🟡掌編小説|温泉部を作りたい
前作からの続き
「明日から連休だね」
「そうだね」
「協力してほしい事があるんだけどさ」
「ぼくに? 何で?」
「暇そうじゃん」
「いや暇だけど」
「ありがと」
「協力するとは──」
「あたし温泉部を作りたいんだよね」
「え、え?」
「だから副部長やってよ!」
***
写真部作ったばっかりだよね、とは思ったけれど、よくよく聞いてみればこういうことだった。
部活動申請書は準備してある。設立目的、活動内容、そして写真部とも両立可能な年次計画。部員は2名。ハルが部長でぼくが副部長。顧問は空欄。これを連休明けに提出する際、参考資料として活動イメージを添付したいという。
「明日、綾丸滝湯に行きます!」
「なるほど」
***
という訳で、ぼくらは市役所前で待ち合わせ、天乃川温泉郷行のバスに乗った。
温泉郷には十二の温泉施設があり、そのひとつである「綾丸滝湯」は中でも異色の立ち寄り温泉だ。もとは銭湯で一時期廃業の危機にあったが源泉を引いたことで人気を集め、昔ながらの銭湯スタイルを維持する天然温泉として今も市民に愛されている。とハルが教えてくれた。
けどそんなことは正直どうだって良い。ぼくは言いたくないが拗ねているのだ。あれだけ気のあるふりをして、ハルのやつ、結局バレンタインには何もくれなかったのだから。
***
「あらハルちゃん、久しぶりねえ、ほんとに」と番台のおばさんが言った。「なーに、彼氏と来たの?」
「やだー、そんなんじゃないって。今日は部長と副部長だから」
「ふーん」
「彼氏じゃありません」とぼくは言った。
「あら。こんなこと言ってるけど、どうなの?」
「言わしときます」
***
ハルが銭湯の外観や下駄箱、壁に掛かった彦麻呂のサイン色紙、番台の様子などをデジカメで撮りながらおばちゃんと話している。スマホで良いからそっちも撮っておいてとぼくに声を掛ける。お客さんは撮らないでよ。はいはい。
ぼくは脱衣所のロッカーや扇風機、自販機などを撮った。浴室は湯気がもうもうとして撮れそうもなかったのでガラス戸越しに背景画を撮った。天乃川夜祭の大花火だ。
これはどっちの部活動だろう。
***
取材も終わったしお風呂入ってこ、とハルが言った。おばちゃんこれ二人分。手拭いとバスタオル、シャンプーとコンディショナーもね。いーのいーの写真部の活動費があるから。
ハル、おまえ。
***
至って普通の銭湯だった。
洗い場が十二面あって浴槽の大きい方が適温、小さい方が2〜3℃高めの設定だ。ケロリンの洗面器。女湯とは天井の部分に隙間のある開放型の間仕切りで繋がっている。あっちの音が気になる。
湯船に浸かると身体がじんわりあったまった。
こうしているとバレンタインのことなんて忘れちゃうよなあと思ったけれど、思った時点で思い出しちゃったじゃないか。
ふと、熱いほうの湯船に浸かっているおじさんがぼくを呼んでいることに気づいた。兄ちゃん、あんただろ、呼んでるぞ。「え?」ハルが女湯で叫んでいる。おーい、もう上がっちゃった?
「え、えー、ハル?」
な、なんなんだよ!
「あたし髪乾かすから先出てるけど。ゆっくり入ってて。ちゃんと百まで数えなさいよ!ふふ」
さっきのおじさんがありゃあ尻に敷くタイプだなと言った。ハルのやつ。ぶくぶくぶくぶく。。
***
はあ。こんなんで部活と言えるのだろうか。
(つづく)
🟡1358文字
【附記】
写真部を作ったばかりのハルがまた新しい部活を作ると言う。あざと可愛い爆弾娘の活躍を描くシリーズ第2弾は温泉回!
※サービスカットはございません。未成年なので!
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