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人事の羅針盤2025参加レポート(午前の部)

こんにちは。IT企業で人材育成・組織開発をやっているうえむらです。本記事では先日開催された「人事の羅針盤2025」を題材に、セッションで印象に残った点や私自身が感じ取ったことをお届けしていきます💪

タイムテーブルと協賛企業

人事の羅針盤を持つ(オープニング)

人事の役割が問われる時代。人事図書館の吉田館長の「成果を出しづらい環境の中で、人事のプロフェッショナルが育ちにくい構造がある」という問題提起で幕を開けました。その結果として生じる自己効力感の低下、経営・現場からの信頼喪失。吉田さんは人事自身が「何を軸に進むのか」という羅針盤を取り戻す必要があると呼びかけました。

人事が成果を出しづらい背景には様々な要因が存在します。複雑化・多様化する外部環境、成果が測りづらい仕事内容、ローテーションで配属され、プロフェッショナルとして腰を据えて育ちにくい構造。あるいは一人人事など社内に相談する相手がいない方も多くいます。

吉田さんはこれまでのキャリアの中でそうした人事の悩みや迷いと向き合うなかで人事が安心して学び合える環境が必要と考え、2024年に人事図書館を立ち上げました。そして2025年11月には「人事のプロフェッショナル」をテーマにした書籍を出版される予定。私も予約して本が届くのを楽しみにしています!

ということでここからセッションがスタート。

①生成AI時代の人事に求められること

トップバッターは法政大学の石山先生。「生成AI時代には人材育成の常識が変わる」と語り、AIと共存する新たなスキルとして次の3点を強調しました。

  • 問いを立てる力

  • 対話する力

  • 偶然を増やす力(越境学習)

AIが得意とする創造性(組み合わせ・探索・革新)領域を前提に、人間が価値を発揮するためには「対話と共感」を中心にした学び直しが必要。その上で人事は、マーケティングセンスを持ち従業員のニーズを把握し、経営・現場から信頼され対話を促進し、長期的な企業価値向上に貢献する存在になっていく。このような全体像が示されました。

本セッションにおいて私が特に注目したのは「HR Attribution」というキーワード。HR Attributionとは、従業員が自社のHR人事施策を「なぜ実施しているのか」「何を目的としているのか」という原因・意図について解釈・帰属(attribution)することを指す概念です。

HR Attributionが必要とされる背景として、企業・組織に良い人事施策を導入しても、従業員がそれを「いい意図で実施されている」と受け止めなければ、期待される効果(モチベーション向上、エンゲージメント、パフォーマンス改善など)が発揮されにくい構造が存在します。

したがって、人事としては施策そのものを設計・実施するだけでなく、従業員がどのようにそれを受け取るか(どんなアトリビューションを形成するか)を戦略的に考える必要があります。これを石山先生は「WhatからWhyとHowへ」という言葉で語られていました。


WhatからWhyとHow。この考え方は私自身が自社でキャリア自律支援施策を立ち上げ、浸透を図る過程で繰り返し向き合ってきたプロセスに通ずる点です。経営の思いをいかに社員に届けるか。現場の迷いといかに向き合うか。当初は全くうまく行かずにもがき続けてきましたが、一歩ずつ実践を重ねるなかで、経営や現場と答えを「共につくる」方法論を見出していきました。

具体的には、施策を立ち上げる段階で「なぜ今?」という質問に根拠をもって答えられるよう先行研究の分析、世の中のニーズ・社内のニーズを言語化することや、施策を小さく初めてフィードバックによる改善サイクルを回すことを試みてきました。また施策の浸透段階では、現場からの厳しい反応に対して向き合い、理解を得るプロセスや、愚直にやり切ることの難しさ・大事さを味わってきました。

これらの詳細については以下のnote記事にまとめています。


話をセッションに戻します。HR Attributionについて視野を広げると、Employee Experience(従業員体験)の景色が見えてきます。石山先生のセッションでは、Employee Experienceを施策単体で捉えるのではなく、組織との関係性を通じた有機的・全体的な「従業員の旅」として捉えることや、その設計においてはデザイン思考のフレームを通じて見ることが有効という話がなされていました。

