人生は、迷子になった先で動き出す - パリ初買付記録2日目
人生には、時に「迷子」になったからこそ、辿り着ける場所があるらしい。
27歳、初めてのパリ。
希望に胸を膨らませていたはずの私は、スマホの電波もなく、マレ地区の石畳の上で完全に途方に暮れ、立ち尽くしていた。
勇気が出なくて誰にも声をかけられない。
目的の店も見つからない。
このまま、憧れの街で何もできずに終わるのかもしれない……。
絶望的な気持ちでさまよったあの日。
まさかその迷子の先に、私の人生を根底から変える「宝箱」の扉と、運命の出会いが待っているなんて。知る由もなかった。
私のブランドの原点となった、パリでの奇跡のような1日のお話。
この記事は、一度丸ごと私の人生を振り返り、一つの物語に再構築してみようという試みの連載・第9弾です。
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27歳。2016年5月30日。
蚤の市で出会った美しいヴィンテージやヴィンテージアクセサリーをインスタグラムに掲載すると、フォロワーさんから思わぬ反応をいただけた。
「いつ販売になりますか?」
「次のコレクション、楽しみです!」
これまでずっと、なんとか「売れそうなもの」を模索して試行錯誤して作って販売していた。「どうしたら売れるか」に頭を悩ませていた。自分が接客しないと売れない現実に直面し、それは言い換えると、わたしにはデザインのセンスはなく、購入の理由は「私への「応援」の対価でしかない」ということだった。
なのに。
パリのヴィンテージをアップした瞬間、潮目ががらっと変わったのだ。お客様から求めていただけている感覚を得た。
──これだ。
私はそう直感し、個人旅行のつもりで来ていたパリ旅行を、がっつりと「買い付けの旅」にしようと切り替えた。全身にアドレナリンが駆け巡り、エネルギーが無限に湧いてくる。ああ、ワクワクする!
──
蚤の市での素敵な出逢いを経て、わたしはアパルトマンに戻り、仕入れ先を探し始めた。ネットで「アクセサリー パーツ パリ」などのワードで探していく。
ありがたいことに、いくつか古いブログがヒットした。どうやらアクセサリーを作っている女性の買い付け日記のようだ。ありがたいことに、彼女はご丁寧にも、パーツ屋さんの住所、そして名前を全てリストにまとめてくれていた。私は全てのお店をメモ書きし、住所とともに控えていく。Webサイトを探してみるが、全部フランス語なので理解できず諦めた。わかったことは、それらはパリのファッションの界隈と呼ばれる、マレ地区に集結しているらしい、ということだ。
そのメモ書きをもとに、週明けに回ろう、といくつか目星をつける。パリは日曜日、ほとんどのお店が閉まるのだ。
──
週明け、わたしは意気込んでマレ地区に訪れるべく、1番線のオテル・ド・ヴィル駅に向かった。ものの、地上に出るや否やいきなり道に迷う。メモ書きに行きたいパーツ屋さんの住所は書いてあるが、それが地図上のどこにあるかがわからない。
この時にはまだ、現地SIMカードを使う、といったリテラシーがなかった私。高い金額を支払って重たいwifi端末を借りる、というのもケチって選択肢から除外していた。つまり、スマホはあるものの電波がない状態で、wifi難民。なんとかなるだろう、と謎の楽観主義でやってきて、マレ地区界隈らしいところまできたものの、「ここがマレです!」と書かれた看板があるわけでもなく、完全に道に迷った。
誰かに道を聞こうと思うも、チキンな私は勇気が出ない。どうしよう、せっかくここまで来たのに、パーツ屋さんに辿り着けないかもしれない……。
なんと聞いて良いかわからないし、海外の街を一人で歩くのなんて初めてだ。萎縮してしまう。
私の前後左右を行き交う人々の足音が、一層私を不安にさせる。誰もが目的を持って早足で通り過ぎていく中で、私だけが地図のない迷路に取り残されたようだった。一旦wifiを拾うべくカフェに入ってみたいけれど、勇気が出なくて怖くて入れない。
おしゃれなカフェがあちらこちらに存在して、楽しげにそこで会話する人や、エスプレッソを飲みながら読書する人たちを横目に、「いや、でも私喉乾いていないし」と謎の言い訳を自分にしながらカフェの前を通り過ぎる。自分のチキンさにつくづくうんざりする。
道を聞くために誰かに声をかけたい。でも、私の喉はカラカラに乾いて言葉にならない。喉乾いてないんじゃないの、と数秒前の自分にツッコミを入れるが動けないことに変わりはない。内気な自分の性格が、異国の地で、これほどまでに大きな壁になるとは。
