただひとつ。

SNSが気になっていたから。

起きた瞬間に、
「インスタどうなってるかな」
「リール伸びてるかな」
「フォロワーさん増えてるかな」
自然とスマホに手が伸びる。

その瞬間、我にかえってハッとした。あ、これはちょっとまずいぞ、と。

──

発信活動をする上で、多くの人がまず考えるのが「どう伸ばすか」だろう。どうしたらフォロワーが増えるのか。
どうしたらバズるのか。
どうしたらもっとたくさんの人に届くのか。

もちろん、それらは重要な要素であることに違いない。届けたいものがあるなら、届ける力を磨くことは必須科目だ。私だって意識している。

しかしながら最近、かなり強く感じていることがある。それは、発信を伸ばすことと同時に、「伸びても壊れない自分」を育てる必要がある、ということだ。ここを飛ばしてしまうと、必ずどこかで崩壊がくる。

これはきれいごとではなく、私自身が過去に一度見事にやられてしまった経験があるからこそ、切に伝えられることでもある。

時は7、8年前に遡る。私の発信が一気に広がり、フォロワーさんがドバッと増え、今までの私の日常では出会わなかったような半径5メートルの外側にいるような方々に、自分の言葉や活動が一気に届くようになった。

最初は嬉しかった。1万人を超えたあたり、パリに買い付けにきた時に「maruoさんですか?」と声をかけられびっくり仰天したこともあった。

でも同時に、それまでであれば絶対に出会わなかったような言葉も、突然飛んでくるようになった。思いもよらない解釈、全く違った角度からの内容。
全然そんな意味で言っていないのに、知らぬ間にネガティブに受け取られること。

そして当時の私は、今よりもずっと未熟だった。

心ない言葉を、真正面から受け取ってしまった。

「私が悪かったのかも」
「誰かを傷つけてしまったのかな」
「もはや発信しない方がいいのか」

そうやって、どんどん自分の中に沈んでいった。

もちろん、自分の表現が未熟だった部分もある。言葉の選び方が雑だったり荒かったり、誰かを無意識にチクッと刺してしまうこともあったかもしれない。そこはちゃんと見つめる必要がある。

でも一方で、受け取るお相手の中にある恐れや、劣等感、投影、生活のしんどさまで、すべて私が背負う必要はない。当然のことであるけれど、私はここに線が引けていなかった。

そんな経験を通して、わたしたちが発信活動をする上で、そして、有名になっていくことへの道を歩む上で、欠かすことのできない2つの力があると身をもって学んだ。

一つ目は、レジリエンス力。

何も感じない強さではなく、何があっても戻ってこられる力

心ない言葉を言われても、「私はダメなんだ」と自分の存在ごと崩れ落ちるのではなく、「これは相手の課題かもしれない」「これは私が受け取るべき意見ではないかもしれない」と、一歩引いて見られる力。

発信が広がるということは、価値観の合う人だけに届くということではない。本当に届けたい人にも届く。でも同時に、届かなくてもよかった人にも届いてしまう。これは残念だけれど。

それが、広がるということ。

だからこそ、発信者には「誰の声を聞くか」を選ぶ力がいる。
匿名の、覆面をかぶって発言する全ての意見を真正面から受け取る必要はない。しかし、全ての意見を受け流していいかでいうとそうでもない。耳を方向けるべきは、身近な、そして自分のことを本気で大切に思ってくれている人の声だ。

自分を大切に思ってくれている人。
自分の成長を願ってくれている人の指摘。
自分が信頼している人からのフィードバック。

そういう声は、ちゃんと聞く。むしろ、ここを聞かないと傲慢の道に急降下だ。

一方で、自分のことを何も知らない人の責任のないひと言まで、自分の人生の中心に置かなくていい。

発信者に必要なのは、すべての声に反応する優しさではなく、守るべき自分を守る境界線なのだと痛みをともなって学んだ。

──

そして、発信活動に必要な二つ目が、セルフコントロール力だ。
これは少し前の私が、まさに直面していたことだ。

少し前、インスタが一気に伸びた。1ヶ月でフォロワーさんが4000人くらい増え、リールもたくさんの人に届くようになった。

これが、すごく面白かった。ゲームみたいで。これまでは、フィード投稿を作るのもリールを作るのも億劫だった。もともと動画作りは苦手分野だ。しかし人間とは悲しいほどにこうも単純な生き物で、伸び始めた途端、急に全部が楽しくなった。

次は何を出そう。これもコンテンツになるかも。あ、この出来事も発信に使えるかも……。リアルの世界で目の前のことにマインドフルに楽しむことより、リアルをいかにSNSに転換させるかという視点で日々を切り取ろうとする姿勢。

