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大地の温もりを噛みしめて|掌編小説 #シロクマ文芸部

空の旅ほど恐怖なことはない
あんな鉄の塊が空飛ぶなんて今だに信じられない


母がこの夏に鳥取と島根へ行きたいと言うから、仕方なく飛行機に乗ることになったけど、ここ数日、緊張で眠りが浅い。

旅行代理店へ予約するのが遅かったせいで、家族とはバラバラの席になり、不安がさらに高まる。


何でこんな気持ちになってまで乗らなきゃいけないの


重い足取りで羽田空港に着くと、沢山の人々がキャリーバッグを引っ張りながらニコニコ顔で歩いている。

家族も旅行が楽しみで、浮かれた表情で観光地での過ごし方を話し合っていた。

対するワタシは顔面蒼白。
会話が耳に入ってこない。


荷物検査が終わり、ついに飛行機に搭乗したのだが、今だに覚悟ができない。


ああ、今感じているこの地球の重力が愛おしい


地に足が付いているこの安心感。

こんなに居心地が良いのに、何故わざわざこんな苦行をしなければいけないの

巷には沢山の鳥取や島根の写真がネット上に溢れかえっているんだからそれで満足すればいいじゃん


「お客さま、シートベルトの着用をお願いします」


ふと見上げると、キャビンアテンダントが笑顔で促してきた。

シートベルトをカチッと付ける手が小刻みに震えていた。



ついに離陸の時。

あまりの怖さに、足が貧乏ゆすりをしているかのように上下に動かす。

窓をチラッと見たら既に滑走路に到着していた。


サヨナラ
愛しの地球よ
重力の温もりよ


目を閉じて、離陸の瞬間を待つ。

すると、轟音とともに飛行機が加速し、身体に強いGがかかる。


は、速い、速すぎる!!
オーバースピードでしょ!!


これまで体験したことがないような加速に、動悸が激しくなり、胸がキリキリと痛みだした。

と思った瞬間、重力に逆らい、空に向けて飛び立つ飛行機。
身体が宙に浮いているような感覚に嫌悪感を抱く。


オギャーオギャー


後ろの席の赤ん坊が突然泣き叫んだ。
ワタシもこの赤ん坊のように泣き叫びたい気分だ。


そこへ突然の急降下。


ひやっ!!


その落ち方が尋常ではないと感じた瞬間、目の前が暗転した。





らん、らんらら らんらんらん
らん、らんらら らん


ナウシカ?
そういえば夏だし金曜ロードショーでジブリ映画をやるんだった


視界がはっきりせずぼんやりとしているが、目の前に触れているものから何だかとても優しい温もりを感じる。


何だろうこれ…


ギュッと抱きしめると、とても肌触りがいい。
さらにギュギュっと抱きしめると、何だか土の匂いがしてきた。


ああ、これはきっと母なる大地の温もりなのだろう
なんて居心地がいいんだ

やはり人間は土から離れては生きられないのよ





「夏帆!夏帆!」


ワタシの名前を呼ぶ声にはっと目を覚ますと、母が懸命に声をかけていた。


「ここは?天国?」
「何言っているのよ。鳥取空港に着いたよ」


母が安堵の表情をしたかと思えば、ばつの悪そうな顔に変わった。


「夏帆!この子にちゃんと謝って!」
「いえ、大丈夫です。怖がっているようでしたから…。その後は寝ていたので」
「本当にごめんね…」


ワタシが母なる大地の温もりと思って抱きしめていたのは、隣席に座っていた同い年くらいの男の子だった。

搭乗したとき、隣が男の子だとも気づかないほど頭が真っ白だったのだろう。


その子と目を合わせた瞬間、顔から火を噴くように真っ赤に染まった。


「ご、ごめんなさい!」
「いや、大丈夫だから、大丈夫大丈夫!」


その子も顔を真っ赤にしながら慌てふためいて両手を振る。


「大地~、降りるよ!」


母の後ろで、女性が手招きしながら名前を読んでいた。


「は~い!では、お母さんが呼んでいるので」


「大地」と呼ばれたその男の子は、お辞儀をすると、手荷物を持って母親のところへ歩いて行った。



「ちょっとここのすなば珈琲でお茶しない?」


到着ロビーのすなば珈琲へ行こうと誘ってくる母。
一方、ワタシはそんな母の言葉なんて耳に入っていない。



心臓のドキドキが止まらず、破裂しそうな感覚。

そう、これがワタシの初恋だった。



(1,591文字)



この作品は、小牧幸助さん企画【シロクマ文芸部】参加作品です。
今回のお題は、【空の旅】でした。


先日、早めの夏休みを取り、家族で山陰地方へ旅行しに行っていましたが、飛行機が苦手なので、乗っている最中は生きた心地がしませんでした💦

そんな気持ちを込めた作品です。
最後の部分はもちろんフィクションです(笑)


それから、毎年恒例ですが、この時期の金曜ロードショーはジブリ映画をやりますね。

自分は「天空の城ラピュタ」が一番好きで、「土から離れては生きられないのよ」のセリフは、シータの名言ですね。皆さんはどのジブリ作品がお好きでしょうか🙂


ここまで読んでいただきありがとうございました🍀


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