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猫にこんばんは|ショートショート #アマノ文筆クラブ

ワタシが住んでいるオンボロマンションのエントランスの前で黒猫が顔を出し始めたのは、小学生になって初めての夏休みが終わった直後の始業式からだ。

我が家は、どういった理由かは知らないけど、小学生になる直前にお母さんが突如家を出て行ってからはお父さんとの二人暮らし。

お父さんはプロの小説家になろうとしていたが、大企業で正社員として働き家計の収入源だったお母さんがいなくなってしまったから、昼は派遣労働者として働くとともに、夜は週に何日かコンビニ店員として朝方まで働くこともあった。そのときはワタシ一人だけで寝ていた。


そんな環境で迎えた二学期の始業式の日。
小学校から下校してきた時に、マンションのエントランスの前に黒猫がちょこんと座りながらワタシのことをジッと見つめていた。

ワタシもその黒猫を横目で見ながら通り過ぎ、エレベーターの前で振り返ったところ、黒猫がエントランスに向かって座り直して鋭い目線を向けていた。


ーー首輪はなかったけど毛並みがキレイだからどこかの家の飼い猫かな


そのときはそんなことをふと思った直後にすぐ忘れたのだが、次の日からはワタシの脳みそからその黒猫の存在が離れなくなっていた。


初めて見かけて以降、登校時も下校時も必ず座っている黒猫。
最初は何だか監視されているようでちょっと怖いと思ったが、これだけ毎日ワタシを見守っているかのように座っている黒猫にだんだんと愛着が湧いてきた。


そんな日々が一ヶ月ほど続いたある夜。

お父さんが夜間のコンビニバイトに出かけていた後、ワタシは一人寂しくお父さんが用意してくれたカレーライスを食べていたとき、急に瞳の奥が熱くなり、そしてぽろぽろと滴が湧き出てきた。

お母さんがいなくなってからこれまで我慢していたものが、カレーライスを食べた瞬間吹き出してきたのだ。


「お母さん…」


嗚咽を漏らしながらカレーライスを口に詰め込もうとしたその時。


ガリガリガリ


ベランダから何か引っ掻くような音がしてきた。
ここはマンションの五階。
何者かがよじ登ってこられる高さではない。


ーー何の音?


何だか得体の知れない恐怖を感じたワタシは、玄関に立てかけておいた箒を手に恐る恐るカーテンを開けると、


あの黒猫が座っていた。


「わっ!」


ワタシがビックリして尻もちをつくと、黒猫は開けろとばかりにガリガリと窓を引っ掻き出した。


「こら!窓に傷をつけるな!」


窓を思いきり開けると同時に黒猫が入り込み、年季の入った二人掛けのソファーに飛び乗った。


「こんな所までどうやって来たの?」
「まずは先に言うこと、ないですか?」
「はへ?」
「夜に人に会ったら挨拶ってものがありますよね?僕は猫ですが」
「ああ、黒猫さん、こんばんは!」
「こんばんは」
「で、どう登ってきたの?」
「この程度ならお茶の子さいさいですよ」
「ベランダから入ってくるなんていけないことだよ!」


黒猫が喋りかけている。

だが、その時のワタシは驚いた様子を見せずに話しかけていることに、黒猫の方が疑問に思い始めた。


「ちょっと待ってください。僕が喋っていることに驚かないのですか?」
「猫も喋りたい時あるでしょ」 
「いや、ないですよ!もっと驚いてください!」


ワタシの答えにあたふたしながら、その黒猫はあることを提案してきた。


「君がたまに一人で寂しそうにしているのを見ていて放っておけなくなったのです。もし寂しくなったときは是非僕を呼んでください」
「えっ…」
「部屋の中で、「猫さんこんばんは」と呟いてください。そうしたらまたベランダに現れますから」
「…うん、ありがと」


ワタシの瞳からは新たな滴が無数に生まれては両ひざを濡らした。



こうして、夜に一人寂しくしている時は黒猫を呼ぶという生活が始まり、それから十年の月日が経ってワタシが高校生になった今でもその関係は続いている。


だが、疑問がある。

以前住んでいたマンションは五階でそれでもよじ登るのは容易ではないはずだが、今住んでいるのはタワマンの四十五階。


一体どうやって登っているのか?


あと、今更だけど、
あの黒猫の名前、この十年、何にも考えていなかった。


ーーまあいいっか


ワタシは頭の中で考え出した魔法陣を描き、そして心の中で昔から変わらない魔法の言葉を呟いた。




ーーケセラセラ




(1,723文字)



■今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌

■小説専門マガジンに参加中です✨️

■創作系メンバーシップ「虹色創作部」に入部しています🍀



この作品は、甘野充さん企画参加作品です。
今回のタイトルは、【猫にこんばんは】でした😸


今回の物語は、以下の作品に関連しています。

お題企画モノにシリーズ作品はどうかなと思いましたので、作品回収については主催者の甘野充さんに委ねます😌
なお、物語については単体で読めるようにしています。


また、今回のサムネも本編と同様にAlpakaさんからお借りしました🎵

Alpakaさんの初期のイラストですが、自分は今でもこのテイストのイラストがとても気に入っていますし、物語のサムネとしても使用しやすいです🎵

逆に以下のイラストのようなハイレベルになると、とてもではないですが以前のように、

「みんフォトにいっちょ登録お願いします!」

というノリでお願いすることを躊躇してしまいます…イラストと物語の格差が凄くなりそうで💦

あ、決してAlpakaさんが凄すぎて避けているわけではありませんので(笑)、これからも仲良くしていただければ幸甚です。いつもありがとうございます🥹

ここまで読んでいただきありがとうございました🍀


これまでAlpakaさんのイラストをお借りしたショートショート・掌編小説作品はコチラ▽





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