なぜMastercardはSoFiUSDを採用したのか ―金融インフラをめぐる戦いが始まった―
先日発表されたSoFiとMastercardの提携は、
・Mastercardのカード決済と、
・Mastercardが推し進めるMTN(マルチトークンネットワーク)上で、
「SoFiUSDが使えるようになる」といった単純な話ではない。
重要なのは、
・単に迅速な決済だけでは不十分で、
・責任ある形で流通・清算に使えるステーブルコイン
をMastercardが採用しているという点である。
すなわち、
・責任構造が明確で、
・特定の組織に閉じないパブリックなネットワーク上で流通できること
といった条件を「SoFiUSD」が満たしていることを示している。
本稿では、なぜ今回の提携において、USDT(Tether社)/USDC(Circle社)ではなくSoFiUSDが採用されているのかを整理していく。
◆MTN(Multi-Token Network)とは
MTNとは、
・銀行預金、ステーブルコイン、トークン化された資産などを、
・企業間、銀行間(B2B)で安全に動かすためのネットワークで、
清算の仕組みをより効率化するための取り組みだ。
というのも、現在のB2B決済では、
・複数の金融機関、コルレス銀行(中継銀行)が取引に介在し、
・照合作業、営業日、時差、規制対応などが要因となり、
遅く・不透明で・高コストな構造になっている。
しかし、企業や銀行が求めるのは、単に「速く動くお金」だけではない。
「責任を持って扱える」かという点である。
この視点に立つと、「清算」で問われる本当の条件は、次の3つに集約される。
・どの時点で決済が法的に確定するのか
・最終的に誰が価値を保証するのか(破綻リスク)
・不正や制裁違反が起きたとき、誰が責任を負うのか(AML/KYC)
※当然、カード決済の清算においても、同様の条件は重要になってくる。
ここにおいてSoFiUSDの強みが一気に浮かび上がる。
◆決済の完了
ブロックチェーンの文脈では、
・ブロックが承認され、台帳に記録された
という意味で、取引が確定したと語られることが多い。
しかし本当に重要なのは、技術的な確定というよりは、
どの時点で、“法的に”取り消し不能と言えるかである。
企業間取引では一回の送金が数千万ドル、数億ドル規模になることも珍しくない。
その資金が
・あとで争われる可能性がある
・契約上は別解釈もあり得る
となるだけで、実務では使い物にならない。
USDTやUSDCも、確かに迅速な決済を可能とする。
しかし、発行体の利用規約・償還条件・凍結権限などに大きく依存し、既存の法制度の中で、決済が自動的に整理されるわけではない。
一方、SoFiUSDは、「決済を既存の金融法制の枠組みに沿って整理しやすい」という点が強みとなる。
◆破綻リスク
ステーブルコインは「1コイン=1ドル」と言われる。
しかし、その1ドルは、誰が保証できるのか。
USDT/USDCは、FRB口座に直接裏付け資産を持てない以上、1ドル割れの可能性を構造上、常に内包している。
企業間取引では一回の送金が巨額になることも多く、万が一の場合であったとしても、決して許されることではない。
また発行体が破綻した場合でも、公的な保険制度は存在しない。
・保有する準備金は「破産した会社の財産」として差し押さえられ、
・裁判所が整理を終えるまで、資金は凍結される。
・最悪の場合、満額の返済はなく、返金にも年単位の時間がかかる。
一方、銀行型ステーブルコインは、裏付け資産をFRB口座に直接保有することが可能なため、1コイン=1ドルから乖離する合理的な理由がない。
また銀行が発行主体であることは、「破綻時の処理が、既存の銀行規制・監督の枠組み内に入ること」を意味する。
米国においては、銀行が破綻した場合、FDIC(連邦預金保険公社)が即座に介入し、法的責任の下、預金者あたり原則25万ドルまでを数日以内に保護・払い戻しを行う。
さらに、銀行の破綻処理は、一般企業の倒産手続きとは別の高速なルートで行われる。他の銀行への事業譲渡などが週末に行われ、月曜日に通常通りお金を引き出せることも珍しくない。
すなわち、銀行が発行主体であることで、少なくとも既存の銀行規制・破綻処理の枠組みの中で整理されやすい。
Mastercardにとっては、万が一のときでも「法律と当局」の枠組みの中で処理されるという安心感につながる。
逆に、USDT/USDCにはそれがない。
◆AML(資金洗浄防止)/KYC(本人確認)
暗号資産の世界では、「送金できるかどうか」が技術的に語られることが多い。
しかし銀行や企業にとって重要なのは、
・この相手は本人確認済みで、制裁対象ではなく、
・契約目的に照らして妥当で、送金が許容される
と事前に説明可能かどうかである。
USDT/USDCのようなステーブルコインは、一定のブラックリスト管理や凍結機能はあるものの、「問題発覚後の事後対応」となる場合も多く、“事前統制”にはなりにくい。
これに対し、銀行型の発想は逆である。
銀行型ステーブルコインであれば、銀行水準のAML/KYC責任から
・送信者、受信者は誰か
・その地域は許容されるか
・その用途は適切か、制裁や疑わしい取引の兆候はないか
を、送金前に確認する責任を負っている。
この差は、企業間決済や金融機関決済で圧倒的に効いてくる。
◆まとめ
本当に求められるのは、「責任を持って流通可能な通貨」である。
今回、Mastercardの枠組みにおいて、その条件を満たす通貨としてSoFiが発行するSoFiUSDが採用されている。
もっとも、今回の提携は、現時点で短期的な収益として現れるものではない。
SoFiUSDを利用したMastercardのカード決済も、MTNも、まだ初期段階にあり、本格的な利用拡大はこれからのためだ。
しかし、将来の資金移動インフラの中核となり得る領域に、SoFiUSDがポジションを確保したという点に意味がある。
そのため、中長期では、評価軸が変わる可能性がある。
Mastercardとの提携により、「金融インフラ企業」としての側面が強まる。
もしSoFiUSDが決済や送金の基盤として利用されるようになれば、収益は個別サービスではなく、ネットワークそのものから“継続的に”生まれる構造へと変わる。
これはスケーラビリティが極めて高く、従来の銀行モデルとは異なる成長軌道を描くことを意味する。
これまでステーブルコインに関する記事の中で、私は繰り返しSoFiUSDの強みを書いてきた。また、要件が厳しくなればなるほど、SoFiUSDが選ばれやすくなるとも一貫して指摘してきた。
今後、競合が出てこないと言っているわけではない。
しかし、現時点では「銀行監督下・パブリック型」という条件を同時に満たすステーブルコインは、SoFiUSD以外に確認できない。
この状況が続く限り、これからもMastercard同様、SoFiUSDを採用する企業が出てくる。それは、SoFiUSDが高い競争力を持つからこそ起きる必然である。
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