SoFiUSDはどの金融圏を築くのか【後編】 ─ 銀行とパブリックチェーンをつなぐ唯一の場所
【シリーズ共通テーマ】
ステーブルコインの未来勢力図 ─ どの通貨がどの金融圏を支配するのか
※以下からの続きとなります。
第1回:ステーブルコインは何種類まで生き残るのか ─ 勝者総取りにならない理由
第2回:なぜStripeは新しいドルを作るのか ─ コリソン兄弟が描く金融インフラの未来
第3回:StripeはなぜPayPalを欲しがるのか ─ 530億ドル買収提案の本当の狙い
第4回:USDT・USDC・共同体型ステーブルコインはどこで生き残るのか
第5回:SoFiUSDはどの金融圏を築くのか【前編】 ─ 銀行預金とステーブルコインが融合する未来
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前回は、SoFiUSDが銀行預金とパブリックチェーンをつなぎ、一人の利用者の金融生活を支える通貨になろうとしていることを見てきた。
最終回の今回は、その視点をさらに広げ、法人金融やGalileo、Mastercardとの連携を通じて、SoFiUSDが築こうとしている金融圏を考えていく。
<個人金融だけでは終わらない>
SoFiUSDの第二の金融圏は、法人金融である。
SoFiは2026年4月、法定通貨と暗号資産を一つの規制された銀行プラットフォーム上で扱う「Big Business Banking」を発表した。初期の参加企業には、暗号資産市場や決済インフラを支える多くの企業が含まれている。
企業にとって、ステーブルコインの魅力は資金管理能力の向上である。決済が即時化すれば、着金待ちや決済待ちの拘束資金を減らし、資金をより効率的に活用できる。これはStripeやBridgeなどが目指している世界でもある。
しかし、企業に必要なのは決済だけではない。資金管理から運用、融資までを一体で支える金融基盤が求められる。ここで銀行であるSoFiの強みが生きてくる。
企業は法人預金を保有し、必要なときだけSoFiUSDとしてオンチェーンへ送り出す。決済を終えた資金は再び銀行へ戻り、運用や融資など次の金融サービスへとつながっていく。
これにより、SoFiUSDは単なる企業間決済通貨ではなく、法人預金・法人融資・資金管理・国際送金をつなぐ、銀行のデジタルな決済レールになる。
<Galileoが外部の金融圏を開く>
SoFiUSDの第三の金融圏は、GalileoやTechnisysを利用する金融機関、フィンテック企業、ブランドである。
SoFiの金融サービス部門が、自社の会員へ商品を届ける表側だとすれば、GalileoとTechnisysは、他社の金融サービスを裏側から支える技術基盤である。その中核を担うGalileoは、2026年第2四半期時点で世界の約1億3,500万口座へサービスを提供している。
Galileoを利用するフィンテック企業や金融機関が、SoFiUSDを決済や送金へ組み込めば、その先にいる利用者にも普及していく。
顧客企業が自社ブランドのステーブルコインを発行したい場合には、SoFiの規制・準備・運用基盤を使うホワイトラベル型の展開も構想されている。
ここで、SoFiUSDの戦略は二層になる。
・一層目:会員や法人向けなど、自社の金融圏にSoFiUSDを組み込むこと
・二層目:GalileoやTechnisysを通じて外部の金融圏に広げること
仮にある金融機関が自社ブランドのステーブルコインを発行した場合でも、GalileoやTechnisys、さらにはSoFi Bankの発行・償還基盤が裏側で使われれば、SoFiはその金融圏の一部を握れる。
競争で勝つ方法は、自分の通貨だけを普及させることではない。競合する通貨であっても、その発行・決済・管理を支える基盤を担えれば、それもまた勝利なのである。
これは、SoFiUSDの発行残高だけを見ていては分からない。SoFiが目指しているのは、SoFiUSDという一つの通貨の成功だけではなく、銀行とブロックチェーンをつなぐ接続部分そのものを事業にすることだからである。
<Mastercardで既存決済網とつながる>
SoFiUSDが普及するには、既存のカード決済、銀行送金、企業会計へ接続していかなければならない。
その意味で重要なのが、Mastercardとの連携である。