気づいたら、スマホを開いている。
気づいたら、SNSを見ている。
気づいたら、日常のすべてをコンテンツ化しようとしている。

そんな自分を客観的にみて、ゾッとした。

そして、怖くなった。

だって自分では、「仕事」だと思っているから。「今伸びているから、ここで集中して投下した方がいい」と思っているから。「これは必要なことだから」とゆがんた現代の病的な行動を、正当化してしまっていたから。

しかし、ありがたいことに。
体はちゃんとサインを出していた。

発信にのめり込めばのめり込むほど睡眠時間が短くなり、脳が休まらず、朝起きた0.1秒後にはSNSのことを考えている。

これはもう、好きとか努力とかいう美しい言葉でラッピングできる段階ではなく、依存の入口だったとしか言えないのだ。

──

発信が伸びる時、人は中毒になりやすい。

数字が増える。反応が来る。通知が鳴る。誰かが見てくれる。評価される。広がっている実感がある──それらは、強烈な報酬だ。しかも現代は、その甘くてとろける報酬がすぐ手の届くスマホの中で数秒ごとに手に入ってしまう。

私たちの脳は、そんなに頻繁に快感を浴び続けるようにはできていない。狩猟採集時代の脳を持ったまま、秒で報酬が返ってくる世界に放り込まれている。だから、簡単に持っていかれる。意志が弱いからではなく、現代のこの環境が、アナログな人間には強すぎるのだ。

ここを見誤ると、「私ってなんでこんなにスマホ見ちゃうんだろう」「なんで自制できないんだろう」と、自分の意志力と根性論のせいにしてしまう。

でも必要なのは、根性ではなく設計である。ちょうどアンナ・レンブケさん著のドーパミン中毒(新潮新書)を読んでいたこともあり、自分ががっつりと依存症の入り口に片足をいれかけていた(いや両足突っ込んでいた)とハッと気づいたのだ。


そんな自分に気付き、すぐにスマホから全SNSアプリを消すようにしました。投稿する時だけアプリを(めちゃくちゃ面倒だけれど)ダウンロードしなおし、終わったらアンインストールする。夜21時以降はスマホを触らない。少なくとも、そういう物理的な距離を作る。

自分を信じすぎないこと。私たちはそんなに強くないのだ。自分を信じることは大切だが、誘惑の前に置かれた人間の意志力を過信しないことも、同じくらい大切である。脳は結構、いや、かなり弱い。だからこそ意志で変えるのではなく、環境で守ることが必要だ。

──

私は昔から、有名になりたいという欲求が強い。

正直、これを言うのは少し勇気がいる。

だって、なんとなく浅ましく聞こえる気がするから。承認欲求が強い人みたいに思われる気がするから。いや、実際そういう部分もある。ただ、この承認欲求みたいなものがある程度ヘルシーにないと発信活動はできないよな、とも思うのだ。

もっと多くの人に届けたいし、もっと遠くまで言葉を運びたい。誰かの人生の見え方が変わるようなものを残したい。本を書きたいし、自分の思想を、もっと大きな場所へ届けたい。

その欲求は、私の中にずっとある。

そして、そんなことを考える時に特に思うのは、有名になることよりも、有名になっても壊れない自分であることの方が、ずっと大事だということだ。

宝物を手に入れることそのものよりも、その宝物を受け取れるだけの成熟した自分になることの方が、人生において重要だということがアルケミストの著者であるパウロ・コエーリョは言っている。


内面の成熟なしに手に入れた成功は、自分を幸せにはしてくれない。むしろ、その器が育っていないまま大きなものを持ってしまうと、人はそれに潰されてしまう。

だから成功とは、何かを得ることではなく、その現実を生きられる自分になることなのだと私は思うのだ。

発信が伸びる、フォロワーが増える、影響力が大きくなる、誰かに知られる──それら自体は、悪いことではない。あなたの努力の結果に他ならない。でも、それに見合う自分の内側が育っていなければ、光は簡単に刃になる。

注目は、祝福にもなるし、暴力にもなる。
数字は、励みにもなるし、依存にもなる。
発信は、誰かを救うこともあるし、自分を壊すこともある。

だから、発信者に必要なのは、ただ伸ばす力だけではない。

伸びても、自分に戻ってこられる力。
広がっても、自分を見失わない力。
届いても、届きすぎたものに飲み込まれない力。

影響力とは、外側に広がる力であると同時に、内側の自分を保ち続ける力なのだと私は痛烈に感じている。





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