🟡掌編小説|雨宿り部を作りたい
前作からの続き
「雨宿り部でも作ろうか」とぼくは言った。
***
週末の部活動で温泉郷に行った帰り、なんとなく立ち寄った天乃川神社で急な雨に降られた。
杉の巨木に囲まれた玉砂利の境内を歩いていると、ぼくらはいつになく無口になって、ときどき肩と肩が触れ合う距離で歩いているのに何だかハルが遠くに感じる。
ぼくらは拝殿の軒下に身を寄せ、人気がないのを良いことに、縁側に腰掛けて時を潰した。
***
「雨宿り部でも作ろうか」
ハルが不思議そうな顔でぼくを見ている。
心臓がキリキリする。
「部員が10人集まるとね」とハルが言った。
「うん」
「部室と活動費がもらえるの」
「うん」
「あたしたちはふたり部員だけど、5個作ったら10人とみなして良いってとこまでは交渉した」
でもそれってつまり。活動費があるってハルは言っていたけれど、あれは未来の話であって、本当はハルの持ち出しってことか。
「申請中のものでも1個として数えてもらえるから残りあとふたつね」
交渉力がエグすぎる。
「雨宿り部、行けるかな」
「申請してみる」
***
「お祭り、来月だね」
天乃川神社例大祭。元は旧暦の八月に行われていたが明治以降は新暦の八月となり、近年は諸般の事情により七月に開催される。
本宮の男神が天乃川を挟んで向かいにある別宮の女神を迎えにいくという、この地域にまつわる伝説に基づいた祭事だ。
「ハルはどうするの?」
「浴衣、見たい?」
「それ訊く?」
雨が強く吹きつけて来て、ハルがぼくに寄りかかった。「見たい」が正解だったのだろうか。
***
「元は兄妹だったって知ってた?」
「何が?」
「男神と女神」
「そうなの?」
「お互いに深く愛し合っていたのだけれど、でも兄妹だから仲を引き裂かれてしまうのね。それでどうしたかと言うと、妹は自分の命を絶って、他人として生まれ変わった上で、今度こそ愛する人と結ばれるっていう、そういう伝説らしいよ」
転生してから結婚年齢に達するまでの年月は無視できるほど小さいのだろうか。
「でもそれには続きがあって、ふたりは自分たちがかつて兄妹だったことを思い出すのね。そして周りにもそれが知れてしまって、結局また仲を引き裂かれて。だから妹は永遠に転生を繰り返すっていう、そういう話」
ふたりの年齢差がどんどん開いていくよね?
***
雨はもう上がっていた。
「ぼくらの部活動に服装規定はあるの?」
「ないよ」
「お祭りの日が部活動でも良いよね」
「ハッキリ言いなよ」
「浴衣じゃないなら超ミニで」
「ばか」
***
雨のせいか神社のせいか、はたまたおかしな伝説のせいか、さっきまで遠かったハルが今は少しだけ近くに感じる。
でもハルのやつ、浴衣とか思わせぶりなこと言っといて、当日は普通の格好で来て「期待してた?」とか言いそうだな。
いざそうなったときキョドらないように今から平常心でいる訓練を──
「じゃあ行こっか、お兄ちゃん」
あははは ん? おに……?
(つづく)
🟡1195文字
【補遺】
シリーズ第4弾は謎の「雨宿り部」でした!
お題企画に参加したり、あるいは季節性の連載モノ?を書いていると、気候や天候に関するモチーフが自然と増えてくる。
例えば雨……
締切に間に合えば、近日中にあと1個ありそう。
それはさておき。天乃川神社について少し書いておこう。初出は意外に古く?去年の11月。
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