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自走する組織のつくり方②|頑張っているから、組織は変わらない

ー 誰も悪くないのに止まる組織の正体

組織が変わらないとき、そこにはたいてい、頑張っている人がいます。
むしろ、みんなが頑張っているからこそ、変わらないことがあります。
200社以上の現場を見てきて、これは一つの確信になりました。

悪意のある人がいるわけではありません。
サボっている人がいるわけでもありません。
みんな誠実に、善意で動いています。

相談窓口を作り、研修を実施し、管理職に丁寧に説明し、
担当者は一生懸命対応しています。
それでも、同じ問題が繰り返される。
なぜか。

善意が足りないからではありません。
善意を組織の動きに変える設計がないからです。
私はこの状態を、「つなぎ目の不在」と見ています。

人は動いている。 制度もある。 対応もしている。
でも、人と人、部門と部門、制度と現場をつなぐ部分が設計されていない。
だから、善意はあっても組織の動きに変わりません。

誰かが気づいている。
誰かが心配している。
誰かが対応しようとしている。
それでも、次に誰が動くのかが決まっていなければ、
問題はその場に残り続けます。

誰も悪くないのに組織が止まるとき、
そこには多くの場合、「つなぎ目の不在」があります。
現場で繰り返し見てきた4つのタイプを、整理します。


タイプ1|対応が、目的になっている

ある企業で、メンタル不調による休職者が増えていました。
経営層はすぐに動きました。人事が中心になって、社内相談窓口を設置しました。案内を作成し、全社員にメールで周知しました。管理職からも「何かあればここに相談してください」と伝えてもらいました。

半年後。窓口への相談件数は、ほぼゼロのままでした。
休職者の数も変わっていませんでした。

「なぜ使われないのか」を掘り下げると、こんな声が出てきました。
「相談したら、上司に伝わるんじゃないかと思って」 
「何を相談していいのかわからなかった」 
「使い方がよくわからなかった」

窓口は作られました。でも、誰がどんなときに使うのか、相談した後どうなるのか、何も設計されていませんでした。
仕組みを作ったことと、仕組みが機能していることは違います。

組織は「窓口を作った」という事実を持っています。
だから「対応している」と感じています。
「あの窓口、本当に機能していますか」と問い直すことが、
担当者の努力を否定するように見えてしまう。

善意で作られた仕組みほど、問い直されにくい。
こうして、対応の記録だけが積み上がります。
現実は動かないまま。頑張ったことが、止まる理由になっていきます。

本当に見るべきなのは、「窓口があるか」ではありません。
その窓口が、必要な人に届いているか。
使った後の流れが見えているか。
相談しても大丈夫だと思える状態になっているか。

仕組みは、作った瞬間に機能するわけではありません。
使われる条件まで設計されて、初めて組織の中で動き始めます。

このケースで切れていたのは、
相談窓口と、相談する人の安心感とのつなぎ目でした。

タイプ2|役割を果たしているのに、つながっていない

別の企業では、メンタル不調者の早期発見に力を入れていました。
人事は毎月、各部署の残業時間・有給取得率・面談実施率をまとめたアラートレポートを管理職に送っていました。不調のサインを早めにキャッチして、手を打つことが目的でした。

「数字が気になる部下には、早めに声をかけてほしい」
というメッセージとともに。
管理職はレポートを受け取り、確認し、
気になる部下には声をかけていました。

でも、現場に聞いてみると、こんな言葉が返ってきました。
「あのレポートが来る頃には、もうみんな知っているんですよね。先月しんどそうだったあの人、やっぱりそうだったか、みたいな感じで」
早期発見のためのアラートが、事後確認のツールになっていました。