従業員体験を「旅=ジャーニー」として捉える分かりやすいモデルとして、採用前から退職後までの体験全体像を可視化したEXジャーニーマップが公開されています。こちらは石山先生が沢渡あまねさん、伊達洋駆さんと共に制作されたものです。

EXジャーニーマップ

EXジャーニーマップについては以下のリンクから無料で参照することができます。

また、EXジャーニーのつくりかたについては『EXジャーニー ~良い人材を惹きつける従業員体験のつくりかた~』という書籍にもまとめられています。とても読みやすく概念を理解できるのでおすすめです。


私自身の経験で言えば、自社で展開してきたキャリア自律支援施策において「人事の施策につながりが感じられない」「社内に実在するキャリアパスが見えづらい」といった悩ましい(そしてよくある)課題と向き合ってきました。

その中で従業員体験の考え方を参考にして「点と点をつなぐ」取り組みを重ねてきたことや、既存の社内公募制度を従業員体験を起点としてリニューアルした事例がEXジャーニーに繋がる話なのかなと思っています。入口から出口までという壮大なジャーニーには至っていないのですが、少なくとも一連の体験として人事施策をつなげて提供することができました。

これらの事例についてもnote記事にまとめていますのでご参考ください。


石山先生のセッションを聴いて改めて感じたのは、AI時代の人事のあり方そのものは生成AIの登場以前と地続きであるという点。人口オーナスに代表される社会背景がある中で、働く人の多様化、働き続けることの難しさと向き合いながら、従業員が「この会社で働くことの意義」を見出し続けられるよう人事は働きかける存在なのだということを再認識しました。

参考書籍のおまけも載せておきます。

②日本人事が紡いできた人事の核心

2つ目のセッションはCOTEN品川さんを代表するメンバーによる発表。「日本型雇用システムとは何か」という壮大な問いを掲げ、明治以降の人事史を参照して大きな流れを紐解いていきました。

この発表は1年前に発足した「人事の歴史を辿るプロジェクト」メンバーが研究を積み上げた成果となっています。人事図書館館長の吉田さんからは、「メンバーの笑顔がこぼれたのは最初だけでした」と冗談交じりに研究過程で重ねてきた苦労が語られました。


実はこのプロジェクトの立ち上げ当初、私(うえむら)もプロジェクトKickoffのオンライン会議に参加した過去がありました。人事の歴史を学びたいという軽い好奇心で覗いてみたのですが、そうそうたる顔ぶれを見て「これは軽い気持ちで参加すべきではない」とプロジェクト参加は辞退。以降は個人でもくもくと人事の歴史を辿る書籍を少しずつ読み進めていました。


本セッションでは明治期・大正期・戦前昭和期・戦後昭和期・高度経済成長期・バブル経済後という区分に沿って、時代背景や働き手の大きな流れに沿った雇用システムの変遷がストーリーとして展開されていきました。

その中で鍵となるのが戦後間もない時期に生まれた「電算型賃金体系」と呼ばれる賃金体系です。この賃金体系はGHQによる民主化政策や急激なインフレによる賃上げ欲求を背景に、労働組合が主体となり作り上げたものです。

この電算型賃金体系は賃金の7割が最低生活保障給、2割が能力給、5%程度が勤続給で構成され、戦後安定的な生活を送ることが難しかった労働者にとって生活を保証する重要な役割を果たしました。また戦前まではホワイトカラーにのみ適用されていた長期雇用や年功賃金の考え方がブルーカラーにも拡大することになり、職務によらず平等に階段を登っていける仕組みに発展していきます。


セッションを聴きながら、脳裏にはこれまで読んできた人事の名著の内容が浮かびました。書籍で学んだ内容を生の会場で追体験するのは何とも言えない心地よさを伴う体験でした。そしてこの感覚こそが、私が人事の歴史を学ぼうと思い立った理由にも繋がっているように思います。

