大企業でキャリア自律支援施策を推進してきた人事の奮闘記 ~社内公募改革編~
こんにちは。人材育成・組織開発しているうえむらです。3月になり春の訪れを予感する機会が増えてきました。本記事では久しぶりにキャリア自律支援施策の取り組みについて書いていきます。
これまでのあらすじ📝
自社でキャリア自律支援を立ち上げてから約3年。当初はキャリアという言葉を聞くことがほとんどないところからスタートしましたが、色々と頑張ってきた結果、全社の共通言語になるところまで漕ぎつけることができました。もちろんその過程には多くの苦労がありました。以下3本の記事にまとめていますので、お時間があれば合わせて読んでみてください。
社内公募リニューアルのきっかけ💡
これまでに展開してきた施策では社員ひとり一人が自らのキャリアを言語化する機会や上司や同僚との対話を通じてキャリアと向き合う機会を提供してきました。またキャリア自律支援施策を既存の人事制度施策と繋げて体系化することで社員の日常にキャリアが溶け込むように支援をしてきました。
様々な施策を展開するなかで依然として残っていた課題は「社内のキャリアパスが見えづらい」というものでした。キャリアパス定義を通じて概念としてのキャリアは可視化してきましたが、より具体的なキャリアイメージや自分にとってのロールモデルにあたる人を見つけるといった「社内に実在するキャリアパス」を知る機会が求められていました。
また、キャリアをよく考えている人ほど挙げていたのが「キャリア選択を絞り切れない」という悩みです。これは社内に多くの選択肢があることを強調した副作用とも言えます。中長期でのキャリアビジョンと短期のキャリア選択の繋がりを実感したいというニーズや、キャリア選択に伴うリスクを事前に知っておきたいという点が含まれているようでした。
この問題を出発点として、キャリア自律支援を更に一歩推し進めるために「キャリア選択の質を高める」という課題を見定め、解決策をチームメンバーと共に深掘りしていくことになりました。
なぜ社内公募なのか❓
まずはキャリア選択を広く捉えた際に最もクリティカルな機会は何か?ということから考えました。真っ先に思いついたのはやはり転職。キャリアと言えば転職です。ではなぜ転職なのか?をもう少し言語化すると、慣れ親しんだ職場を離れて新たな機会を得ることを「自ら」「決断する」ことが要因になっていそうだと考えました。
また転職を決断する前に行う転職活動についてもキャリアを選択するうえで重要な点になっていると考えました。自分に可能性のある(ようにみえる)選択肢を最大限広げ、その中から様々な情報提供や支援を受け、選択肢を絞り込むプロセスが決断時の納得感にも繋がっており、転職活動がもたらす体験によってキャリア選択における不安やリスクが(少なくとも表向きには)軽減されていると言えます。
その上で、今度は社内に目を向けて「慣れ親しんだ職場を離れて新たな機会を得る」行為は何かを考えました。その結果「自ら」「決断する」要素を含む「異動」、すなわち社内公募がそれにあたると捉えました。社内におけるキャリア選択の場として、社内公募は重要な役割を担っていると言えます。
その一方で、社内公募が十分にその役割を果たしているかと問われると疑問が残ります。自社ではかれこれ3年近く社内公募制度を運用してきていましたが、そのプロセスは形式的な流れ(各部署からポジションを収集、公開し、応募者が来れば選考に進み、選考に合格すれば異動が決まる)に留まっていました。また転職活動と比較すると応募のハードルが高く、選考後のフィードバックも不十分な状態にありました。キャリア選択の質を高めるためにできることは色々ありそうです。
上記の理由から社内公募を通じてキャリア選択の質を高める機会を提供することを目的に、リニューアル案を検討していきました。
社内公募の強みを探せ🔍
キャリア選択の場として社内公募のリニューアルを検討するにあたり、当初はあらゆる体験を改善しようと考えました。しかしリソースが限られていることもあり、現実的なアプローチではありませんでした。そこでより重要な課題にフォーカスすべく、キャリア選択の機会として転職活動と比較した社内公募の強みは何だろう?と考えました。結果として大きく2点の強みを見出すことになります。
報酬水準を維持したまま職種間異動ができる
転職の場合、職種変更を伴う場合は一時的に給与水準を下げることが一般的です。キャリア採用では募集ポジションに合致する業務経験や知識・スキルが必要であり、それらが不足する場合、人物面でのカルチャーマッチやポテンシャルを加味して合否が決まることになります。新たな経験を得るためには一定の対価が必要とも言えます。
一方で社内公募の場合、社内の等級・給与テーブルが職種間で共通であれば、従来の等級を維持したまま異動することになります。企業としても社員がビジネスに精通し、社内の文化や人間関係を保有しており、新たな職種に就いたとしても比較的スムーズに業務のキャッチアップができることが期待されるため、合理性が認められます。これを社員側からみると、報酬を維持したまま職種間異動ができるという利点と捉えることができます。
応募前に異動先の職場やチームの雰囲気を深く知ることができる