人事は毎月、誠実にレポートを作り続けていました。
管理職は毎月、誠実に確認し続けていました。
でも、「早期に動く」という本来の目的は、どこかで失われていました。

誰もさぼっていません。それぞれが自分の役割を誠実にこなしています。
だからこそ、ズレが見えにくい。
「自分はやっている」という事実が、
全体を見る必要性を消してしまいます。
レポートを作ることも、確認することも、間違ってはいません。
でも、それが「早く動く」ことにつながっていなければ、
本来の目的からはずれていきます。

役割を果たしているのに全体が動かないとき、
見るべきなのは役割と役割の間です。
人事が出した情報を、管理職がどう受け取り、いつ、どのように動くのか。そのつなぎ目が設計されていなければ、
情報は流れても行動には変わりません。
このケースで切れていたのは、情報と行動のつなぎ目でした。

タイプ3|頑張る方向が、役割とずれている

ある企業の人事マネージャーは、もともと現場のチームリーダーでした。
チームリーダー時代は、メンバーの顔色をよく見ていました。
誰が疲れているか、誰が悩んでいるか、肌感覚でわかっていました。
その経験が買われて、人事マネージャーに抜擢されました。
でも、300人の組織では、全員の顔色を見ることはできません。

それでも、その方法を続けていました。面談のアポを自分で入れ、
現場に足を運び、一人ひとりと話す。
「ちゃんと把握する」ことへの誠実さは、誰よりもありました。
「現場のことは、現場に確認しないとわかりません」
その言葉は、無責任ではありません。
むしろ正確に把握しようとする誠実さの表れです。

でも、求められていた役割は違いました。自分が把握することではなく、現場が自然に情報を上げてくる仕組みを作ること。自分が動くことではなく、動ける構造を設計すること。

チームリーダー時代には、「自分が気づくこと」が強みでした。
でも、人事マネージャーになった後に必要だったのは、「現場が気づき、上げられる仕組みを作ること」でした。
役割が変わったのに、成功体験だけが変わらないまま残っていたのです。

役割が変わったとき、求められる頑張り方も変わります。
このケースで切れていたのは、現場で気づいたことが、組織に上がっていくためのつなぎ目でした。

タイプ4|気を遣い合って、誰も決めない

ある企業で、あるチームの雰囲気がずっと重いという話がありました。
現場のメンバーは感じていました。でも「人事に言っても変わらないかもしれない」と思って、抱え込んでいました。
人事は気づいていました。でも「現場を信頼して、もう少し様子を見よう」と思って、待っていました。
上位層も把握していました。でも「現場と人事が連携して対応するだろう」と思って、見守っていました。
全員が、相手を思って口出しを控えていました。

その結果、誰も動きませんでした。
半年が経ち、チームから退職者が出ました。
後から話を聞くと、全員が「もっと早く動けばよかった」と思っていました。でも、そのときはそれぞれが「今は動くタイミングではない」と判断していました。

誰も責めていません。全員が善意で、全員が相手を尊重していました。
だからこそ、問題が表面に出てきませんでした。
出てきた頃には、すでに深刻化していました。

相手を尊重することと、
必要なタイミングで動くことは、同じではありません。
配慮する気持ちがあっても、
「誰が動くのか」が決まっていなければ、問題はその場に残り続けます。
動くべきタイミングまで相手任せにすると、組織は止まります。

必要なのは、誰かが強く踏み込むことではありません。
どの状態になったら、誰が、どこまで動くのかを決めておくことです。
このケースで切れていたのは、気づきと行動のつなぎ目でした。

善意は、設計されて初めて動きになる

4つのタイプを並べてみると、共通していることが見えてきます。
どれも、「頑張っている」から止まっています。

窓口を作ったから、問い直せない。
役割を誠実にこなしているから、全体が見えない。
懸命に動いているから、立ち止まれない。
相手を思っているから、踏み込めない。

善意が深いほど、「本当に機能しているか」を問うことが難しくなります。 悪意がないからこそ、止まっていることに気づきにくいのです。
善意は、組織にとって大切なものです。
でも、善意だけでは組織は動きません。