企業人事の仕事をしていると、自らが閉ざされた存在であるように感じてしまう瞬間がふと訪れることがあります。それは自らの手掛ける仕事が社内という限定的な対象に向けたものであることや、業務を通じて知り得た情報の秘匿性の高さに由来しているように思います。

そのような瞬間には自分の視野が狭まっているような感覚、自分がどこにいるのかが分からなくなるような感覚があります。仕事を通じて社会貢献している実感を持ちづらくなっているのかもしれません。いずれにせよ、パフォーマンスやウィルビーイングの観点において、あまりよろしくない状態ですね。

人事の歴史を知ることは、過去から現在にかけて先人達が直面した課題や解決策を「大きな流れ」として捉えることに繋がります。各時代に起こっていることは必ずひとつ前の時代に端を発しており、それらが連綿と連なって今に至っています。

自分が今手がけている仕事は、どこから来たものなのか。この先の社会にどう接続しうるのか。そうした想像を膨らませることもまた、自らの羅針盤を持つことにつながるように思います。歴史はその想像力を働かせる上で大きな役割を果たしてくれることを実感しつつ、私はセッションに没入していました。


参考までに、私自身が人事の歴史を学んできたなかで特におすすめの書籍をピックアップしてみました。いずれも読み応えのある本ばかりです。人事の歴史に興味がある方はぜひチャレンジしてみてください🔥

アメリカ人事史をトッピングするとより楽しくなれます

③人事の歴史から見る、我々の持つ特性とは

午前中最後のセッションは「歴史との向き合い方」についてのお話。歴史の話のすぐ後に歴史を見つめるレンズの話が聞けるのは人事の羅針盤ならではの流れ。

まずは東大名誉教授の佐藤博樹先生のターン。歴史と向き合う際の心構えがズババッと示されていきます。

  • 歴史から学ぶためには、学ぶ側の目的や視点が不可欠。

  • 年表は「編集された」ものであることに留意が必要。

  • 文書などの記録が人事管理の実態を反映しているとは限らない。

上記を示す例として、介護休業制度や副業規程、定年制廃止などの実態がどのような経緯を経て発生するに至ったのかが展開されていきました。


この中で「皆さんの会社の人事制度の歴史を辿ると面白いかもよ」という佐藤先生の言葉が印象に残っています。

私が勤める会社は歴史自体はそれほど長くないものの途中分社化を挟んでおり、現在の人事制度に至った過去経緯は言語化されていません。会社の論理では制度資料に明記されていることがすべてである、ということになりますが、実際のところ過去経緯を継承している部分も多いものです。その背景は勤続年数が長い社員の頭の中にだけ存在しています。

人事制度の歴史を紐解いていくことで、いずれ来る未来のどこかで「我が社はどう在りたいのか」「我が社はこれからどうなっていきたいのか」を知るための重要な手がかりを残すことができるかもしれない。そんなことを脳裏に浮かべながら軽快なテンポで話す佐藤先生の話を聞いていました。


続いて神戸大学経済経営研究所の江夏幾多郎先生のターン。理論と事例と歴史を三点セットにした「鳥の目の話」が展開されていきます。

  • (戦略的人的資源管理の話をした後で)図式が分かれば良い人事ができるわけではない。自社のあり方に落とし込むストーリーが必要。

  • 人事は想定外ばかり。理論に当てはまらない現実を泥臭く歩いていき実践知を磨き続けるしかない。

  • 歴史は今を生きる私達から見た物語。ある事実についての解釈。事実があるから対話ができる。歴史とは現在と過去との絶え間ない対話である。

ここでは具体例として1970年代に導入が試みられた職務給を巡る話が挙げられました。職務給はジョブ型と言えるのだろうか?という問いが掲げられ、人材マネジメントと賃金を二階建て構造に見立てた際に、ローテーションと職務給を同居させるやり方はジョブ型雇用ではなく、ジョブ型人事と言えるかもしれない。一階と二階で思想が違っていたのかもしれない。そうした話をされていました。


江夏先生の言葉を受けて、私は「研究者のレンズ」を感じ取っていました。研究を重ねて理論を深く知るからこそ、理論に捉われることなく本質を見る。歴史についても、それが事実のすべてではなく、事実に対する解釈と捉える。そうすることで「対話の余地」が生まれ、時代の流れと共に理論や歴史に対する認識が深まり、結果的により高次のものに発展していく。