パーツ屋さん、辿り着けないかもなあ……、と気分は落ち込みつつも、しかし人生初めてのパリ。適当に歩いてみるか、とマレ地区をあてもなくフラフラと彷徨い、気になったお店にフラッと入ってみる。そんなことを繰り返していると、あっという間に時間が溶けた。
──
午前中からマレに出てきて小腹が空いたので、入りやすそうなデパート、BHV(ベー・アッシュ・ヴェー)に入った。最上階に、カフェテリアがあるようだ。好きなものを選んで、レジで会計をして好きな席に着くフードコート的な場所。ここならいつ来るかわからないウェイターさんをドキドキしながら待って注文する、といったことをしなくてよさそうだ。(フランスでは自分から手をあげてウェイターさんを呼ぶのは御法度らしい)
ここでフランスらしい、ステーク・アッシェ(ハンバーグ)を食べた。わたしの前の人がそれを頼んでいて、とても美味しそうだったので「I'll have the same, please(同じのください)」と数少ない手持ちの完コピされたフレーズを使う。一人で食べるランチは少し寂しくも、ちゃんとオーダーできたぞ、という小さな達成感で嬉しくなる。
──
お腹が満たされ少し気分を取り戻し、BHVの無料wifiを拝借しながら、地図を頭に叩き込み、その方面に再度向かってみることにする。そんなときに、わたしは1件の素敵なブティックに出会った。
そこは、お洋服のショップだった。アクセサリーのパーツ屋さんを探していたので明らかに目的とは違うお店だが、やっぱり好きなものには抗えない。わたしは自然とそのお店に入って行く。
ガイドブックの教えを思い出し、私はたどたどしく「ボンジュール」と日本語訛りにお店のムッシューを見ながら挨拶をした。フランスでは、お店に入る時の挨拶が何よりも大切だそうだ。それをしないのは、とても失礼にあたるという。
おずおずと緊張して入ると、店主がにっこり「ボンジュール!」と勢いよく私の方に向かってきて、フランス語で何かをまくしたてた。フランス語が呪文にしか聞こえない私はポカン、と彼を見つめながら彼の勢いが落ち着くのを待つ。
私がフランス語を理解できないのだとわかると、
「君は日本人だね?」
「隣のお店が日本人の女性がやっているお店なんだ!」
と興奮気味に英語で話してくれる。「そうなんですね」と返事をしつつ、「この後寄ってみよう」と考えながら店内の商品を見ようとすると、「来て!ほら!」と自分のお店そっちのけで無理やり隣のお店に私をひっぱって行く。え、あなたのお店はいいんですか?と彼の商売っ気のなさに呆気とられつつ、それでもなんだかそんな彼のアクションに、心がふわっと軽くなる。街ゆく人はみんなかっこよくてテキパキ歩いていて怯んでしまっていた。でももしかすると、そんなに怖い人たちじゃないのかもしれない。彼の圧に押されるがままについていく。
そして、彼は、彼のお店の隣にある立派なアパルトマンの大きなドアを、なにやらボタンを押して開けた。その重厚な扉は、ガチャっと音を立ててロックが外れ、大きさのわりに軽やかに内側に開く。この中にその日本人女性のブティックの入り口があるらしい。こんなの一人じゃ絶対入れなかった、と彼のボタン操作を見ながら、しみじみ感心する。
中に広がる立派なアパルトマンの内装に圧倒され、動けないでいる私を気にせず、彼はズンズンと中にはいってゆき、左手にあるおしゃれな扉をノックする。フランス語で何かを捲し立てている。この人はとにかく一気に喋り尽くすスタイルらしい。閉じられたドアに向かって話しかける彼の姿を見ながら、こんなの一人じゃ絶対に見つけられなかったな、と、もう一度思う。
──
彼の声が途切れると、がちゃん、と鍵の開く音がして、ゆっくりと扉が開いた。そこから顔を出したのは、とっても素敵な笑顔の日本人マダムだった。
「あら〜こんにちは、日本の方なのね?」
今思い出しても思わずにっこりしてしまう、彼女の素敵な話し方。パリに来てから初めて聞く日本語。どこを歩いてもフランス語しか聞こえてこない異国の地で聞く日本語は、なんとも心を溶かすようなとろける優しさがあった。
「こ、こんにちは!」
緊張しながら私はあわててアパルトマンの中に入り込む。異国の地で日本語が話せる嬉しさと喜びで、これまでずっと押し殺していたものが溢れ出てきそうだ。隣のお店のムッシューは、私と彼女が日本語で挨拶をはじめるやいなや、「じゃ、楽しんで」とでも言うように、ウインクして去っていった。わ、い、今、彼ウインクした!映画でしか見たことない!