転職活動の場合、転職先の社員と会える人数は限られます。近年ではカジュアル面談等を通じてより多くの社員と話す機会が設けられていますが、面談時に得られる情報に限定されることや個人としての接点に留まる点から、チームや職場の理解には至らないことが多いのではないかと思います。(最近ではオープン社内報など社外発信を通じてより接点を増やす試みもなされています。)
一方で社内公募の場合、企業風土がオープンであれば異動候補の職場やチームの雰囲気をより深く知ることができます。マネージャーを介して様々なメンバーと会話することもできますし、Slackなどのコミュニケーションツールを活用して日常を垣間見ることもできます。この点も社内公募の隠れた利点であると考えました。
既存の社内公募制度が抱えていた課題💭
現在の職種に囚われず広い視野で次のキャリアを考えられること、また応募先の職場やチームの雰囲気を知ることができることが社内公募の潜在的な強みであるとした際に、現状はどうなっているか?を考えてみると、その強みを十分に活かせていない状況が見えてきました。具体的には以下のような課題が挙げられます。
ポジション数が多すぎることやポジション毎に公開された情報が限られていることなどから、自分のキャリアプランに繋がる選択肢を見つけることが難しい
社員が自ら情報を取りにいかない限り、応募前に職場やチームの雰囲気を把握することが難しい
選考で不合格になってしまった後に元の職場で働くことにモチベーションを持ちづらかったり気まずさを感じることから応募ハードルが必要以上に高くなっている
そもそも応募意思のない人には社内公募が活用されない
このような点を解決することを通じて社員ひとり一人がキャリアの選択機会として社内公募を活用しやすくなることをゴールに置いた上で、リニューアルの内容を固めていきました。
従業員体験(EX)を踏まえた解決策📢
上に挙げた課題を解決するためのヒントとして従業員体験(EX)という概念が参考になりました。従業員体験は顧客体験(CX: Customer Experience)を拡張した考え方で、社員が会社生活において得られる体験の質を意味します。従業員体験を向上させる=社員に提供する体験の質を高めることになります。従来の会社視点での目的志向の人事企画だけでなく、社員視点でのプロセスを含めた企画設計を合わせて行うことが重要とされています。従業員体験についてより深く理解したい方は下記の書籍がおすすめです。
社内公募においても社員に提供する体験の質を高めることにより、社員にとってのキャリア自律への効力感を高め、結果的に施策の理想とする姿に近づくことができるのではないかと考えました。具体的には下記の施策を企画・実施しています。
①社内に存在するキャリアパスを「実感」する全社イベントを開催
社内公募への応募・選考前に社員が一歩立ち止まり自身のキャリアを考える「Career Discovery Day」という約4時間のオンラインイベントを開催しました。経営層が登壇する基調講演や、職種別・テーマ別に各部署から社員が出展するブースを組み合わせたイベントで、キャリアをテーマにしたフェスをイメージして企画を進めていきました。参加者は自分の好きなブースを見て回り、社内にどのようなキャリアがあるかを社員本人の口から聞くことができます。これまでもキャリアパスやキャリアモデルといった図表によって言語化されたキャリア定義は存在していましたが、本当にそこにある=社員自身が語る様子をリアルタイムで知ることにより頭で理解する以上に「わかる」感覚を社員同士で分かち合える体験を提供できたように思います。
②募集ポジションへの応募意思を問わず参加できるカジュアル面談を導入
Career Discovery Dayがマス向けのイベントであるのに対し、カジュアル面談は個人にフォーカスした機会として新設しました。特定のポジションに興味を持った際に、応募前にポジションについて1on1形式で理解を深めることができます。応募意思を問わず参加できるため、実際に応募しない社員を含めて社内公募を体験する機会を増やすことも狙いのひとつでした。たとえば若手社員がカジュアル面談を活用することで、この先のキャリアプランを立てる参考情報にしたり、キャリアの選択肢を広げるきっかけになる効果が見込めます。社内公募はキャリアと向き合うすべての社員にとって価値ある体験となることが理想の姿であり、その一歩として気軽に参加できる体験を増やすことが有効なのではないかと考えました。
③選考中・選考後のフィードバック体験を高める
社内公募を運用する上で大きな障壁となるのが選考で不合格になった際のネガティブな体験です。応募者のモチベーションが下がることは言わずもがなですが、不合格になった際のフォローアップが効果的になされれば、ネガティブな体験を軽減することができます。フォローアップにおいては特にフィードバックが重要な点となります。適切なタイミングで、適切な人から、良質なフィードバックが得られることで、仮に不合格になった場合にも次に自分が取るべきアクションを理解することができ、キャリアに対する効力感の著しい低下を軽減することができます。この点についても人事・現場共にテコ入れを行い、全体で統一したフォーマットのもと、フィードバックが漏れなく提供されるように改善を行いました。