理論や歴史はともすると思考を止めるツールにもなりかねないが、そうではなく皆の思考を働かせるためのツールとして使うべし。そんな風に語りかけられているような気もしました。


その後はセッション形式で人事の歴史を巡る領域展開タイムに突入。ここでは両先生の名言が次々と繰り出されていきます。

(理論そのものを覚えるのではなく)理論の背景に共通する人事の本質に目を向ける。「働く人々に我が社に来てもらって、必要な能力を身につけてもらって、熱意を持ってもらう」とかね。経営環境が変われば人事も変わらなければならない。では必要な能力がどのように変遷してきたのか。そのような眼差しで歴史を見るのは面白いよ。

佐藤先生トークより抜粋

理論は知っておいていい、けれども信じすぎるな。皆さん自身も理論、持論を持っている。職場の数、組織の数だけ理論がある。偏った目線で捉えない。色んな立場でみて、どうやったら統合できるかなを考える。そして必要に応じて捨てることも大事。

江夏先生トークより抜粋

極端な話、総額人件費を社員数で割ればいい。なぜそれではだめなのか?どう変えれば社員が納得するか。そういうことを考えずに成果給、職務給を学んでもダメ。

佐藤先生トークより抜粋

人事は「評価」。誰を採るか、誰に教育訓練を課すか、誰に多くのお金を払うのか。なぜこの人なのか?が雑になってしまうと事業が生まれない。評価するためには会社の価値を考えないといけない。価値は事業から生まれる。人事部だけでやるのは無理。事業リーダー、経営者、みんなで考えるプラットフォームが必要。

江夏先生トークより抜粋

会社がどうなるかの不確実性は今後高まっていく。当面必要なことは分かるが、先のことを考えた学びができない。今の仕事に必要なことは学ぶが、この先に向けては学ばない。これが日本人が学ばない理由。役に立つかどうかは分からないが、学習行動をとれている社員が会社に沢山いることが大事。5年後にがらっと環境が変わったときに、日ごろから学んでいる人と学んでいない人、どちらがはやく適応できると思う?

佐藤先生トークより抜粋

知的好奇心が刺激され続けるトークの応酬。リアタイ時には考える暇もなかったのですが、ふりかえってみると「人事は我が社の研究者たれ」と言われているような気がしました。

もしも人事が考えることをやめ、他社事例や外部のコンサルに思考をすべて委ねたならば、その後に展開される人事制度や人事施策は過去から現在に世界のどこかで作られた「お手本のパッチワーク」になりかねない。

そうではなく、人事が理論・事例・歴史を脇に抱えながら多くのステークホルダーと対話を重ね、自社ならではの思考をみんなで編み上げていく。その思考の先に自社と他社とを本質的に分かつもの=戦略と呼べるものが見出されていくのではないか。

戦略人事という言葉をゆっくり読むと、戦略につながる対話を生み出す研究者としてのふるまいを持つ人事という捉え方ができるのかもしれない。そんなポエミーな余韻を残しつつ、今もセッションの内容がぐるぐると頭を駆け巡っています。そして私も引き続き人事の歴史や理論を学んでいかねば🔥と気持ちを新たにしました。

午前の部を終えて

日ごろからXで仲良くさせていただいているAkihiroさんとたまたま隣の席になり、午前の部を終えて「あっという間でしたね…」という感想を分かち合いました。ここまで読んでくださった方なら分かる気がしますが、濃縮還元された学びを浴び続けるような時間で、正直大変疲れました(笑)。

感想文も長くなってしまったのでいったんここまで。午後の部については後日UPします。(スキや拡散で記事を応援して頂けると執筆意欲が高まります😂)

私以外にも人事の羅針盤2025に参加された方のレポートが続々とUPされています。会場の雰囲気が再現される良記事ばかり。ぜひ合わせて読んでみてくださいね。

それでは、また。

うえむら(@Uemura_HR

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