「どうぞどうぞ、狭いところだけど、中にお入りになって」
美しい日本語を話す方だ、と彼女のチャーミングな話し方にすっかり魅了される。そして中に入って、息を飲んだ──
なんだ、ここ──
視界いっぱいに広がる、隙間なく天井まで埋め尽くされたレースの山。自分が小さなドールになって、宝箱の中に迷い込んだような錯覚を覚える。不思議の国のアリスは、きっとこんな気持ちだったのかもしれない。なんだここ、なんだこの美しい空間、なんだこの世界!
私がお店に入ると、お店はそれだけでぎゅうぎゅうになった。身動きがとれないくらい、小さい。彼女いわく、「パリで一番小さいお店」らしい。なんて愛おしいんだろう。なんて美しいんだろう。こんな宝箱みたいなお店に出会えた私は、なんて幸運なんだろう。
しばし圧倒され店内をぐるぐると見回す私に、マダムはかまわず話しかけてくださる。
「パリには、ご旅行でいらしたの?」
ええ、と答えかかった私はハッと我に返る。そうだ、仕入れ先、もしかしたら何かご存知かもしれない。
「実は、アクセサリーのブランドをやっていて、あ、といっても始めたばかりなんですけど、今回初めてパリに来て、本当は旅行のつもりだったんですけど、でもせっかくなのでこちらでパーツを買いたいな、と思ってパーツ屋さんに行きたいんですけど、でもどこにあるかわからなくて、道に迷ってしまって、そしたら隣のお店が目に止まって、ふらっと入ったらさっきのムッシューが「隣のお店が日本人の女性だ」ってここへ連れてきてくださって」
わたしは息継ぎもせず、長すぎる一文を一気に捲し立てる。そして、自分がさっきのムッシューとほとんど変わらない話し方をしていることに気づき、可笑しくなる。
彼女は「あら、そうだったの」と「お若いのにねえ。アクセサリーをおやりになってるのね、どんなパーツを探してらっしゃるの?」とご興味を持ってくださる。パリで日本語でやりとりをできるだけで、さっきまでの不安が安堵に変わって、何故だか泣きそうだ。
「ヴィンテージとか、フランスらしいパーツとか、あんまりイメージはないんですけど……」と中途半端な返事をすると、マダムはがさごそと何かを探って、「こういうのとかかしら?」となんとも美しい小さなものたちを見せてくださった。

マダムの手のひらに乗せられたヴィンテージパールは、あまりにも眩しかった。
(……なに、これ……!!)
現代のパールにはない、しっとりとした重みと、長い年月だけが生み出せる深みのある輝き。ピンの黒ずみすら、このパーツが生きてきた時間の証のように見えて、愛おしくてたまらない。
心臓がどくどくと血を送り、全身で沸騰するような感覚。言葉にならない叫びが、体の内側から湧き上がってきた。
「か、かわいい……!こんな美しいもの、見たことがありません!」
ほとんど絶叫に近い私の声に、マダムは
「あら、こういうのがお好きなのね?」
と、優しく微笑んだ。
そして私は、マダムが見せてくださったパーツを全て購入した。なんてついているんだろう!パーツの年代まで聞いて、さらにドキドキした。中には1950年代のものもあった。パリってすごい。60年も前のものが今ここにあるなんて。ヴィンテージってすごい!そして、このパーツの背景を知れるって、すごい!ますます愛おしくなる。
美しいパーツたちを購入し、何度も頭を下げながらほくほくした気持ちで支払いを終える。「東京にお住まいなのね。年に一度、銀座のギャラリーで展示会をしているから、よかったらお越しになって」とマダムはお誘いくださった。
案内をお送りするわね、というマダムに、私は自宅の住所とメールアドレスをノートに手書きで書き、ちぎってお渡しした。「Hitomiちゃんって言うのね」と私の名前を確認しながら、彼女はお店のカードをくださった。そこに彼女の名前があった。「Shigeko」と書かれている。Shigekoさん。わたしはそのカードを大切に、大切にファイルに保管する。私、パリの人と知り合っちゃった!