④インナーコミュニケーションと連動した社内プロモーションを実施
Career Discovery Dayやカジュアル面談などの施策を実施するにあたり重要だったのが、いかに社員の認知を高めるかという点です。いずれも任意イベントとなるため、施策の存在を知り、自分にとって意味があると思ってもらえてはじめて機会が活用されることになります。ではどのような層を対象にコミュニケーションを取っていくべきか。メインターゲットを以下3つの層として定義し、訴求点を定め、施策内容に落とし込んでいきました。
キャリアを考えているが、迷っていたり、具体的な行動は見えていない社員
自社のキャリアパスと自身のキャリアプランの重なりが見出だせない社員
現時点でキャリアに興味関心を持っていない社員
コミュニケーションチャネルとしては主に社内報やSlackを活用しつつ、経営層・現場マネジメント・現場メンバー・人事それぞれの発信を通じて社員と双方向のコミュニケーションを促す施策を企画・実行していきました。
また合わせて社内公募ポータルサイトを構築し、Career Discovery Dayのイベント情報や公募ポジション情報、カジュアル面談の申込など、社内公募に関する情報を一元化し、分かりやすく整理しました。社内報と合わせてストック情報を拡充しつつ、Slackでフロー情報として拡散していく流れが生まれていきました。発信した情報を社員同士で拡散し合う流れも生まれ、社内公募がはじまる前に「多くの社員が社内公募の話をしている状態」を作り出せたように思います。
⑤社内のキャリア自律支援施策を一連のイベントとして再整理
上司と部下でキャリアについて対話する「Career Interview」や自らのスキルを可視化する「Skill Discovery」といったキャリア自律支援施策をこれまでにも実施してきましたが、各施策の繋がりが弱いのではないかという声も上がってきていました。そこでそれぞれの施策を一連のCareer Discoveryプロセスとして再整理し全体像を示すことにより、自社が掲げるキャリア自律の方向性を分かりやすく理解できるようにしました。また社内公募を通じて自社のキャリアパスを理解してから自分のキャリアに向き合う流れが生まれたことで、自己理解を深めることにも役立ったという声を社員からもらう機会が増えたように思います。
⑥効果測定の手法を再設計
社内公募企画では効果測定の手法についても合わせて再設計しました。以下の考え方に沿って量と質の両面で設計しています。
量: 採用マーケティングの考え方を応用し、各プロセス毎の歩留まり率を算出
質: 短期(応募前~合否決定)と中長期(異動後~定着・活躍)それぞれで人事情報を総合的に活用して判断
以前、研修効果測定についてのnote記事を書きましたが、人事施策における効果測定は研修とは異なる観点が必要であることを学べた機会でもありました。合わせて以下記事もご参照頂けると効果測定についてより理解を深められるのでおすすめです。
結果と今後の課題
リニューアル後の社内公募を一周運用した結果、概ね下記の成果を得ることができました。
任意参加イベントのCareer Discovery Dayに全社員の7割近くが参加。参加者の多くが社内に存在するキャリアパスの理解を深めることができたとアンケートを通じて回答した。
過半数を超えるポジションに対してカジュアル面談の申込があった。カジュアル面談に参加した社員アンケートでは「募集ポジションの職場理解が深まった」との回答が多数。
社内公募で設けたKPIのいずれも前年比で高い結果に。定性面でもキャリアの自己理解、社内キャリアパス・ポジション理解が深い状態で応募する社員が多く存在した。
定期実施しているCareer Interview (上司部下のキャリア1on1)のアンケート結果も合わせて向上した。キャリア自律意識の醸成だけでなく、上司との対話により気づきが得られたとの回答も例年と比較して多く見られた。
今後の課題については、一連のイベントをすべて内製で実施したこともあり、人事・現場共に想定以上の工数を要した点が挙げられます。次年度以降の継続性を担保する上では業務の標準化や効率化を通じて運用改善を図っていく必要がありそうです。
また余談ですが、今回の施策を通じて所属する人材育成・組織開発グループが全社表彰を受けることができました🏆️会社や社員の成長に貢献する施策を生み出せたことは純粋に嬉しいです。今年以降の期待値が高まったという見方もできるため、気を引き締めて改善サイクルを回していきます💪
それでは、また。
うえむら(@Uemura_HR)
おまけ
①インタビュー記事
自社の採用広報で私のインタビュー記事が掲載されました。Career DiscoveryDayのブースの詳細やインナーコミュニケーションの具体例が掲載されています。こちらも合わせてご覧ください。
②参考文献
企画を進める上で参考にした記事を載せておきます。お土産にどうぞ。
(本記事で紹介した書籍についてはAmazonアソシエイト・プログラムに参加しています)
