USDT・USDC・共同体型ステーブルコインはどこで生き残るのか
【シリーズ共通テーマ】
ステーブルコインの未来勢力図 ─ どの通貨がどの金融圏を支配するのか
※以下からの続きとなります。
第1回:ステーブルコインは何種類まで生き残るのか ─ 勝者総取りにならない理由
第2回:なぜStripeは新しいドルを作るのか ─ コリソン兄弟が描く金融インフラの未来
第3回:StripeはなぜPayPalを欲しがるのか ─ 530億ドル買収提案の本当の狙い
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現在のステーブルコインは、基本機能だけを並べれば、大きな違いはない。それでも、同じように使われるわけではない。先に大きな流動性を築いた通貨が圧倒的に有利である。しかし、流動性だけですべてが決まるなら、USDT以外のステーブルコインが成長する余地はほぼない。
現実には、USDCは独自の地位を築き、Open USDやUSDGのような新しい企業連合も市場へ参入している。そこには、それぞれ異なる戦略がある。
<USDT:流動性そのものが信用になる>
USDTは長年にわたり、高い流動性を持つ基軸通貨として利用されてきた。この「流動性」こそが、USDTの最大の強みである。
USDTを利用する全員がTetherを深く信頼しているとは限らない。
それでも使われるのは、多くの市場参加者が受け入れ、必要なときに交換できるという「市場の信用」が形成されているからである。つまり、流動性そのものが信用の一部になっている。
そのため、新しいステーブルコインがUSDTを上回るには、安全性を証明するだけでは足りない。USDTを利用する取引所、ウォレット、マーケットメーカー、利用者がいる限り、流動性は失われないからだ。
したがって、暗号資産市場や新興国でのデジタルドル利用では、当面USDTが強い地位を維持する可能性が高い。
一方で、企業や規制を受ける金融機関は流動性だけで通貨を選ぶことはないため、USDTがすべての金融圏を支配することはない。
さらに、米国ではGENIUS Actへの対応がリスクとなる。同法は遅くとも2027年1月に施行され、その時点から米国では無許可でのステーブルコイン発行が禁止される。一方、既に流通している無許可発行体のステーブルコインについては、米国の暗号資産取引所などによる取扱いが2028年7月まで経過措置として認められるが、その後は原則として認められなくなる。
それまでに、Tetherが外国発行体として必要な要件を満たせなければ、米国の暗号資産取引所などはUSDTの取扱いを継続できなくなり、USDTは米国内でのシェアを一気に失うリスクがある。
Tetherは対策として、米国法に準拠したステーブルコイン「USAT」を2026年1月に投入しているものの、現在まで利用率は低い水準にとどまっている。
<USDC:どこへでもつながる通貨を目指す>
USDTが既存の流動性によって選ばれる通貨だとすれば、USDCは規制対応と相互運用性によって、金融サービスへ組み込まれる通貨を目指している。
Circleが力を入れているのが、異なるブロックチェーンの間をつなぐ仕組みである。資金が別々のブロックチェーンへ分散すれば、流動性も分断されるからだ。
そこでCircleは、異なるブロックチェーンの間を、ネイティブなUSDCのまま移動できる技術を開発している。狙いは流動性の向上だけではない。USDCをブロックチェーンに依存しない、金融サービス横断型の決済通貨に育てることにある。
USDTが「最も取引しやすい通貨」だとすれば、USDCは「最も組み込みやすく、つなぎやすい通貨」を目指している。
一方で、Circleの課題は、収益の大半を裏付け資産の運用収益に依存している点にある。事実、売上のほぼすべてがReserve Income(裏付け資産からの運用収益)によって生み出されており、その他の収益源はほとんど育っていない。このような収益構造では、低金利時代には収益力が急速に低下する可能性が極めて高い。

<Open USDとUSDG>
TetherやCircleなどの発行体は、利用者から預かった裏付け資産を運用し、その収益を得ている。一方、Open USDとUSDGは、収益の大半を参加企業へ分配する仕組みを採用し、一緒に育てる共同体型のエコシステムを目指している。
両者は運営主体こそ異なるものの、取引所、決済会社、銀行、ウォレットなど、多様な事業者が参加する共同体を形成し、ステーブルコインの利用領域を広げようとしている点は共通している。
USDGの中心にいるPaxosは、規制対応型ステーブルコインの発行・管理を強みとし、その発行基盤を軸に利用先を広げている。一方、Open USDの背後にいるStripeは企業決済が出発点である。すでに企業のお金が動く巨大なインフラを持ち、そこへステーブルコインを組み込もうとしている。
つまり、USDGは「通貨から利用先を」、Open USDは「利用先から通貨を」広げる戦略と言える。
◆勝敗を決めるのは「標準搭載」
両者とも、多くの企業が参加する共同体であることも前面に打ち出している。
しかし、「参加=実装」ではない。「有名企業が参加した」というだけで、成功すると判断してはいけない。Open USDとUSDGの両方に参加する企業も存在する。
そのため、勝敗を決めるのは、どれだけ多くの企業のサービスへ標準搭載され、利用者がステーブルコインの存在を意識しないまま使い続ける世界を築けるかである。
◆共同体型という席は、一つしかないのか
Open USDとUSDGが競争するからといって、どちらか一方が消えるとは限らない。第1回で見たように、金融インフラは地域や規制、利用企業の違いから、単純な勝者総取りになりにくい側面を持つからである。
一方、両者が共存したとしても、同じ規模で並び続けるとも限らない。企業決済ではOpen USD、取引所やオンチェーン金融ではUSDGというように、それぞれ異なる金融圏を築く可能性もある。
しかし、それは最初から用途が分かれていたからではない。同じ市場を争った結果として、得意な金融圏が形成されるのである。
なお、USDCと同様に、低金利時代には分配できる収益が縮小し、共同体としての求心力が弱まる可能性がある点は、Open USDとUSDGの双方に共通する課題として残る。
<生き残る通貨と、消えていく通貨>
ステーブルコイン市場には、今後も銀行や決済会社、暗号資産取引所、カードネットワークなど、多くの企業が参入してくるだろう。
しかし、発行できることと、生き残れることは違う。
USDTには圧倒的な流動性があり、USDCには相互運用性を武器に、複数のブロックチェーンや金融サービスをつなぐ力がある。また、Open USDにはStripeが築いてきた企業決済インフラが、USDGにはPaxosが培ってきた発行・規制対応の実績という強みがある。
では、SoFiUSDは何が違うのか。
SoFiUSDは、発行体のSoFiが、預金・投資・融資・決済などの金融サービスを一体で提供し、その中核を担う通貨として設計されている。Open USDやUSDGが「みんなで広げる通貨」なら、SoFiUSDは「自ら使う場所を作れる通貨」である。
銀行と金融サービスを垂直統合するモデルは本当に競争力を持つのか。そしてSoFiUSDは、Stripeという最強のライバルと、どの金融圏を奪い合うことになるのか。あるいは共存できるのか。次回、その行く末を占っていきたい。
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