誰が何を見るのか。どの状態になったら動くのか。
誰が次の判断をするのか。
どこまでを現場に任せ、どこからを人事や上位層に上げるのか。
そのつなぎ目が言葉になっていないと、善意は人の中にとどまります。

組織を止めているのは、善意の不足ではありません。
善意が動きに変わる道筋の不在です。
だから必要なのは、もっと頑張ることではありません。
善意が止まっている場所を見つけ、つなぎ目を設計し直すことです。

つなぎ目を見るための3つの問い

組織が止まっているとき、
最初に見るべきなのは「誰が悪いか」ではありません。
どこで善意が動きに変わらなくなっているかです。

1つ目は、「誰が次に動くことになっているか」です。
誰かが気づいた後、誰が判断し、誰が動くのか。
ここが曖昧だと、問題は共有されても前に進みません。

たとえば、現場の雰囲気が悪くなっていることに、複数の人が気づいていたとします。現場のメンバーは「人事も知っているはず」と思っている。人事は「管理職が対応しているはず」と思っている。管理職は「もう少し現場で様子を見よう」と考えている。

この状態では、全員が気づいていても、誰も動きません。問題は、気づいていないことではありません。気づいた後、誰が次に動くかが決まっていないことです。

2つ目は、「どの状態になったら上げるのか」です。
まだ様子を見るのか、今動くのか。
その境目が言葉になっていないと、人は相手を思って待ち続けます。

「少し気になる」段階で上げるのか。
「本人から相談があった」段階で上げるのか。
「欠勤や遅刻が増えた」段階で上げるのか。
この境目が決まっていないと、現場は迷います。

早く上げすぎると、本人への配慮が足りないように感じる。
遅く上げると、対応が後手に回る。
だからこそ、状態の基準を言葉にしておく必要があります。

3つ目は、「作った仕組みが本当に使われているか」です。
窓口を作った。レポートを送った。研修をした。
そこで止まらず、それが現場の行動につながっているかを見る必要があります。

相談窓口なら、どんな相談をしてよいのか。
相談後に誰に共有されるのか。
アラートレポートなら、どの数字を見たら声をかけるのか。
声をかけた後、誰に報告するのか。
そこまで見えて初めて、仕組みは現場の行動につながります。

仕組みは、存在しているだけでは動きません。
使う場面と次の行動が言葉になって初めて、組織の中で機能します。

3つの問いの中でも、最初に見るなら
「誰が次に動くことになっているか」です。
相談窓口が使われていないとき。
レポートが行動につながっていないとき。
現場と人事の間で様子見が続いているとき。
まず見るのは、次に動く人が決まっているかです。

誰かが気づいた後、誰が声をかけるのか。
人事に上げるのは誰か。
上位層に共有するのは誰か。
ここが言葉になっていないと、善意はその場で止まります。

善意を動きに変えるには、誰かをさらに頑張らせるのではなく、
止まっている場所を一緒に見えるようにすることから始まります。
そのとき大切なのは、最初から全社の仕組みを変えようとしないことです。

まずは、いま一番気になっている停滞を一つ選ぶ。
相談窓口が使われていないことでもいい。
 レポートが行動につながっていないことでもいい。 
現場と人事の間で、様子見が続いていることでもいい。

その一つについて、「誰が悪かったのか」ではなく、
「どこで動きが止まっていたのか」を見てみます。
人の意識を変える前に、流れを見る。善意を増やす前に、つなぎ目を見る。

そこから、組織は少しずつ動き始めます。
善意を責める必要はありません。
ただ、善意がどこで止まっているのかを見ることはできます。

あなたの組織で、誰も悪くないのに止まっていることは何でしょうか。
そのとき、次に動く人は決まっているでしょうか。
どの状態になったら上げるのか、言葉になっているでしょうか。
大きな改革でなくても構いません。

まず一つ、止まっている場所を見つける。
そして、次に誰が動くのかを言葉にする。
そこから、善意は少しずつ、組織の動きに変わり始めます。

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