勝者と敗者に分かれる共同体 ─ Open USDが越えるべき壁
2019年、Facebook(現メタ)が、新しいデジタル通貨「Libra(リブラ)」を発表した。参加企業の顔ぶれは、豪華そのものだった。
世界中で数十億人が利用するFacebookに続き、Visa・Mastercard・PayPal・Stripe・Uberなど、世界を代表する企業が次々と参加を表明し、多くの人が「世界の決済を変える」「世界標準になる」と思った。

しかし、Libraは今、存在しない。最終的には事業そのものが終了した。
最大の理由は、各国の規制当局から強い反発を受けたことだ。だから単純にOpen USDと比較することはできない。
しかし、一つの重要な教訓を残した。「有力企業が集まる=成功」ではない。
今回、Open USDについて、140社を超える企業が参加している点が注目される。しかし、有力企業が集まるだけで、プロジェクトの成功は約束されない。
その成否を分けるものは何か。
<成功した共同体(コンソーシアム)に共通するもの>
世界を変えた共同体は少なくない。
世界中のサーバーで使われるLinuxは、世界中の企業や開発者が協力しながら改良を重ねてきたOSである。Bluetoothも同じである。スマートフォン、イヤホン、パソコンなどを相互に接続できるのは、多くの企業が共通仕様を採用しているからだ。国際送金インフラのSWIFTも、世界中の金融機関が参加することで、事実上の標準となった。
LinuxやBluetooth、SWIFTの成功は、単に技術が優れていたからではない。Linuxより扱いやすいOSは存在した。Bluetooth以外の無線通信技術や、SWIFTより安価な送金手段も存在する。
それでも、これらが標準になったのは、「参加した方が得」という段階を越え、「参加しない方が不利になる仕組み」を作ったことにある。
Linuxは企業がゼロからOSを開発する必要性をなくした。クラウド・AIを手掛ける企業にとって、今や競争力の前提となる基盤である。Bluetoothも同様だ。Bluetoothに対応しない製品は、選ばれにくくなる。SWIFTも、参加しない銀行は海外の金融機関との接続で不利になり、商売が難しくなる。
<ネットワーク効果が共同体を支える>
利用者が増えるほど価値が高まり、価値が高まるほどさらに利用者が増える。これがネットワーク効果である。一定の規模を超えると、「便利だから使う」から「使わなければ不利」へ変わる。
この転換点を越えたとき、共同体は理念を超えて、経済合理性によって維持されるようになる。
<共同体にも中心は必要である>
共同体モデルは、全員が平等に話し合うだけの組織ではない。
LinuxにはLinux Foundationがあり、BluetoothにはBluetooth SIGがある。SWIFTにも明確な運営主体が存在し、ルール整備やシステム運営を担っている。
参加企業が増えるほど、利害の調整や意思決定は難しくなる。だからこそ、最後は意思決定する中心が必要になる。共同体であることと、中心が存在しないことは別である。
<Open USDの中心はStripe/Bridge連合か>
Open USDには、多くの有力企業が参加している。中でも特に注目したいのがStripeである。
Stripeは、未上場ながら約1,590億ドル(約25兆円)の企業価値で評価され、世界中のオンライン決済を支える。さらにBridgeを買収したことで、ステーブルコインの発行・流通基盤まで手に入れている。加えて先日、約4.4億のアクティブアカウントを持つPayPalに対し、投資会社と共に買収提案を行っている。
つまりStripeは、オンライン決済の入口、ステーブルコインの発行基盤、そして世界中へステーブルコインを届ける流通基盤、その三つを一体で押さえようとしている。
そして、Open StandardのCEOにはBridgeのCEOが就任している。少なくとも現時点では、Bridgeが共同体の中心的な役割を担う可能性が高い。
これはOpen USDにとって、一つの強みとなる。明確な運営主体が存在すれば、方向性を示し、責任を持ってプロジェクトを前へ進めやすくなる。
一方、Bridgeの存在感が強くなるほど、「実質的にはStripeグループが主導するプロジェクト」という見方も出てくる。共同体である以上、一社が過度な主導権を握るようになれば、他の参加企業との利害対立や反発を招く可能性もある。
リーダーシップが弱すぎても共同体は前へ進まない。逆に強すぎても共同体としての求心力を失う。この絶妙なバランスを保てるかどうかも、Open USDが成功するための重要な鍵になる。
<共同体の上に経済圏を作れるか>
成功した共同体は、その土台の上に、多くの企業が商売できる環境を作った。Open USDも、決済・金融商品・法人向けサービスなどを通じて、企業が利益を生み出せる世界を作れるかどうかである。
IBMと海運大手Maerskが推進したTradeLensは失敗に終わった。TradeLensは、ブロックチェーンを活用して世界の物流を効率化する構想だった。しかし、十分な参加企業を獲得できず、サービスは終了した。
欧州の大手銀行が共同で設立したwe.tradeも、新たな貿易金融インフラを築こうとしたが、十分なネットワーク効果を生み出せず、事業は終了した。
どのプロジェクトも、技術力や参加企業の知名度では決して劣っていなかった。それでも成功できなかった。
成功した共同体は、「存在しなければ困る世界」を作ることができた。一方、失敗した共同体は、「なくても何とかなる世界」から抜け出せなかった。
現時点で、Open USDが成功するかどうかは分からない。しかし、成否を決めるのは、多くの企業がOpen USDの上で事業を始め、やがて「参加しなければ不利だ」と感じる段階まで成長できるかどうかである。
<次回>
同じ共同体型ステーブルコインでも、Open USDとは異なるアプローチを取るのがGlobal Dollar Network(ステーブルコイン「USDG」を中心とする共同体)である。
Open USDより先に立ち上がり、発行残高を着実に伸ばし、参加企業も増え続けている。そして、参加しない方が不利になる経済圏という点でも、少しずつ形が見え始めている。
Open USDが未来への挑戦なら、USDGは現在進行形の挑戦と言えるのかもしれない。
では、USDGは本当に共同体として成功し始めているのか。そして、SoFiUSDにとって本当の強敵は、Open USDか。それともUSDGか。
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