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なぜStripeは新しいドルを作るのか ─ コリソン兄弟が描く金融インフラの未来

【シリーズ共通テーマ】
ステーブルコインの未来勢力図 ─ どの通貨がどの金融圏を支配するのか

Open USDが発表されたとき、Circleの株価は急落した。市場が警戒したのは、構想そのものより、その背後にStripeがいることではないだろうか。

2008年、アイルランド出身のパトリック・コリソンとジョン・コリソン兄弟は、eBay出品者向けの管理ソフトを開発する会社を約500万ドルで売却した。二人が共同創業した会社であり、当時まだ19歳と17歳だった。

※Stripe共同創業者の兄パトリック・コリソン(左)と弟ジョン・コリソン(右)

そして、その事業を通じて痛感したのが、オンライン決済の複雑さだった。この経験が、「決済をもっと簡単にできないか」という発想につながり、Stripe創業の原点となった。

かつては、世界中へ商品を販売できるサイトを作っても、簡単に代金を受け取れなかった。インターネット上では商品も情報も国境を越えて瞬時に動く。それなのに、お金は複雑な手続きや国ごとの金融システムに分断されていた。

そのため、企業がオンライン決済を導入するためには、銀行やカード会社との契約を結び、複雑な審査を受け、決済システムを自社のサービスへ組み込む必要があった。

この問題に目を付けたコリソン兄弟は、2010年に米国でStripeを創業した。目指したのは、企業や開発者がオンラインサービスへ簡単に決済機能を組み込める仕組みを作ることだった。

Stripeが画期的だったのは、決済という複雑な金融機能を、開発者が扱いやすいAPIとして提供したことである。APIとは、あるサービスの機能を、別のソフトウェアから呼び出すための接続口である。

企業はStripeを利用し、必要なコードを自社サービスへ組み込むだけで、複雑な処理を気にすることなく、カード決済を簡単に受け付けられるようになった。

<Stripeが押さえた「企業と金融をつなぐ接点」>
Stripeが挑んだのは、決済だけではなかった。

・Payments:クレジットカード・銀行振込などの決済受付
・Billing:定期課金・サブスクリプション管理
・Connect:マーケットプレイス向けの入金・売上分配・送金
・Issuing:Visa/Mastercardブランドのカード発行
・Treasury:銀行口座機能をアプリへ組み込むBaaS
・Capital:加盟店向け融資・資金提供

このように、一つずつ金融サービスの領域を広げてきた。

企業は一度Stripeを導入すれば、さまざまな金融機能を利用できる。これは、ステーブルコインを普及させる上でも極めて強い立場となる。Stripeが各サービスへステーブルコインを組み込めば、企業はブロックチェーンの仕組みを意識する必要はなくなるからだ。

企業は、「顧客から代金を受け取る」「海外の取引先へ送金する」といった機能をStripe上で利用するだけでよい。その裏側で、銀行、カードネットワーク、ステーブルコインなど、どの金融インフラを利用するかをStripeが最適に選択するのである。

<Bridge買収で手に入れたもの>
それでも、従来のStripeだけでは、ステーブルコインを決済インフラへ本格的に組み込むための機能が不足していた。カード決済や銀行振込を処理する技術と、ブロックチェーン上でステーブルコインを発行・移動・交換する技術は異なるためである。

そこで、2025年2月、ステーブルコインによる資金移動インフラを提供するBridgeを買収した。この買収の狙いは、ステーブルコインという新たな資金移動経路をStripeの金融インフラへ組み込むことにあった。

企業にとって重要なのは、「安全に、速く、低コストで資金が届くか」である。その裏側では、銀行、カードネットワーク、ブロックチェーンなどを状況に応じて使い分ける。

StripeとBridgeは、そうした仕組みを企業が意識せず利用できる世界を目指している。

さらにBridgeは2026年2月、OCCから「Bridge National Trust Bank(全国信託銀行)」の設立認可について条件付き承認を受けた。ステーブルコインの発行、準備金管理、カストディを連邦監督下で提供する体制づくりも進めている。

