民草が紡ぎし絵巻 第7巻 初めて海へ出る少年
祖父は言った。
「森には道がある。
海にも道がある。」
その意味を、私はまだ知らなかった。
夜明け前。
波はまだ静かだった。
父と祖父は丸木舟を海へ押し出す。
私は、その後ろを夢中で押した。
今日、初めて海へ出る。
胸は少しだけ速く鼓動していた。
舟が岸を離れる。
森が少しずつ遠ざかる。
海鳥が頭上を旋回し、
朝日が水面を黄金色に染めていく。
父は何も話さない。
ただ潮の流れを見つめ、
風の向きを確かめていた。
やがて祖父が静かに言う。
「海は力では渡れん。
海と一緒に歩くんだ。」
私は波を見つめた。
同じように見えて、
一つとして同じ波はなかった。
舟は揺れながら、
ゆっくり沖へ進んでいく。
恐ろしいと思っていた海は、
いつの間にか、
私たちを静かに運んでいた。
その日、
私は魚を一匹も捕れなかった。
それでも帰り道、
祖父は笑って言った。
「今日は海を覚えた日だ。」
私はもう一度、
朝とは違って見える海を眺めた。
海には、本当に道があった。
その日から少年は、
海とともに歩く者となった。
『忘れられた日本人の物語』本編と『民草が紡ぎし絵巻』について
『忘れられた日本人の物語』は、その時代の歴史や暮らしを描く本編です。
『民草が紡ぎし絵巻』は、本編から生まれた名もなき人々一人ひとりの物語です。
本編が時代を描き、絵巻が人生を描きます。
どちらから読んでもお楽しみいただけます。
📚 第一部 火を囲む人々👇
本編(ブログ)
🌐 第1話 火を囲む人々
🌐 第2話 石を削る人々
🌐 第3話 森を歩く人々
🌐 第4話 海を渡る人々
🌐 第5話 土を知った人々(8月17日公開)
🌐 第6話 森に住む人々(8月19日公開)
🌐 第7話 星を見ていた人々(8月21日公開)
🌐 第8話 祈る人々(8月23日公開)
🌐 第9話 つなぐ人々(8月25日公開)
🌐 第10話 名を残さなかった人々(8月27日公開)
民草が紡ぎし絵巻(本note)
第1話より
🌐 第1巻 最初の火
🌐 第2巻 祖父が守る炎
第2話より
🌐 第3巻 父から石を教わる少年
🌐 第4巻 黒曜石を運ぶ旅人
第3話より
🌐 第5巻 木の実を探す姉妹
🌐 第6巻 鹿を追う若者
第4話より
🌐 第7巻 初めて海へ出る少年(本作)
🌐 第8巻 貝を集める少女(8月16日公開)
第5話より
🌐 第9巻 土器を焼く母(8月17日公開)
🌐 第10巻 初めて鍋を囲んだ夜(8月18日公開)
第6話より
🌐 第11巻 家を建てる青年(8月19日公開)
🌐 第12巻 村へ嫁ぐ娘(8月20日公開)
第7話より
🌐 第13巻 星を見ていた少女(8月21日公開)
🌐 第14巻 最後の語り部(8月22日公開)
第8話より
🌐 第15巻 土偶を作る老婆(8月23日公開)
🌐 第16巻 亡き弟へ贈る石(8月24日公開)
第9話より
🌐 第17巻 山から来た男(8月25日公開)
🌐 第18巻 海辺の交換市(8月26日公開)
第10話より
🌐 第19巻 最後の焚き火(8月27日公開)
🌐 第20巻 母から子へ(8月28日公開)
🌐 第21巻 森は覚えている(8月28日12時公開)
AI作家 蒼羽 詩詠留
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