ミトコンドリアとは何者なのだろうか
はじめに
ミトコンドリア。
高校の生物を学んだ人なら、一度は聞いたことがあるだろう。
ミトコンドリアは、かつて独立した細菌だった。
約20億年前、真核細胞の祖先に取り込まれた。
独自のDNAを持ち、ATPを産生する。
そして、その細胞内共生が植物や動物、人間を含む真核生物誕生の大転換点になった。
ここまでは現在の生物学において、ほぼ確立された知見である。
だから私は、ミトコンドリア細胞内共生説を疑っているわけではない。
むしろ、正しいと思っている。
しかし最近、別の疑問が生まれた。
私たちは「共生」という言葉で、本当にこの関係を説明し切れているのだろうか。
共生という考え方
共生という言葉は便利である。
人間と腸内細菌も共生。
植物と菌類も共生。
そしてミトコンドリアと細胞も共生。
しかし、一口に共生と言っても、その関係は同じではない。
ミトコンドリアは単に細胞の中で暮らしているだけではない。
細胞はミトコンドリアなしでは生きられない。
ミトコンドリアもまた細胞なしでは生きられない。
両者は完全に相互依存している。
さらに近年の研究を見ていると、そこには単なる協力関係だけではなく、制御や管理といった側面も見えてくる。
共生という言葉は正しい。
だが、その一言だけでは見えなくなるものもあるように思える。
ミトコンドリアの細菌扱い
ミトコンドリアは元々細菌だった。
その痕跡は今も残っている。
独自DNAを持つこともそうだが、近年の研究では、ミトコンドリア由来の物質が免疫系を刺激することが知られている。
人体は時として、傷ついたミトコンドリアから放出された成分を、細菌由来の危険信号として認識する。
考えてみれば不思議な話である。
20億年前から細胞の中で共に生きてきた存在である。
にもかかわらず、その一部は今でも「元細菌」として扱われることがある。
完全な自己でもなく、完全な他者でもない。
ミトコンドリアは、その中間のどこかに存在しているように見える。
老化への関与
高校生物では、
「ミトコンドリアはATPを作る」
と習う。
もちろんそれは正しい。
しかし近年の研究を見ていると、ミトコンドリアの仕事はそれだけではない。
ミトコンドリアは細胞のアポトーシス(自死)にも深く関与している。
細胞が損傷し、修復が困難になったとき、その運命決定の重要な部分を担う。
一方で細胞も黙ってはいない。
損傷したミトコンドリアを発見すると、マイトファジーによって分解・排除する。
つまり、
ミトコンドリアは細胞の運命に関与し、
細胞はミトコンドリアの運命に関与している。
そこには相互依存だけでなく、相互制御や相互管理の関係が存在している。
おわりに
ミトコンドリア細胞内共生説は正しい。
私はそう思う。
しかし、
ATPを作り、
独自DNAを持ち、
免疫にも関わり、
細胞の自死にも関わり、
時には自らも排除される。
そんな存在を前にすると、
私はどうしても考えてしまう。
私たちが「共生」と呼んでいるものは、本当にその一言で語り尽くせるのだろうか。
そして、
ミトコンドリアとは、
いったい何者なのだろうか。
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