<財布と道路まで自らそろえ始めた>
Bridgeによって、Stripeはステーブルコインを移動させる技術を手に入れた。しかし、デジタル資産を利用するには、資産を保有するウォレットも必要になる。

そこで2025年6月、Privyの買収を発表した。Privyの技術を使えば、企業は自社サービスの中にウォレットを組み込み、利用者に暗号資産やステーブルコインを保有・移動させる機能を提供できる。

さらに同年9月、Stripeは投資会社Paradigmとともに、決済に特化したブロックチェーン「Tempo」を発表した。Tempoは、1秒未満での決済、低コストの大量取引、プライバシー保護、会計・規制対応システムとの接続など、企業決済で必要となる機能を重視して設計されている。

Stripeは、決済の入口だけではなく、
・Bridge:法定通貨とステーブルコインをつなぐ基盤
・Privy:ステーブルコインを保管する財布
・Tempo:ステーブルコインを高速・低コストで移動させる道路

これらを一つずつ揃えてきた。そして、次の決済インフラとしてステーブルコインという「通貨」を取り込もうとしている。

最近では、約4.4億件のアクティブアカウントを持つPayPalに対し、投資会社Advent Internationalと共同で、総額530億ドルを超える買収提案を行ったと報じられている。仮に実現すれば、決済インフラだけでなく、その上で実際に資金が流通する巨大な利用基盤まで手にすることになる。

買収が実現した場合、もう一つ注目されるのがOpen Standardにとって競合となる「Paxos」が発行するPayPalブランドのステーブルコイン「PYUSD」の扱いである。

PYUSDの発行残高は、USDTやUSDCと比べればまだ小さい。しかし、PayPalの巨大な利用基盤へ接続されている点は無視できず、Open USDとの統合まで進めば、ステーブルコインの勢力図そのものが大きく塗り替えられる可能性がある。

DefiLlama Webサイトより抜粋(2026年7月27日執筆時点)

コリソン兄弟が見ているのは、インターネット上で企業がお金を受け取り、管理し、送り、使うためのすべての仕組みである。

BridgeのCEOは、Open StandardのCEOも務めている。そのため、Open USDはStripeグループが主導する構想とみられる。この長期戦略の中に置けば、Open USDも突然現れた新規事業ではない。

Stripeの使命は、「インターネットのGDPを拡大する」ことである。

今やStripeは、約50カ国で企業へサービスを提供し、135以上の通貨や決済手段に対応している。2025年にはStripeを利用する企業が、1兆9,000億ドルもの決済を処理した。仮にPayPalの買収が成功すれば、単純合算ベースで3兆7,000億ドルにもなると言われ、世界最大級のオンライン決済基盤が誕生することになる。

<それでもStripeは万能ではない>
Stripeがあらゆる金融サービスを支配するようにも見える。しかし、銀行ではない以上、多くの場面で銀行や規制を受けた金融機関との連携が必要になる。

Stripeは、複数の企業や銀行をつなぐことに強い。一方、SoFiは、自ら銀行免許を持ち、預金・投資・カード・融資・暗号資産などを直接顧客へ提供している。

どちらが優れているかという単純な話ではない。

Stripeには、世界中の企業へ広げる力がある。
SoFiには、一人の顧客の金融生活へ深く入り込む力がある。

この違いが、将来の金融圏を分けることになる。

<Stripeが作ろうとしているもの>
Stripeは15年以上かけて、企業がお金を受け取り、分配し、管理し、送り、使う入口を築いてきた。そして、ステーブルコインが使われる世界そのものを作ろうとしている。ステーブルコインの勝敗を決めるものが、どの金融インフラへ組み込まれるかだとすれば、Stripeは無視できない企業となる。

Open USDの本当の強さは、世界中の企業のお金が動く経路へ、最初から入り込めることにある。

現時点で、SoFiUSDにとって最も警戒すべきライバルは、Open USDである。

Stripeが築こうとしている金融インフラを考える上で、もう一つ見逃せない動きがある。PayPalに対する530億ドルの買収提案である。次回はシリーズのスピンアウト編として、なぜStripeがPayPalを欲しがるのかをより深堀して考えていく。

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