クライアントの前で描いたラフ公開|巨大看板イラストの構図設計とは?
前回の記事では、福岡・天神のど真ん中に掲出された新天町の巨大イラストについて書きました。
クライアントからラフ公開の承諾を得たので、今回はその続きとして、このイラストがどのようにして出来上がったのか、ラフラフ → ラフ → 着色ラフ → 最終ラフ → 完成 までの制作過程を紹介したいと思います。
最初のラフは、アトリエではなく、クライアントの目の前で、直接話を聞きながらその場で描きました。
巨大看板のイラストは、スマホで見るようなイラストとは少し作り方が違います。まず考えるのは、
・遠くから見ても伝わる
・パッと見ただけでも意味がわかる
です。街の雰囲気に溶け込みつつ、悪目立ちせず、なおかつ目を引く必要があります。
① クライアントからの要望
今回のイラストは、クライアントからご依頼のメールの段階で、次のような要素を入れてほしいというご要望がありました。
・ 80周年
・メルヘンチャイム(新天町のシンボル的からくり時計)
・どんたく(三十三羽鶴)
・山笠(子供山笠)
・にぎわい
・感謝
こうして並べてみるとわかる通り、要素はやや多めです。どんたくや山笠は祭りなので、どうしても描く人物の数が増えます。しかし、巨大看板なので、要素を入れすぎると散らかるし、削りすぎると何を描いているのか意味が伝わりません。バランスをどう取るかが最初のポイントです。
② ラフラフ(打ち合わせラフ)
これはクライアントとの打ち合わせの最中に、その場で描いたラフです。
クライアントの話を聞きながら、想いの熱量が高いモチーフを優先的に配置していきます。目の前で描くことの利点は、意識の差をその場で埋められる圧倒的なスピード感です。

また、その場での会話から、当初想定してなかったモチーフを引き出すこともできます。センター下部にいるピエロのどんたくんは、まさに会話の中から引き出されたモチーフです。彼は、メルヘンチャイムのカラクリから登場するピエロで、イベントがあると着ぐるみになって新天町に登場するキャラクターでもあります。

街中の巨大看板の場合、重要なのは、スマホの画面で見るような細かい描写ではなく、チラッと目に入った際に一瞬で内容が伝わる構図です。そこで、
・80周年を中心に大きく
・メルヘンチャイムをシンボルに
・祭りの要素を周囲に配置する
という構図をその場で組み立てていきました。お気づきかもしれませんが、この段階では、「新天町」という文字は入っていません。
③ ラフ(構図の整理)
ラフラフを元に、簡単にペン入れをしたラフです。
この段階で「新天町」のロゴを入れ込みました。私個人の印象では、このロゴは新天町のどこの入り口から入っても目につくロゴで、新天町=このロゴとして刷り込まれています。また、新天町と80を組み合わせることにより、新天町80周年というメッセージをより明確に伝えることができます。
メルヘンチャイム、80、新天町、を真ん中に据え、
・どんたく(三十三羽鶴)
・山笠(子供山笠)
など、人数や書き込む要素が多いモチーフを、両サイドに配置しました。
ここでは構図の整理と同時に、
ピエロの位置を検証しています。


このピエロ(どんたくん)をどこに配置するかで画面の印象が大きく変わります。A案とB案を作り、バランスを見て検討しました。
雑踏の中では、人は視線を感じると無意識にそちらを見てしまいます。そのため、ピエロの視線をこちらに向けたA案の方が、看板として機能するだろうと判断しました。
④ 着色ラフ
次は色を入れたラフです。
今回のイラストは要素が多いため、色数を制限しつつ、邪魔になりすぎない範囲で強い色の配色を意識しました。
これもまた、遠くから見た時でも意味を伝えるためです。
そこで、基本的には
・ベースカラー(白)
・どんたくんと、その他2体のピエロに使われている配色(赤、黄色、青、ピンク)
・グレー
で構成しています。ここでも引き続き、ピエロの位置をA/Bで検証しました。


もろもろ検証した結果、やはりどんたくんは、主役の一人でもあるので、センターにドンといてもらうのが一番収まりが良いという結論に至りました。
⑤ 最終ラフ
こちらが最終ラフです。

実際の掲出イメージを確認するために、
・仮コピー
・ロゴ
も入れています。
看板の仕事では、絵だけでなく文字とのバランスも重要になるため、完成イメージに近い状態でラフを作ります。また、この段階で、時計が指している時間を、ロゴと同じ80周年に合わせた8時にしています。
⑥ 現地合成イメージ
この段階で、おおよそのラフが固まったので、現地写真にラフをはめ込み、実際に掲出された時のイメージを確認します。
巨大看板の場合、
・周囲の建物
・視線の高さ
・人の流れ
によって見え方が大きく変わります。また、PCのデータ上で見るのと、実際に掲出された状態で見るのとでは、イメージが変わる可能性があるため、この段階で「遠くから見ても内容が伝わるか」をチェックします。
また、この画像を作成することにより、クライアントも完成時のイメージを想像しやすくなります。