SoFiとMastercardは、SoFiUSDをMastercardのグローバル決済ネットワークにおける決済手段の選択肢とする構想を発表した。SoFi自身のカード取引だけでなく、Galileoを利用するカード発行会社や銀行にも、SoFiUSDによる決済を選べるようにする計画である。
またMastercardのマルチトークネットワーク(MTN:銀行や企業が法定通貨、ステーブルコイン、トークン化預金などを安全にやり取りするためのデジタル資産ネットワーク)でSoFiUSDを支え、法定通貨、ステーブルコイン、トークン化預金の相互運用を探るとしている。
ここで、銀行預金とパブリックチェーンが、カードネットワークを介してつながる。
消費者が店舗でカードを使い、加盟店は従来と同じように代金を受け取り、SoFiUSDが決済で使われる。消費者も加盟店も、SoFiUSDという名前を意識する必要はなく、裏側で24時間の決済を支える。
第2回で書いた通り、ステーブルコインが本当に普及するのは、金融サービスへ標準搭載され、利用者が存在を意識することなく使う世界である。Mastercardとの連携は、SoFiUSDがその段階へ進む可能性を示している。
<銀行の内側に閉じない>
大手銀行も、ブロックチェーンを使ったデジタルマネーを開発している。
代表的なのが、J.P.モルガンのKinexysである。大手銀行には、巨大な法人顧客基盤、決済量、規制対応能力がある。機関投資家や大企業の資金移動では、SoFiよりはるかに強い。一方、銀行と関係を持たない人や企業、パブリックチェーン上のウォレットへ広がることはない。
SoFiUSDは、パブリックチェーン上を移動する。利用者はSoFiアプリから外部の対応ウォレットへ送ることができ、2026年6月には機関投資家向け取引所Bullishにも上場した。銀行の信用を持ちながら、銀行の内側に閉じない。
ここにSoFiUSDの異質さがある。
パブリックチェーンへ出た瞬間、銀行の管理がすべての取引へ及ぶわけではない。外部ウォレット間の取引には、秘密鍵の紛失、誤送金、不正利用、スマートコントラクト、ブロックチェーン障害など、銀行預金とは異なるリスクがある。
だからこそ難しい。
銀行の安全性を維持したまま、パブリックチェーンの自由さをそのまま手に入れることはできない。それでも、銀行の入口と出口を厳格に管理し、外側ではパブリックチェーンの相互運用性を利用する。
この両方を成立させようとしている点に、SoFiUSDの挑戦がある。
<今後のステーブルコイン勢力図>
以下は、どの通貨がどの場所で代替されにくくなるかを整理したものである。
・USDT:暗号資産市場、米国外のドル流動性、新興国
・USDC:共通決済資産、複数チェーン、機関金融、オンチェーン金融
・Open USD:Stripeを中心とする企業決済、加盟店、国際商取引
・USDG:参加企業の取引所、ウォレット、決済・金融サービス網
・SoFiUSD:預金、融資、投資、カード、法人金融とパブリックチェーンの接続
・その他:特定企業、特定地域、特定通貨、特定用途
SoFiUSDが握ろうとしているのは、銀行の内側と外側を行き来する場所である。
個人にも法人にも金融サービスを提供するSoFiが、自ら発行したステーブルコインをパブリックチェーンへ開き、さらにGalileo、Big Business Bankingなどを通じて外部金融機関へ届ける。この領域を確保できれば、SoFiUSDは、独自の金融圏を作ることができる。
必ずしも、USDTと流動性を争う必要はない。USDCより多くのブロックチェーンへ展開する必要もない。Open USD・USDGより多くの加盟店を集める必要もない。自らが最も強い場所で、他の通貨には代替しにくい役割を担えばよい。
SoFiUSDが狙っているのは、銀行の信用とパブリックチェーンの自由が交わる場所である。
銀行免許を持ち、預金・融資・個人と法人の顧客を持ち、金融技術を外部へ提供し、自らの通貨をパブリックチェーンへ開く。そのすべてを一つにできる企業は、現時点でSoFi以外に存在しない。
ステーブルコインの未来勢力図でSoFiUSDが握ろうとしているのは、銀行とブロックチェーンを隔ててきた境界線、そのものなのである。
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