「このあとはどちらに行かれるの?」Shigekoさんはわたしに尋ねた。
そうだ、リストの買い付け先に行きたいんだった──
私はリストにしていたパーツ屋さんをお見せする。
「ここに行きたいんですけど、スマホが使えなくて、道がわからなくて……。」というと、Shigekoさんは、「あら、この近くじゃない。一緒に行きましょう」と上着を羽織ろうとなさった。
「え、いや、あのShigekoさん、Shigekoさんのお店、営業中だから……」
と言いかける私に「あ、いいのいいの誰も来ないから。あっはっは」とあっけからんと笑いながら私を手招きなさる。「そんなことないですよ!!」と否定するも、しかし案内いただけるのはとてもありがたい。私は何度も何度も頭を下げながら、お店に鍵をかけるShigekoさんのあとについていく。さっきのムッシューといい、Shigekoさんといい、彼らの商売っ気のなさは、フランス人のスタイルなのだろうか。もしかすると、長くパリでお店をできている理由は、ここにあるのかもしれないな、とぼんやりと思う。Shigekoさんはもう、パリで30年近くこのお店を営んでいるらしい。
──
Shigekoさんのおかげで、目星をつけていたパーツ屋さんに無事に辿り着くことができた。本当に近所だった。「私もここ来てみたかったのよ」と私に耳打ちしながら、Shigekoさんはフランス語で何やら店の方とやりとりしてくださる。しばしのやり取りの後、「近くに卸専門のブティックがあるそうで、連れて行ってくださるそうよ。Hitomiちゃん、ついてるわね」とShigekoさんが説明をしてくださった。す、すごい……!数珠繋ぎのようにご縁が繋がっていく。
案内された先はシャッターが閉まっていて、お店のムッシューがシャッターを開けて我々を中に入れてくださった。そこに広がっていたのは、大量のヴィンテージパーツたち。私は絶句した。こんな場所、ブログにも載ってなかった──!
恐る恐るミニマム(最低購入金額)を聞くと、100ユーロ以上だという。当時の日本円で、12,000円くらいだ。私は高速で暗算する。いけるな、買える。このパリの滞在で、10万円は買い付けに使える。はっきり言って、そんなに使って売れなかったら即死亡な計算だが、ギリギリを生きてきていた貧乏な私には「いける」という勝算があった。
このパリのヴィンテージを使って、今日本で流行りつつある「大ぶりアクセサリー」のアイテムをやろう。ちょうどベンチマークしていたブランドが、大ぶりアクセサリーをやって爆発的に売れていた。今までのお花を使ったアクセサリーではなく、この大ぶりアクセサリーをやってみよう。売れるかどうか、わからない。しかも、原価はありえないほど上がる。販売価格もあげなきゃいけないだろう。しかしそんなこと、日本に帰ってから考えればいい。売れるかどうかは問題ではない。売る方法、を考えればいい。
だってこんなチャンス、もう二度とないかもしれないのだ。パリにもう、二度とこれないかもしれない。だから、今買えるぶんだけ、ありったけ買おう。わたしは覚悟を決めた。
Shigekoさんにお礼をお伝えし、私は一人でその空間で没頭してパーツを選び始めた。夢中になって選ぶ。身体からドーパミンが音を立てて溢れてしまうかと思った。お会計をすると、300ユーロちょっとだった。ガラスのものもたくさんあり、手渡された袋はずっしりと重い。手は真っ黒になった。ヴィンテージの買い付けは、とにかく手も服も汚れる。でもそんなこと、全く気にならなかった。わたし、とんでもない武器を手に入れてしまった──!