合成イメージを作成したことにより、ラフの段階でも、80と新天町は目に入ることがわかりました。駅前で人通りが多く、待ち合わせに使われる場所でもあるので、まず80と新天町が視認されることが必要です。どんたく(三十三羽鶴)、子供山笠、など細かい部分は、興味を持って、じっくり見てくださった方々が、気づかれた際の楽しみにもなります。
⑦ モチーフの資料
(資料画像:時計台、ピエロなど)
イラストの中には
・メルヘンチャイム
・ピエロ(どんたくん、他2体)
・鐘をつく家族
など、新天町を長年利用している人なら、ピンとくる象徴的なモチーフを組み込んでいます。これらは、実際に現場を歩き回り写真を撮って資料を採集し、街の雰囲気が伝わるようにデザインしています。



また、実際の大きさにとらわれない表現ができるのが絵のいいところなので、おめでたさの意味でも、三十三羽鶴の頭の飾りの鶴を大きく両脇に配置しています。
⑧ 清書・色校
ラフをクライアントに確認していただき、OKが出たので、清書したものがこちらです。

旧ロゴをどんたくんが持っているしゃもじに入れるなど、ラフ確認の段階で発生した追加のアイデアを盛り込み、犬の位置や、ピエロの位置を調整しました。
視線誘導
加えて、絵の隅々まで見たくなるような視線誘導を絵の中に施しています。

こちらに、ロゴとコピーが入ったものを、実際に掲出するシートと同じ素材にプリントし、色校(色校正…印刷物が指定した色で刷り上がるかを確認するために、試し刷りをしてチェックすること)をしたものが、掲出されます。
色校の実物がこちらです。

作業が終わった後に、新天町さんの額縁屋さんで額装していただきました。
⑨ 掲出
約 6000mm × 4000mm のシートにプリントされたものが、高所作業の方々によって設置されていきます。1日に2枚を張り替えるのは、朝から夕方まで1日がかりの作業です。


しかし、こんな高所でロープをつたっての設置作業。まさに職人技です。私のようなデータで描くタイプの絵は、この方達がいらっしゃらないと成立しません。その道のプロフェッショナルの方々が、完璧に設置してくださるのは、本当に恐れ多くありがたいことです。
⑩ 完成・反応
掲出が完了したものがこちらです。


繁華街の中の絵として、存在感を漂わせつつ、街の雰囲気に馴染んでいます。


パッと見でメッセージを伝えるイラストにできているか、距離をとって歩きながら確認します。

気になっていた岩田屋本店前の交差点からも、80、新天町、どんたくんの視線を感じることができます。

今日お見かけしました!岩田屋前交差点にいる時点でもうハッキリ目立って見えてて素敵…!! https://t.co/ygcrQMmHeV
— withxISM✨こがりょうこ (@withxism) March 5, 2026
実際、岩田屋前交差点にいる時点でもうハッキリ目立つというコメントもいただきました。
SNSでの反応
掲出完了後、SNSでもこのイラストがUPされるようになりました。イラストが新天町という街のアイコンとして機能しているという証拠です。
新天町の広告かわいい!!!!#今日の福岡 pic.twitter.com/xsEfQpRTZ2
— 舞鶴よかと🍜🐣✈️ (@yokato_ch) March 8, 2026
新天町フォー! pic.twitter.com/kYFtdQrkzZ
— ふたつで十分ですよ! (@kageki2019) March 9, 2026
#761daytime
— ⚡️🎩🏓まつだですがなにか?🍑🍎🎻🎙️🎸 (@matsu_take_2018) March 16, 2026
自分もよく行く新天町一帯をお勧めします
昔を知ってるわけではないんですが、庶民的な商店街の雰囲気が漂い、その中に新しい店も入ったりしていて歩くだけでもいいです
食べるのに飽きたらフカヤさんで一服☕️もいいと思います
近い将来再開発が始まりますので今のうちに… pic.twitter.com/PaDZYiBw65
イラストが街の顔となり、メッセージを伝えるメディアになっています。街を歩く人の目に少しでも楽しい風景として映っていたら嬉しいです。それでは、最後に最初のラフを最終形を見比べてみてください。


それでは、今回も読んでいただきありがとうございました。
このイラストについて
「どうやってこの仕事が来たのか?」
という質問を何度かいただいています。
その話は、また別の記事で書こうと思います。
商業イラストレーターを目指している方には参考になるかもしれないので、良かったらフォローしておいてください。
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