──
2時間近い時間があっという間に過ぎ、私はShigekoさんにお礼をしに行こう、と急いでお礼のお品を買いに走った。先ほどランチを食べたBHVに入って、パッと目についたマリアージュフレールの、自分が好きなマルコ・ポーロという名前のついた紅茶を買った。こんなのじゃ足りないくらいお世話になったが、何もないよりはマシだ。
Shigekoさんがいなかったら、この素晴らしい買い付けはできなかった。卸の場所に、業者しか入れない場所になんて、私一人じゃ100%入れてもらえるわけがなかった。フランス語も英語もままならない私に、ありえない奇跡が起きた。それはShigekoさんのおかげだ。
わたしはマリアージュフレールの紅茶をプレゼント包装してもらい、Shigekoさんのお店、Chez Dentellesに走って戻った。
大きなドアを開けるためのボタンを押す。重厚なドアが軽やかに開くその様子は、自分がどこか特別な世界に繋がる入り口に立っているような感覚を覚える。まるで物語の中に迷い込む主人公のようだ。パリのアパルトマンの大きなドアを開ける方法を知ったわたしは、ちょっと得意になる。
Shigekoさんのお店には、お客様がいらっしゃった。Shigekoさんは「誰もこない」なんておっしゃったけど、そんなことない。ひっきりなしにお客さんが、この小さな宝箱に吸い寄せられていた。わたしは接客の邪魔にならないように、手短に伝える。
「Shigekoさんのおかげでたくさん購入できました!本当にありがとうございます!これ、ささやかですが、お礼です、ちょっとなんですけど、よかったら」
するとShigekoさんは「ええ!そんなわざわざ。Hitomiちゃん、そんなのしなくていいのよ。せっかくのパリだから、Hitomiちゃんがこれ日本にお土産で持って帰られて」と私が持ってかえることを勧めてくださる。そんな優しさや気づいにも心が震える。「いや、これはShigekoさんに受け取っていただきたくて!」と半ば強引にお渡しし、「本当にありがとうございます!」と私はお店を後にした。
Shigekoさんのお店、Chez Dentelles(シェ・ダンテル)から、オテル・ド・ヴィル駅まで向かう足取りはとてつもなく軽く、私はどうしようもない興奮を止めることができなかった。私はとてつもなく満たされていた。
そしてこの時、わたしは確信めいたものを感じた。
わたしきっと、これからもパリに来る──
今考えても不思議だ。お金はまだまだカツカツだったし、これから始めようとしているヴィンテージアクセサリーなるものが、本当に売れていくかどうかもわからない。でも、この時私は思った。
私はここに、これからも来ることになる──
もう二度と来たくない、と思ったパリに、きっと私は、これからも何度も来ることになるだろう。予感というより、決定されたようなもののように、ストン、と落ちてきた。
──
Shigekoさんとの出逢いは、私にとって、運命をガチャン、と前に勧めてくれるものになった。Shigekoさんにまた会いたい。Shigekoさんに会いに、またパリに来たい。
次なる目標ができた。
パリにもう一度来れるように、売上を作ること。「パリのヴィンテージ」を使ったブランドになること。
一人でパリの街を歩くことが不安だと思っていた私は、すっかりどこかに消えていた。
もう一度、パリに来る。
私はそう心に誓って、すっかり重くなったスーツケースとすっかり軽くなったお財布を胸に、止められない興奮に包まれながら日本へ帰国する飛行機に乗り込んだ。
最悪のイメージで始まったパリは、最高に愛しい場所に変わっていた。
思い切って来て、本当によかった。
またすぐに来ます──
パリでいただいたカードをぎゅっと握りしめながら、飛行機から見えるパリの街に誓った。
<つづく>
執筆後記
初めてのパリ旅行の際に、偶然出会ったShigekoさんは、今でも私がずっとお世話になっている方。私が2度のパリ移住を決めるきっかけの大きな理由に、Shigekoさんの存在があります。それくらい、私の人生を進めてくださった恩人であり、私とパリとのつながりを作ってくださった方。
Shigekoさんとの出会いがなかったら、私はパリのヴィンテージを使ったコスチュームジュエリーブランド、なんてやれていなかった。できなかった。続けられなかった。でも、こうしてご縁ができた。こうして、つながることができた。maruo vintageにとって、大恩人です。
その後、私はいろんな国に買い付けにいくことになるのですが、毎年訪れている場所はパリ以外にありません。それは、パリが好きだから、というよりも、「パリに会いたい人がいるから」というのが、間違いなく大きな理由だったと、今なら理解できるのです。
異国の地で、日本語が話せる嬉しさ。ストレンジャー(外国人)としてその国に訪れ、そんな中で、母国を感じられる瞬間。わたしはこの瞬間に、たまらない幸福を感じていたのだと思います。
もし今、あなたが人生の道に迷い、途方に暮れているとしたら。
どうか、その時間を、恐れないでください。
時には、迷子になったからこそ、辿り着ける運命がある。
あの日のパリが、私にそう教えてくれました。
迷っていなかったら、私は今、ここにいません。
あなたも大丈夫。
きっと辿り着けるから。
▶︎Shigekoさんのお店、Chez Dentellesへ訪問した際のYoutube動画
▶︎ShigekoさんのInstagram
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▼2025年10月18日(土)〜20(日)にmaruo vintage代官山アトリエにてPOPUPを開催いたします。
よければぜひ、お気軽にお立ち寄りください。
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